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医療用大麻について―その2

2016/11/30 20:03
2、米国での規制強化と医療用大麻運動

 大麻は、1961年の麻薬に関する単一条約で国際的な麻薬規制の対象として規定され、米国では、その批准に伴う国内法として規制物質法(Controlled Substances Act:CSA)が1970年に導入されました。
 この法では、乱用のおそれのある物質がスケジュールTからXまでの5段階に分類されています。あへんから精製されるモルヒネ、コデインなどのオピオイド系麻薬や、コカイン、アンフェタミンやメタンフェタミン(日本でいう覚せい剤)などはスケジュールUに分類され、医療用途での使用が認められているのに対して、大麻はスケジュールTに分類され、医学的用途での使用を含め一切の使用が規制されています[下記参照@] 。

 [スケジュールTの基準]
 ・乱用の危険性が高い
 ・現時点で合衆国において、一般に認められた治療のための医学的用途がない
 ・医療管理下での使用において一般に認められた安全性の欠如

 [スケジュールUの基準]
 ・乱用の危険性が高い
 ・現時点で合衆国において、一般に認められた治療のための医学的用途、もしくは厳格な制限事項を伴う医学的用途がある
 ・乱用により、深刻な精神もしくは身体依存に至らしめる危険性がある

 新法の整備とともに、薬物犯罪を取り締まる連邦の機関として連邦麻薬取締局(DEA)が創設され、大麻の違法栽培や密輸、密売などに対する取り締まりが強化されました。さらに、ニクソン大統領が「薬物問題はアメリカにとって一番の敵」と宣言し、政府をあげて薬物との戦い(War on Drugs)を開始するなど、この時期のアメリカ社会は、薬物に対する不寛容さを急速強めていきました。

 しかし、当時の米国は、ちょうど青春を迎えたベビーブーマー世代を中心に若者の間に大麻使用が広がり、中流階級の子弟にまで薬物乱用が拡大していた時期に当ります。1975年には、全米の中高校生を対象にしたモニタリング•ザ•フューチャー調査が開始されましたが、1978年調査では、高校3年生の過半数が過去1年以内に大麻を使ったことがあると回答しています[下記参照A] 。
 拡大しつつある薬物乱用に対処しようと、犯罪としての取締まりを強化する連邦当局に対して、取り締まりの行き過ぎに警戒する様々な立場から、反対意見も湧き上がり、活発な論争が行われるようになったのも、この時期からです。当時、若者を中心に最も広まっていた大麻に対する政策が議論の中心になり、非犯罪化や医療用途での使用容認など、様々な主張を掲げる社会的な運動が広まり始めたのです。

 1970年代半ば、医療用大麻に関しては、運動のその後を決定づける重要な出来事がありました。大麻栽培で逮捕された男性が、裁判で、自分の緑内障の治療のために大麻が必要だと訴えたことが認められ、検察官は彼に対する刑事告発を取り下げたのです[下記参照B] 。この裁判を受けて、連邦政府は新薬のコンパッショネート・プログラム(Compassionate Investigational New Drug program)を開始し、認定された特定の患者に対して、政府機関を通じた大麻供給が開始されました。
 このプログラムはごく限定的なもので、対象となった患者は限られていましたが、その後の運動に大きな影響を及ぼし、州単位で、医療目的での医師による大麻の処方や、大麻の臨床研究を容認する州法を制定する動きも活発になり、1978年にはニューメキシコ州で最初の医療大麻州法が成立しました。1982年末時点で、全米で31の州とワシントンDCで医療用途での大麻使用に関する内容を含む州法が制定され、米国における医療用大麻運動の第一波となりました[下記参照C] 。

 しかし、連邦政府はこうした州の動きに対して、対抗策を取り始めました。医師の麻薬処方資格を審査する連邦麻薬取締局は、州法に基づいて大麻を処方する医師に対して、麻薬処方資格を取り消すという措置に出たのです。当時の州法では、処方を受ける患者が刑事処分を受けないように保護する規定は盛り込まれていましたが、処方する医師の資格を守る手段は講じられていませんでした。
 結局、1980年年代半ばころには、医療用途で大麻の処方を容認することを定めた州法のほとんどは廃止され、あるいは実質的に無効化されて、第一波は終わりを告げました。

[参照と出典]
@ US Code - Section 812: Schedules of controlled substances
A 全米の中高生を対象にした薬物アルコールの実態調査、1975年に開始されて以来、毎年調査が行われている。現在は、下記のサイトで2016年調査の速報が発表されている。
  http://www.monitoringthefuture.org/
B US v. Randall, November 24, 1976
C RL Pacula et al., State Medical Marijuana Laws: Understanding the Laws and their Limitations, 2001
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医療用大麻について

2016/11/26 18:20
少し前のことですが、医療用大麻の解禁を訴えていた元女優が大麻所持で逮捕され、ひとしきり医療用大麻が話題になっていたころ、私はちょうど入退院を繰り返していたため、多くの問合せをいただきながら、対応できずにいました。
ようやく私の体調も落ち着き、しばらく遠ざかっていた世間の話題に目を通している今も、ボツボツと「医療用大麻ってなんですか?」といった声が寄せられます。

遅くなりましたが、ここで、医療用大麻についてまとめを掲載しておこうと思います。
ここで取り上げる話題の多くは、すでに、当ブログで語ってきたことですが、折々のテーマの中に埋没してしまったので、あらためてまとめてみます。

医療用大麻とは何か
 医療用大麻の運動は、1970年代の米国で始まり、今日では、28州とワシントンDCでは医療用大麻制度として導入されているものです。
 米国の連邦法では、大麻はスケジュールT薬物に分類されていて、医療用の目的が全く認められていないのですが、医師の監督下で特定の病気の患者や介護者が、病気治療のために大麻を取り扱った場合に、違法として刑事処分を受けないとするのが、医療用大麻制度です。
 最近では、この制度の亜流として、大麻の成分のなかでも、酩酊をもたらすTHCの含有が少なく、神経系の鎮静作用に優れているといわれるCBD(カンナビジオール)を豊富に含む製品に限って、医療用として認めるというものも現れています。

1、医薬品としての大麻
 長年使われてきた薬用の動植物から、薬効成分を抽出し、その化学構造を解明する技術が大きく進化したのは、19世紀半ば以降です。19世紀ころまでの医療では、エキス、チンキといった形で、薬用植物の成分を濃縮した製剤が、様々な症状の治療に用いられてきました。医師たちも、薬用あへんの濃縮液つまりあへんエキスやあへんチンキ、大麻の成分を濃縮したインド大麻エキスやインド大麻チンキ、といった製剤を使っていたのです。
 なお、このころの医学界では、薬用に用いる大麻を「インド大麻」と呼んでいます。当時は、繊維や種子を採取するために、大麻草の栽培が世界中で広く行われていましたが、ヨーロッパや日本など温帯から寒冷地にかけての気候では、屋外で栽培する大麻草が分泌する樹脂成分は少なく、大麻草から抽出される薬効成分はわずかです。いっぽう、熱帯地域で生育する大麻草は、豊富な樹脂成分を分泌し、多量の薬効成分を含むため、医療用に用いるのに適しています。当時の人たちは、熱帯地方で生育する大麻草を「インド大麻」と呼び、自分たちの生活圏で栽培される大麻草とは別種のものと考えていたようです。

 1896(明治29)年、最初の日本薬局方が編纂されたとき、その参考にしたのは、当時のヨーロッパの医学、薬学だったことから、日本薬局方には、薬用植物の粉末、エキスやチンキといった製剤が多数取り上げられていて、その中には「印度大麻越幾斯(インド大麻エキス)」も含まれていました。
 私が確認できた最も古い資料は、1891(明治24)年の改定日本薬局方 ですが、そこに収載された説明は、次のようなものです。原文は漢字とカタカナの表記ですが、カタカナをひらがなに、旧字を現代の文字に改めています。(出典:三上春豊編『改正日本薬局方』明治24.5、国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収蔵)

 [印度大麻草]
 Herba Cannabis Indicae.  Cannabis sativa Linn.
印度大麻草は印度北部に於て其果実稔熟の初期に当り採集せる帯花枝尖にして多くは雌性なり其分葉は狭くハ鍼状をなし粗き鋸歯を有し両端に向て殊に狭隘となり間樹脂様の物質に由て穂本に粘着す臭気は峻烈麻酔性味は微に苛辣なり
本品は緑色なるを可とす又茎並に果実を混有するも僅微に過く可からす
注意して貯ふへし (同書169-170頁)
[印度大麻越幾斯]
Extractum Cannabis indicae.
印度大麻越幾斯は
印度大麻草粗末        一分
を取り
酒精               五分
を注き六日間冷浸し濾漉し又其残滓に
酒精               五分
を注き三日間冷浸し濾漉し漉液を合し濾過し蒸発して●(のぎへんに周)厚越幾斯とな し製すへし
本品は黒緑色にして酒精には澄明に溶解し水には溶解せす
注意して貯ふへし (同書119-120頁)

 さて、かつては医薬品として重要な地位を占めていた薬効植物の濃縮液、エキスやチンキといった製剤ですが、19世紀初頭にあへんからモルヒネが単離されたのを端緒に、製薬技術がめざましい進歩を遂げるとともに、より安定した効果を得ることのできる今日のような医薬品に置き換えられていき、今日では、医療の場であまりみかけなくなっています。現在では、あへんから生まれるモルヒネ、コデイン、テバインといったオピオイド系の医薬品は鎮痛薬や風邪薬まで幅広く使われ、また、コカの葉からとれるコカイン塩酸塩も、局所麻酔薬として使われています。

 いっぽう、大麻の薬理成分に関しては研究が遅れ、最も重要な成分であるデルタ9-THCの単離に成功したのは20世紀半ばになってからです。その後、大麻に含まれる成分(カンナビノイド)が次々と解明され、主要なものだけで60種を超えるカンナビノイドが明らかになっています。
 近年では、カンナビノイドに関する研究が急速に進み、大麻からの抽出成分や、カンナビノイドに類似した合成薬を用いた医薬品の開発も進められていますが、オピオイド類などと比べて研究の歴史がまだ浅いことから、医薬品としての信頼性や完成度をどう評価するかについて、医学・薬学会での論調は必ずしも固まっているとはいえません。現時点では、このギャップが、医療用大麻をめぐる重要な争点になっているのです。
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和歌山県で超大型の大麻栽培施設を摘発

2016/11/18 05:50
長くブログの更新ができない状態が続きましたが、私も、ようやく急性期の治療を終え、自宅療養にはいったところです。まだしばらくは、療養生活が続きますが、少しずつ、鈍った頭の訓練を始めようかと思います。

さて、間延びした私の思考回路に、いきなり、超大型の大麻栽培施設が摘発されたというニュースが飛び込んできました。

<ニュースから>*****
●1万本超の大麻草栽培疑い 奈良、男4人を再逮捕
和歌山県かつらぎ町の建物で1万本を超える大麻草が見つかり、奈良県警は16日、販売目的で栽培したとして、大麻取締法違反(営利目的栽培)の疑いで男4人=同法の営利目的所持容疑で逮捕=を再逮捕した。
警察庁の統計によると、大麻草の年間の押収量はこの数年間、数千本の範囲で推移しており、一度の摘発量では異例の多さとなった。
逮捕容疑は10月26日、かつらぎ町の工場内で、営利目的から大麻草24本を栽培したほか、乾燥大麻約340cを所持した疑い。県警は大量の大麻草が栽培されているとの情報を入手し、同日に工場を捜索。1万本を超える大麻草や乾燥大麻を発見、押収し、出入りしていた4人を現行犯逮捕していた。
2016年11月16日 11:25産経ニュース
*****

日本で、大麻の栽培が社会の関心を集め始めたのは、2008年ころのことでした。外国から輸入される大麻の種子が出回り、若者が安易に大麻栽培に手を染めるようになったのです。警察が積極的な取り締まりを行った結果、2009年中に摘発された大麻栽培事犯は300件を超え、合計1万本を超える大麻草が押収されました。
その後、国内では栽培用の大麻種子の販売が姿を消し、また、一般人の警戒意識が高まったこともあり、栽培事犯の摘発は下火になりましたが、いっぽうでは、営利目的で大量に栽培する拠点の摘発が相次いでいます。

しかし、これまでの大量栽培事案で押収される大麻草は、1拠点当たり、せいぜい200〜300本程度でした。一般の民家で栽培するとしたら、広さの都合で、栽培する量に限りがあるわけです。
1グループが、複数の民家などを使って栽培を繰り返し、合計すると1000〜2000本を栽培・・・というのが、組織的な営利栽培の典型的なスタイルだったと思います。

それに比べて、1拠点で1万1千本の大麻草を押収したというのですから、今回の事案は、けた外れに大規模なものだったといえるでしょう。
ちなみに、警察庁の統計によると、1年間で全国の警察が押収した大麻草は、2015年は3,355本、2014年は5,195本でした。今回の事案では、これまでの2、3年分の合計量を一挙に押収したことになります(下記参照@)。

画像

↑警察による大麻栽培事犯の摘発状況
各年度版の警察庁「薬物・銃器情勢」の発表データに基づき、筆者がグラフ化したもの
・赤線は大麻栽培事犯の検挙件数
・棒グラフは、押収された大麻草の本数

●急がれる大麻密売市場の把握
報道によると、逮捕された4人のなかには暴力団幹部が含まれているそうです。暴力団の組織力を背景に、これほどの大規模栽培が行われていたとすれば、日本の大麻密売市場は、成長期にさしかかっているとみてよいでしょう。供給量が急増しても、それを消化する需要があるからこそ、密売組織に最も近い暴力団が自ら大量栽培に乗り出したのでしょう。

しかし、日本の大麻密売市場の現況について、掌握があまり進んでいないのが現実です。

わずか5、6年前まで、日本に出回る大麻のほとんどは外国から密輸されるものでした。その内容は、大麻草の葉や花を乾燥したもので、原産地によっては、種や小枝が混入していることもありました。
ところが、2009年ころから、税関で押収される密輸大麻が急速に減り始めたのです。ちょうどそのころ、逆に急増していたのが大麻の種子の輸入でした。

おそらくこの時期から、国内で栽培された大麻が、密売市場に流出するようになってきたのだと思います。拡大しているとはいえ、まだ規模の小さい日本の密売大麻市場は、たちまち、国内生産品で埋め尽くされ、密輸品の需要が駆逐されたのではないでしょうか。

現在、密売大麻の市場は、結構複雑になっているようです。
ひと昔前までは覚せい剤だけを扱っていた密売ルートが、都市部から順に、大麻など各種薬物を取り扱うようになってきました。
いっぽう、一部の愛好者の間では、品質へのこだわりが進んでいる様子です。THC含有量の多い花穂部分(バッズ)に限定して取引する例や、ときには銘柄を指定して売買するようなケースも散見されます。こうした品物は、当然、密売価格も割高です。一般の密売品とは、流通の経路も異なることでしょう。

しかし、変化し始めている密売大麻の市場について、まだまだ私たちの理解は及んでいません。捜査陣にとっても、事情は同じことでしょう。

たとえば、今回の事件では、県警の発表によれば、押収された約1万1千本の大麻草のうち、成長した約4千本だけで、末端価格は約20億円と推計されるということです(下記参照A)。
警察は、成長した大麻草1本から乾燥大麻が約100g収穫され、それが末端では1グラム当たり5000円で密売されると計算しているようです。

実は、私自身も数年前まで、大麻草からの収穫量を1本当り約100g(乾燥重量)と計算していたのですが、その後、いくつかの栽培事件を手がける中で、収穫量はもっと少ないのではないかと思うようになり、現在では、約50g程度かと考えています。
また、密売価格も、扱う大麻の品質や、密売ルートによって、1グラム当たり4、5千円から、1万円を超えるものまであり、多様になってきています。

全国の警察には、多くの捜査記録が残されているのですから、そろそろ、こうしたデータを集約する時期ではないでしょうか。これまでの捜査を通じて得た膨大な経験は、まとめの作業を経てこそ、広く活用できるノウハウになっていくはずです。

[参照]
@警察庁「平成27年における薬物・銃器情勢(確定値)」2016年3月
http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/yakubutujyuki/yakujyuu/yakujyuu1/h27_yakujyuu_jousei.pdf
A朝日新聞デジタル「大麻草を栽培した疑い、男4人逮捕 1.1万本押収」2016年11月16日
http://www.asahi.com/articles/ASJCJ3V00JCJPOMB00J.html
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