弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 保護観察とプログラム|覚せい剤からの離脱

<<   作成日時 : 2016/05/26 23:59   >>

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K元選手の覚せい剤事件の判決が近づいて、ふたたびメディアの取材合戦が動き始めたようです。
先日行われた公判で、被告人のKさんが、国の更生プログラムを受けたいと発言したことから、国がやっている更生プログラムについて、いろんな方からご質問も寄せられているので、この点について簡単に説明しておきましょう。

●国の更生プログラムって何?
薬物依存のために覚せい剤使用を繰り返してしまう人がいるように、特定の犯罪的傾向を有する人たちに対して、保護観察での指導監督の一環として、その傾向を改善するための専門的処遇プログラムが行われています。現在では、性犯罪者処遇プログラム、覚せい剤事犯者処遇プログラム(簡易薬物検出検査と組み合わせて実施)、暴力防止プログラム及び飲酒運転防止プログラムの4種があり、それぞれ心理学の専門知識によって体系化された処遇が行われています。

覚せい剤事犯者処遇プログラムは、再発防止の具体的方法を習得するための教育課程と、簡易薬物検出検査が一体となっているもので、プログラムの受講を義務付けられた対象者は、定期的に保護観察所に出向いて、テキストブックを使った教育課程を受講し、その都度、簡易尿検査を受けます。
簡易尿検査は、覚せい剤の使用を摘発することが目的ではなく、使用をやめようとする意志を強化し、持続させることを目的として行われるものですが、簡易検査の結果、もしも陽性反応があった場合は、覚せい剤使用の疑いがあるとして警察署に出頭しなければならず、覚せい剤使用を思いとどまらせる強力な抑止力となっています。
プログラムについては、2009(平成21)年版犯罪白書に説明があります(下記参照@)

このプログラムは、2004年に、本人の自発的意思に基づく簡易尿検査としてスタートしたものですが、その後に改正された更生保護法によって、現在では、一定の条件を満たす保護観察対象者に、特別遵守事項として、覚せい剤事犯者処遇プログラムの受講が義務付けられています。

●どんな人がプログラムを受講するのか
覚せい剤事犯者処遇プログラムの対象になるのは、@仮釈放中に保護観察を受けている人たちと、A保護観察付執行猶予を言い渡された人たちです。
2014年中に、合計1270人が新たにこのプログラムを受講し始めましたが、その内訳は下表のとおりで、保護観察付執行猶予を言い渡された人のうち357人がプログラムを受講しています。
画像

↑専門的処遇プログラムによる処遇の開始人員(2010〜2014年)
2015(平成27)年版犯罪白書より転載(下記参照A)

2014年に、覚せい剤取締法違反事件で裁判を受け、保護観察付執行猶予を言い渡された人数は439人ですから(下記参照B)、その約80%がこのプログラムの受講を義務付けられたことになります。現状では、保護観察付執行猶予を言い渡された人のうち、覚せい剤乱用傾向のある人のほとんどは、このプログラムを受講していると言ってよいでしょう。

とはいえ、そもそも執行猶予判決を言い渡されるうちの大多数が単純執行猶予であり、保護観察付執行猶予を言い渡されるのは、ごく一部に限られています。上表で示された357人というプログラム受講者は、2014年中に執行猶予判決を言い渡された人の10%にも満たない人数です。
<司法統計年報によると>
■2014年中に覚せい剤取締法違反で有罪判決を受けた人・・・9,528人(100%)
■そのうち、執行猶予判決を受けた人・・・・・・・・・・・ 3,686人(38.7%) 
 ・単純執行猶予・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3,247人
 ・保護観察付執行猶予・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 438人

さて、Kさんのケースに話を戻しましょう。
もしも、Kさんに対して、保護観察付執行猶予の判決が言い渡されたとするなら、Kさんは保護観察における特別遵守事項として、覚せい剤事犯者処遇プログラムを受講することを義務付けられる可能性がかなり高いと言えそうです。
しかし、果たしてこのケースに、保護観察付執行猶予の言い渡しがふさわしいでしょうか。

まず、一般に、保護観察付執行猶予は、単純執行猶予より一段厳しい処分であるという意味合いがありますが、Kさんの事件には、とくに一段階厳しい処分を考えるような要素はないと思います。
また、生活面での指導・援助という面から、保護観察が検討されることもあります。当事者の更生を支える周囲の監督体制などにいくらか不安があり、保護観察の制度を通じた指導監督が望まれるような場合です。
いっぽう、実務の上では、当事者の生活状況などから、保護観察の制度に適合するかどうかといった観点からも検討が加えられます。住居が定まらない、生活基盤があまりに不安定で長期的な処遇計画が困難、あるいは暴力団関係者などといった事情がある場合は、保護観察制度を通じた指導や援助に適合しにくく、実際に保護観察がつく事例は少ないように思います。Kさんのような有名人の場合もまた、その挙動が逐一注目されるという意味では、保護観察という仕組みに、適合しにくいと言えるかもしれません。

ところで、Kさんは先日の公判廷で、国のプログラムを受ける覚悟があると語ったそうですが、保護観察のなかで行われるプログラムに限定しなくても、自由意思で参加できるプログラムを備えた医療機関や、民間の団体などがいくらでもあります。画一的な国の制度と比べて選択の幅も広く、何よりも、義務として科される保護観察の場合と違い、自分の自由な意思で決めることができるのです。
執行猶予付判決を言い渡された後、生活再建と薬物離脱が本格的にスタートします。もう少し視野を広げて、道を探ってみてもいいのではないかという気がしています。

[参照]
@覚せい剤事犯者処遇プログラムについて
2009(平成21)年版 犯罪白書 第7編/第4章/第1節/1
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/56/nfm/n_56_2_7_4_1_1.html
A専門的処遇プログラムによる処遇の開始人員(2010〜2014年)
2015(平成27)年版 犯罪白書 第2編/第5章/第2節/2
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/n62_2_2_5_2_2.html
B覚せい剤取締法違反での執行猶予の状況
2014(平成26)年度司法統計年報 刑事編 第34表
http://www.courts.go.jp/app/files/toukei/033/008033.pdf

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内 容 ニックネーム/日時
薬物常用者、全てを依存という一言でくくって扱う事自体、根底から間違っていると思うのですが。依存という枠の外にいる常用者(薬物非依存常用者)に、一般の意味での「依存」から離脱するプログラムを適用しても効果も意味も無いどころか余計苦しませるだけであることに気づかないといけないのではないかと思いますが・・・モルヒネを例に考えれば、そのことは自明では?
lol again
2016/05/27 07:36

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