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弁護士小森榮の薬物問題ノート

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弁護士小森榮の薬物問題ノート
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1,000件を超える薬物事件の経験を集約して、弁護人のための実務書をまとめました。鑑定、予試験、尿の押収など、薬物事件に特有の手続は、とくに力を注いでいます。
もう一歩踏み込んだ 薬物事件の弁護術
小 森  榮:著
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処方薬も規制対象に|英国の薬物運転規制

2016/08/14 22:36
道路交通法は、飲酒運転と同じように、薬物を使用して自動車を運転することを禁じているのに、実際には、飲酒運転と同じように薬物運転の取り締まりが行われることはありません。薬物運転の取締まりを困難にしている要因として、まず、どの程度の薬物を摂取した場合に薬物運転とみなされるのか、その基準がはっきりしないことが挙げられます。アルコールでは、酒気帯び運転にあたる状態が血中濃度で示されているのに、薬物では、こうした基準がないのです。
また、アルコールの場合の呼気検査のように、道路上で簡単に行える簡易な検査方法がないことも、悩みでした。

しかし、欧米では、薬物運転への社会的な問題意識が高まるにつれ、薬物運転についても、アルコールの場合と同じように、基準を明確にして、確実に取り締まりを進めようという動きが、次第に広がってきています。

たとえば英国(UK)では、2015年春の法改正で、薬物運転に対する規制が大きく変わりました。
取り締まりの対象となるのは、乱用が広まり、自動車運転の危険性を高める恐れの強い17種の薬物(違法薬物8種と処方薬8種、およびアンフェタミン)で、それぞれ血中濃度の下限値が定められました。
運転者の体内から、これを超える濃度の薬物が検出された場合は、「薬物運転」として摘発され、1年以上の運転免許停止、罰金といった処分が科され、場合によっては拘禁刑を言い渡されることにもなります。

処方薬については基準値が比較的高く定められ、また、医師の処方通りに服薬している場合には、仮に検査の結果、基準値を超える薬物が検出されても、処罰されることはないといいます(詳しくは下記を参照)。

●取り締まりの対象となる薬物と血中濃度の基準値
<違法薬物>
ベンゾイルエクゴニン(コカインの代謝物)・ 50µg/L
コカイン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10µg/L
Δ9‐THC(大麻の主要成分)・・・・・・・・・・・・2µg/L
ケタミン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20µg/L
リゼルギン酸ジエチルアミド(LSD)・・・・・・・ 1µg/L
メタンフェタミン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10µg/L
MDMA・・・・・・・・・・・・・・・・ 10µg/L
6-アセチルモルヒネ(ヘロインの代謝物)・・5µg/L
<処方薬>
クロナゼパム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50µg/L
ジアゼパム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 550µg/L
フルニトラゼパム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・300µg/L
ロラゼパム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100µg/L
メタドン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・500µg/L
モルヒネ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・80µg/L
オキサゼパム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・300µg/L
<別枠>
アンフェタミン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・250µg/L

●薬物簡易検査キットの導入
改正法の導入を支えたツールのひとつが、現場ですぐに判定できる薬物簡易検査キットです。自動車運転の取り締まりでは、通常の薬物検査のやりかたで、尿を採取して検査するわけにはいきません。アルコールの場合の呼気検査のような簡便な方法で、薬物使用を判定することができなければ、現場で活用することはできません。

基本的には唾液(口の中の粘液)を採取して、その中に含まれる薬物を簡易検査キットで判定するのですが、英国各地の警察では、様々なタイプの検査キットが導入されました。法改正当時のニュース記事から、いくつか拾い出したものを下に掲載します。
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↑ITVのニュースサイト2014年12月21日の記事
http://www.itv.com/news/story/2014-12-21/police-to-test-drivers-with-drugalyser-kits/
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↑Yorkshire Standardのニュースサイト記事2015年3月2日
http://www.yorkshirestandard.co.uk/news/explained-new-drug-driving-law-and-drugalysers-in-force-10496/
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Plymouth Heraldのニュースサイト記事2015年3月2日
http://www.plymouthherald.co.uk/plymouth-police-training-using-roadside/story-26104931-detail/story.html

もちろん、すべてのドライバーが簡易検査キットによる薬物検査を受けるわけではありません。警察官は、ドライバーの様子などを観察して、薬物使用の疑いがある場合には、まずアルコールの場合と同じように、片足立ちや線の上をまっすぐ歩くといった検査を行い、さらに疑いが強くなった場合には、簡易検査キットを使ってその場で検査します。綿棒で口のなかをぬぐってドライバーの唾液を提出してもらい、鑑定にまわしたり、ときには警察署に同行して、検査を行う場合もあります。

今のところ、こうした簡易検査キットで検出できる薬物は数種類に限られていますが、今後、キットの改良が進めば、多種類の薬物について検査することが可能になりそうです。

英国では、改正法の施行以降、従来の飲酒運転取り締まりに加えて、薬物運転の検査も積極的に行われるようになってきたといいます。

[参照]
薬物運転に関する英国政府の広報
GOV.UK>Drugs and driving: the law
https://www.gov.uk/drug-driving-law
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大麻成分入りキャンディ|米フェスティバルで中毒事故

2016/08/08 03:09
この週末、米オハイオ州で開かれた野外コンサートで、急性の薬物中毒患者が集中発生、24人が救急搬送されました。幸い、重症者はなく、患者のほとんどはまもなく症状が落ち着いたといいます。
中毒事故を引き起こした原因薬物については、警察による捜査が進行中ということですが、疑いの目が向けられているのは、大麻成分入りのキャンディで、当局が成分分析を進めているといいます。
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↑地元のクリーブランド19ニュースより
Authorities testing 'medibles' that hospitalized 24 at rural Ohio music festival(August 06, 2016)
http://www.cleveland19.com/story/32700867/authorities-testing-medibles-that-hospitalized-24-at-rural-ohio-music-festival

コンサートもたけなわのころ、集まった聴衆の間で、誰かが、袋に入ったキャンディを回し始めたそうです。

問題のキャンディは、医療用大麻販売店で取り扱っているもので、パッケージには、メディブルMedibleと書いてあります。Medibleとは、医療用大麻として販売されている大麻入り食品(Medical Marijuana Edible)のことで、患者が、乾燥大麻を喫煙して使用する代わりに、大麻成分入りの食品を摂るもので、小さなキャンディ1〜2個で、大麻タバコを喫煙した程度のTHCを摂取することになります。

大麻入りキャンデイだと気づいた人もあったそうです。でも、袋の表示に気付かなかったのか、キャンディを大量に食べてしまった人たちが、やがて気分が悪いと訴え始め、夕刻には救急車で運ばれる人が続出しました。

しかし、誰が、何のために、大麻入りキャンデイを聴衆に配ったのでしょうか。
オハイオ州では、今年6月に医療用大麻制度を認める州法が成立し、9月から施行されることになっています。その景気付け、あるいは前宣伝のつもりだったのでしょうか。

●大麻入り食品の落とし穴
合法大麻や医療用大麻の販売店では、色とりどりの大麻成分入り食品が販売されています。人気のアイテムは、チョコレートやキャンディ、グミ、クッキーなど。
これは、自然の大麻草から抽出した、THCなどの有効成分を食品に加えたもので、ごく普通のお菓子のように見えても、意外に大量のTHCを含んでいます。

パッケージには、大麻入り食品であることが表示され、THC含有量も記載されているはずです。
ところが、ひとたび顧客の手に渡った製品を自宅に置いているうちに、子どもが食べてしまったり、パーティなど、気分が盛り上がっているところへ、手から手へ渡されたお菓子を不用意に食べたり・・・。米国では、大麻入りと気づかずに食べた人たちが、急性中毒に見舞われる事故が頻発しています。

日本の若者も、旅行先で、合法大麻の販売店を目にすることもあるでしょう。大麻そのものには手を出しにくいと感じる人たちも、カラフルなお菓子となると、警戒感も薄れてしまいがちです。
でも、大麻入り食品の多くは、ごく少量で、乾燥大麻喫煙1回分程度のTHCを含んでいることを忘れないでください。たとえばチョコレートバー1本に、喫煙8〜10回分程度のTHCが含まれる製品もあります。

米国では、医療用や娯楽用大麻を認める州が増えています。しかし、たとえ大麻が合法化されたとしても、その精神作用が消えてなくなるわけではありません。
不用意な大麻使用には、急性中毒の危険がついてまわることを忘れるわけにはいかないのです。
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麻薬撲滅の名の下の暴力|フィリピン新政権の問題

2016/08/04 23:56
6月末に就任したフィリピンのドゥテルテ大統領は、断固として薬物犯罪抑止に向かう厳しい姿勢で、国民の圧倒的な支持を集めてきましたが、新政権が発足してわずか1月たらずで、「麻薬密売人または乱用者」として、400人以上が警察に射殺され、自警組織などによるものを加えると、700人以上が殺害されたという衝撃的なニュースが、世界をかけめぐっています。
新大統領は、麻薬犯罪の撲滅を宣言しましたが、その手段として、警察官と民間の自警組織の要員が麻薬犯を殺害することさえ容認し、報奨金を与えて積極的な取り組みを奨励しているともいわれ、国際人権団体などから批判されていました。

<ニュースから>*****
●フィリピン新政権、1カ月で麻薬容疑者400人射殺 恐れなした57万人が出頭 
就任から1カ月が過ぎたフィリピンのドゥテルテ大統領が、公約に掲げた「治安改善」をめぐり強権姿勢をあらわにしている。警察が400人を超える違法薬物の容疑者を現場で射殺。恐れをなした薬物中毒患者や密売人ら約57万人が当局に出頭するなど、取り締まりは一定の成果を上げているが、人権団体からは“超法規的殺人”との批判が上がっている。(以下省略)
産経ニュース2016.8.3 17:59
http://www.sankei.com/world/news/160803/wor1608030037-n1.html
*****

●世界を揺り動かした1枚の写真
7月下旬、マニラ市内で、麻薬密売人と疑われた若い輪タク運転手が射殺されました。街路に打ち捨てられた被害者の傍らには、段ボールの紙片に殴り書きされた「密売人」の文字。殺害者は明らかになっていません。
報道カメラがとらえたのは、被害者の恋人が亡骸をそっと抱き起こすシーンでした。女性の悲しみに満ちた表情の静けさは、かえって、この事件の背景にある暴力を浮かび上がらせていました。
この写真が、世界の有力紙の紙面に取り上げられ、人々の心を動かしたのです。

ところが、CNNのニュースによると、話題の渦中にあるドゥテルテ大統領は、この写真を大きく掲載した地元紙を手に、被害者に同情のかけらもみせず、「死にたくなかったら、(政府の姿勢を批判している)教会や人権団体の言い分を真に受けないでください。彼らは死をとめることはできない」と語ったといいます。
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↑CNNのサイトより
「生死にかかわらず:フィリピンの麻薬戦争はコントロール不能か?」August 4, 2016
http://edition.cnn.com/2016/08/03/asia/philippines-war-on-drugs/

●刑事施設は超過密
麻薬犯罪撲滅のためには、殺害をも辞さず・・・そんな強硬姿勢に、フィリピンでは麻薬密売人や乱用者が大挙して警察に自首しているといいます。
その結果、もともと収容能力が不足気味だった刑事施設が、一気に超過密状態になってしまいました。

下の写真は、マニラ近郊の拘置所で、体育館の床にまですし詰め状態で眠る入所者の様子が撮影されています。定員800人の施設に3800人が収容されているそうです。居室どころが、寝床さえ満足に確保できない状態だとか。
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↑TIME誌のサイトより
フィリピン、マニラ首都圏の刑事施設の超過密ぶりを報じている
http://time.com/4438112/philippines-overcrowded-prison-manila-rodrigo-duterte/

●不安定社会で旗印に使われる「麻薬撲滅」
1980年代、ベトナム戦争後の不安定な米国社会で、麻薬撲滅を掲げて強力な指導力を印象付けたのは、レーガン大統領でした。
薬物乱用防止を旗印に、青少年を巻き込んだ運動が社会の隅々まで広がりましたが、そのいっぽうでは薬物事犯への極端な厳罰化が進み、多くの若者が終身刑を言い渡されて、今も刑事施設で過ごしています。

米国ではその後、行き過ぎた厳罰政策への批判が高まり、薬物犯罪者に対する罰則の見直しも、少しずつ進展しています。また最近では、過度な長期刑を言い渡された人たちの早期釈放も進み始めました。
しかし、行き過ぎた刑事政策の巻き戻しに、実に40年近い時間を要したのです。

さて今度はアジアに飛び火した「薬物撲滅」のスローガン。
たしかに、アジア太平洋地域では、近年急速に覚せい剤の流通量が増え、薬物乱用が急拡大しています。加えて、世界的な景気後退で経済的な行き詰まり感も強まっています。

こんな時期に、またしても「麻薬撲滅」を旗印として掲げる人物が現れました。しかも、今度のリーダーは、法や人権さえ意に介さず、「麻薬撲滅」の名の下で、暴力的な粛清を推し進めていると批判されています。
このような大義名分は、おおいに疑ってかからなくてはなりません。

この問題に関しては、まだしばらくは、続報があることでしょう。国際機関の動きや、世界のメディアの報告に注意をはらっておくことにしましょう。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 1


薬物依存と運転免許の問題

2016/07/31 11:51
元スター選手Kさんが免停の処分を受けたそうです。新聞記事の中には、「警視庁は今後、薬物事件で立件された人への免停処分を強化する方針」と報じたものもあります(朝日新聞デジタル2016年7月29日19時57分)。

<ニュースから>*****
●K元選手を免停処分―覚醒剤使用で事故の恐れ
東京都公安委員会は29日、道交法に基づき、プロ野球のK元選手(48)を180日間の運転免許停止処分とした。過去に覚醒剤を常用しており、今後も使用して重大な事故を起こす恐れがあるとしている。
・・・警視庁は裁判資料などから検討し、K選手が覚醒剤を常用していたことや、今後も車を運転する可能性があることから免停処分が相当とし、都公安委員会が了承していた。
47ニュース[共同通信]2016/7/29 18:44
*****

覚せい剤取締法違反の裁判で執行猶予付の有罪判決を言い渡されたKさんに対して、運転免許の停止が検討されていると報じられたのが、今年5月末のこと。この時から、私には気になってならない点があって、最終的な処分決定の報道を心待ちにしてきました。気になっていたのは、免許停止の処分を下すにあたって、道路交通法のどの条項を根拠にするのか、という点です。
重箱の隅をつつくような話で、いささか気が引けますが、闘病のかたわら、疑問について簡単にまとめてみました。よろしかったらお付き合いください。

●何とも中途半端な薬物中毒者に対する免許の制限規定
今回のKさんに対する処分は、Kさんが過去に覚醒剤を常用しており、今後も使用して重大な事故を起こす恐れがあることから、免許の停止が相当と判断されたといいます。
道路交通法103条1項は、免許を停止しまたは取り消す対象を具体的に列記していて、そのなかには、「アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者であることが判明したとき」という、一見すると極めて明快な規定があります(同3号)。

ところが、今回の処分では、その根拠として、いわゆる危険性帯有者(将来的に道路交通上の危険をもたらす恐れのある人)に対する運転免許の取消しや停止を定めた、同8号が適用されたようです。
8号は、「前各号に掲げるもののほか、免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき。」というもので、1から7号までで具体的に列記してきたもの以外を捕捉するために、この項の最後に置かれたものです。3号に明確な規定がありながら、あえて8号を適用するというのは、実に不可思議な事態だと言わざるを得ません。

2014年、危険ドラッグ使用者に対する免許停止が話題になりましたが、この時に登場したのが、8号の危険性帯有者条項です。3号は「アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者」に対する規定であり、同じ薬物とはいっても、この規定から外れる危険ドラッグに対しては、8号を適用するのは、ごく自然な成り行きだったと思います。
しかし、今度は覚せい剤が問題になっているというのに、またしても8号が適用されたのです。
どうやら、「アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者」(以下「薬物中毒者」といいます)に対する免許の取消し・停止を定めたこの規定には、実際の適用をためらわせる事情があるようです。

●薬物中毒者についてはガイドラインが示されなかった
道路交通法は、2001年改正、2013年改正を経て、車の運転に支障を及ぼすおそれのある一定の病気等にかかっている人たちに対して、運転免許を制限する規定を体系的に整備してきました。
具体的には、てんかん、統合失調症、再発性の失神などによって運転に支障を及ぼす恐れのある一定の症状がある場合に、免許の拒否あるいは取消処分の対象となることが定められています。なお、関連の法令や行政文書では、これらの病気にアルコール、麻薬中毒者を加えて、「一定の病気等」と呼んでいます。

この手続きにおいて、免許の取消しや停止の判断基準になるのは、病名ではなく、病気によってもたらされた症状です。「一定の病気等」について、関係者の共通理解を確立するために、法の整備と歩調を合わせて、警察内部では、運用基準の改定が重ねて行われました。
現行の警察庁の通達「一定の病気等に係る運転免許関係事務に関する運用上の留意事項について」には、「一定の病気等」について、症状ごとの具体的な運用基準を明示した文書が添付されています(下記参照@)。
ところが、ここで法103条1項3号の適用例として挙げられているのは、アルコール中毒者のケースだけです。法は、「アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者」を対象と規定しているのに、麻薬、大麻や覚せい剤の中毒者に関する記述は見当たりません。

また、医師の見解でも同じような現象が起きています。
この手続きでは病状が問題になっているのですから、当然、医師の診断も重要な手続要素となります。医師は、診察した患者が「一定の病気等」に該当するときは、診断結果を公安員会に任意に届け出ることができるとされ、また、具体的な免許の制限の判断においても、医師の診断書が重視されることになりました。

法の整備に並行して、関連の医学会では、届け出のガイドライン策定が進み、2014年9月に日本医師会が医師から公安委員会への任意の届出ガイドラインを発表しました(下記参照A)。ところが、ここでも、麻薬中毒者に関するガイドラインが含まれていないのです。アルコール中毒者(医学の分野では「アルコール依存者」と呼びます)については明確なガイドラインが示され、ICD-10に基づく診断基準や、届け出のプロセスなどが提示されているのに(下記参照B)、なぜか、薬物依存については、項目さえ見当たりません。

●科学的、合理的な判断基準が確立していないのか
なぜこんな事態になっているのでしょう。私なりに、考えをめぐらせてきました。以下は、私の私見です。

私が繰り返して指摘してきたように、法は、薬物中毒者に対する免許の取消しなどの処分を定めているものの、これまで、この条項が積極的に使われることはありませんでした。薬物乱用者対策として、免許に関する行政処分の強化が叫ばれることもありましたが、その都度、別な対応策が示されてきたのです。
たとえば、警察庁の通達文書は、麻薬等薬物中毒者の行政処分について、次のような見解を述べています(下記参照C)
「麻薬、大麻、あへん、覚せい剤、シンナー及びその他の薬物(以下「麻薬等」という。)の中毒者については、法第103条1項による免許の取消しに該当する場合もあるが、短期間で治ゆすることもあり、これを適用することは困難であるところから、過労運転(法第66条)として行政処分を検討することとする。」

法103条1項3号には、よほど、実際の違反事例に適用しにくい事情があるのでしょう。考えてみれば、法律の文言は単純明快ですが、では、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤のそれぞれについて、「中毒者」とはどんな状態をいうのか、また「中毒者」であることが自動車運転の危険性とどう結びつくのか、共通見解が定着しているとは、とても言えません。
本来は、「一定の病気等」について検討する過程で、この問題についても掘り下げる必要があったのでしょうが、なぜか、この条項は宙に浮いたまま放置されてきたように思われます。
言い換えれば、この条項については、科学的、合理的な判断基準がまるで出来ていないのです。これまでの適用実績が乏しいことから、判断事例の積み上げも出来ていないことでしょう。これでは、実際の場面で適用することは難しくなります。

この問題を整理しないまま、迂回路として、同8号の危険性帯有者条項を積極的に使って、覚せい剤取締法ですでに処罰を受けた人たちに対して、運転免許の停止という追い打ちをかけることは、どう考えても、上品なやり方には見えません。
薬物依存と自動車運転の問題が整理されるまで、あくまでも便法として、8号で対処しているのですから、目に余るケースに対して、自制しながら適用していくことを忘れてはいけないのではないでしょうか。

[参照]
@警察庁通達の別添文書
「一定の病気に係る免許の可否等の運用基準」一定の病気等に係る運転免許関係事務に関する運用上の留意事項について・別添文書(2015 年8月3日)
https://www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20150803-1.pdf
A日本医師会のガイドライン
「道路交通法に基づく一定の症状を呈する病気等にある者を診断した医師から公安委員会への任意の届出ガイドライン」2014年9月
http://www.jsts.gr.jp/img/todokede_gl.pdf
B日本アルコール関連問題学会のガイドライン
「一定の症状を呈するアルコール依存症者を診断した医師から公安委員会への任意の届出ガイドライン」
http://www.j-arukanren.com/news/pdf/20150313_guideline.pdf
C警察庁の通達
「運転免許の効力の停止等の処分量定基準の改正について(通達)」2013 年11月13日 http://www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20131113-1.pdf
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覚せい剤輸入事件の裁判員裁判が再び揺れ始めた

2016/07/23 05:58
先日、千葉地裁でシンガポール人女性被告人に対して無罪が言い渡され、裁判員裁判の導入以来、これで21人の被告人に無罪が言い渡されたことになります。

5月には、千葉地裁で、浄水器のフィルターに約2.3キロの覚せい剤を隠して密輸した罪に問われたタイ人男女2名の裁判員裁判で、被告人2名は、フィルターの運搬を依頼した知人女性を信頼しきっており、覚醒剤が隠されていることを疑わなかったという主張は不自然とはいえないとして、無罪が言い渡されたところです。

制度導入から今年5月末までで、裁判員裁判全体で、無罪が言い渡された被告人は52人であることを考えると、覚せい剤取締法違反での無罪判決が、いかに突出したものであるか、おわかりいただけるでしょう。ちなみに、罪名別で2番目に無罪が多いのは殺人で、5月末までで11人となっています。

<ニュースから>*****
●覚醒剤密輸事件、シンガポール人女性に無罪 東京地裁「違法薬物の認識なかった」
スーツケース内に隠した覚醒剤約2.5キロを密輸しようとしたとして、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの罪に問われたシンガポール国籍の女性(43)の裁判員裁判の判決公判が20日、東京地裁で開かれた。辻川靖夫裁判長は「違法薬物を運搬している認識はなかった」として無罪(求刑懲役12年)を言い渡した。
辻川裁判長は「出会い系サイトで知り合った男性からスーツケースの運搬を頼まれた際の友人とのやり取りや、税関でスーツケース内の覚醒剤が発覚したときの被告の言動からは、被告がスーツケース内に違法薬物が入っているかもしれないと認識していたとは認められない」と指摘した。・・・
産経ニュース2016年7月20日 18:14
*****

●「知っている」と「知らなかった」のわずかな差
こうした密輸計画を主導しているのは、国際的な薬物犯罪グループで、中国系の密輸組織やメキシコのカルテルのような巨大組織が取り仕切る大型密輸から、外国に人脈のある個人による小口密輸まで多様ですが、当然、犯罪の主要な部分は外国で計画されます。
しかも、覚せい剤を日本に運搬してくる人たちの多くは、密輸計画の首謀者と面識もないまま、荷物の運搬を依頼された運び屋で、覚せい剤など見たこともない人も珍しくありません。

空港などの税関で、手荷物から覚せい剤が発見された時、運搬役の多くは、「薬物が入っているとは思わなかった」と主張します。じっさい、彼らは密輸の具体的な事情は知らされないまま、様々な口実で、わずかな報酬と引き換えに、荷物の運搬を頼まれているのです。依頼の口実は、急ぎの商品見本、日本の友人に渡すお土産、高級腕時計、ブランド品のサンプル、最近の例では紙幣のマークを洗浄する特殊なオイルを運ぶよう頼まれた例もありました。

依頼主の言葉を信じ切って、不信感も抱かないまま荷物を運んだ人が、処罰されるはずはありません。じっさい、税関検査で手荷物から覚せい剤が発見されたとしても、調査の結果、薬物を運搬しているという故意が認められないとして、起訴されずに済むケースも結構あります。また、裁判では、手荷物の中に覚せい剤が隠されていることを知らなかったという被告人の主張と、様々な間接証拠と突き合わせながら、その真偽を見極めることが中心になります。
ただし、ここで問われる「知っている」と「知らなかった」の差は、ごくわずかなものです。

一度は依頼主の口実を信用して荷物の運搬を引き受けてみたものの、それでも、あまりに不合理な依頼の仕方に、「もしかしたら、覚せい剤など法に触れる品物を運ばされるのではないか」という疑いを抱いたのではないか。あるいは、秘密に包まれた依頼主の様子などから、「鉄砲や覚せい剤などが入っているかもしれない」と感じたはずではないか・・・。こんな疑いを感じながらも、「それでもかまわない」という気持ちで荷物を運搬した場合は、少なくとも未必的な故意がありながら密輸の罪を犯したとして、有罪と判断されるのです。

覚せい剤輸入事件の裁判は、疑問や迷いの連続です。裁判員の率直な感覚からすれば、わずかな間接証拠だけで、判断することにためらいがあって当然でしょう。

●ふたたび動き始めた無罪判決
裁判員裁判で無罪判決が増えたことは、関係各機関に大きな影響を及ぼしました。検察庁、警察、税関は検討会や研究会を重ねて対策を協議し、立証方法の見直しも進みました。弁護士のなかにも、勉強会などを通じてこの種事案への取り組みを強化する動きも目立っています。

いっぽう裁判所にも様々な反応がありました。とくに目立ったのは、高裁や最高裁の動きです。
これまで、裁判官による裁判で積み重ねてきた精緻な認定手法からみれば、あまりにも隔たりの大きい判決に対して、まず、高裁による逆転有罪判断が相次ぎました。覚せい剤輸入事件で1審の裁判員裁判で無罪となった事件が、控訴審で逆転有罪となったケースは、これまでに5件(1件は一部無罪事件、ほかに差戻しが1件)です。

さらに、最高裁の判断も裁判の流れに影響を及ぼし始めます。当初、最高裁は、1審の裁判員裁判の判断を尊重する方向を示し、裁判員裁判で無罪になった最初の事件では、高裁による逆転無罪判決を破棄して、改めて無罪を言い渡しました。
しかし、その後は、高裁で逆転有罪となった事件について、最高裁は一貫して高裁の判断を支持し、上告を棄却する決定をしています。しかも決定に際して、「所論に鑑み、職権で判断する」として、最高裁の見解を示すケースが続きました。
2014年春以降、重要判例とされる最高裁決定が相次いで3回示されていますが、そこでは、裁判官、検察官の責任などにまで踏み込んで、1審での認定のあり方について具体的な意見を述べたものもありました。
 ■平成25年4月16日 最高裁判所第三小法廷 決定
 ■平成25年10月21日 最高裁判所第一小法廷 決定
 ■平成26年3月10日 最高裁判所第一小法廷 決定

また、より具体的な対策として、裁判員裁判を意識した事案の調整も行われたようで、2015年には、裁判員裁判に付される覚せい剤輸入事件が半減しました。そういえば、公判で有罪立証に困難が予測される事案については、輸入罪での起訴を見合わせたと思えるケースもいくつかありました。

こうした様々な対策の結果でしょうか。2014年秋以降、覚せい剤輸入事件の裁判員裁判での無罪判決が途絶え、2015年はゼロとなりました。

<裁判員裁判での覚せい剤輸入事件・無罪判決>
2009年 無罪判決・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0人
2010年 無罪判決・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1人
2011年 無罪判決・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5人
2012年 無罪判決・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4人
      一部(覚せい剤輸入部分)無罪・・2人
2013年 無罪判決・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5人(4事件)
     一部(覚せい剤輸入部分)無罪・・・1人
2014年 無罪判決・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3人
2015年 無罪判決・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0人

しかし、行き過ぎた面もあったのかもしれません。様々な検討や対策が投入されたことが、裁判所の内外に無罪判決を出すことを警戒する空気が生まれてしまったように感じます。
そしてその結果が、裁判員裁判で有罪となった事件に対して、相次いで、高裁が逆転無罪や差戻し判決を下す、という流れとなって現れました。

そして、高裁による逆転無罪判決に刺激されたのか、しばらく途絶えていた裁判員裁判での無罪判決が、再び言い渡されるようになり始めたのです。これは、新たな局面の始まりなのかもしれません。
でも、その反面、近年では、覚せい剤密輸の手法に変化が生じ、運び屋による携帯輸入が減少傾向を示しています。もしも運び屋による覚せい剤輸入事件そのものが、長期的に減少するなら、裁判上の諸問題も、やがては自然解決となるのかもしれません。
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カリフォルニア州の大麻合法化案に注目|米2016住民投票

2016/07/18 23:54
米国では、明日から、トランプ氏の候補者指名を問う共和党大会が開催されるそうです。11月の大統領選に向けて、いよいよ本格的な選挙モードに突入した模様です。

ところで、大揺れしている大統領選の裏側では、今回も、大麻合法化法案が住民投票にかけられる州がメジロ押しとなっています。
2010年の中間選挙の際に、カリフォルニア州で、娯楽用大麻合法化法案に対する住民投票が行われ(接戦の末に否決となりましたが)、2012年にはコロラド州で、成人(21歳以上)の娯楽用大麻使用を合法化する最初の州法が成立しました。

●州レベルで多様化が進む大麻規制
米国では現在、州法で娯楽用大麻を合法とする州は、コロラド、ワシントン、オレゴン、アラスカの4州とワシントンD.C.です。
また、25州とワシントンD.C.では医療用大麻制度が認められています。さらに、CBD(カンナビジオール)成分を特に豊富に含む製品に限り、医療用として使用を認めるという州もあります。

いっぽう、従来通り、大麻を違法としながらも、自己使用目的の少量所持などの違反者に対する罰則を大幅に緩和している州も少なくありません。
たとえばカリフォルニア州では、上述した2010年の合法化法案をめぐる議論の中で、大麻所持罪に対する罰則の引き下げが行われ、1オンス(約28グラム)以下の単純所持に対しては、刑事罰を科すことを見合わせ、100ドル以下の反則金を納付させるという行政処分で対処することとなりました。わが国の交通反則金と同じような感覚です。

米連邦としての大麻政策には特段の変化はないものの、州レベルでみると、米国の大麻政策は、いま、急速に流れを変えつつあるといえるでしょう。

それと呼応して、一般人の大麻に対する見方も大きく変わってきています。下のグラフは、ギャラップ社の世論調査から、「大麻合法化」に対する支持率を表したものですが、2010年のカリフォルニア州住民投票が、世論の流れを分ける潮目になっている様子が、見て取れます。
画像

↑ギャラップ世論調査より「大麻合法化に対する支持率」(下記参照@)
最新調査は2015年10月

●2016年11月選挙、大麻関連住民投票が続々名乗り
今年の注目点は、何と言っても、カリフォルニア州の再挑戦でしょう。
2010年に、世界で初めて娯楽用大麻合法化の是非を問う住民投票を行い、僅差で否決されたとはいえ、市民レベルにまで議論を広げてきた背景があります。また、長年にわたり、米国の医療用大麻市場をリードしてきた基盤もあります。
全米で最多の人口を抱える同州で、大麻合法化法案が通った場合には、合法化の流れは、それこそ地滑り的に全米に波及するだろうと言われています。

11月に向けて、住民投票をめぐる動きもそろそろ本格化するころです。
2016年の住民投票に大麻合法化法案の名乗りを上げていた各州からは、住民投票法案確定の知らせも続々届いています。住民投票情報サイト(下記参照A)によると、娯楽用大麻の合法化法案を挙げている州が、カリフォルニア、ネバダなど4州、規定数の署名を提出済みの2州と合わせると、6州で住民投票が行われる見込みです。
大統領選と合わせて、こちらも、目が離せません。

<娯楽用大麻合法化法案>
■カリフォルニア州 
California Marijuana Legalization Initiative, Proposition 64 (2016)
■ネバダ州 
Nevada Marijuana Legalization Initiative, Question 2 (2016)
■マサチューセッツ州
Massachusetts Marijuana Regulation and Taxation Initiative (2016)
■メーン州
Maine Legalize Marijuana Initiative, Question 1 (2016)
■アリゾナ州(署名提出)
Arizona Regulation and Taxation of Marijuana Act Initiative (2016)
■モンタナ州(署名提出)
Montana Marijuana Legalization Initiative, CI-115 (2016)
<医療用大麻合法化法案>
■フロリダ州 
Florida Right to Medical Marijuana Initiative, Amendment 2 (2016)
■アーカンソー州
Arkansas Medical Marijuana Amendment of 2016 (2016)
■ミズーリ州(署名提出)
Missouri Medical Marijuana Legalization Initiative (2016)

[参照]
@ギャラップ世論調査「大麻合法化に対する支持率」
Gallup>Illegal Drugs
http://www.gallup.com/poll/1657/illegal-drugs.aspx

A米住民投票の情報サイト
Ballotpedia>Marijuana on the ballot
https://ballotpedia.org/Marijuana_on_the_ballot
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1歳男児が覚せい剤の急性中毒症状

2016/07/15 18:31
●とりあえず、ぼつぼつ更新を再開します
しばらくブログの更新ができずにいましたが、体調も、ようやく少し落ち着き始めたので、静養の傍ら、少しずつ書き始めます。
復帰には、まだ少し時間がかかりそうですが、頭のリハビリを兼ねて、とりあえず、ブログをボツボツ書いて行こうと思います。
*****

どういうわけか、1歳の子どもが覚せい剤の急性中毒で、病院で手当てを受けるという事態が、神戸市で発生しました。どうやら、父親が自宅に持ち込んだ覚せい剤が、誤って子どもの口に入ってしまったようです。

覚せい剤には、中枢神経興奮作用のほかに、交感神経を興奮させる作用もあり、この作用によって、血管が収縮し、心臓の鼓動が早くなり、発汗、ふるえ、血圧上昇や高体温などが生じます。重症になると、全身のけいれんが起き、意識を失うこともあり、最悪の場合は、脳出血や、突発的な心不全によって生命が失われるのです。

<ニュースから>*****
●1歳男児の尿から覚醒剤…自宅で誤飲か、父逮捕
神戸市内の病院を受診した1歳男児の尿から覚醒剤成分が検出されていたことがわかった。
兵庫県警は同市内の自宅を捜索し、父親(34)を覚醒剤取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕した。県警は、男児が自宅にあった覚醒剤を誤飲したとみている。
捜査関係者によると、同市内の病院が8日、「体調不良で受診した男児の尿から、覚醒剤のような成分が検出された」と県警や児童相談所に通報した。・・・
読売新聞2016年7月15日 06:00
*****

上記のニュース記事は、男児の自宅を捜索した結果、父親のバッグからポリ袋に入った覚せい剤0・04グラムが発見され、父親が現行犯逮捕された、と報じています。父親は調べに「自分で使うために持っていた」と容疑を認める一方、「子どもに覚醒剤は与えていない」と話しているということです。

覚せい剤乱用者は、自分の乱用行動を「よくないこと」と思う一方、「他人に迷惑をかけているわけじゃない」と言い訳することもよくあります。
たしかに、お金を払って入手した薬物を自分で使っているのだから、自分の健康や人生を傷つけることはあっても、直接他人に危害を加えているわけではありません。
しかし、覚せい剤乱用者の行動は、多様な危害を周辺にまき散らしていて、一緒に暮らす家族が、何らかの被害を受けることも少なくないのです。

とくに深刻なのが、誤って乳幼児が覚せい剤を摂取してしまうというケース。身体が小さく、また代謝機能もまだ発達過程にある乳幼児の場合は、ごくわずかな覚せい剤を摂取しても、生命に関わる中毒症状に至る危険があります。
乳幼児と覚せい剤急性中毒に関する記事が、サイト内にあります。急性中毒、摂取量などについても書いているので、ご参照ください(参照先は下記)。

乱用者が自宅に持ち込んだ覚せい剤が、家族を巻き込んだり、乳幼児に深刻な健康被害をもたらしたりする危険は、どこにでも転がっています。代表的なものをあげてみましょう。
@誤飲の危険
覚せい剤事犯の被疑者を逮捕すると、捜査陣は、その使用場所の周辺を捜索し、使い終わった注射器のほか、覚せい剤を水に溶いたコップやスプーン、空になったビニール袋、覚せい剤をすくい取ったストローの切れ端など、様々なものを押収します。使用場所には、ごくわずかな覚せい剤成分が付着した、こうした小物が散らばっていることが多いのです。
もし、幼い子供が、こうした器具を手に取ったり、口に入れたりしたら、わずかな付着物でも、急性中毒に至る危険があります。

A副流煙による摂取
加熱吸引(あぶり)で使用する場合には、加熱によって気化した覚せい剤成分の一部が、室内に蒸散し、タバコの場合と同じように、副流煙による間接的な摂取が起きることがあります。
副流煙として身体に摂取される覚せい剤は、通常はごくわずかで、成人の場合は、尿検査で陽性反応が出たりすることは、ほとんど考えられませんが、乳幼児にとっては、このわずかな量が問題になるのです。

B室内に飛散した成分
被疑者が覚せい剤使用を全面的に否定する場合、その自宅を徹底的に捜索して、覚せい剤使用の痕跡が残っていないか調べることもあります。
使用場所のテーブル周辺や床の敷物には、わずかにこぼれた覚せい剤が残っていることもあります。また、加熱吸引で使用した場合は、気化成分が蓄積され、エアコンのフィルターや換気扇の付着物からわずかな覚せい剤成分が検出されることもあります。
乱用場面の周辺に飛び散ったわずかな粉末や、気化した成分・・・。部屋中をハイハイする幼児にとって、こんな環境は危険そのものです。

子どものいる家庭に覚せい剤を持ち込み、子どもの生活する部屋で使用することは、大切なわが子を傷つける危険と隣り合わせなのです。

[参照]
●サイト内過去記事・生後3か月の乳児が覚せい剤中毒死(2015/12/06)
http://33765910.at.webry.info/201512/article_3.html
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