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弁護士小森榮の薬物問題ノート

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弁護士小森榮の薬物問題ノート
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1,000件を超える薬物事件の経験を集約して、弁護人のための実務書をまとめました。鑑定、予試験、尿の押収など、薬物事件に特有の手続は、とくに力を注いでいます。
もう一歩踏み込んだ 薬物事件の弁護術
小 森  榮:著
発行:現代人文社(GENJIN刑事弁護シリーズ15)
税込価格:3,996円

ご注文は、現代人文社ホームページへ
http://218.42.146.84/genjin//search.cgi?mode=detail&bnum=20221


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医療用大麻について―その2

2016/11/30 20:03
2、米国での規制強化と医療用大麻運動

 大麻は、1961年の麻薬に関する単一条約で国際的な麻薬規制の対象として規定され、米国では、その批准に伴う国内法として規制物質法(Controlled Substances Act:CSA)が1970年に導入されました。
 この法では、乱用のおそれのある物質がスケジュールTからXまでの5段階に分類されています。あへんから精製されるモルヒネ、コデインなどのオピオイド系麻薬や、コカイン、アンフェタミンやメタンフェタミン(日本でいう覚せい剤)などはスケジュールUに分類され、医療用途での使用が認められているのに対して、大麻はスケジュールTに分類され、医学的用途での使用を含め一切の使用が規制されています[下記参照@] 。

 [スケジュールTの基準]
 ・乱用の危険性が高い
 ・現時点で合衆国において、一般に認められた治療のための医学的用途がない
 ・医療管理下での使用において一般に認められた安全性の欠如

 [スケジュールUの基準]
 ・乱用の危険性が高い
 ・現時点で合衆国において、一般に認められた治療のための医学的用途、もしくは厳格な制限事項を伴う医学的用途がある
 ・乱用により、深刻な精神もしくは身体依存に至らしめる危険性がある

 新法の整備とともに、薬物犯罪を取り締まる連邦の機関として連邦麻薬取締局(DEA)が創設され、大麻の違法栽培や密輸、密売などに対する取り締まりが強化されました。さらに、ニクソン大統領が「薬物問題はアメリカにとって一番の敵」と宣言し、政府をあげて薬物との戦い(War on Drugs)を開始するなど、この時期のアメリカ社会は、薬物に対する不寛容さを急速強めていきました。

 しかし、当時の米国は、ちょうど青春を迎えたベビーブーマー世代を中心に若者の間に大麻使用が広がり、中流階級の子弟にまで薬物乱用が拡大していた時期に当ります。1975年には、全米の中高校生を対象にしたモニタリング•ザ•フューチャー調査が開始されましたが、1978年調査では、高校3年生の過半数が過去1年以内に大麻を使ったことがあると回答しています[下記参照A] 。
 拡大しつつある薬物乱用に対処しようと、犯罪としての取締まりを強化する連邦当局に対して、取り締まりの行き過ぎに警戒する様々な立場から、反対意見も湧き上がり、活発な論争が行われるようになったのも、この時期からです。当時、若者を中心に最も広まっていた大麻に対する政策が議論の中心になり、非犯罪化や医療用途での使用容認など、様々な主張を掲げる社会的な運動が広まり始めたのです。

 1970年代半ば、医療用大麻に関しては、運動のその後を決定づける重要な出来事がありました。大麻栽培で逮捕された男性が、裁判で、自分の緑内障の治療のために大麻が必要だと訴えたことが認められ、検察官は彼に対する刑事告発を取り下げたのです[下記参照B] 。この裁判を受けて、連邦政府は新薬のコンパッショネート・プログラム(Compassionate Investigational New Drug program)を開始し、認定された特定の患者に対して、政府機関を通じた大麻供給が開始されました。
 このプログラムはごく限定的なもので、対象となった患者は限られていましたが、その後の運動に大きな影響を及ぼし、州単位で、医療目的での医師による大麻の処方や、大麻の臨床研究を容認する州法を制定する動きも活発になり、1978年にはニューメキシコ州で最初の医療大麻州法が成立しました。1982年末時点で、全米で31の州とワシントンDCで医療用途での大麻使用に関する内容を含む州法が制定され、米国における医療用大麻運動の第一波となりました[下記参照C] 。

 しかし、連邦政府はこうした州の動きに対して、対抗策を取り始めました。医師の麻薬処方資格を審査する連邦麻薬取締局は、州法に基づいて大麻を処方する医師に対して、麻薬処方資格を取り消すという措置に出たのです。当時の州法では、処方を受ける患者が刑事処分を受けないように保護する規定は盛り込まれていましたが、処方する医師の資格を守る手段は講じられていませんでした。
 結局、1980年年代半ばころには、医療用途で大麻の処方を容認することを定めた州法のほとんどは廃止され、あるいは実質的に無効化されて、第一波は終わりを告げました。

[参照と出典]
@ US Code - Section 812: Schedules of controlled substances
A 全米の中高生を対象にした薬物アルコールの実態調査、1975年に開始されて以来、毎年調査が行われている。現在は、下記のサイトで2016年調査の速報が発表されている。
  http://www.monitoringthefuture.org/
B US v. Randall, November 24, 1976
C RL Pacula et al., State Medical Marijuana Laws: Understanding the Laws and their Limitations, 2001
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医療用大麻について

2016/11/26 18:20
少し前のことですが、医療用大麻の解禁を訴えていた元女優が大麻所持で逮捕され、ひとしきり医療用大麻が話題になっていたころ、私はちょうど入退院を繰り返していたため、多くの問合せをいただきながら、対応できずにいました。
ようやく私の体調も落ち着き、しばらく遠ざかっていた世間の話題に目を通している今も、ボツボツと「医療用大麻ってなんですか?」といった声が寄せられます。

遅くなりましたが、ここで、医療用大麻についてまとめを掲載しておこうと思います。
ここで取り上げる話題の多くは、すでに、当ブログで語ってきたことですが、折々のテーマの中に埋没してしまったので、あらためてまとめてみます。

医療用大麻とは何か
 医療用大麻の運動は、1970年代の米国で始まり、今日では、28州とワシントンDCでは医療用大麻制度として導入されているものです。
 米国の連邦法では、大麻はスケジュールT薬物に分類されていて、医療用の目的が全く認められていないのですが、医師の監督下で特定の病気の患者や介護者が、病気治療のために大麻を取り扱った場合に、違法として刑事処分を受けないとするのが、医療用大麻制度です。
 最近では、この制度の亜流として、大麻の成分のなかでも、酩酊をもたらすTHCの含有が少なく、神経系の鎮静作用に優れているといわれるCBD(カンナビジオール)を豊富に含む製品に限って、医療用として認めるというものも現れています。

1、医薬品としての大麻
 長年使われてきた薬用の動植物から、薬効成分を抽出し、その化学構造を解明する技術が大きく進化したのは、19世紀半ば以降です。19世紀ころまでの医療では、エキス、チンキといった形で、薬用植物の成分を濃縮した製剤が、様々な症状の治療に用いられてきました。医師たちも、薬用あへんの濃縮液つまりあへんエキスやあへんチンキ、大麻の成分を濃縮したインド大麻エキスやインド大麻チンキ、といった製剤を使っていたのです。
 なお、このころの医学界では、薬用に用いる大麻を「インド大麻」と呼んでいます。当時は、繊維や種子を採取するために、大麻草の栽培が世界中で広く行われていましたが、ヨーロッパや日本など温帯から寒冷地にかけての気候では、屋外で栽培する大麻草が分泌する樹脂成分は少なく、大麻草から抽出される薬効成分はわずかです。いっぽう、熱帯地域で生育する大麻草は、豊富な樹脂成分を分泌し、多量の薬効成分を含むため、医療用に用いるのに適しています。当時の人たちは、熱帯地方で生育する大麻草を「インド大麻」と呼び、自分たちの生活圏で栽培される大麻草とは別種のものと考えていたようです。

 1896(明治29)年、最初の日本薬局方が編纂されたとき、その参考にしたのは、当時のヨーロッパの医学、薬学だったことから、日本薬局方には、薬用植物の粉末、エキスやチンキといった製剤が多数取り上げられていて、その中には「印度大麻越幾斯(インド大麻エキス)」も含まれていました。
 私が確認できた最も古い資料は、1891(明治24)年の改定日本薬局方 ですが、そこに収載された説明は、次のようなものです。原文は漢字とカタカナの表記ですが、カタカナをひらがなに、旧字を現代の文字に改めています。(出典:三上春豊編『改正日本薬局方』明治24.5、国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収蔵)

 [印度大麻草]
 Herba Cannabis Indicae.  Cannabis sativa Linn.
印度大麻草は印度北部に於て其果実稔熟の初期に当り採集せる帯花枝尖にして多くは雌性なり其分葉は狭くハ鍼状をなし粗き鋸歯を有し両端に向て殊に狭隘となり間樹脂様の物質に由て穂本に粘着す臭気は峻烈麻酔性味は微に苛辣なり
本品は緑色なるを可とす又茎並に果実を混有するも僅微に過く可からす
注意して貯ふへし (同書169-170頁)
[印度大麻越幾斯]
Extractum Cannabis indicae.
印度大麻越幾斯は
印度大麻草粗末        一分
を取り
酒精               五分
を注き六日間冷浸し濾漉し又其残滓に
酒精               五分
を注き三日間冷浸し濾漉し漉液を合し濾過し蒸発して●(のぎへんに周)厚越幾斯とな し製すへし
本品は黒緑色にして酒精には澄明に溶解し水には溶解せす
注意して貯ふへし (同書119-120頁)

 さて、かつては医薬品として重要な地位を占めていた薬効植物の濃縮液、エキスやチンキといった製剤ですが、19世紀初頭にあへんからモルヒネが単離されたのを端緒に、製薬技術がめざましい進歩を遂げるとともに、より安定した効果を得ることのできる今日のような医薬品に置き換えられていき、今日では、医療の場であまりみかけなくなっています。現在では、あへんから生まれるモルヒネ、コデイン、テバインといったオピオイド系の医薬品は鎮痛薬や風邪薬まで幅広く使われ、また、コカの葉からとれるコカイン塩酸塩も、局所麻酔薬として使われています。

 いっぽう、大麻の薬理成分に関しては研究が遅れ、最も重要な成分であるデルタ9-THCの単離に成功したのは20世紀半ばになってからです。その後、大麻に含まれる成分(カンナビノイド)が次々と解明され、主要なものだけで60種を超えるカンナビノイドが明らかになっています。
 近年では、カンナビノイドに関する研究が急速に進み、大麻からの抽出成分や、カンナビノイドに類似した合成薬を用いた医薬品の開発も進められていますが、オピオイド類などと比べて研究の歴史がまだ浅いことから、医薬品としての信頼性や完成度をどう評価するかについて、医学・薬学会での論調は必ずしも固まっているとはいえません。現時点では、このギャップが、医療用大麻をめぐる重要な争点になっているのです。
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和歌山県で超大型の大麻栽培施設を摘発

2016/11/18 05:50
長くブログの更新ができない状態が続きましたが、私も、ようやく急性期の治療を終え、自宅療養にはいったところです。まだしばらくは、療養生活が続きますが、少しずつ、鈍った頭の訓練を始めようかと思います。

さて、間延びした私の思考回路に、いきなり、超大型の大麻栽培施設が摘発されたというニュースが飛び込んできました。

<ニュースから>*****
●1万本超の大麻草栽培疑い 奈良、男4人を再逮捕
和歌山県かつらぎ町の建物で1万本を超える大麻草が見つかり、奈良県警は16日、販売目的で栽培したとして、大麻取締法違反(営利目的栽培)の疑いで男4人=同法の営利目的所持容疑で逮捕=を再逮捕した。
警察庁の統計によると、大麻草の年間の押収量はこの数年間、数千本の範囲で推移しており、一度の摘発量では異例の多さとなった。
逮捕容疑は10月26日、かつらぎ町の工場内で、営利目的から大麻草24本を栽培したほか、乾燥大麻約340cを所持した疑い。県警は大量の大麻草が栽培されているとの情報を入手し、同日に工場を捜索。1万本を超える大麻草や乾燥大麻を発見、押収し、出入りしていた4人を現行犯逮捕していた。
2016年11月16日 11:25産経ニュース
*****

日本で、大麻の栽培が社会の関心を集め始めたのは、2008年ころのことでした。外国から輸入される大麻の種子が出回り、若者が安易に大麻栽培に手を染めるようになったのです。警察が積極的な取り締まりを行った結果、2009年中に摘発された大麻栽培事犯は300件を超え、合計1万本を超える大麻草が押収されました。
その後、国内では栽培用の大麻種子の販売が姿を消し、また、一般人の警戒意識が高まったこともあり、栽培事犯の摘発は下火になりましたが、いっぽうでは、営利目的で大量に栽培する拠点の摘発が相次いでいます。

しかし、これまでの大量栽培事案で押収される大麻草は、1拠点当たり、せいぜい200〜300本程度でした。一般の民家で栽培するとしたら、広さの都合で、栽培する量に限りがあるわけです。
1グループが、複数の民家などを使って栽培を繰り返し、合計すると1000〜2000本を栽培・・・というのが、組織的な営利栽培の典型的なスタイルだったと思います。

それに比べて、1拠点で1万1千本の大麻草を押収したというのですから、今回の事案は、けた外れに大規模なものだったといえるでしょう。
ちなみに、警察庁の統計によると、1年間で全国の警察が押収した大麻草は、2015年は3,355本、2014年は5,195本でした。今回の事案では、これまでの2、3年分の合計量を一挙に押収したことになります(下記参照@)。

画像

↑警察による大麻栽培事犯の摘発状況
各年度版の警察庁「薬物・銃器情勢」の発表データに基づき、筆者がグラフ化したもの
・赤線は大麻栽培事犯の検挙件数
・棒グラフは、押収された大麻草の本数

●急がれる大麻密売市場の把握
報道によると、逮捕された4人のなかには暴力団幹部が含まれているそうです。暴力団の組織力を背景に、これほどの大規模栽培が行われていたとすれば、日本の大麻密売市場は、成長期にさしかかっているとみてよいでしょう。供給量が急増しても、それを消化する需要があるからこそ、密売組織に最も近い暴力団が自ら大量栽培に乗り出したのでしょう。

しかし、日本の大麻密売市場の現況について、掌握があまり進んでいないのが現実です。

わずか5、6年前まで、日本に出回る大麻のほとんどは外国から密輸されるものでした。その内容は、大麻草の葉や花を乾燥したもので、原産地によっては、種や小枝が混入していることもありました。
ところが、2009年ころから、税関で押収される密輸大麻が急速に減り始めたのです。ちょうどそのころ、逆に急増していたのが大麻の種子の輸入でした。

おそらくこの時期から、国内で栽培された大麻が、密売市場に流出するようになってきたのだと思います。拡大しているとはいえ、まだ規模の小さい日本の密売大麻市場は、たちまち、国内生産品で埋め尽くされ、密輸品の需要が駆逐されたのではないでしょうか。

現在、密売大麻の市場は、結構複雑になっているようです。
ひと昔前までは覚せい剤だけを扱っていた密売ルートが、都市部から順に、大麻など各種薬物を取り扱うようになってきました。
いっぽう、一部の愛好者の間では、品質へのこだわりが進んでいる様子です。THC含有量の多い花穂部分(バッズ)に限定して取引する例や、ときには銘柄を指定して売買するようなケースも散見されます。こうした品物は、当然、密売価格も割高です。一般の密売品とは、流通の経路も異なることでしょう。

しかし、変化し始めている密売大麻の市場について、まだまだ私たちの理解は及んでいません。捜査陣にとっても、事情は同じことでしょう。

たとえば、今回の事件では、県警の発表によれば、押収された約1万1千本の大麻草のうち、成長した約4千本だけで、末端価格は約20億円と推計されるということです(下記参照A)。
警察は、成長した大麻草1本から乾燥大麻が約100g収穫され、それが末端では1グラム当たり5000円で密売されると計算しているようです。

実は、私自身も数年前まで、大麻草からの収穫量を1本当り約100g(乾燥重量)と計算していたのですが、その後、いくつかの栽培事件を手がける中で、収穫量はもっと少ないのではないかと思うようになり、現在では、約50g程度かと考えています。
また、密売価格も、扱う大麻の品質や、密売ルートによって、1グラム当たり4、5千円から、1万円を超えるものまであり、多様になってきています。

全国の警察には、多くの捜査記録が残されているのですから、そろそろ、こうしたデータを集約する時期ではないでしょうか。これまでの捜査を通じて得た膨大な経験は、まとめの作業を経てこそ、広く活用できるノウハウになっていくはずです。

[参照]
@警察庁「平成27年における薬物・銃器情勢(確定値)」2016年3月
http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/yakubutujyuki/yakujyuu/yakujyuu1/h27_yakujyuu_jousei.pdf
A朝日新聞デジタル「大麻草を栽培した疑い、男4人逮捕 1.1万本押収」2016年11月16日
http://www.asahi.com/articles/ASJCJ3V00JCJPOMB00J.html
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対応できず申し訳ありません

2016/10/27 18:08
数日来、メディア関係の皆様から、相次いで取材申込を頂いていますが、対応できず、申し訳ありません。
私は、現在闘病中で、つい先日治療が一段落して退院したところです。

日を追って体調も戻りつつありますが、
きちんとお話しできる状態になるまで、あと数日かかりそうです。

大麻問題、とくに医療用大麻について、
お話ししたいことはたくさんありますが、
今日はまだ、とても対応できません。

とりあえす、皆様にお詫びとお断りを申し上げます。

2016年10月27日
小森 榮

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誤判の是正は誰の責任か|北海道警の偽造調書事件

2016/10/06 05:06
前記事でも書きましたが、札幌地裁で審理されていた、元警部補による調書偽造、捜査情報漏えいなどの事件で、4日、有罪判決が言い渡されました。

<ニュースから>*****
●捜査情報漏えい:元警部補に有罪判決 札幌地裁
覚醒剤密売仲介者と共謀して供述調書を偽造し捜査情報を漏えいしたとして、地方公務員法(守秘義務)違反などに問われた北海道警薬物銃器対策課の元警部補(38)に対する判決公判が4日、札幌地裁であり、中桐圭一裁判官は懲役2年、執行猶予3年(求刑・懲役2年)を言い渡した。
・・・判決によると、被告は2015年4月、覚醒剤密売仲介者H被告(51)=同罪などで公判中=と共謀し「50代の男が覚醒剤を所持しているのを見た」とする虚偽の供述調書を作成。後日、H被告に捜索予定日などの捜査情報を漏らした。
2016年10月4日 20:22毎日新聞
*****

報道によると、元警部補は、公判の過程で「他にも(調書偽造を)やっている人がいると聞いた」と証言し、また過去にも同様の調書偽造を行ったことがあるとも供述しているそうです。

当然、事件の捜査段階では、余罪について念入りな取り調べが行われたことでしょう。また、北海道警察内部でも調査が行われ、同警部補が関与した過去の事件について、徹底的な掘り起しが進められていると思います。
しかし、こうした事件で問題になるのは、警察内部の不正だけではありません。一連の不正捜査によって検挙され、覚せい剤や銃刀法事件で有罪判決を受けた被告人が、他にもいるかもしれないのです。違法捜査が行われたことを踏まえて、それぞれの判決を見直し、誤判がなかったかについて、厳密な検討が必要なはずです。

もちろん、警察の内部調査も、この点を無視しているわけではないでしょう。しかし内部調査では多くの場合、検挙された被告人は、もともと覚せい剤を入手するつもりで密売人に接触してきたもので、犯罪を行うつもりのない人に働きかけて犯罪を誘発するようなおとり捜査が行われたわけではないから、捜査に違法があったとしても、判決に影響を及ぼすものではないと理解されてきたように思います。私が知る限り、こうした内部調査によって、既に確定した判決に対して、是正の動きがとられた例はありません。

いっぽう、こうした不正捜査問題が取り上げられると、裁判を受けている被告人や、すでに判決が確定した当事者から、自分のケースでも捜査に不正があったのではないかという申し出が相次ぎます。その窓口になるのは、事件を担当している弁護士や地域の弁護士会ですが、正式な捜査記録に残されていない背後事情などを調べる手段はほとんどなく、調査はなかなか核心に及びません。
現状では、誤判を是正する機会として設けられている再審への道のりは、限りなく遠いのです。

それでも、今春、画期的な再審請求が認められました。
前記事でもふれたように、2002年に北海道警察で起きた、元警部による覚せい剤取締法違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反事件が起きましたが、同じ元警部が関わったけん銃所持の別事案で、おとり捜査が行われた疑いが強いとして、有罪が確定したロシア人元被告人の再審請求が認められたのです。
札幌地裁によるこの決定は、裁判所ウェブサイトに掲載されているので、全文を読むことができます。
[参照] 
札幌地方裁判所平成28年3月3日決定/平成25年(た)2号
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/828/085828_hanrei.pdf

しかし、ここまでの道のりが決して平たんでなかったことは、時間の経過からも推察することができます。ロシア人被告人が、けん銃等を所持したとして懲役刑を言い渡されたのは1998年でした。同人は、公判時から一貫して違法なおとり捜査を訴え、無罪を主張していたといいます。
その後2002年に、元警部による不正捜査問題が発覚し、公判での供述などから元警部が違法なおとり捜査に関わったことが明らかになりました。これによって、ロシア人元被告人の主張は、にわかに真実味を増したはずですが、再審請求が認められるまでには、これほど長い時間がかかったのです。

もしも、元警部による不正捜査問題に関する警察での内部調査が行われた時点で、その結果が開示されていたなら、このようなケースはもっと早く結論にたどり着くことができたのではないでしょうか。
私は、内部調査の結果をみやみに公表すべきだと主張しているわけではありません。しかし、不正捜査に巻き込まれた可能性のある当事者やその代理人が、該当する事案の調査結果を知る道は、確保されるべきではないでしょうか。

不正捜査によって、本来無罪であるはずの被告人に有罪判決が言い渡されているかもしれないのです。誤判を是正する責任は、検察官や捜査側にもあるはずです。
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虚偽の供述調書|薬物をめぐる不正捜査事件

2016/09/30 16:50
横浜地裁で審理されている大麻取締法違反事件の論告・求刑で、検察官が具体的な求刑をせず判断を裁判所に委ねたことから、無罪が言い渡される可能性が高まったと伝えられています。
<ニュースから>*****
●検察が求刑放棄、無罪の公算 調書偽造の大麻事件公判
神奈川県警大船署刑事課の40代元巡査部長が大麻取締法違反事件の捜査で虚偽調書を作成した問題に絡み、同法違反罪に問われた男性被告(25)の公判が29日、横浜地裁で開かれ、検察側は求刑を放棄した。無罪となる公算が大きい。
検察側は、国井恒志裁判官から求刑についての意見を求められると「しかるべく」と述べ、地裁に判断を委ねた。弁護側は虚偽の調書に基づいて押収された証拠の排除を請求し、無罪を求めた。
2016年9月29日 16:40産経ニュース
*****

この事件そのものは、被告人の自宅を捜索した際に大麻が発見されたというもので、よくあるタイプの事件ですが、捜索令状を請求する際に添付した目撃者の供述調書が、捜査員によって虚偽の内容が書き加えられたものだったことが浮かび上がり、問題になっていました。
目撃者は、被告人が「路上で大麻を持っているのを見た」と供述していたのですが、調書を作成する段階で、捜査員が「自宅の部屋でも持っているのを見た」と偽って調書に記載した上、捜査情報を目撃者に漏らしたとされています。
ちなみに、虚偽の調書を作成した元巡査部長は、すでに懲戒免職になり、今年8月には証拠隠滅と地方公務員法違反の罪で略式起訴され、罰金刑が言い渡されました。

折から、札幌地裁でも、覚せい剤事件をめぐる供述調書の偽造事件が審理されていて、こちらも先日結審しました。
札幌の事件は、北海道警察本部に勤務していた元警部補が、密売人と共謀して、覚せい剤購入者の男性が「覚せい剤を持っているのを見た」とする調書をねつ造したとされています。
<ニュースから>*****
●北海道警調書偽造 懲役2年求刑の元警部補「他にもいる」
覚醒剤密売仲介者と共謀して供述調書を偽造し捜査情報を漏えいしたとして、地方公務員法(守秘義務)違反などに問われた北海道警薬物銃器対策課の元警部補、H被告(38)の論告求刑公判が27日、札幌地裁(中桐圭一裁判官)であり、検察が懲役2年を求刑し、弁護側が執行猶予を求めて結審した。判決は10月4日。
毎日新聞2016年9月28日 08時49分
*****

薬物やけん銃にまつわる犯罪は、密行性が高く、捜査が難しいことから、繰り返しこうした不正が起きてきました。
今年5月、奈良地裁では、けん銃等を所持した被告人に有罪判決が言い渡されましたが、被告人は、大阪府警に協力中だったと無罪を主張していました。
また2014年には、静岡県で北海道の事件とそっくりな不正が発生し、覚せい剤をめぐる「おとり捜査」と糾弾されました。

こうした事件に、今春封切られた映画「日本で一番悪い奴ら」を重ね合わせた方もあることでしょう。映画のモデルになった事件は、2002年に北海道警察で起きた、現職警察官による覚せい剤取締法違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反事件を題材にしているといいます。被告人は、犯罪組織の内部者を捜査協力者にして、けん銃摘発の実績をあげ、やがて自らも覚せい剤を使用するようになり、けん銃や覚せい剤の密売に手を染めていったという、ドラマのような事件でした。

警察では、毎年秋に、覚せい剤取り締まり強化が行われています。年中行事とはいえ、捜査陣は、検挙目標が設定され、プレッシャーがかかる時期を迎えることでしょう。
無理な捜査を強行するあまり、捜査員が不正な手段に踏み込むことがないよう、このシーズンを乗り切ってほしいものです。
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米で警報!致死量わずか2rの最強麻薬出回る

2016/09/26 22:14
「最強の麻薬」「死のオピオイド」といわれるカルフェンタニルが、いま米国の乱用市場に出回り、オーバードーズによる死亡事故が多発しています。米麻薬取締局(DEA)は、9月22日に全米に向けて警戒情報を出し、注意を呼びかけています(下記参照@)。

カルフェンタニル(4-カルボメトキシフェンタニル)は、強力な作用を持つ合成麻酔薬フェンタニルの構造類似体(アナログ)で、その作用の強さはモルヒネの1万倍、フェンタニルと比べても100倍といわれます。
強い効き目から大型動物の全身麻酔用に使われることもありますが、人への使用は想定されていないので、正確な1回使用量は分かりません。もしも、人に使うとすれば、1回の使用量はマイクログラム(1グラムの100万分の1)単位になるでしょう。
DEAによれば、わずか2ミリグラムが致死量になりうるということです(下記参照A)。

画像

↑カルフェンタニルの致死量はわずか2ミリグラム
DEAの資料から、ペニー硬貨と比べた2ミリグラムの粉末(下記参照A)

こんなものが、いま米国の乱用薬物市場に紛れ込んで流通しています。最近問題になっているのは、「ヘロイン」として密売される白い粉末に、カルフェンタニルが混入されたもので、いつものヘロインだと思い込んで、同じように使ったユーザーが、たちまちオーバードーズに見舞われ、救急搬送されたり、命を落したりする事故が相次いでいるのです。

カルフェンタニルだけではありません。近年、米国には様々なフェンタニル類似薬物が流入し、オーバードーズ事故が急増しているのです。
オピオイド系鎮痛薬の乱用が広まり、乱用者のなかにはさらに効き目の強いヘロインに手を伸ばす人も少なくない米国では、乱用薬物のマーケットでオピオイド系の成分の需要が、かつてないほど高まっています。そこへ、中国の化学会社が生み出す、多様なフェンタニル系の薬物が流れ込んでいるのです。

●相次ぐ中毒事故
ヘロインによるオーバードーズ事故の集中発生が急増し始めたのは、8月末のことでした。
オハイオ州シンシナティ地区では、8月末の6日間に174件のヘロイン過量摂取事故が発生しました。同じころ、ニュージャージー、ケンタッキー、インディアナ州でも、ヘロインのオーバードーズ集中発生が報告されています(下記参照B)。
さらに地元のニュースサイトによれば、9月24日、オハイオ州のクリーブランド地区では、ヘロインの過量摂取による中毒死が相次ぎ、わずか24時間のうちに7人が死亡するという事態に至りました(下記参照C)。

現在、原因物質を特定するための調査が進められていますが、「ヘロイン」として密売された粉末に、カルフェンタニルなどの薬物が混ぜられていたのではないかとみられています。

●捜査官にも被害が発生
ごくわずかな量で致死的なオーバードーズが起こりうるのが、フェンタニル系薬物の特徴です。しかも、呼吸器や粘膜、ときには皮膚を通じて吸収されることもあります。そうなると、事故の現場に臨場した捜査員に、中毒事故が起きることも考えなくてはなりません。

じっさい、捜査現場では中毒事故が発生しているといいます。今年6月、DEAサイトで「フェンタニル―法執行における現実の脅威」という、捜査官向けの啓発ビデオが掲載されました。
ビデオに登場するのは、ニュージャージー州の捜査員2名です。彼らのチームは、捜査現場でフェンタニル系の薬物と思われる粉末を発見したのですが、簡易検査のために袋を開けようとして、誤って少量の粉末が飛び散り、その場にいた2人がたちまち中毒症状に陥ったのです。幸い、迅速な医療措置のおかげで命拾いしましたが、「身体の機能がとまり、死ぬと思った」と語っています(下記参照D)。

●無知が生んだ悲劇
ユーザーが次々にオーバードーズ事故を起こすような品物は、売り手の側からみても失敗作です。これでは、愛好者が広がらず、大きな利益が生まれないからです。
ところが、誰も望んでいないはずの致死性ドラッグが、次から次へと、乱用市場に現れているのです。

技術の進歩によって、新種の薬物が際限なく生み出され、しかもインターネットを通じて簡単に入手できるのが、今の時代です。お手軽に原料を個人輸入して、素人が適当に調合したものが、乱用薬物として流通するなかで、このようにケタ違いに危険性の高い品物が出回ってしまうことも、ありがちです。無知が生み出した悲劇と言えるでしょう。

つい先年、危険ドラッグ流行の末期には、日本でも、こんなケースが多数出現したものです。幸い、日本は危険ドラッグの危機をとりあえず乗り切りましたが、米国では、未だに危機が進行しています。
こうした新たな危険要素が、日本に飛び火してこないよう、祈るばかりです。

[参照]
@DEAの報道発表
DEA Issues Carfentanil Warning to Police and Public(September 22, 2016)
https://www.dea.gov/divisions/hq/2016/hq092216.shtml
Aカルフェンタニルについての資料・米DEA
Carfentanil: A Dangerous New Factor in the U.S. Opioid Crisis https://www.dea.gov/divisions/hq/2016/hq092216_attach.pdf
Bオハイオ州での中毒事故集中発生の報道
The Washington Post>'This is unprecedented': 174 heroin overdoses in 6 days in Cincinnati(August 29)
https://www.washingtonpost.com/news/morning-mix/wp/2016/08/29/this-is-unprecedented-174-heroin-overdoses-in-6-days-in-cincinnati/
C地元ニュースサイトの記事
WCPO>Cleveland area has 7 drug overdose deaths in 1 day(Sep 25, 2016)
http://www.wcpo.com/news/state/state-ohio/cleveland-area-has-7-drug-overdose-deaths-in-1-day
D捜査官向けの啓発ビデオ
Fentanyl―A Real Threat to Law Enforcement
https://www.dea.gov/video_clips/Fentanyl%20Roll%20Call%20Video.mp4
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 3 / トラックバック 0 / コメント 2


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