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弁護士小森榮の薬物問題ノート

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弁護士小森榮の薬物問題ノート
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地方裁判所で取り扱う刑事事件の約15%を占めているのが、覚せい剤事件です。実際の事件の多くは、若者が安易な考えで薬物を乱用したというもので、本来は犯罪と無縁なはずの彼らが、犯罪者として処罰されてしまうことが、私には残念でなりません。
私が弁護士として、薬物事件に取り組むなかで直面する、薬物乱用にまつわる諸問題の断片をつづってみます。
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包括指定のプラスとマイナス

2012/01/29 00:08
厚労省が包括指定の導入を検討していると報道されています。これまでわが国で試みたことのない包括規制の導入が、具体的な検討課題になってきた今、薬物規制とは何か、どんなプラスとマイナスがあるのか、私たち国民の目線で、みておきたいと思います。

●広範な規制によって、どんな不都合が生じるのか
27日の産経新聞は、厚生労働省が「包括指定」の導入の検討を始めたと伝えていますが、その記事の中で、「医療現場などを中心に、治療や研究目的の使用にも影響を与える可能性があるとの懸念が出ており、厚労省は今後、指定範囲などについて関係機関と慎重に協議を行う方針。」とありました。
[参照]
産経新聞>●脱法ドラッグの規制強化へ 似た成分で「包括指定」を検討(1月27日)

ちょうど数日前、元ACMD諮問委員のナット教授の研究班が、マジック・マッシュルームの精神活性成分サイロシビンの、うつ病の治療への可能性に関する研究を英国科学アカデミーで発表したというニュースが、英国から伝えられていました。
BBCは、ナット教授のことばを次のように伝えています。
「マジック・マッシュルーム、LSD、エクスタシー、大麻、メフェドロンなどには、潜在的に、治療への利用可能性がある。しかし、不法薬物の研究が制約されているため、こうした物質は十分に研究されてこなかった。違法薬物を研究することは難しいとして、これまで誰も研究してこなかったと知って、私は奇妙な感じがした。薬物規制は、圧倒的な影響力をもっているのだ。(発言部分の要約)」
いっぽう英内務省は、免許制度によって、規制薬物の研究は可能であり、政府はこうした研究の重要性を認め、研究が可能になるような制度を随所に設けている、とコメントしています。(記事の一部)
[参照]
BBC>Mind-altering drugs research call from Prof David Nutt(23 January 2012)
http://www.bbc.co.uk/news/health-16678322

ところで、いま問題になっている「合法ハーブ」と称するドラッグは、乾燥植物片に精神作用のある合成成分を添加したものですが、ここで使われている合成カンナビノイドは、もともと、神経や脳にあるカンナビノイド受容体を研究するために、実験室で生み出されたものです。現在も、科学研究のための試験薬として使われています。
それが、脱法ドラッグに乗っ取られてしまったのが現在の状況で、脱法ドラッグ規制のために合成カンナビノイドの研究に不便が生じるようなことになれば、本末転倒という批判も出ることでしょう。
もちろん、指定薬物の制度では、医療や科学的な研究用途での使用は規制から除外されており、活用を妨げない仕組みはできていますが、それでも、指定薬物としての規制が開始されると、試験薬の管理や届出など、多くの煩雑な手間がかかるとも聞きます。

ナット教授がいうように、法規制が開始されると、それは様々な分野に「圧倒的な影響力」を及ぼすことになります。ただし、脱法ドラッグ業界が困ったり、ドラッグの購入者が不便を感じるということは、問題外ですが。
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脱法ドラッグ対策が本格的に動き出した

2012/01/28 01:42
「スタート!」の合図を待っていたかのように、大阪、東京、そして福岡でも脱法ハーブ店への取締りが動き出しました。先週末、厚労省が規制・取締りの強化を打ち出したところですが、さっそく各地で捜索や検挙が行われています。

<最近のニュースから>*****
■脱法ハーブ店を捜索 薬事法違反容疑 試供品に指定薬物 福岡県警
福岡県警は26日、薬事法違反(指定薬物の製造などの禁止)の疑いで、北九州市小倉北区のハーブ販売店の系列2店舗を家宅捜索した。福岡県が同容疑で県警小倉北署に刑事告発していた。・・・同区紺屋町の店舗で、抜き打ち調査でお香を購入した県職員に、厚生労働省が製造や販売を禁止している「指定薬物」を含んだ紙巻きたばこ状の物を、無料の試供品として渡した疑い。・・・(略)・・・
県警によると、福岡県内では昨年1年間、脱法ハーブとみられる薬物を吸引し、顔や手足のしびれや吐き気、意識混濁などを訴えて病院に搬送されたのは17−32歳の計16人に上った。
(2012/01/27付 西日本新聞朝刊)
■脱法ハーブ2店捜索、薬事法違反疑いで福岡県告発(福岡)
福岡県による薬事法違反容疑での告発を受け、県警は26日、北九州市の脱法ハーブ専門店」と系列店を同法違反(指定薬物の授与)の疑いで捜索した。
(2012年1月27日  YOMIURI ONKINE 九州発)
■“脱法ハーブ”販売店を家宅捜索(北九州市)
福岡県薬務課は、北九州市の店が販売した商品から、国が販売を禁止している「指定薬物」が検出されたとして、この販売業者を警察に告発しました。
告発を受けて、警察はきょう午後、この店を薬事法違反容疑で家宅捜索しました。
(2012年1月26日 RKB毎日放送)
■渋谷・道玄坂でハーブ吸った少年3人が救急搬送 近くのハーブ店を家宅捜索(東京) 
ハーブを吸った10代の少年3人が救急搬送されていたことが26日、警視庁渋谷署などへの取材で分かった。少年らは「近くの店からハーブをもらった」などと話しており、同署は同日夜、傷害の疑いで、同区内のハーブ店を家宅捜索した。
(2012年1月26日 MSN産経ニュース)
■「脱法ハーブ」経営者逮捕 禁止薬物混ぜ客に
大阪府警は24日、ハーブ販売店経営者を薬事法違反(業としての授与など)容疑などで逮捕した、と発表した。府警は同店と系列の2店から、大麻などに似た使用感があるが、同法の規制外の「脱法ハーブ」を複数種類押収しており、販売実態の解明を進める。
(2012年1月25日 読売新聞 大阪版)
*****

こうしたニュースのなかにも、「救急搬送」の文字がいくつか見えていることが気になります。各地の県警などで、把握された健康被害事例のとりまとめをしている例もあると聞きますが、ぜひとも全国版での実態調査をしてほしいところです。
幸いなことに、いまのところ、生命に直接かかわるような事故は起きていないようですが、私が見聞きした範囲だけでも、
・意識朦朧 ・急にぐったりする ・全身痙攣 ・叫ぶ ・泣き喚く ・暴れる ・嘔吐 ・呼吸困難 ・大声で叫んで飛びす ・着衣を脱いで裸になった ・倒れこむ ・立ち上がれない・・・などなど
急に錯乱したり、意識が遠のいたりという状況が、思いがけない事故につながる危険もあるでしょう。しかも、ひとたび回復したように見えても、断続的に症状が繰り返すケースもあると聞きます。
ひと昔前にマジック・マッシュルーム乱用が拡大したころ、その強い幻覚作用を受けて、屋上から飛び降りたりして死亡や重症に至った例が続いたことが、思い出されてなりません。悲惨な事故が発生する前に、危険情報をきちんと把握し、発信することが急がれます。

ところで、厚労省が包括指定の導入を検討していると、27日のニュースが伝えています。私は、この種の脱法ドラッグに対する規制策の方向として、化学構造の基本骨格に基づく包括的な規制方法を紹介してきたひとりですが、今日のニュースを読んで、はたして現行法の下でこの方式がとれるものだろうかと考えています。
薬事法2条には、指定薬物の定義として、
「中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用(当該作用の維持又は強化の作用を含む。)を有する蓋然性が高く、かつ、人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある物(大麻取締法 (昭和23年法律第124号)に規定する大麻、覚せい剤取締法 (昭和26年法律第252号)に規定する覚せい剤、麻薬及び向精神薬取締法 (昭和28年法律第14号)に規定する麻薬及び向精神薬並びにあへん法 (昭和29年法律第71号)に規定するあへん及びけしがらを除く。)として、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものをいう。」
という規定があります。「中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用を有する蓋然性が」高いかどうか不明な物質、かつ、「人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれが」あるかどうか不明な物質まで含めて、包括的な指定をすることが、可能かどうか。この点は微妙です。
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覚せい剤と責任能力

2012/01/26 04:46
<ニュースから>*****
●土浦の中3刺傷:「心神喪失と思えない」 検察審、起訴相当の議決  /茨城
土浦市のホームセンター駐車場で昨年1月、中学生を刺して重傷を負わせて殺人未遂容疑で逮捕されたが、覚醒剤使用による心神喪失状態だったとして不起訴処分となった男性受刑者(35)=覚醒剤取締法違反(使用)罪で懲役1年6月が確定し服役中=について、水戸検察審査会は起訴相当と議決した。
議決は20日付。審査会は、覚醒剤使用から事件まで数日間、高速道路を事故を起こさず運転したことなどから「事件のほんの数分間だけ心神喪失状態に陥ったとは到底思われない」と指摘。覚醒剤を使用した時点では通常の判断能力を備えていたとして「病気などと違い、違法な覚醒剤を使用したことによる行為はむしろ重罪にすべきだ」と議決した。
水戸地検の小沢正義・次席検事は「議決を詳細に検討し、適切に対応したい」と話した。
毎日新聞 2012年1月25日茨城版
毎日jp http://mainichi.jp/area/ibaraki/news/20120125ddlk08040143000c.html
*****

●覚せい剤による幻覚・妄想―自ら招いた精神障害という批判
覚せい剤使用によってもたらされる幻覚・妄想状態は、症状からみれば統合失調症によるものと共通点が多いのですが、禁止されている薬物を自分の意思で使用した結果、自ら招いた障害であり、病気によるものと同一視するわけにはいかないという非難は、これまでも繰り返され、刑事裁判にも少なからぬ影響を及ぼしてきました。

刑法39条は刑事責任能力について、「心神喪失者の行為は、処罰しない(1項)」「心神耗弱者の行為は,その刑を減軽する(2項)」と規定しており、裁判で心神喪を認めた場合は無罪を言い渡すことになります。
ところが、昭和50年代の末頃からつい近年まで、わが国の刑事裁判では、覚せい剤の影響下で行われた殺人などの重大な犯行について、心神喪失を認めて無罪とした事例が極端に少なく、心神耗弱による限定責任能力、または完全責任能力を認めて有罪とする傾向が続いてきました。昭和50年代といえば、覚せい剤乱用が急速に全国に拡大し、覚せい剤による幻覚・妄想下で引き起こされた凄惨な事件が相次ぎ、覚せい剤使用に対する社会的な非難が高まった時期です。

司法精神鑑定の権威者のひとり中田修医師は、覚せい剤による精神の障害を特別視する刑事裁判のあり方に対して、批判をこめて語っています。
「ともかく覚せい剤精神病による犯罪については、法律実務家の態度はきわめて厳しい。そのような態度はよく理解できる。覚せい剤の使用そのものが、覚せい剤取締法で禁止されている。しかも、覚せい剤中毒で幻覚症になるような者は通常、覚せい剤の慢性使用者である。つまり、覚せい剤精神病は精神分裂病(筆者註:統合失調症)などと違って、いわゆるみずから招いた精神障害である。また、覚せい剤による犯罪者は暴力団関係者であることが多い。(中田修『精神鑑定と供述心理』22頁、金剛出版、1997)」

なお、いわゆる「原因において自由な行為」の論理を用いて、被告人を有罪とした裁判例も、過去にはいくつかありました。これは覚せい剤やアルコールの影響下で行われた犯行について、犯行の時点では心神喪失であったとしても、完全な責任能力を有した状態で行われた覚せい剤やアルコール摂取によって自ら招いた結果であるときは、刑事責任を問うことができるという考え方によるものです。たとえば覚せい剤が「ヒロポン」と呼ばれていたころのある高裁判決は、覚せい剤注射をすれば精神異常をきたし他人に暴行を加えることがあるかも知れないと予想しながら、覚せい剤注射をし、心神喪失の状態に陥って人を殺害したときは傷害致死の罪責を免れない、としています。(昭和31年4月19日名古屋高等裁判所判決)

[サイト内関連記事]
■心神喪失で殺人未遂は不起訴|覚せい剤と責任能力(この事件の関連記事)
http://33765910.at.webry.info/201106/article_11.html
■覚せい剤と凶悪犯罪|覚せい剤使用者による放火事件
http://33765910.at.webry.info/201105/article_15.html
■覚せい剤使用で心神喪失の判決
http://33765910.at.webry.info/200803/article_15.html
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チャイナ・ホワイト|脱法ドラッグとは何か1

2012/01/24 02:17
●デザイナードラッグの登場
今日、「合法ドラッグ」と呼ばれて流通しているものが最初に登場したのは、1980年ころのアメリカ、カリフォルニア州でした。
「ダメ・ゼッタイ」ホームページに、そのエピソードの断片が紹介されています。
「デザイナー・ドラッグ(疑似麻薬)が最初に発見されたのは1979年カリフォルニアで、二人のヘロイン中毒者が死体で発見されたときのことです。彼等の死体の近くにはヘロインに似た粉末の入ったパケ(パケは「包み」。麻薬など薬物の末端密売用の小さな包みで、アルミフォイルかポリマーでできている場合が多い)が幾つか落ちていました。最終的にこの物体の正体が、DEAによって判定されるまでに、同様の死亡事故が更に13件発生しております。結局、DEAの判定は、外科手術によく用いられる麻酔剤であるフェンタニルのアナログ・ヴァージョン(疑似物として作成した物)でした。」[1]

ここで述べられているのは、当時、ヘロインよりはるかに強力な「合成ヘロイン」として流通していた、「チャイナ・ホワイト」と呼ばれる脱法ドラッグのことです。

1979年12月に相次いで報告された2人の死亡例では、死亡者にはヘロインの使用歴があり、解剖所見はヘロインの過量摂取による中毒死と一致していました。ところが、体液の毒物分析ではヘロインやその代謝物が一切検出されなかったのです。まさに謎の死亡です。その後も謎の死亡が相次ぎ、1980年の末までに15例の死亡が報告されています。また、街の密売人から「ヘロイン」として押収された薬物のなかにも、分析試験の結果ヘロインが検出されない例も相次ぎました。
DEAの調査の結果、問題の薬物はα−メチルフェンタニルであり、強力な麻酔・鎮痛薬として医療用に使われるフェンタニルに類似した化学構造の化合物(アナログ)であると発表され、1981年9月、α−メチルフェンタニルはスケジュールT薬物として規制対象に加えられました。
ところが、この時点では、化学構造の一部をさらに組み替えたパラフルオロフェンタニルが市場に登場していたのです。その後、少しずつ構造の異なるフェンタニルのアナログ物質が次々に登場しますが、なかでも3−メチルフェンタニルは、一連のフェンタニル類似薬物の中でもっとも強力な作用を持つ薬物で、医療用のフェンタニルの6000倍ともいう強力な作用をあらわします。この薬物が市場に登場した時期には、過量摂取による中毒死が相次ぎました。

このころ、「チャイナ・ホワイト」あるいは「合成ヘロイン」として売られていた脱法ドラッグが広まるとともに、多くの密造者が類似作用を持つ化合物を作り、同じように売り出しました。フェンタニルの類似薬物だけでなく、様々な合成オピオイドが同じ名前で流通していたのです。
そのなかで、とくに大きな問題を起こしたのは、MPPP(医療用鎮痛剤として使われるメペリジンの類似化合物)で、これを常用した人たちに、神経細胞の破壊によるパーキンソン病の発症が相次いだのです。後に、パーキンソン病を引き起こしたのは、MPPPを合成する過程で温度とペーハーの管理が不十分だったために、脳に重大な損傷をもたらすMPTPが副産物として含まれ、これがパーキンソン病を発症する原因だとわかりました。

1980年代初めのカリフォルニア州で、ヘロインより強力な「合成ヘロイン」として登場し、急速に広まった脱法ドラッグ「チャイナ・ホワイト」が巻き起こした重大な健康被害は、薬物規制のあり方に新しい論点を提起しました。
既存の薬物の化学構造の一部を組み替え、次々と新規化合物が生み出され、脱法ドラッグとして市場に供給される事態に対処するために、新しい法規制の手法が求められ、やがて連邦アナログ法令が誕生することになります。
なお「チャイナ・ホワイト」とは、もともとアジア産の高品質ヘロインをさす名前で、当時ゴールデン・トライアングルで産出されるヘロインがアメリカへ密輸され、「チャイナ・ホワイト」「ナンバー4ヘロイン」などの名で呼ばれていました。この名が脱法ドラッグに用いられた経緯はわかりません。

[参考文献]
[1]ダメ・ゼッタイ>薬物データベース>デザイナー・ドラッグズ(DESIGNER DRUGS)の詳細
http://www.dapc.or.jp/data/other/6-1.htm
[2]フェンタニルのアナログ薬物について
Henderson, G. L
Designer Drugs: Past History and Future Prospects
Journal of Forensic Sciences  33(2), 569-575 (1988)
[3]MPPPと連邦アナログ法令について
GREGORY KAU,
FLASHBACK TO THE FEDERAL ANALOG ACT OF 1986:MIXING RULES AND STANDARDS IN THE CAULDRON
The University of Pennsylvania Law Review Volume 156, Issue 4
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厚労省の規制・取締り強化策が始動|合法ハーブ問題

2012/01/22 03:37
厚労省が「脱法ハーブ」に対する規制・取締りの強化を打ち出したと、週末のニュースが伝えていました。全国の主要都市に広がっている販売実態が明らかになるとともに、法規制が追いつかない現況がクローズアップされ、取締りの強化を求める声が高まるなかで、ようやく強化策の始動にこぎつけたようです。

<ニュースから>*****
●“脱法ハーブ”規制強化要請
取締りの対象となる薬物に似た成分を含み、吸引すると幻覚などの症状が表れる、いわゆる「脱法ハーブ」を販売する店が後を絶たないことから、厚生労働省は20日、全国の自治体に規制や取締りを強化するよう要請しました。
吸引すると幻覚などの症状が表れる、違法なハーブを巡っては、去年10月に熊本市でハーブ販売店のオーナーが逮捕されるなど、全国で摘発が相次いでいます。一方で、取締りの対象にはなっていないものの、違法な薬物に似た成分を含んだ、いわゆる「脱法ハーブ」を販売する店も後を絶たないことから、規制や取締りが課題になっています。このため、全国の自治体の担当者を集めた20日の会議では、厚生労働省医薬食品局の木倉敬之局長が「若者を中心に乱用が広がり、健康被害が懸念されるので、販売店の厳重な監視を行ってほしい」と述べて、規制や取締りを強化するよう要請しました。厚生労働省によりますと、幻覚などを引き起こす「脱法ハーブ」は、違法な薬物が含まれていなくても、吸引目的などで販売したり譲渡したりすると、取締りの対象になるということです。厚生労働省は今後、「脱法ハーブ」の成分を確認して、違法な薬物への指定を進めるとともに、規制や取締りを強化していく方針です。
NHKニュース(1月20日 14時49分)
*****

●2本の柱で、イタチごっこを終わらせることが目標
脱法ドラッグ・・・麻薬と同じような作用や危険性を持ちながら法規制の対象になっていない物質を見つけ出しては、「合法」とうたって販売するのが、この種の商品です。新たに法規制の網が被せられれば、これに対抗していち早く別な未規制成分を見つけ出し、内容を切り替えて販売が続けられています。果てしなく繰り返されるイタチごっこは、ある意味では宿命とはいえ、いつまでも手をこまねいていては「野放し」の印象を残してしまいかねません。
取り組みは、2本柱で行われることになるでしょう。
まず、指定薬物を含んだ商品が販売されないよう、検査・指導を徹底すること。もうひとつは、指定薬物制度に対抗して販売されている、未規制薬物の販売に対しても、前向きに指導・取締りを行わうことです。この両面を同時に進めることで、脱法ドラッグの状況は大きく変化するはずです。

■指定薬物の取締り
薬事法は、「中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用(当該作用の維持又は強化の作用を含む。)を有する蓋然性が高く、かつ、人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある物」を指定薬物として指定すると定め、現在は68種が指定されています。指定薬物の製造、輸入、販売、授与、販売・授与目的の貯蔵・陳列、広告などは原則として禁止され、これらの行為を営業的に反復継続して行った違反者に対しては、5年以下の懲役(5百万円以下の罰金)が科されます。

指定薬物の取締りに当るのは各都道府県の薬事監視員で、店舗への立入検査や、無承認無許可医薬品等買上げ調査などが行われていますが、多種多様なドラッグが販売される脱法ドラッグの市場では、販売商品中に指定薬物として規制されている成分が配合されていることもあり、積極的な検査、指導が求められます。

折から、1月18日に東京都は、都内で販売されたドラッグ商品3点中から、指定薬物が検出されたと発表しました。うち2点はいわゆる「脱法ハーブ」で、1包中にAM2201を3.2ミリグラム検出、1包中にJWH−203を315ミリグラム検出、というもので、検出された成分はいずれも強力な作用をもつ合成カンナビノイドです。なお1点はアンフェタミン類似構造をもつ4FMPを含む液状のものでした。
[参照]
指定薬物を含有する違法ドラッグの発見について
東京都福祉保健局・報道発表資料(平成23年1月27日)
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2011/01/20l1r700.htm#top

■無承認無許可医薬品としての取締り
さて、次に問題になるのは、指定薬物が検出されない脱法ドラッグに対する規制や取締りです。脱法ドラッグの多くは、法規制を回避するために、ある成分が規制されると素早く別な未規制の成分に切り替えて販売を続けています。
こうした未規制薬物に対しては、無承認無許可医薬品として取り締まる方法があげられます。

薬事法は、「人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、機械器具等でないもの(医薬部外品及び化粧品を除く。)」は医薬品であると定義しています(2条1項3号)。いわゆる脱法ドラッグは、人の身体の機能に麻薬に類似した作用を及ぼすことを目的として使用されるのですから、薬事法がいう医薬品にあたり、その製造、販売、品質、表示、広告等について薬事法の規制を受けなければならないはずです。本来医薬品とみなされるべき物を医薬品としての許可や承認を受けないまま、「お香」「アロマ」などの名目のもとに販売することは、無承認無許可医薬品販売として、薬事法違反に問われる行為とされるのです。

無承認無許可医薬品としての取締りが強く打ち出されたのは、指定薬物制度が制定される前の2005年ころ、脱法ドラッグ市場が急拡大し、マジックマッシュルームやゴメオなどの幻覚系薬物の影響下で死亡事故や殺人事件が相次ぎ、取り締まり強化が求められた時期のことで、薬事法違反での脱法ドラッグ業者の検挙も行われました。
2007(平成19)年、東京高裁は、ラッシュ等6品目の脱法ドラッグを販売して薬事法違反で起訴された販売業者の事件で、「ラッシュ等は、医薬品に当たるか否かの判断において考慮するべき諸要素に照らすと、通常人の理解において、『人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物』ということができ、薬事法2条1項3号の医薬品に当たる」という判断を示しています(東京高判平19・10・11)。

指定薬物の制度が誕生して以降、あまり使われなくなった手法ですが、指定薬物での取締りが及ばない新規物質が氾濫し始めたこの時期に、指導・取締りの決め手として、無承認無許可医薬品としての取締りが再び登場することになりそうです。

[サイト内関連記事]
■取り締まりの可能性|合法ハーブを斬る5
http://33765910.at.webry.info/201110/article_24.html
■指導・取り締まり|合法ハーブを斬る6
http://33765910.at.webry.info/201111/article_1.html
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年末年始は薬物密輸がザクザク

2012/01/20 23:47
この数日、薬物密輸事件の報道発表が続いています。そういえば、今頃はこの年末から年明けにかけて逮捕された被告人が勾留の満期を迎えて、事件が起訴される頃にあたるので、事件発発表も相次ぎます。今年も、年末繁忙期に摘発された薬物密輸事件が、そろそろ出揃ったようです。
貨物も旅行客も一気に増えるこの時期には、例年、薬物密輸もピークを迎えるのですが、今年もまた、多彩です。しかも、航空機利用の旅客による携帯密輸から、国際郵便、コンテナ貨物と、密輸の手口もバラエティに富んでいて、まるで薬物密輸の見本帳のような様相です。
でも、摘発されるのは氷山の一画、厳しい警戒の網の目を潜り抜けた薬物が、いまも市場に出回っていることを思うと、気が滅入ってきますね。

【成田空港】、2012年1月20日発表(2011年12月31日摘発) 
●ベルギー発覚せい剤約2キロ、2重底スーツケースで旅行客が持ち込み
逮捕されたのはドイツ人男性、ブリュッセル空港からフィンランド共和国を経由、成田国際空港へ到着した旅行客が、スーツケースの二重底に覚せい剤約1978グラムを隠して密輸。
(1月20日成田税関支署発表)http://www.customs.go.jp/tokyo/yun/mitsuyu_H24.htm

【羽田空港】2012年1月19日発表(2011年12月29日摘発)
●マレーシアからヘロイン約1キロ、小型スーツケースで旅行客が持ち込み
クアラルンプールから羽田空港に到着したスペイン人男性が、小型スーツケース内にヘロイン約982グラム(末端価格およそ5,900万円)を隠し持っているのが税関検査で発見され、逮捕された。
(1月19日羽田税関支署発表)http://www.customs.go.jp/tokyo/yun/mitsuyu_H24.htm
(1月19日時事通信・時事ドットコム)

【国際郵便】2012年1月19日報道(2011年1月10日摘発)
●中国から覚せい剤約1キロ、石柱の中に隠して密輸、東京
東京都台東区内のアパート宛に中国から国際郵便で発送された石柱の内部に、覚せい剤約1キロ(末端価格8000万円相当)が隠されていた事件で、受取役の中国籍少年(19歳)が逮捕された。少年は容疑を認め、「中国にいるボスに借金を帳消しにするから、日本で仕事をしろと言われた」などと供述しているという。
(1月19日 読売新聞)

【海上コンテナ貨物】2012年1月17日発表(2011年12月27日摘発)
●カナダから輸入した車のタイヤに覚醒剤15キロ、大阪
カナダから海上コンテナ貨物として輸入された乗用車のタイヤに、覚せい剤約15キロ(末端価格約12億円)を隠して密輸したとして、大阪税関などが2人を逮捕した。容疑者の1人は、報酬の800万円を2人で分け合うつもりでやった、と容疑を認めているという。
(1月17日大阪税関発表)http://www.customs.go.jp/osaka/news/2012houdou.html#1
(1月18日MSN産経ニュース)http://sankei.jp.msn.com/region/news/120118/osk12011802010000-n1.htm
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またしても簡易試験のミスで誤認逮捕

2012/01/18 23:12
このブログで、同じような記事を何回書いたことでしょうか。残念なことに、また薬物簡易試験の判定ミスから、誤認逮捕が繰り返されました。小手先ではない抜本的な解決への取り組みは、何時になるのでしょうか。

<ニュースから>
●「色を勘違いした」…覚醒剤所持で誤認逮捕
福岡県警は17日、北九州市小倉北区の会社員男性(23)を覚醒剤取締法違反(所持)容疑で誤認逮捕したと発表した。
県警は男性に謝罪し、逮捕から約9時間半後に釈放した。
発表によると、同日午前2時15分頃、小倉北区日明(ひあがり)3の国道199号の中央線付近に乗用車が停車し、邪魔になっていると、通りかかった人から県警小倉北署日明交番に届け出があった。署員が確認したところ、車内で男性が寝ており、ダッシュボード上の小物入れのバッグに、白い粉末約0・6グラム入りの袋(縦3センチ、横4センチ)とライター、ストローなどが見つかった。現場で簡易鑑定をした結果、陽性反応を示す青紫色に近い色を示した。
男性は「遊び疲れて寝ていた。覚醒剤ではない」と話したが、同日午前3時半頃、現行犯逮捕した。ところが、県警科学捜査研究所の正式鑑定で、覚醒剤成分は検出されなかった。県警薬物銃器対策課の丸山隆次席は「未明に起きた事件で周囲が暗く、色を勘違いした。誤認逮捕は誠に遺憾。基本に忠実な捜査を徹底し再発防止に努めたい」としている。
読売新聞 1月18日(水)5時40分配信

●紛らわしいドラッグが出回るなかで簡易検査での逮捕は危うい
上記の報道では、誤認逮捕が起きてしまった具体的な理由や背景はわからず、以下はあくまでも報道記事を読んで、私が勝手に解釈している内容です。事実関係がまちがっていたらお許しください。

発見されたのは白い粉末、しかもライターやストローも周囲にあったといいます。警察官なら、これをみて「覚せい剤かもしれない」と考えるのは、当然のことかもしれません。でも、ちょっと待ってください。いまの日本では、小さな透明袋に入って販売されている白い粉末は、覚せい剤だけではありません。いわゆる脱法ドラッグのなかには、白い粉末状のものが何種類もあります。また、向精神薬などの錠剤を砕いて粉末状にしたものを乱用する例もあります。
だから、捜査現場で発見された白い粉末が果たして覚せい剤かどうか、おおまかに見分けるために、簡易検査を行うわけですが、実はこれが意外に曲者なのです。

まず、見極めが困難なものがあるという点。日本で流通している覚せい剤のほとんどは高純度のメタンフェタミンで、一般的な簡易試験では、試薬を指定どおりに加えていくと、瞬時に反応して濃い青藍色に変わります。この変化は劇的なもので、反応色も明快で、普通なら見誤る危険はほとんどないように思われます。
ところが、この試験に使われる試薬は、メタンフェタミンに似た化学構造の物質に対しても、反応はやや遅れるものの、類似の反応を示すことがあります。脱法ドラッグや向精神薬のなかには、覚せい剤判定用の試薬に対して、よく似た反応を示すものがあり、微妙な違いを見分けるには、注意深さと経験が必要なのです。
もうひとつの問題は、簡易試験を行う環境です。上記のニュースのようなケースでは、現場に出向いた捜査車両(普通の乗用車)の座席で検査を行うのが普通でしょうが、数種類の試薬を使って化学反応させる検査を行うには、明らかに不向きな環境です。何よりも、薄暗い車内灯の下で、きちんと呈色反応を見極めることなどできるはずがないのです。また、簡易試験で用いる試薬のなかには、取り扱いに注意が必要な劇薬を含むものもあり、手狭な車内で何種類もの試薬を取り扱うことで、捜査員に思わぬ事故が起こりかねない危険もあります。

脱法ドラッグも含め、多様な薬物が出回っているなかで、捜査現場で行う薬物簡易試験にとって、誤認のリスクが次第に高まっているといえるでしょう。

そもそも、薬物の簡易試験は、あくまでも捜査情報のスクリーニングの手段であって、直ちに現行犯逮捕の根拠となるようなものではないはずです。薬物らしい物が見つかれば、その場では任意提出の手続きをするにとどめて、鑑定結果が出た後で、令状を得て通常逮捕すればこうした誤認逮捕は防ぐことができます。
末端の薬物所持事犯者を何が何でも現行犯逮捕しようとすることが、このような無理を招いているのです。末端の薬物所持事犯者を現行犯逮捕する必要など、ないではありませんか。
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