アクセスカウンタ

弁護士小森榮の薬物問題ノート

プロフィール

ブログ名
弁護士小森榮の薬物問題ノート
ブログ紹介
地方裁判所で取り扱う刑事事件の約15%を占めているのが、覚せい剤事件です。実際の事件の多くは、若者が安易な考えで薬物を乱用したというもので、本来は犯罪と無縁なはずの彼らが、犯罪者として処罰されてしまうことが、私には残念でなりません。
私が弁護士として、薬物事件に取り組むなかで直面する、薬物乱用にまつわる諸問題の断片をつづってみます。
help リーダーに追加 RSS

錠剤ドラッグからも合成カンナビノイド

2009/11/08 15:31
ミシガン州で押収された、バタフライ模様の錠剤から、合成カンナビノイドJWH-073が検出されたと伝えられています。
この情報が掲載されたのは、アメリカ合衆国麻薬取締局(DEA;The Drug Enforcement Administration)の化学分析機関が発行するマイクログラム・ブリティン(Microgram Bulletin)の2009年9月号。
記事によれば、ミシガン州でエクスタシー風の錠剤が3種押収され、中央分析研究所ヴァージニア分室がその内容物を分析したところ、合成カンナイノイドJWH-073が確認されたということです。
押収された錠剤は、両面にバタフライのロゴマークが刻印された丸いもので、コーティングが赤色のもの、ライムグリーンのもの、紫色のものがあるといいます。
画像

●MDMA MIMIC TABLETS SEIZED IN MICHIGAN
MICROGRAM BULLETIN, VOLUME 42, NUMBER 9, SEPTEMBER 2009
http://www.justice.gov/dea/programs/forensicsci/microgram/mg0909/mg0909.pdf

JWH-073はいわゆるスパイス・カンナビノイドのひとつで、2008年にスパイス製品中に含有が確認されたJWH-018(わが国でも最近指定薬物に指定された)に類似した化学構造を持っています。EMCDDAがまとめた資料EMCDDA Action on new drugs briefing paper: Understanding the ‘Spice’ phenomenonによれば、JWH-073は2009年にドイツでスパイス類似の製品中に含有が確認され、デンマークやオランダでも押収されているそうです。
これまで、主に喫煙用ミックス中に含有される合成カンナビノイドが問題になってきましたが、今度は、エクスタシー風の錠剤からも合成カンナビノイドが検出されたわけで、大麻まがいの作用をもたらす錠剤ドラッグまで登場したことになります。
もっとも、医療用に開発されたマリノール錠は、もともと錠剤ですから、べつに目新しいものではないのかもしれませんが。


記事へブログ気持玉 / トラックバック / コメント


キャンディやフルーツ風味のタバコ販売禁止1|アメリカの話題から

2009/11/07 17:28
アメリカ合衆国の食品医薬品局(FDA; Food and Drug Administration)が、インターネット上で販売する業者に対して、「キャンディ、フルーツ、クローブ風味のタバコ」の販売を停止するよう警告を発したというニュースが使えられました。記事によれば、こうしたタバコは、とくに若者にアピールしており、新たな喫煙人口を生み出すとされ、今年9月に販売を禁止されているとか。
●CBSNEWS > FDA Warns Web Companies Not To Sell Flavored Cigs
http://www.cbsnews.com/stories/2009/11/06/ap/business/main5550982.shtml?tag=contentMain;contentBody

へぇ、キャンディ風味のタバコねえ・・・。と興味をもった私は、FDAのサイトから関連記事を拾い出してみました。アメリカでは最近、バニラ、オレンジ、チョコレート、チェリー、コーヒーなどのフレーバーをつけたタバコが販売され、とくにティーンエイジャー向けの商品として広まっていたとのことです。フルーツの絵が入ったピンクやクリーム色のかわいいパッケージ、一見するとキャンディかフレーバー紅茶のようなイメージです。50グラム入りで3ドル50セントくらい。

まず、2009年9月22日に発表された販売禁止措置は、概略次のように伝えています。
「米食品医薬品局は、本日、フルーツ、キャンディ、クローブの風味をつけたタバコの禁止令を発表した。これは、新しく制定された『家庭の喫煙予防及びタバコ抑止条例』による措置であり、合衆国内の喫煙を減らすFDAの取り組みの一環である。
喫煙はアメリカ人の主要な死亡原因のひとつである。フルーツやキャンディ風味のタバコを禁止するのは、子どもが喫煙を開始し、危険なタバコ依存になることを予防するためである。
成人喫煙者の約90%はティーンエイジャーの時期に喫煙を始めている。こうした風味つきタバコは、子どもやヤングアダルトを習慣的喫煙者にするゲートウェイとなっている。研究によれば、17歳の喫煙者は、25歳の喫煙者と比べて、風味つきタバコを使う割合が3倍であった。
FDAは、風味つきタバコの危険性に関するアドバイスを公開した。子どもの喫煙を案じる親やタバコ使用者は、ウェブサイトで情報を得ることができる。
FDA > Candy and Fruit Flavored Cigarettes Now Illegal in United States; Step is First Under New Tobacco Law (Sept. 22, 2009)
http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm183211.htm

さて、次はアドバイスに目を通しましょう。FDAが掲載するアドバイスは、次のように3部構成になっています。
●風味つきタバコ製品に関する親のためのアドバイス
http://www.fda.gov/TobaccoProducts/GuidanceComplianceRegulatoryInformation/FlavoredTobacco/ucm183196.htm
●風味つきタバコ製品のファクト・シート
http://www.fda.gov/TobaccoProducts/GuidanceComplianceRegulatoryInformation/FlavoredTobacco/ucm183198.htm
●特定風味つきタバコの禁止に関するQ&A
http://www.fda.gov/TobaccoProducts/GuidanceComplianceRegulatoryInformation/FlavoredTobacco/ucm183228.htm

上記のファクト・シートに、ちょっと気になる情報があるので、次回も引き続きこの話題を続けます。
記事へブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 3


大麻合法化の影響は?|ニューヨーク・タイムズの特集から2

2009/11/05 20:49
前回に続いて、ニューヨーク・タイムズの7月19日付の「もし大麻が合法化されたら、依存が増えるか?」と題した紙上討論から。5名の専門家パネラーの見解を紹介します。ここでは、パネラーの発言の一部を取り出して、その概要をお伝えしますが、できれば、原文をお読みください。
出典:The New York Times> If Marijuana Is Legal, Will Addiction Rise?
http://roomfordebate.blogs.nytimes.com/2009/07/19/if-marijuana-is-legal-will-addiction-rise/

●祖父の時代の大麻ではない
大麻の合法化に反対する主張として代表的なものが、「祖父の時代の大麻と同じではない」というもので、近年、大麻の効力が強くなり、危険性が高まっているので、禁止策を緩めることはできないという。
現在販売されている大麻は、1970年代のものよりはるかに多量のTHCを含んでいる。もしも、変化したのがTHCだけなら、ユーザーは使用量を加減すればすむ。しかし、現在の大麻は、昔のものと比べ、THCのCBD(カンナビジオール)に対する割合が変化しており、THC含有が高く、CBD含有が低くなっていて、そのためにパニック発作の率が高くなっていると思われる。THCは不安発作を促進させる傾向があり、CBDにはこれを押さえる傾向があるといわれる。大麻が合法化されるとしたら、THCと同時にCBD含有率にも制限を課すことも考えられる。大麻の効力が高まっていることは問題ではなくなる。
完全な合法化によって、ヘビーユーザーは増加するだろう。合法化された大麻産業は、アルコール産業と同様に、その収益の半分以上を物質乱用障害をもつ人によって得ることになるだろう。その対策として、使用者自身が自分で栽培するという選択肢もありうる。自己使用する個人または小規模な非営利協同組合による栽培を許可し、営利的な販売を禁止するのである。
マーク・AR・クレイマンMark A.R. Kleiman
U.C.L.A.の公共政策の教授。「薬物政策分析ジャーナルthe Journal of Drug Policy Analysis」の編集者。

●オランダの教訓
米国では、成長過程で大麻を経験することは特別なことではない。1960年以降の出生者の半分以上は、21歳までにこの薬物を経験している。米国では、単純所持での逮捕者は1991年の3倍に当たる75万人に達した。
もし大麻が合法化されたらどうなるか。コーヒーショップでの大麻販売という、オランダの事実上の合法化が、もっとも近い事例である。この国での大麻使用は、ヨーロッパの諸国より低く、過去1年で大麻を使用したのは、15-64歳のオランダ住民の6%であり、米国では11%である。
オランダが現実的な選択をしたのに比べ、米国での合法化には、より商業的な側面が含まれる可能性がある。大麻生産者の活動が拡大するのを防ぐには、自己使用目的および無償のギフト目的での栽培に対する禁止を廃止すべきだろう。闇市場が形成されるのは間違いないが、完全な商業化をせずに大麻にアクセスすることが可能になる。
合法化によって、大麻使用者は増加するだろうが、75万人という逮捕者がなくなることと比較考量されるべきであろう。
ピーター・ロイター Peter Reuter メリーランド大学の公共政策スクールおよび犯罪学部の教授

●タバコの先例
1億人を超えるアメリカ人が法律に違反して、少なくとも1回以上大麻を使用しているのだから、これは、悪しき公共政策だといえる。
大麻が合法化されれば、現在は取り締まりによって使用を見合わせている人の一部は、大麻を使用することになるだろう。しかし、現状ではかなり厳格な罰則があるにもかかわらず、米国はすでに人口1人当たりの大麻消費量では世界をリードしていることを考えると、大規模な増加がいつまでも続くとは思えない。さらに、一部規制を伴う合法化(regulated legalization)と課税政策によって、政府は、予防プログラムと同時に、すでに大麻を乱用している人たちへのトリートメントやカウンセリングを提供することができる。公教育によって、1名も逮捕することなく、タバコの消費を半減したように、大麻使用を減らすこともできるかもしれない。
反対論でもっとも大きなものは、合法化は子どもたちに誤ったメッセージを送ることになる、というものだろう。部分的な規制を伴う合法化は、未成年者に対する大麻の供給を厳格に禁止することなしには、成立しえない。
ノーム・スタンパー Norm Stamper シアトルの前警察本部長
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0


大麻合法化の影響は?|ニューヨーク・タイムズの特集から

2009/11/04 22:54
カリフォルニア州で大麻の合法化が具体的な検討に入っていることから、アメリカのメディアは頻繁に大麻問題の特集を組んでいます。そのひとつ、ニューヨーク・タイムズの7月19日付のデイベートを紹介します。「もし大麻が合法化されたら、依存が増えるか?」と題した紙上討論ですが、その冒頭に、パネラーとして5名の専門家が見解を述べており、大麻合法化のいろいろな側面が現れています。
大麻の合法化というと、特定の主張を掲げて運動しているグループだけの議論と受け取られがちですが、けっして一部の人だけのものではなく、多くの学識者や実務家を巻き込んで語られてきた、大きなテーマです。実はアメリカでも過去数十年にわたって、大麻の合法化討論は続けられてきており、その蓄積の上で、いまこうした議論がされているわけです。いまアメリカでは、「大麻合法化」というテーマで何が語られているのか、5人の専門家の意見は、決して単純なものではありません。
なお、ここでは、パネラーの発言の一部を取り出して、その概要をお伝えします。細かいニュアンスまで紹介できないので、できれば、原文をお読みください。
出典:The New York Times> If Marijuana Is Legal, Will Addiction Rise?
http://roomfordebate.blogs.nytimes.com/2009/07/19/if-marijuana-is-legal-will-addiction-rise/

●より正直であらねばならない
米国では、大麻の自由化に対して積極的な傾向が強まっているが、その方法には2つある。
第一は「合法化」で、適法な栽培と販売をふくむもの。第二は「非犯罪化」で、少量の所持に対する刑罰を廃止しながら、栽培や販売に対する刑罰を維持するものである。
大麻が「非犯罪化」されたら、より多くの人が大麻を使うようになるだろうか。おそらく、そうはならない。合衆国での研究の多くが、非犯罪化は成人および少年の大麻使用率を上昇させることはないという結果を示している。では、大麻が「合法化」された場合はどうか。誰も断言はできない。
オランダの「コーヒーショップ」の例は、われわれにヒントを与えてくれる。オランダの事実上の合法化は、それ自体では、成人でも少年でも大麻の使用率の上昇を招かなかった。しかし、コーヒーショップの数が増加したときには、若年者の大麻使用率が上昇した。当時は、コーヒーショップに立ち入ることのできる年齢は16歳であった。その後、コーヒーショップの数が削減され、立ち入ることにできる年齢が18歳になり、使用率は低下した。合法化の検討は、大麻使用によってもっとも傷つきやすい子どもや少年をいかにして保護するかという、綿密な計画を含んでいなければならない。
私は、大麻所持に対して刑罰に代替する手段を講じることを支持しているが、しかし、こうした討論をするには、我々はもっと正直になるべきだ。大麻の合法化を支持する者たちは、大麻は無害だというのをやめるべきだ。無害ではないのだから。大麻所持を犯罪としておくべきだと信じる者たちは、成人の機会的使用者の大半が大麻の害を受けていないことを認識しなければならず、また所持を犯罪として取り締まることが、その害を避ける最良の手段だということをデータをもって示す必要がある。
ロジャー・ロフマンRoger Roffman(ワシントン大学ソーシャルワークの教授)

●依存の問題を比較考量する
「大麻合法化」とは何かによって、その影響も異なってくる。
拘禁刑を罰金刑に置き換えることを想定するなら、「合法化」は依存者の増加につながることはないであろう。もし大麻の使用、栽培、販売を合法化するという意味であれば、近代国家でこのようなことを試みた例がないので、その影響を予見するのは困難である。
大麻の使用と販売を合法化すれば、より多くの人がこれを使用し、おそらく大麻依存も増加することになると考えるのが常識だろう。しかしながら、どの程度増加するかについては、合法化された市場において使用を削減するような変動要素が不確定であるため、推定するのは困難である。たとえば、課税によって価格を調整して使用機会を削減すること、含有するTHCの規制、未成年者への販売制限、パッケージに健康への警告を記載することなど。
これらの可能性を考慮すれば、合法化された市場が大麻依存の増加にどの程度寄与するかを推定することは、困難となる。大麻依存の問題は、大麻を何らかの方法で合法化することを検討する際には、考慮しなければならないが、また同時に、現行制度の抱える負の担要因―より強力な大麻の創出や、法制度の軽視につながる大麻規制の広範な無視などと比較考量することも必要である。
ウェイン・ホールWayne Hall (クィーンズランド大学(オーストラリア)公衆保健スクールの公衆保健の教授)

次回へ続く
記事へナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 1


政府VS諮問委員会|英国の大麻規制2009年の変更10

2009/11/03 19:07
前記事でお伝えしたように、大麻の規制分類に関する発言をめぐって引き起こされた、英国(UK)の薬物乱用諮問協議会(ACMD)と内務省との対立は、ますます混迷の度合いを深め、メディアの報道も激化しています。
11月2日には、この問題について、内務大臣が議会下院で答弁を行い、その内容がBBCニュースに掲載されています。BBCの最新記事に基づいて、もう少し、この話題を読んでおきます。

下院での答弁で、ジョンソン内務大臣は、ナット教授を解任した理由は、「委員会の業務に関することではなく、彼の役割は助言であって、批評ではないという点を・・・彼は認めなかったという過ちがあったことによる。」と説明しました。さらに大臣は「薬物政策に関する私の主要なアドバイザーとして、ナット教授の能力への信頼を失った。」「ナット教授の言動は、政府を支持するというより、むしろ政府を害するものである。」と付け加えています。

ナット教授の解任に抗議してACMD委員を辞任したキング博士は、BBCのインタヴューで、彼の辞任理由を語っています。大臣は、薬物の規制分類に関して、政府がすでに決定済みの課題について諮問協議会に諮問し、協議会を「ゴム印を押す機関」として利用したと批判し、このままでは協議を続けることはできないとしています。

薬物乱用諮問協議会(ACMD)は、ナット教授の解任と、これに抗議して2人の委員が辞任し、現在は28人の委員が残っています。ACMDは、内務大臣に書簡を送り、「委員のほとんどはナット教授の解任と、他の委員の今後について深刻な懸念を持っている。」と伝えました。また「このような状況下で、内務大臣が協議会の答申をどのように受け止めており、また将来においてどのように受け止めるのかを明らかにし、保証するよう、委員は望んでいる。」という内容も添えられているということです。
以上は、次の記事を参照した内容です。
BBC NEWS>Drug experts' warning to Johnson
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/8337185.stm

重要な政策決定に当たって、専門家による審議会に対して政府が諮問を行い、その答申に基づいて政府案をまとめるという流れは、日本でも行われています。薬物規制の分野でも、従来からこの方式が行われており、最近では今年8月に開催された、薬事・食品衛生審議会の指定薬物部会の議事録が公開されたところです。
政府の審議会委員としての活動と、専門家としての活動が、必ずしも同じ路線をとるとは限りません。いま英国で起きている問題に、他人事ではないという思いで注目して折られる方もあるでしょう。
とはいえ、わが国では、諮問委員会の審議がごく形式的なものに終わってしまう例も多く、また、その答申が政策に反映されないことも珍しくないため、深刻な対立もあまり起きないという、馴れ合いの土壌がしっかり形成されてしまっているのかもしれませんが・・・。
記事へブログ気持玉 / トラックバック / コメント


専門家委員の立場|英国の大麻規制2009年の変更9

2009/11/03 00:56
英国で大麻の法規制レベルを引き上げる変更が行われたのは、今年の1月。変更から11か月経った今になって、この変更の是非をめぐる議論に火がついています。日を追って騒ぎは大きくなり、いまや政治問題にまで発展しているので、その経緯を簡単に報告しておきましょう。

英国(UK)では、薬物政策に関して重要な決定をする際には、内務大臣は薬物乱用諮問協議会(ACMD)に諮問し、その答申を受けて政策決定を行います。2009年の大麻の規制分類変更に当たっても、ACMDは内務大臣の諮問を受けて大麻の健康影響に関する評価を行い、21項目にわたる勧告を行いました。政府は勧告のうち、1項目を除き、他の20項目を受け入れました。政府が受け入れなかった1項目とは、大麻の規制分類に関するもので、ACMDは現状のままクラスCに据え置くよう勧告していたのです。

さて、騒動の発端は、ACMDの委員のひとり、精神薬理学部門責任者のナット教授が、講演のなかで「アルコールやタバコの害はLSD、エクスタシー、大麻などより大きい」と語り、政府は科学的な根拠をゆがめて解釈しており、大麻に対する規制分類の変更は政治判断によってなされたと批判したことでした。
その直後の10月31日、内務大臣がナット教授をACMDの議長から解任したと各紙がいっせいに報道しました。ガーディアン紙は「教授は政府の真実を指摘しただけだ。」「ジョンソン内務相は、彼の政治的見解と合致する場合は独立した助言を歓迎するが、受け入れがたい真実を伝える声に耳を傾ける強さを持ち合わせていないようだ。」と伝えています。
guardian.co.uk >Drugs policy: Shooting up the messenger (31 October 2009)
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2009/oct/31/david-nutt-sacking-alan-johnson

ACMD 内部から、ナット教授の解任に抗議する声が上がり始め、11月1日には、2人の委員が、ナット教授解任に抗議して委員を辞任するというニュースが流れました。さらに翌2日になると、保守党のキャメロン氏や、民主党の内務委員など有力政治家がこの問題に関してメッセージを発し始め、いまや単に薬物問題にとどまらない政治問題になりつつあります。

もともと、今回の規制分類変更に関しては、内務省とACMDのスタンスが完全に一致していたわけではありません。2005年にも規制分類の変更が検討されたのですが、その際にはACMDの答申によって変更が見送られた経緯もあり、今回も、もっとも核心となる分類について、政府はACMDの答申と異なる決定をしてきました。この経緯については、当ブログ「英国の大麻規制2009年の変更 1〜8」として取り上げていますので、参照してください。
●英国の大麻分類変更|英国の大麻規制2009年の変更 1
http://33765910.at.webry.info/200904/article_13.html
●政府の強い意思|英国の大麻規制2009年の変更3
http://33765910.at.webry.info/200904/article_16.html

今のところ、英国メディアの反応は、強権を発動した内務大臣に対して批判的な視線を浴びせているようですが、ナット教授の発言は、政府の諮問機関の委員として超えてはならない一線を越えた言動であるとするみかたもあります。

さて、この問題は、政策決定と諮問委員会のあり方の根幹に関わる問題を含んでいます。また、刑事裁判における専門家による鑑定意見と判決にも、同じような構図をみることができます。
重要な決定に当たり、意見を求められた専門家は、その後の発言にどんな責任を持つべきか。また、専門家の意見を求めた政治家や裁判官は、その意見に従う必要があるのか。考えるべきことはたくさんあります。
この問題に関する最新のBBCニュース(ビデオ)
●Johnson faces drugs row questioning
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/8338356.stm
記事へブログ気持玉 / トラックバック / コメント


埼玉でも大麻工場を摘発、大麻草336本など押収

2009/11/01 22:04
●大麻工場摘発、8人逮捕 販売目的か
県警組織犯罪対策本部と草加署は10月31日、大麻取締法違反(共同所持)の現行犯で、東京都台東区の男(29)ら韓国人2人を含む5人を逮捕した。対策本部の調べでは、5人は共謀して10月31日ごろ、草加市内の住宅で、営利目的で乾燥大麻2袋と大麻の花穂若干量を所持した。
対策本部によると、付近住民から「住宅を借りた人以外の若い人が数人出入りしている」と草加署に通報があり、調べていた。同本部はこの住宅から、大麻草336本や栽培に用いる水銀灯多数を押収している。
また、対策本部は10月31日、大麻取締法違反(所持)の現行犯で、韓国人1人を含む男3人を、川口市や東京都内など3カ所で逮捕した。3カ所からは大麻草57本や乾燥大麻、吸引器具などを押収した。
8人は調べに対し、「自分たちで使うために所持していた。密売目的ではない」と供述しているが、対策本部は8人が相互に住宅などを行き来していたことを確認しており、8人がグループを形成し、販売目的で大麻を栽培していたとみて追及している。
産経ニュース(2009.11.1 18:12)
http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/saitama/091101/stm0911011813010-n1.htm

私は、夜のテレビニュースでこの報道をみたところです。捜索に当たる捜査員が、大きな大麻草の株を抱えて、住宅の玄関から次々と運び出している様子が報じられていました。画面に映し出された住宅は、窓ガラスがダンボールのようなもので一面にふさがれています。こうしてふさがれた窓が、「大麻工場」の何よりの特徴なのです。

大麻草を屋外で栽培すると人目につきやすいため、室内で栽培する方法が広まっています。近年では、観葉植物や草木を室内で育てる人向けの、照明器具や水耕栽培の道具なども豊富にあり、これを使って大麻草を育てるのです。大麻を室内栽培する部屋は、日光を遮り、人工照明を使います。照明を当てる時間を調整することで、開花期を人工的に調整して、THC濃度の高い大麻を栽培することができるからです窓を閉ざし、照度の高い照明器具を多数用い、反射素材で壁を覆い、人工的な環境で大麻を育てるわけです。温度や照度をコントロールするために、かなりの電力を使います。

大規模に大麻を室内栽培する建物には、外から見分けることのできる特徴がいくつかあります。大麻工場の特徴は、まず、日中も雨戸などを閉め切ってすべての窓をふさいでいること。しかも、暗い室内でも常に大量の電力が消費されていること。換気扇は回りっぱなしで、大麻特有のにおいが換気口から外へ漏れていることもあるといいます。

住宅など建物の内部で大麻を大規模に栽培するものを「大麻工場」と呼ぶようになったのは、おそらく、英国から始まったことだろうと思います。英国では、昨年ころから、郊外の住宅や工場跡などでの大規模な大麻室内栽培の摘発が続いており、メディアはこうしたケースを「大麻工場cannabis factory」と呼んできました。1軒の建物で千本を越える大麻草が押収された例もあります。
英国のBBCニュースは、頻繁に大麻工場摘発の話題を取り上げていますが、その背景にあるのは、こうした摘発例が激増していること。専門家は英国(UK)で消費される大麻の90%はこうした「大麻工場」で育てられたものだろうとみており、その摘発は優先課題だといいます。
●Big rise in cannabis 'factories' (BBC NEWS)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/7934137.stm
記事へブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 0


薬物乱用事件に現行犯逮捕は必要か|大麻所持で誤認逮捕

2009/11/01 03:45
●大麻検査でミス、誤認逮捕=パキスタン人男性を釈放−神奈川県警
神奈川県警薬物銃器対策課は30日、大麻取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕したパキスタン人の男性について「誤認逮捕と判明して釈放した」と発表した。
同課の説明によると、10月29日午後10時ごろ、旭署員がパキスタン人男性の乗用車を発見。挙動不審だったため車内を調べたところ、ダッシュボードの灰皿を引き抜いたところに葉巻のようなものがあり、所持していた別の葉巻を折るなどしたため、大麻かどうか調べる簡易検査を実施した。
実際はインド製の葉巻だったが、署員は検査結果を間違えて大麻と判断。現行犯逮捕し、手錠を掛けたあと判断ミスに気付いて、30日未明に釈放した。ともに現場に行った上司の警部補らも検査結果について確認していなかった。検査を実施した署員は検査の経験がなかったという。男性は一貫して容疑を否認していた。(記事抜粋)
10月30日21時36分配信 時事通信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091030-00000336-jij-soci

薬物事件が減少しているなかで、またしても誤認逮捕が繰り返されてしまいました。簡易検査の方法や判定手順というごく基本的なところでの誤りによるもので、本来、こうしたミスはあってはならないものです。ところが、この数年の間にも、同じようなミスが繰り返して起きているのです。これは、単に不注意として済ませる問題ではなく、そもそも、こうした簡易検査による現行犯逮捕という捜査手法に無理があるといえるのではないでしょうか。

[過去の類似ケース]
私が把握している限りでも、2007年に大阪で、まったく同じような過ちが起きた例があります。「合法薬物だ」という茶色の植物片のようなものを簡易検査したところ、大麻の反応があったと誤認して、所持者の女性を誤認逮捕してしまったというものです。当時のニュースから。
●大麻と誤認、女性を現行犯逮捕
2007年7月4日 大阪府警
大阪府警茨木署は4日、大麻取締法違反容疑で無職女性(20)を誤認逮捕し、約8時間後に釈放したと発表した。
袋に入った大麻のようなものを簡易鑑定したところ、大麻のような反応があったため、同署は4日午前2時半ごろ、女性を逮捕。女性は「合法薬物だ」と話していた。その後、府警科学捜査研究所で鑑定したところ、大麻ではないことが判明し、同日午前10時半ごろ、女性を釈放したという。(07/07/4 共同通信配信NEWS より)

[誤判定が起きる理由]
捜査現場で、薬物ではないかと思われる物が発見されると、たいていは、その場で簡易検査が行われます。簡易検査の結果、それが覚せい剤や大麻であるとわかれば、その品物を押収したり、所持者を逮捕することになるわけです。
こうした簡易検査は、特定の物質に対して特異な色を示す試薬を用いて行われ、全国の警察には、主な薬物に対応する簡易検査用の試薬セットが備え付けられています。覚せい剤メタンフェタミンの場合、3ステップで簡易検査が行われますが、第3液を加えると瞬時に鮮やかな青藍色を呈し、実にはっきりと覚せい剤であることがわかります。
ところが、大麻の簡易検査は、その呈色反応がとても微妙なうえ、不慣れな人にとって誤判定が起きやすい事情があるのです。これも同じように3ステップの試験で、最後の第3液を加えて振り混ぜた後、しばらく静止させておくと2層に分離し、上層がうすい紫色、下層が青紫色に変化します。下層の青紫色の沈殿層で判定するのですが、この変化は微妙なものです。私は以前、各種薬物の簡易検査をみせてもらう機会に恵まれましたが、その際「はい、分離しました。」と声をかけられて小さな試験管をみつめたのですが、すぐには見分けられず、光にかざしてようやく分離層を見ることができました。また、途中の第2液を加えた段階で、青色に変化するのを大麻の呈色と見誤るおそれもありそうです。
こうした簡易検査は、被疑者の目の前で行われ、色の変化を被疑者も一緒に確認しています。覚せい剤所持で逮捕された経験のある人のほとんどが、鮮やかな青藍色への変化を覚えているのに対し、大麻所持で逮捕された人では、青紫色への変化を記憶していることがまれです。印象に残りにくい微妙な色合いであるといえるでしょう。

[薬物が多様化して簡易検査が困難に]
今回のケースは、大麻でした。乾燥大麻には特有のにおいがありますが、しかし、においを言葉で説明することは困難です。しかも、最近では乾燥植物片状の脱法ドラッグも多様なものが出回っています。経験の浅い捜査員にとって、試薬による判定を間違いなく行うには、多くの難関があるのが現状です。
さらに、多様な合成麻薬が出回っていることも、簡易検査による判定を困難にしています。一見するとMDMAかと思われる錠剤型の薬物も、その成分は2C-IやBZPであったり、処方薬であったりします。2007年にはこうした誤認逮捕の例もありました。

●抗うつ剤をMDMAと誤認して男性を現行犯逮捕
2007年7月23日 警視庁
警視庁は、抗うつ剤を所持していた男性を麻薬取締法違反の現行犯で誤認逮捕し、約13時間後に釈放したと発表した。抗うつ剤を合成麻薬MDMAと誤って判定したのが原因という。
無灯火の自転車に乗っていた男性を築地署員が見つけ男性が財布内に錠剤98錠を持っていたため同署に同行し、捜査員2人による試薬を使った検査で、錠剤をMDMAと判定。同署は同日午前2時半すぎ、男性を現行犯逮捕した。しかし警視庁科学捜査研究所で鑑定した結果、抗うつ剤であることが分かり、男性を同日午後3時45分に釈放した。捜査員2人がMDMAの検査をするのは初めてだったという。
(07/07/24 共同通信配信NEWS より)

[簡易尿検査による誤認逮捕]
覚せい剤や麻薬の使用をその場で検査する簡易尿検査でも、判定の誤りによる誤認逮捕(この場合は現行犯逮捕ではなく、緊急逮捕ですが)が起きています。今年6月に、山口県で起きた誤認逮捕のケースについては、当ブログの下記の記事を参照してください。
●それでも簡易尿検査で逮捕しますか|覚せい剤で誤認逮捕
http://33765910.at.webry.info/200906/article_22.html

[現行犯逮捕や緊急逮捕は必要か]
そもそも現行犯逮捕とは、犯罪捜査においては例外的なものであるはずです。本来は令状によって行われるべき逮捕ですが、無実の者を誤認逮捕する虞れがなく、かつ急速な逮捕の必要性がある場合に限って行われるのが、現行犯逮捕です。緊急逮捕もほぼ同じです。ところが、薬物の所持や使用事犯の場合、簡易検査だけでは、上述したように、「無実の者を誤認逮捕する虞れが」ないとはいえないのが、目下の現状です。
私がここで問題としているのは、2種類の簡易検査です。第一は、覚せい剤や大麻など規制薬物であるかどうか判断する検査、第二は、覚せい剤や麻薬の使用を判断するための簡易尿検査です。どちらも、ちょっと訓練すれば誰でも使えるようなキットがあり、捜査員がこうしたキットを使って現場で検査を行います。
しかし、こうした簡易検査には必ず誤判定のリスクがあるのです。加えて、現在使用しているキットは、比較的よくできているとはいえ、対象とする薬物ごとに使用する試薬や手順が異なり、またタイプの違う製品が何種類もあります。つまり、相当に複雑な手順を伴う検査であり、それだけにミスが起きる要因があるということができます。
ところで、必ずしも磐石とはいえない簡易検査を根拠として、現行犯逮捕や緊急逮捕をしなければならない必要性が、はたしてあるでしょうか。任意によって物や尿の提出を済ませた人たちを犯人として逮捕してしまわなければ、逃走したり、たちまち薬物犯罪を繰り返したりする危険は、それほど高いでしょうか。私には、そうは思えません。
末端の乱用者による薬物の所持や使用事犯罪は、薬物のさまざまな危険要因のある簡易検査によって誤認逮捕のリスクをおかして、あえて現行犯逮捕や緊急逮捕をする必要はないと、私は考えています。
ちなみに、使用事案については、警視庁は、以前は、尿の簡易検査だけでは緊急逮捕せず、化学捜査研究所に尿の正式な鑑定を依頼し、その報告を待ったうえで、使用犯として緊急逮捕に着手するという慎重な方法を取っていました。
記事へブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 0


カリフォルニア州議会で公聴会|アメリカの大麻合法化問題2

2009/10/31 01:06
10月27日、大麻に対する課税法案を審議しているカリフォルニア州議会の委員会は、公聴会を開き、この法案の影響についての意見聴取を行いました。
この法案は、サンフランシスコ選出の民主党員アミノ議員によって提出されたもので、大麻に対する規制をアルコールと同様のものとして、21歳以上なら法に触れずに所持し、栽培し、販売できることとして、大麻に課税しようとするものです。カリフォルニア州は現在、医療用大麻の使用を容認していますが、この法案はさらに大麻の容認度を広げるものであり、一般には大麻合法化法案とも呼ばれています。シュワルツェネッガー州知事は、この5月に、彼自身は合法化を支持しないが、この問題を討論することに対してはオープンな立場だと表明していました。

カリフォルニア州での大麻をめぐる最近の動きについては、当ブログ「2009カリフォルニア大麻論争1〜7」としてまとめていますので、ご参照ください。
●オークランドで医療用大麻に課税|2009カリフォルニア大麻論争1
http://33765910.at.webry.info/200907/article_18.html
●大麻は財政危機を救えるか|2009カリフォルニア大麻論争2
http://33765910.at.webry.info/200907/article_20.html
●州法と連邦法のギャップ|2009カリフォルニア大麻論争3
http://33765910.at.webry.info/200907/article_21.html
●医療用大麻とは何か|2009カリフォルニア大麻論争4
http://33765910.at.webry.info/200907/article_23.html
●合衆国政府の見解|2009カリフォルニア大麻論争5
http://33765910.at.webry.info/200907/article_24.html
●オバマ大統領の慎重姿勢|2009カリフォルニア大麻論争6
http://33765910.at.webry.info/200907/article_25.html
●日本の政策との距離|2009カリフォルニア大麻論争7
http://33765910.at.webry.info/200907/article_26.html

公聴会が開かれたことで、同州はもちろん、アメリカ全土で大麻に対する法規制のあり方をめぐって、いよいよ議論は活発化している様子です。
公聴会を取り上げた主要メディアの論調を簡単に見ておきましょう。
ABCニュースは、この法案の成否はいまだ不透明であるとしています。公聴会では、仮にカリフォルニア州が大麻の所持などに対する罰則を廃止すると決定した場合、カリフォルニアの州法には、その妨げとなる規定は存在せず、合衆国憲法にも抵触しないという点が、賛否両派の法律専門家によって確認されたといいます。しかし、明確に大麻の所持などを犯罪と定めている連邦法がある以上、ユーザーはあえて連邦法に違反するリスクを犯すだろうかというのが、懐疑派の考えだとか。
公聴会での意見には、合法化が少年の犯罪を増加させ、若年者を蝕むかどうかという点も含まれていました。記事は、「課税するために大麻を合法化することは、子どもを犠牲にして国庫を満たすことだ。」という、サクラメントのある司教の意見を伝えています。
ABCNEWS>Calif. Lawmaker Holds Hearing on Legalizing
http://abcnews.go.com/Business/WireStory?id=8946410&page=1

地元のカリフォルニア・クロニクル紙から、州法と連邦法の矛盾について、もう少し読んでみます。
記事は、「合衆国憲法には、カリフォルニア州が大麻使用に対する刑罰を廃止することを妨げるものはなく、こうした州法が合衆国最高裁判所によってただちに無効にされることはないと、公聴会で法律専門家が供述した。」と伝えています。さらに、法案賛成派として、Drug Policy Alliance Networkのスタッフ弁護士は「カリフォルニア州が決定すれば、憲法は妨げにならない。」といいます。いっぽう法案反対派として、カリフォルニア州保安官協会の弁護士は、「この評価には同意するが、重大な警告がある」と語っています。州法が刑罰規定を廃止しても、連邦法に影響を及ぼすことはなく、連邦法では、たとえ医療用であっても、大麻の所持、販売、栽培は不法とされているかぎり、カリフォルニアが完全に大麻を合法化することはできないというのです。
SF GATE >State debates legalizing marijuana
http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/c/a/2009/10/28/BAV01ABS1O.DTL

いっぽうニューヨーク・タイムズ紙は、カリフォルニア州で進んでいる署名運動について伝えています。2010年の選挙の際に住民投票を実施することをにらんでの署名運動ですが、ある団体は、9月からですでに30万人の署名を集めているということです。
New York Times >Push to Legalize Marijuana Gains Ground in California
http://www.nytimes.com/2009/10/28/us/28pot.html

さて、法案の審議は始まりましたが、まだまだ成り行きは読めません。引き続き注目していきたいテーマです。
記事へ驚いた ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0


連邦法と州法のギャップは埋まるのか|アメリカの大麻合法化問題1

2009/10/30 00:23
カリフォルニア州で大麻に対する課税法案(一般には大麻の合法化法案と呼ばれています)が検討される中で、アメリカ合衆国はいま、連邦法と州法のギャップが話題になっています。連邦は、一切の大麻使用を違法とするいっぽう、医療用途での大麻使用を許容する州法のある州があり、そこでは、医師の処方などによって医療用に大麻を使用する人や、介護者として大麻を提供する人に対して、刑事訴追されることがないよう、保護することを定めているのです。
2週間ほど前、この問題に関してちょっとしたニュースがありましたが、伝えそびれていたので、簡単に触れておきます。

アメリカ合衆国司法省は、10月19日、大麻に関する新しいガイドラインを公式に表明しました。メディアは、このガイドラインによって「連邦は、医療用大麻を容認する州法を遵守している限り、医療用大麻の使用し、処方し、流通する者を刑事訴追しないと表明した。」と伝えていますが、それほどシンプルではないかもしれません。
司法省が発表したガイドライン(メモランダム)は、これまで不透明だった医療用大麻に対する刑事訴追のあり方を示したもので、大筋では、医療用大麻を許容する各州法を尊重しているように思われます。しかし、「ガンなどの重大な疾患があり、治療計画の一部として、州法にのっとって大麻を使用する個人、及び、明白かつ確実に州法に沿って、こうした患者に大麻を供給する介護者」に対する刑事訴追は行われないとしていますが、「他方では、営利目的で不法に大麻を売り出し、販売する事業者に対する刑事訴追は、依然として法執行の優位に置かれている。」としているのです。読み方によっては、これまでとあまり変わっていないようにも思えます。
Memorandum for Selected United State Attorneys on Investigations and Prosecutions in States Authorizing the Medical Use of Marijuana
http://blogs.usdoj.gov/blog/archives/192

連邦の薬物取締りを担ってきたDEA(連邦麻薬取締局)は、22日にステートメントを発表しました。DEAは基本的にこのガイドラインを「歓迎する」としながらも、「このガイドラインは大麻を合法化するものではない。」としています。ステートメントにおいてDEAは「大麻の医療目的使用を許容する州法を遵守している重大な疾患を持つ人たちを標的にするのは、DEAの職務ではない。大麻などの危険な薬物を不法に栽培し、売り、流通させる犯罪組織や個人を捜索する我々の活動は、司法省のガイドラインに沿ったものである。」と表明しており、まだ態度を一部保留しているようにみえます。
DEA Statement on New Department of Justice Marijuana Guidelines
http://www.justice.gov/dea/pubs/pressrel/pr102209.html

一般の見方は、「これで大麻をめぐる連邦法と州法のせめぎあいは決着する」と楽観視に傾いているようですが、はたして今後どのような成り行きになるのでしょうか。まだしばらくは、動向をみていかないと、先行きは読めないようです。

さて、世界は今、大麻問題とどう向き合うか、揺れ動き、真剣に悩んでいます。この動きは、決してアングラな世界の話題ではなく、アメリカ合衆国の政治の表面に現れている問題であり、大手マスメディアは盛んにこの話題を追っています。
私たちは、こうした世界の動きを確実に視野に入れて、薬物問題を語らなければならないのです。さあ、どうするニッポン。
記事へブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 1


スパイスゴールド規制|見え始めた規制の成果

2009/10/28 22:57
脱法ドラッグの販売サイトに、こんな表示がみられるようになりました。
「各商品の在庫が大分少なくなってきております。」「今週中には在庫切れになってしまいそうです。」「厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課 管理者様より、ハーブ各種の行政指導がございましたので10/18をもちまして販売を中止いたします。」「スパイスダイアモンドは完売いたしました。次回の入荷予定はございませんので予めご了承下さいませ。」

スパイス製品に含まれる合成カンナビノイドを指定薬物として規制していくことが発表されたとたんに、販売者の側には、すでに変化が見え始めているようです。

ところで、指定薬物になるとどうなるか、簡単に説明しておきます。指定薬物について規定しているのは薬事法ですが、その2条14項で「中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用(当該作用の維持又は強化の作用を含む。)を有する蓋然性が高く、かつ、人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある物として、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものをいう。」と規定されています。

指定薬物については
・医療等以外の用途に供するための、指定薬物の製造、輸入、販売等が禁止されています。
・医学、薬学等の専門家向け以外の広告をすることが禁止されています。
・指定薬物である疑いのある物品について立ち入り検査などをすることができます。

違反者に対する罰則は
・指定薬物を製造し、輸入し、販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し、若しくは陳列した者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科。
・これらを業として行った者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科。
・広告制限違反については、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとされています。
・第90条は、いわゆる両罰規定と呼ばれるもので、法人などの業務として指定薬物の製造、輸入、販売、授与、販売・授与目的での貯蔵若しくは陳列、或いは広告を行った場合、行為者を罰するほか、その法人に対して罰金刑を科すことが定められています。

さて、前述したように、すでに販売業者にはスパイスシリーズなどの喫煙用ミックスの販売を打ち切ったり、新たな入荷を取りやめたりする動きが出始めました。従来から、いわゆる脱法ドラッグは、法規制が開始されると同時に、潮が引くように市場の表面から消えていく傾向がみられました。
しかし、これで問題が解決したかというと、決してそうではないと思います。脱法ドラッグの市場構造が、近年、大きく変化しているように思われ、販売業者に対する行政指導だけでは解決しない問題が生まれてきていると考えられるからです。

今年6月、鳩のマークで知られた「ダブス」と呼ばれる錠剤が北アイルランドから大量に輸入されており、その一部から麻薬のメチロンが検出されたというニュースがありました。この錠剤の主要な成分はbk-MBDBだといわれており、日本ではすでに指定薬物として規制されているものです。それが、個人輸入という形で大量に日本に流入し、インターネットのオークションサイトなどで販売されていたのです。指定薬物という法規制のシステムが、機能していなかったことになります。
いま、脱法ドラッグの市場にとってインターネットは非常に大きな販売経路になりつつあります。日本にいながら、世界中どの国のサイトでも閲覧でき、そこで提供されている品物を購入することができるのです。日本の市場や販売業者だけを監視していても、追いつかない状況になってきているのです。
たとえ末端のユーザーによる個人輸入であっても、指定薬物の輸入行為は、薬事法違反として処罰対象になりうると考えられます。十分な情報を得ていない末端ユーザーが、不用意に指定薬物の個人輸入を企てて、薬事法違反事犯として検挙されるようなことを未然に防ぐことも、考えなくてはいけません。

そこで、必要になるのが、一般ユーザー向けの広報や啓発活動です。今回新たに規制される6物質、そのなかでもとくに重点的なものと思われるスパイス製品に添加されている合成カンナビノイドについて、十分な情報を提供し、そのリスクを伝えることが必要であると思います。審議会の議事録を詳細に読めば、各物質の指定に当たって、厚労省および関係機関ではさまざまな科学的検証作業を重ね、十分なリスクアセスメントが行われていることがわかります。厚労省の皆さん、審議会で委員に提供したようなデータを一般にも公開することについて、ぜひとも前向きにご検討ください。
この夏、上記の「ダブス」事件に触発されて、私は久しぶりに脱法ドラッグ問題の現況と取り組み始めました。その際、とても有用だったのが、EMCDDAの「新型合成薬物に対する共同アクションの枠組 the framework of the joint action on new synthetic drugs」として公表されている、一連のリスクアセスメント報告書でした。こうした科学的なデータを公開することが、一般ユーザーへの情報提供や啓発にとって、何より大切だと思います。データからリスク情報を読み取り、有効なメッセージを発信する仕事は、その次です。
記事へブログ気持玉 / トラックバック / コメント


毛髪鑑定、から騒ぎの結末

2009/10/27 21:31
大騒ぎを続けた酒井法子事件の公判、当ブログ10月22日でボヤいたとおりの結末となりました。
覚せい剤使用を立証するには、普通、尿中に覚せい剤が検出されたという鑑定書が証拠とされるのですが、これまでの報道では、被告人の尿からは覚せい剤が検出されず、捜査陣は、毛髪鑑定で覚せい剤の使用を立証できるとして起訴したと伝えられていました。
しかし、毛髪鑑定で判断できるのは、その人がある程度継続的に覚せい剤を使ってきたかどうかで、ある特定の日時での使用を証明することは困難だというのが、鑑定専門家の共通した意見です(当ブログ8月13日「覚せい剤と毛髪鑑定|覚せい剤問題NOW-4」http://33765910.at.webry.info/200908/article_7.html)。
また、地方裁判所の裁判例でも、「毛髪鑑定により被告人が覚せい剤の常習者であるといえても、これもこの公訴事実記載の期間内の覚せい剤使用を推認するものとしては十分とはいえない」としたものがあります(平成15年7月8日神戸地裁判決、第一法規判例体系ID28095304)。
ですから無謀な起訴だとしか思えませんでした。
被告人が使用の事実を争わないとしても、それだけでは有罪にできません。補強証拠が必要です(刑事訴訟法319条2項)。その補強証拠として、毛髪鑑定の鑑定書で十分といえるか。裁判所はどう判断するだろうか、私なりにこの公判に注目していました。

ところが、先に行われた高相被告人の公判報道で、夫が所持していた覚せい剤のなかに、「奄美大島で拾った」というものが含まれていると知りました。正直なところ、あまりの馬鹿ばかしさに、力が抜けてしまいました。
被告人の提出した尿から覚せい剤が検出されなくても、それに変わり得る証拠で使用を証明できる場合があります。私が経験した例では、使用した覚せい剤の現物がある場合や、同じ覚せい剤を分け合って使用した他の者の尿から覚せい剤が検出されているのに、被告人は検出されなかったという場合があります。この場合は、残っている覚せい剤が被告人が使用した物と同一の物であることや、同じ覚せい剤を被告人が他人と分けて使ったことを立証する必要があり、被告人が否認するおそれがある場合には、公判が維持できるかどうか慎重な検討が必要になるケースです。

さて、酒井被告人の公判です。私は、産経新聞の【法廷ライブ 酒井法子被告】でこの日の公判の成り行きを読みました。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/trial/317111/

同記事によれば、高相被告が所持していた覚せい剤の鑑定書も証拠の一つとして提出されていたそうです。高相被告人が持っていた覚せい剤は、彼女が奄美大島で使用した覚せい剤の残りであるという趣旨で、この鑑定書が提出されているわけです。

判決では、彼女は覚せい剤使用でも有罪になることでしょうが、これは、毛髪鑑定の補強証拠としての能力が認められたわけではありません。
なお、毛髪鑑定の鑑定書は、法廷には出ていなかったようです。
やれやれ、あの騒ぎは一体なんだったのでしょうか。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 7


スパイスゴールド規制へ|厚生労働省

2009/10/26 03:03
10月29日加筆
見つけた資料を整理して、本文を一部訂正、加筆しました。アンダーラインの部分が書き換えた箇所です。
***********

「スパイスゴールド」などの製品に含まれる合成カンナビノイドが、指定薬物として規制されることになりました。今年中にも施行される見通しです。

大麻にそっくりな作用を売り物にした喫煙用ミックスが、「スパイスゴールド」、「スパイスシルバー」、「スパイスダイアモンド」などの商品名で販売され、また、これに類似した多様な喫煙用ミックスも登場しています。
2008年末、ドイツとオーストリアの当局が、これら製品に含まれる精神活性成分を特定するために化学分析を実施したところ、スパイス製品中に、合成カンナビノイドが確認されたと発表しました。その後、各国で次々と、スパイスや類似の喫煙用ミックス製品中に、合成カンナビノイドの含有が確認されたという発表が相次いでいます。これまでに報告されている合成カンナビノイドは、@JWH-018、ACP 47,497、BHU-210、CJWH-073などです。
確認された合成カンナイノイドは、大麻に含まれる天然のカンナビノイドとよく似た精神作用をあらわします。つまり、こうした合成カンナビノイドを添加することで、喫煙ミックスは大麻そっくりの作用を持つわけです。しかも、その作用は、天然のカンナビノイドより強力で、HU-210には天然カンナビノイドの数十倍から100倍の強力な作用があるともいわれます。
ヨーロッパの主要国はいち早く規制策の検討を開始し、すでにこれら合成カンナビノイドに対する法規制をしている国や、規制に向けた準備作業に入った国があります。

さて、わが国でも、スパイス製品は大量に流入している様子です。インターネット上の販売サイトや、オークションサイトで、こうした商品が販売されている例をよくみかけるほか、外国のインターネット販売を利用して個人輸入するケースもあるようです。わが国は、いつ、どのような方法で規制に乗り出すかと、私は気にかけてきたのですが、すでに規制策が進んでいることに、ようやく気づきました。

先週、厚生労働省のウェブサイトに、今年8月に開かれた、薬事・食品衛生審議会指定薬物部会の議事録が掲載されました。公表された議事録によれば、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会指定薬物部会は、新たに6物質を指定することが適当であるとの結論を出したということですが、そのなかに合成カンナビノイドが含まれています。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/08/txt/s0825-1.txt

この審議会は非公開で行われ、議事録の公表に当たっても、物質の通称名や製品名など公開されない部分が多いため、さらに検索して、ようやく資料を探し出すことができました。
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/hourei/H091021I0010.pdf
公布の日:平成21年10月21日
施行期日:公布の日から30日を経過した日(平成21年11月22日)

今回指定されるのは、次の6物質で、番号2、3、4はスパイスに含有されている合成カンナビノイドです。
1、ジフェニル(ピロリジン-2-イル)メタノール  Diphenyl(pyrrolidin-2-yl)methanol
2、1-ナフタレニル(1-ペンチル-1H-インドール-3-イル)メタノン 1-Naphthalenyl(1-pentyl-1H-indol-3-yl)methanone
3、(1RS,3SR)-3-[2-ヒドロキシ-4-(2-メチルオクタン-2-イル)フェニル]シクロヘキサン-1-オール  (1RS,3SR)-3-[2-Hydroxy-4-(2-methyloctan-2-yl)phenyl]cyclohexan-1-ol
4、(1RS,3SR)-3-[2-ヒドロキシ-4-(2-メチルノナン-2-イル)フェニル]シクロヘキサン-1-オール (1RS,3SR)-3-[2-Hydroxy-4-(2-methyl n o n an-2-yl)phenyl]cyclohexan-1-ol
5、1-(4-フルオロフェニル)ピペラジン   1-(4-Fluorophenyl)piperazine
6、2-(メチルアミノ)-1-(4-メチルフェニル)プロパン-1-オン 2-(Methylamino)-1-(4-methylphenyl)propan-1-one

上記2 合成カンナビノイドJWH018
画像

上記3 合成カンナビノイドCP-47,497
画像

上記4 合成カンナビノイドCPシリーズ
画像


わが国でも多量のスパイス製品が出回っていると思われるなかで、いち早く規制策が投入されたわけですが、それにしても、報道発表もなく、関連情報もすぐに見つからない状態では、スピーディな規制の効果も半減してしまいそうです。
法規制する際に発信される一連のメッセージこそ、乱用防止にとって大切だと考えるのは、私だけでしょうか。
記事へなるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 3


薬物中毒死の実態|薬物による中毒死6

2009/10/25 01:16
薬物乱用が、場合によっては死亡事故につながることもある。いま話題になっている事件を通じて、さまざまな薬物の害についての情報がもたらされています。
長期にわたって薬物を常用している人たちにとっては、仲間の死は、意外に身近なものだといいます。過量摂取による中毒死や、重症のうつにおそわれての自殺、薬物の作用下でのおもがけない事故やけが・・・。
芸能人の裁判が話題を呼んでいた陰で、横浜でも、女性の薬物中毒死に関係した事件の公判が開かれていたと、ニュースが伝えています。

●覚せい剤使用:押尾被告と同じ…女性急死で発覚 男に有罪−−横浜地裁判決
一緒にいた女性の変死が発端で麻薬取締法違反の罪に問われた、押尾被告の初公判が東京地裁であった23日、横浜地裁でも同様に女性が急死した覚せい剤事件の判決があった。
判決などによると7月24日、横浜市神奈川区のマンションに住む会社役員の男(38)が「女性が口から泡を吹き、意識不明になっている」と119番通報した。女性(30)は救急車で病院に搬送されたが、急性覚せい剤中毒で死亡した。男は神奈川署員に「あぶって吸引した」と認め、覚せい剤取締法違反容疑で緊急逮捕された。判決は懲役1年6月、執行猶予3年(求刑・懲役1年6月)。捜査関係者は「女性は(使用)量が多過ぎ、死亡した可能性が高い。横浜の住宅街でも薬物汚染が広がっている現状を示す事件」と警告している。(毎日新聞・10月24日神奈川版・朝刊より記事の抜粋)10月24日12時1分配信 毎日新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091024-00000019-mailo-l14

そういえば、押尾被告人の事件では、保護責任者遺棄罪が話題になっていますが、似たような状況で保護責任者遺棄罪で被告人を有罪として裁判例があるのです。昭和58年5月に北海道で起きた事件で、被告人がホテルの客室に同伴した13歳の少女に覚せい剤を注射したところ、間もなく少女が苦しみ出し、急性症状が次第に高進して錯乱状態に陥ったのに、救急車を呼ぶことなく放置し、数時間後に少女は心不全により死亡したというものです。この事件では、被害者の少女が錯乱状態に陥った時点で、直ちに被告人が救急医療を要請していれば、ほぼ確実に少女の命を救うことができたと認められるのに、このような措置をとらなかった被告人の不作為と同女の死亡との間には因果関係がある、とされました(平成元年1月26日札幌高裁判決)。ここでは、保護責任者遺棄罪についての説明は、また別の機会に譲ります。

こうして、事例を挙げていくと、やはり女性が被害者になることが多いようです。女性は、一般的に身体が小さいため、同じ量の薬物でも作用が強く現れるのでしょうか。

おりから、私の手元には、『日本刑事政策研究会報 罪と罰』の最新号が届きました。今号の特集は薬物犯罪で、「薬物問題の現状と警察の対策」という論考のなかに、薬物に起因する事故として、「平成16年から平成20年までの5年間における薬物に起因する乱用死傷者数は、乱用死84人、自殺41人、自傷15人、交通事故86入(薬物常用者以外の死傷者を含む。)の合計226人であった。」という報告がありました。
また、ここでは、「平成19年5月、飲食店従業員の女性は、覚せい剤の乱用仲間と覚せい剤を立て続けに注射して使用したところ、大声を出すなどの錯乱状態に陥り、信心不全を誘発して死亡した。」という事例の紹介されています。(小野田博通「薬物問題の現状と警察の対策」日本刑事政策研究会編『罪と罰』第46巻4号、2009、19頁)

なお、毎年警察庁が発表している『平成○年中の薬物・銃器情勢』には、各年度の乱用死等の統計があり、下は平成20年度版に掲載されている表です。
画像

警察庁組織犯罪対策部薬物銃器対策課『平成20年中の薬物・銃器情勢』 19頁より
クリックで表が拡大します。
記事へブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 5


第三者没収と判決期日の延期

2009/10/23 23:50
芸能人薬物事件の公判が続き、再び報道合戦が展開されている中で、目立たない小さな記事がありました。

●<高相被告>判決期日延期、11月27日に
女優の酒井法子被告の夫で、覚せい剤取締法違反(使用・所持)に問われた高相被告について、東京地裁(稗田雅洋裁判官)は、判決期日を11月12日から同27日に延期した。高相被告は公判で、起訴内容で使用・所持したとされる覚せい剤について「鹿児島県奄美大島の野外音楽会場で拾った」と述べた。検察側が求める没収手続きには、持ち主を特定するため検察による公告(2週間)が必要となり、期日変更した(記事の要旨)。
10月22日21時1分配信 毎日新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091022-00000114-mai-soci

私はこの日、公判の様子をインターネット速報で読み、被告人が所持していた覚せい剤のなかに、奄美大島で「拾った」というものが含まれていたのを知ったわけですが、「第三者没収か、ご苦労なことだ」と考えていたところでした。
覚せい剤取締法は、犯人が所有し、又は所持した覚せい剤を没収する、と定めていますが、被告人はこの覚せい剤は拾ったものだと言っており、つまり本来の所有者がほかにいると主張しているわけです。犯人以外の第三者が所有する物、あるいは被告人の所有に属するか第三者の所有に属するかが明らかでない物を没収するための手続きが、第三者没収と呼ばれるものです。
具体的には、没収すべき覚せい剤の所有者に対して、その没収を告知し、刑事事件の係属する裁判所に対して、参加の申し立てをして弁解、防御することができると知らせる手続きなのです。

この手続きは検察官が行うもので、没収の対象物の所有者に対して、検察官が書面で告知をすることになります。しかし、覚せい剤などの規制薬物の場合、多くは、所有者が誰かわからなかったり、そもそも被告人の所有物か、第三者の物か不明だったりもします。告知する相手が特定できない場合や、相手の所在がわからなくて告知できない場合には、公告という方法で知らせることになります。公告とは、官報や広報などに掲載したり、裁判所や官庁の掲示板に公示して、広く一般に知らせることをいいます。
検察庁の建物の前には、ガラスの扉のついた掲示板が設けられ、そこに何やら書面が貼り出されています。東京など取り扱う事件の多い検察庁では、書面の束がぶら下がっていることもあります。このなかに、犯罪にかかる覚せい剤などの第三者没収に関する公告も混じっているわけです。この書類が公示される期間は14日間。

ところで、このように面倒な手続きがなぜ必要か、簡単に説明しておきましょう。この手続きについてさだめているのは、「刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法」(昭和三十八年七月十二日法律第百三十八号)という法律で、その制定の引き金となったのは、最高裁判所が下した憲法違反の判断でした。
当時、ある密輸貨物の没収をめぐって裁判が行われていました。関税法に基いて密輸した貨物を没収された者が、没収した貨物には第三者の所有物が含まれていたことから、その所有者に告知・弁解・防御の機会を与えなかったのは、憲法に違反するとして争っていたものです。昭和37年の最高裁判決は、「第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であつて、憲法の容認しないところであるといわなければならない。」という判断を示しました(昭和37年11月28日最高裁判所大法廷判決)。
最高裁の判断を受けて、急遽、上記の法令が整備され、それ以来、第三者没収の手続きが行われている、というわけです。

実は、覚せい剤などの規制薬物の所持事犯者が、その薬物を「拾った」「他人からもらった」と主張することは、それほど珍しいことではありません。公判廷で供述を翻して「実は拾ったものです」といい始める被告人も、まれにいます。第三者没収の手続きには、普通、1ヶ月ほどの時間を要するため、公判の場で第三者による所有の可能性が出てきたような場合は、その手続きが完了するまで判決が先延ばしになることもあります。
おや、高相被告人の場合、判決期日がおよそ1ヵ月後になったということは、公判の後で第三者没収の手続きにとりかかったということのようです。だとすれば、「奄美で拾った」という彼の供述は、公判の場で初めて出てきたものなのでしょうか。もっとも、検察官が手続きをし忘れていたため、判決が先送りされたということもありえます。実際、私はそうした例に出会ったこともありますから。
記事へブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 2


薬物問題をめぐる報道と問題の実態・3

2009/10/22 01:08
2008年から2009年にかけて、薬物問題が頻繁に話題になりました。世間の話題を呼んだニュースをめぐって、報道と世論の虚実について、あらためて問い直してみます。

●芸能人の薬物問題
大相撲の大麻問題からちょうど1年たったこの夏、今度は芸能界で薬物問題が相次ぎました。登場しているのはMDMAと覚せい剤。折から、各事件の公判が始まり、またしばらくは世間の注目が注がれそうです。

[空騒ぎ?はあ]
■覚せい剤使用罪と毛髪鑑定■
本日、女性タレントの夫の第1回公判があったそうです。私は、インターネット上で公判の速報記事を読んで、意外な内容を見出して驚きました。夫が現行犯逮捕された際に所持していた覚せい剤には、「奄美で拾った」という覚せい剤の使い残りが含まれていたというのです。
女性タレントが覚せい剤使用で起訴された内容は、「奄美で使った」というものだと伝えられています。使用した覚せい剤は、夫が拾ってきたものだとも伝えられていました。彼女の起訴内容がそのとおりなら、その際に彼女が使った覚せい剤の使い残りが、夫の事件で押収されていたことになります(はぁ・・・)。それなら、あえて毛髪鑑定などという不安定な証拠に頼らなくても、この使い残りの覚せい剤を補強証拠として、彼女の覚せい剤使用を立証することができるわけです。これなら、あまり苦労はないはずです。
間もなく、女性タレントの第1回公判です。毛髪鑑定を補強証拠として覚せい剤使用を立証するのか、それとも、まったく別な証拠を請求するのか、明らかになるでしょう。来るべき公判での、私の個人的な注目ポイントです。
最終的には、「あの、毛髪鑑定騒ぎは、いったい何だったのだろう。」とボヤくことになるかもしれません。詳細は、来週の公判速報をみたうえで、報告します。

[報道の問題]
■情報ソースはどこですか■
この数ヶ月、メディアはこの話題を追い続けました。供述や捜査の断片がもたらされるたびに、次々と「新事実」に対するコメントを求める依頼が、私のもとへも飛び込んできます。記者たちがもたらす最新情報のなかには、にわかに信じがたいものもあり、「その情報は、どこから出たものですか」と尋ねることも何度かありました。
正式な報道発表はほとんどなく、捜査関係者への個別取材で漏れ聞いた、断片的な情報がほとんどです。不思議なことに、報道関係者の間を駆け巡っている情報の出所がわからないという場面にも、何度か遭遇しました。憶測、誤解、拡大解釈、ありとあらゆる情報の混乱があったことでしょう。
渦巻きの中心にあったのは、出所が明らかでない情報に群がり、それをどんどん膨らませてきたメディアと、思わせぶりな情報を絶え間なく漏らし続けた、捜査関係者の阿吽の呼吸でしょうか。情報は検証されないままばら撒かれ、批判されることもなく日本中に広まりました。やれやれ、報道の行動原理もずいぶん変わってきた気がしています。

■青少年の薬物乱用■
この事件が話題になって以来、頻繁に飛び交った言葉のひとつが「青少年の覚せい剤乱用防止」です。覚せい剤が話題になっているこの時期に、青少年の覚せい剤問題を取り上げて、多少の啓発的な情報を提供しようという企画も、少なからずあったと聞いています。
しかし、いささかミスマッチです。なぜなら、いま覚せい剤事犯者として検挙される人たちの中心は、好奇心から手を出す若者ではなく、覚せい剤使用が生活の一部に組み込まれているような中高年の使用者なのです。必要なのは、覚せい剤の害を説き、軽率に乱用することを戒める啓発活動よりも、覚せい剤使用をやめるための具体的な動機付けや、援助なのです。
「青少年の覚せい剤乱用防止」をお題目のように唱えていれば、社会的な意味があるというのでは、少し安直すぎると思います。

[世論はまたしても正義を掲げる]
■逃げ得を許すな■
有名人の薬物事件、しかも、いま話題になっている芸能人たちの行動には、世間の非難を受けやすい問題もあるようで、世論はひときわ声高く「正義」を叫んでいます。そして、厳しい刑罰を下すことで、正義が行われなければならないと主張しています。
またしても、同じことが繰り返されています。非難、処罰、制裁だけで薬物問題は解決できないことは明らかなのに。

■オピニオン・リーダーの不在■
正直なところ、日本の薬物問題を終始リードしてきたのは、警察です。その陣容、組織力、情報力をもって発信してきた情報は、日本の隅々にまでいきわたっています。ところが、警察の発信する情報を受け止め、それを評価したり、批判したりできるオピニオン・リーダーがほとんど見当たりません。
研究機関や主要な報道機関の内部に、こうした批評家が存在し、確実に機能していることが必要ではないでしょうか。主体的に判断する知識を持ちながら、専門職とは異なる立場で情報の交通整理をしてくれる、批評家の活躍に期待したいところです。
ささやかですが、私はその一助になればと、さまざまな文献や専門的な情報を紹介し続けているのです。
記事へブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 1


薬物問題をめぐる報道と問題の実態・2

2009/10/21 02:19
2008年から2009年にかけて、薬物問題が頻繁に話題になりました。世間の話題を呼んだニュースをめぐって、報道と世論の虚実について、あらためて問い直してみます。

●大相撲と大麻問題
騒動の発端は、外国人力士のなかに大麻取締法違反による逮捕者が出て、相撲部屋などからも吸引具が発見されたことから始まりました。日本の伝統競技と大麻という意外な組み合わせは、「大麻はここまで蔓延している」という危機感をあおるのに、いかにも好都合だったのでしょう。その後、協会が行った尿検査で複数の力士に大麻使用の疑いがあるとされたことから、メディアはこの話題を取り上げ続けました。
しかし、終わってみれば、結局、一部の外国人力士が大麻を吸っていたというだけの話で終始してしまったようです。

[見過ごした焦点]
■ドーピング検査のあり方■
一連のニュースには、実は、大麻問題にとどまらない重要な焦点が潜んでいました。まず、大あわての相撲協会が行った力士の尿検査の手法に、さまざまな問題が残ったこと。
そもそも、相撲協会が力士の尿検査を行った背景には、スポーツ・ドーピングの問題意識があったはずです。
スポーツ・ドーピングの理念や手法には、すでに国際的な基準が確立しており、検査の手法や判断の方法は詳細に定められています。立会人の監視の下で検体が採取され、精密な化学分析によって禁止薬物の検出が行われ、もしも検出された場合には保存していた同一検体を用いて再度の分析を行い、また当事者の抗弁を聞いた上で最終的な判断が下されるのです。禁止薬物を使用した選手は、記録が破棄されたり、場合によっては競技会への出場資格を失うなど、深刻な制裁を受けることになるだけに、判断は正確に、慎重に行われなければならないのです。
ところが、第1回の尿検査では、あまりにも緊張感のない管理意識が露呈されてしまいました。厳密な化学分析とは原理の異なる簡易検査キットによる判定の段階で、陽性反応の現れた力士を公表してしまったのです。簡易検査キットは、ある程度の精度をもってはいますが、あくまでも予備的なスクリーニングの道具であり、ここで示された陽性反応は、「大麻使用の疑いがある。」ということを示すわけではなく、「さらに精密な検査を要する。」というサインでしかないのです。
大慌ての検査、拙速な発表といった不手際を見過ごし、「大麻使用の疑い」をそのまま報じてしまったメディアが多かったのは、手落ちだったと思います。さらに言えば、「疑い」を素通りして、あたかも大麻使用が証明されたかのような報道も目に付きました。
オリンピックや国際競技大会であれば、ドーピング検査は日常的に行われています。また、ドーピング検査についての基本的な情報は豊富に提供されています。大相撲だから、大麻問題だから、という先入観にとらわれて、このような基本的な問題を見過ごしてしまったとしたら、とても残念です。

■大麻疑惑に対する捜査活動■
もうひとつ、気になった点があります。相撲協会は、尿検査で陽性反応を示した力士があったことを警察に連絡し、その後、警察が関係先の捜索を行ったと報じられました。ここまでは、通常の成り行きです。
しかし、力士たちの大麻所持は確認されませんでした。尿検査で大麻の使用が判明したのに、力士たちが逮捕されないという事態に、世間は戸惑ったのかもしれません。次第に、世論は力士たちへの非難の調子を強め、メディアのなかにはこうした非難をあおる風潮さえみられました。一部の報道が「正義」を掲げて、徹底的な処罰を求める論調を強め始めたのは、このころからでしょうか。正義=処罰という殺伐とした世論が次第に形成されていきました。
警察もまた、世論に押されたのか、世論を追い風としたのか、行き過ぎた捜査活動をしてしまったところがありました。

[副産物]
■大麻取締法と使用罪■
この話題をきっかけに、大麻取締法に使用を処罰する規定がないことが、あらためて世間の注目を集め始めました。
たしかに、日本の薬物規正法の多くは、薬物の使用を罪と規定し、違反者に罰則を定めているのに、大麻取締法には使用罪が定められていません。これは、薬物の法規制を考える上で、避けて通れないきわめて重要な問題です。私は、薬物使用罪というものにこだわり、日本の薬物規正法の多くに使用罪が規定されている背景をさぐってきました。
しかし、「使用した者が処罰を逃れるようでは正義が行われない。」といった論調のなかで、この問題を議論したくないのが、私の本音です。一部メディアの報道が過熱し始めるなかで、私は口を閉ざしてきました。いずれ時期をみて、この問題を正面からとらえて、私自身の考えをまとめるつもりでいます。
記事へブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 1


薬物問題をめぐる報道と問題の実態・1

2009/10/20 09:11
2008年から2009年にかけて、薬物問題が頻繁に話題になりました。そのたびに、私は会う人ごとに、世間の関心と実態のズレについて説き続けていますが、ますます落差が広がっているように思います。
この1、2年で話題になったニュースをめぐって、報道と世論の虚実について、あらためて見直してみます。

●大学生に広がる大麻汚染
この当時、メディアが頻繁に取り上げた話題のひとつが、■大学生に広がる大麻汚染■というテーマでした。2007〜2008年にはいわゆる有名私大の学生が大麻所持で検挙される例が相次いだことから、あたかも、大学生の大麻事犯者の検挙が激増しているかのような報道がされました。
私は報道関係者から頻繁に、大学生の大麻事犯が増加している背景は何かと質問を受けました。しかし、私はとくに大学生の検挙者が増えているという兆候は感じていないし、そうした発表もされていません。この当時、報道関係者を相手に、かみ合わない問答を何度も繰り返したことを記憶しています。
2007年の統計をみれば、結局、大学生の大麻事犯の増加という現象は報告されていません(警察庁組織犯罪対策部薬物銃器対策課編『平成20年中の薬物・銃器情勢 確定値』)。報道発表によれば、大学生の検挙者は94人と伝えられました。とくに増加してはいません。虚構の話題がメディアをかけめぐり、あたかも実態であるかのように伝えられたのです。

[虚像]
■大学生に広がる大麻汚染■

[実態]
・大麻事犯として検挙される者のうち、少年および20歳代が占める割合が約6割であり、青少年層が多数である。ただし、この年齢層の占める割合は少しずつ減少している。つまり、30歳以上が次第に増加している。
・大学生の検挙者は2007年の速報値(報道発表)では94人。2003年の101人、2004年の114人より少ない。
・2007の統計でみると、少年および20歳代の検挙人員は1730人。そのうち94人が大学生ということになる。
・2008年の統計では、大学生の検挙人員に関する発表はないが、断片的な情報を突き合わせると、増加していない。

[実際の問題]
・ 大麻事犯で検挙される大学生は、絶対数ではそれほど多くないが、検挙につながらない暗数は把握されていない。
・ 薬物の種類別でみると、覚せい剤の24人に対し、大麻が94人(2007年)。大学生では乱用第一位の薬物が大麻になっていることがうかがわれる。
画像

グラフは@警察庁刑事局組織犯罪対策部薬物銃器対策課編『平成17年中の薬物・銃器情勢』12頁、A2008/12/02 12:39配信の共同通信ニュース の数字に基づいて私が作成したものです。

[虚像の誕生]
以下は、一連の報道を観察してきた私が、あくまでも個人的に考えていることです。
2007年末ころから、大学生が単純な大麻所持事件で逮捕されたという報道が続きました。いずれも、少量の大麻を所持したという、事件としてはありふれたものです。私は、青少年の薬物乱用事件を日常的に取り扱っており、当事者の中には大学生もいます。従来は、こうした事件がとくに報道されるということは、東京では、ほとんどありませんでした。少なくとも、私が扱った範囲では、皆無でした。私は、この変化を不審に思い、戸惑い、そしてその背景について考えざるを得ませんでした。
思い浮かぶのは、数年来続いている覚せい剤事件の減少傾向です。これまで日本の薬物問題の大半を占めてきた覚せい剤の流通量が減少し、末端での密売価格が高騰したことから、覚せい剤乱用者が自然に減少してきているのです。おかげで、日本の薬物問題は大幅に改善されつつあります。また、世界の動向も、同じように、全般的に薬物問題の改善を示しています。
ただ、そのなかで、大麻だけは、若干とはいえ増加を続けています。当然ながら、当局や社会の関心は、大麻に絞られることになります。これからの問題は大麻だ、という意識が広がったわけです。なお、世界的にも、大麻だけは増加傾向にあります。
大麻の問題を担うのは、若者です。世間の耳目を集め、警鐘を鳴らすにはちょっとしたインパクトがあったほうがいい。「大麻乱用で大学生を逮捕」「一流大学で次々と逮捕者が」こんな発表が続き、それを受けたメディアはさらに発表を膨らまして伝えました。
まあ、簡単に言えば、こうしたメカニズムが作動したのだと、私は勝手に考えています。

[問題の波及]
私が心を痛めているのは、こうした報道がされ、世論のようなものを生み出した結果、多くの大学では、大麻事犯として逮捕された学生に対して、退学を含む厳しい処分を検討するようになってしまったことです。
従来、私は、手がけた薬物事件の被告人たちをできるだけ元の大学や職場へ戻すよう、努めてきました。できるだけ早く、スムーズに元の環境へ戻して、彼らを前向きにやり直しさせることも、私の仕事の一部だと心得てきたものです。
前回まで数回にわたって、大麻事犯者の実像のまとめを紹介したのも、彼らの実態をありのままに知っていただきたいという気持ちからです。非難、処罰、制裁を加えるだけではなく、どのような問題があり、どんな解決策が有効なのか、しっかり考えることが今必要だと思います。
記事へガッツ(がんばれ!) ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 2


大麻事件と青少年のまとめ|青少年と大麻の実態7

2009/10/18 03:39
青少年の大麻乱用が話題になっていますが、実際に、どんな若者が、どんな風に大麻を使っているのか、具体的なイメージが把握できないという声をよく聞きます。そこで、私が最近手がけた大麻事件の記録から、若者と大麻の関係を知る手がかりになりそうな項目をまとめた資料から、主な項目を何回かに分けて紹介しました。
資料化の対象は、近年、私が手がけた大麻取締法違反事件の記録で、新しいものから順に、選別せずに50例を集めてみました。平成21年から平成18年のものが含まれています。ただし、営利事件、否認事件、不起訴になった事件は除外しています。わずか50ケースですが、事例集としてまとめてみると、おもしろい発見もありました。

■年代によって異なる、大麻との関わり方
とくに20歳代前半の若者では、好奇心が先行していることがうかがわれます。友達と大麻を話題にし、情報を得、やがて実際に入手する機会に遭遇すると、友達に吹聴している・・・、そんな若者に良く出会います。しかし、彼らの大半は就職や結婚を機に、大麻から遠ざかっているようです。年齢の高いグループでは、大麻から卒業するきっかけを掴み損ねたり、一度は遠ざかったが、何か事情があって使用を再開した人が目に付きます。
●大麻を使う背景
[20歳代前半]
・雑誌や本などを通じて、大麻に関する情報に触れ、好奇心を持っていることがうかがえる
・最初のきっかけは、友人に誘われて吸わせてもらう、が多い
[20歳代後半]
・就職、結婚、付き合う相手が変わるなどして、大麻から遠ざかる者が出てくる
・不安定な生活を続けた若者では、やめるきっかけを失い、理由もないまま使い続けることになるのではないか
[30歳代以降]
・離婚、失業など生活の変化を契機に、昔使ったことのある大麻を再び使い始める例が多い。
・年齢が高い者では、何か理由があって大麻を使うことがうかがわれる
●大麻を使う場面
[20歳代前半]
・友だちと一緒に使う、買うときも一緒が多い
[20歳代後半]
・遊び仲間、大麻の仲間ができ、自分が後輩を誘う立場になる
[30歳代以降]
・自宅で、1人で使う例が多い
●大麻の入手方法
[20歳代前半]
・当初は友人に分けてもらい、やがて自分で買うルート(外国人密売人など)を見つける
[20歳代後半]
・外国人密売人の電話番号を知っていて、連絡を取って買う例が多い
[30歳代以降]
・特定の入手先を持っていることがうかがわれる

■とくに問題のある若者が大麻を使い始めるわけではない
昨年来、青少年の大麻問題がメディアを賑わし、大学生の大麻問題が特に話題になり、その影響からか、大麻→大学生という先入観をお持ちの方もあるようです。しかし、私が実際に手がけた事件の当事者のなかでは、大学生はむしろ少数で、20歳代前半では、派遣社員やアルバイトが目立っています。学校を中退した経歴を持つ者も比較的多いといえるでしょう。とはいえ、中退者や非正規雇用で働く若者に大麻事犯者が集中していると解釈するのは、早計ではないでしょうか。彼らは、現代の青少年のちょうど中間層であり、あらゆる意味で「普通の若者」だと私は考えています。
彼らは時流に敏感で、旺盛な好奇心から、薬物に対しても興味を持ちやすいのです。とくに薬物を使う理由があるわけではなく、「みんなやっている」といった意識や、「誘われたから」といった動機が目に付きます。
実は、大麻に限らず、薬物事犯の初犯者には、一般的にこの層の若者が多いのです。平成の初頭ころ、わが国に出回る覚せい剤が急増して、青少年の覚せい剤乱用が問題視されていた時期に、覚せい剤事犯として登場した若年初犯者の大半が、やはり同じような若者だったことを思い出します。さらに言うなら、青少年が関わりがちな軽微な刑事事件や、サラ金などの経済問題、自動車運転の違反を重ねる者などにも、この手の青少年を良く見かけます。
画像


■彼らに必要な解決策とは
私が見てきた大麻事犯の青少年たちの多くは、確かに、ちょっと困ったところのある若者だといえるでしょう。でも、それは、「甘い」「厳しさに欠ける」といったような問題で、社会経験を重ね、適切な指導を続けることで修正すべきであって、刑罰をもって叩き直さなければならない性質の問題ではありません。
まず、若年の初犯者たちの場合、主な問題は、規範意識の緩みや、規律のない生活といったものが中心で、不足している社会人としての自覚や責任感を身につけさせることこそ、真の解決だと思われます。刑罰を科して社会生活を中断させることは、むしろ解決を遅らせることにつながりかねません。いっぽう、何か事情があって大麻使用を再開したような人たちにとっては、その事情を解決しなければ刑罰を科してみても無益でしょう。
■家族や友人は、現実的な見方をしている
自分の家族や友人、恋人が逮捕され、大麻問題が発覚することは、誰にとっても大きな衝撃です。問題に直面したとき、多くの人が、自分の育て方や接し方にまずいところがあって、こうした問題を招いたのではないかと、真摯に振り返ります。
しかし、わが子を刑罰で懲らしめてほしいと願う親や、「今後つきあいをしない」と考える友人はほとんどいません。とくに、親しく付き合ってきた恋人たちは、ほとんどの場合「彼が二度と問題を起こさないよう、自分も一緒にがんばる」という選択をしており、事件を契機に別かれる決意をした例はほとんどありません。もちろん、家族や友人、恋人が大麻を使うことに寛容なわけではありません。犯罪者になるようなことはやめてほしい、そう願い、そのために一緒に努力しようと考えているのです。
身近な人たちが選択する「一緒にがんばる」という道が、私にはもっとも現実的な選択肢であるように思えます。
記事へブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 1


大麻事件に関わった青少年の生活ぶり|青少年と大麻の実態6

2009/10/16 23:32
●生活状況、家族は本人をこんな風に見ている(事件発覚後)
26 独身、友人宅に居候。(25歳、男性、工場勤務)
27 独身、賃貸マンションで彼女と同居。専門学校卒業後、会社勤務をしている。音楽が趣味。[彼女の見方]まじめな性格で、夜遊びなどもしない。逮捕は信じられない。二人で再出発する。(25歳、男性、会社員)
28 独身、専門学校を中退後郷里でアルバイト、その後単身で上京しアパート住まい。小説を書き、懸賞に応募している。[父の見方]前向きの性格。自分の夢をみつけてほしい。(25歳、男性、アルバイト)
29 独身、賃貸マンションで単身生活。大学卒業後会社勤務をしている。音楽が好き。(25歳、男性、会社員)
30 既婚、妻と2人で生活。高校中退後、アルバイトを経て現在は商品配送の仕事に従事、身分は会社員ではないが安定した仕事がある。まもなく第1子が生まれる。(25歳、男性、運転手)
31 高校卒業後、外国人と同居し外国で生活したこともある。現在は無職。旅行が好き。(26歳、女性、無職)
32 独身、実家で家族と同居。(26歳、男性、作業員)
33 独身、高校中退後アルバイトを経て、単身で上京し、運転手として働いている。(26歳、男性、運転手)
34 独身、高校中退後いくつかアルバイトを経験した後、派遣社員として都内の会社に勤務。賃貸マンションで単身生活。(27歳、男性、派遣社員)
35 独身、賃貸マンションで彼女と同居。高卒後、専門学校を卒業し、会社に勤めたが現在はアルバイト。(27歳、男性、アルバイト)
36 独身、実家で家族と同居。高校中退後家業を手伝って運転手として働いている。薬物の前科あり。(28歳、男性、運転手)
38 独身、実家で家族と同居。大学卒業後、専門職として会社に勤務。仕事と趣味で外国旅行が多い。[父の見方]自分の夢があるのだから、今後は謹んでくれると思う。息子を信じている。(28歳、男性、会社員)
39 独身、実家で両親と同居。大学卒業後、会社員として勤務、管理系。(28歳、男性、会社員)
40 独身、婚約者と同居。技術系専門学校を卒業し、会社に勤務。深夜の仕事が多く不規則なため、最近は疲れを感じる。[彼女の見方]自分の前では大麻を吸ったこともないので、信じられない。ふたりで力を合わせて、乗り越えたい。(29歳、男性、会社員)
41 日系ブラジル人。家族を郷里に残して来日。(30歳、男性、永住権を持つ外国人、工場勤務)
42 独身、高卒後会社に入社して上京、その後退社して現在は派遣会社に所属。バンド活動をしている。(32歳、男性、派遣社員)
43 独身、技術系専門学校を中退後、しばらく東京で会社勤めをしたが、父が病気になったこともあって退社して郷里で就職。現在は作業系の会社員。兼業農家の仕事をしながら会社勤めをしている。音楽が趣味。[母の見方]まさかという気がしている。療養中の夫の看病も良くするし、会社でも仕事熱心。(33歳、男性、作業員)
44 独身、バカラ賭博に入れ込んでしまい、現在はネットカフェで生活し、日払いのアルバイトをしている。(33歳、男性、アルバイト、大麻および覚せい剤で起訴された)
45 既婚、妻と2人暮らし。技術系専門学校を卒業し、有資格の会社員。[妻の見方]自分の前ではクスリの話などしたことはない。やさしい性格。ふたりでやり直したい。(34歳、男性、会社員)
46 独身、勤務先近くのマンションで単身生活。技術系専門学校を卒業し、有資格の会社員。[母の見方]気が弱く、ストレスを溜め込みやすいが、これまでとくに問題を起こしたことはない。(34歳、男性、会社員)
47 離婚して現在は独身、母の保有するマンションで単身生活。専門学校を中退し、母の経営する店を手伝っていたが、折り合いが悪くなり、現在はアルバイト。語学留学の経験あり。(39歳、男性、アルバイト)
48 独身、高卒後、技術系の会社員。ローンでマンションを購入して住んでいる。(40歳、男性、会社員)
49 内妻と2人暮らし。高卒後飲食店で働き、20代は欧州で生活。帰国後飲食店を経営。(42歳、男性、飲食店経営)
50 離婚して単身生活。現在は無職で生活保護を受けている。(46歳、男性、無職)
記事へブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 27


続きを見る

トップへ

月別リンク

弁護士小森榮の薬物問題ノート/BIGLOBEウェブリブログ