弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 「ラッシュ」は規制せず?|英、精神作用物質全面禁止法

<<   作成日時 : 2016/04/17 12:34   >>

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今年2月末、英国では、危険ドラッグなど精神作用物質の販売等を全面的に禁止する新法(精神作用物質法Psychoactive Substances Act 2016)が制定されましたが、4月上旬に予定されていた施行が延期され、細部の調整作業がまだ続いています。

問題点のひとつが、これまで法規制の対象になっていなかった亜硝酸エステル類(いわゆる「ラッシュ」)の扱いです。

議会で法案が審議される過程で、これを規制対象から除外するよう求める意見が提出されました。「ラッシュ」に有害作用があることは明白だが、健康被害の発生は比較的少なく、また、同性愛者の男性によく使われることから、これを規制すれば、より害の大きな薬物の使用が広まることになるというものです。
これに対して政府側は譲らず、「ラッシュ」をとくに規制から除外する必要はないとしてきましたが、施行までに再検討することを約束していました。

今年3月、薬物規制に関して政府に科学的な助言を行う諮問委員会(ACMD)は、内務大臣に対する答申として「亜硝酸エステル類のレビュー」を発表し、この答申を受けて内務大臣は、ACMDの解釈に同意する意向を示しました。
ACMDによる答申の内容や内務大臣の返答などから、英国メディアには、これで「ラッシュ」は規制対象から外れたと報じる動きもあります。とはいえ、発表された文書は、いずれも今後の規制について明言することを避け、微妙な言い回しをしているので、最終的な結論はまだ明らかになっていないようです。

ところで、上記のレビューでACMDが示したのは、
「ラッシュ」が高揚感をもたらすメカニズムは、脳や周辺部の血管を拡張させることによって一時的な高揚感をもたらすという間接的なもので、他の薬物が中枢神経系に直接作用を及ぼすのと異なっており、新法がいう「精神作用物質」にあたらない。
という解釈です。
私たちにはあまり馴染みのない内容ですが、薬物の作用を考えるうえで興味深い点を含んでいるので、参考までに、該当部分の概要を私訳して末尾に掲載します。関心のある方はお読みください。

「ラッシュ」をめぐる一連の議論は、有害性が確認されている物質であっても、多数のユザーがいる実態と、実際に発生している被害を比較し、規制対象に含めることの妥当性を考える、というものだったと思います。
法規制の根幹にかかわるこの点について、もっと掘り下げた検討を期待した向きも多かったでしょうが、今回は、肩透かしに終わっていまいました。

さて、ここで視点を日本に移しましょう。わが国では、2007年に指定薬物制度が導入された際に、亜硝酸エステル類6種は指定薬物に指定され、それまで「合法」として販売されてきた「ラッシュ」は店頭から姿を消しました。しかし、愛好者の支持は厚く、海外の販売サイトを通じて個人輸入するなどの形で入手する人たちは多く、規制後も水面下で一定量が出回ってきました。
その実態が明らかになったのは、昨年春の関税法改正によって、外国から輸入される指定薬物を税関が押収するようになったときです。本来、この改正は、中国などから輸入される危険ドラッグ原料薬物などを阻止するためのものでしたが、改正法が施行されたころには日本の危険ドラッグ禍はほぼ沈静化して外国からの原料輸入も途絶え、続々と摘発されたのは、これまで連綿と輸入され続けてきた「ラッシュ」でした。
想定外の皮肉な事態が、突然、目の前に出現したのですが、この問題に対して、一般市民はあまり関心を示していません。

多彩な危険ドラッグのなかでも、「ラッシュ」は少し違うという感触を持つ人は多いと思います。しかし、これまで日本では、こうした薬物に対する規制のあり方が論じられたことはありませんでした。
日本では、危険ドラッグとして出回るおそれがあり、有害性が確認された物質は、随時指定薬物に加えられてきました。最近指定された一酸化二窒素(シバガス)などのように、とくに目だった流通実態がないものも、予防的に指定されてきたのです。
残念なことに、市民社会でも、規制を導入すべきかどうか、突っ込んだ議論が展開されたことはほとんどありません。「もっと規制を」「もっと取締まりを」と求める声は上がるのですが、規制導入の適否を問う声はなかなか上がってきません。
危険ドラッグ禍が一段落したいま、薬物規制のあり方にも、少しは目を向けておきたいと思います。

<参考>
ACMDの「亜硝酸エステル類のレビュー」から、該当部分を抜出し、その概要を私訳で紹介します。下記の参照文献2〜3ページの部分です。
*****
2、「ラッシュ」には、精神作用物質法がいう意味での精神活性があるか?
2-1 「ラッシュ」は血管を拡張させて、血流を増加させる。一般に、これは亜硝酸塩から一酸化窒素が放出されることに関連するもので、これによって血管の平滑筋を弛緩し、血管の拡張をもたらすと考えられている。
2-2 平滑筋は、膀胱、消化管、膣、肛門括約筋など弾力性を必要とする身体の各所にもみられ、亜硝酸エステルはこうした平滑筋も弛緩させる。
2-3 吸引した亜硝酸エステル類は、すぐに血流に吸収され、瞬時に作用が発現する。血管拡張作用は血流の増加を促し、それによってしばしば血圧が一時的に低下し、鼓動が早くなりめまいが起きる。脳血管の拡張が温感や顔面紅潮を伴うことはよくあり、これがユーザーの感じる高揚感をもたらす。
2-4 脳は、脳やその周辺での血管肥大によって引き起こされた血流量増加による間接的な作用として、一時的な「ラッシュ感」や高揚感を感知する。こうした作用は、脳の血液関門の外側で起きるため、「周辺的」なものと考えられる。

「ラッシュ」吸入の主観的体験
作用は吸入してすぐに現れるが、わずか数分しか持続しない。心拍が早くなり、血流が頭部に急行し、人はめまいのような「ラッシュ感」を感じる。一般的に、脈打つような頭痛、立ち眩み、吐き気、時間が延びたようなスローダウン感覚、顔面や首周りの紅潮、軽いめまいなどが報告されている。
*****

[参照]
ACMDの答申「亜硝酸エステル類のレビュー」(2016年3月16日)
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/508179/Poppersadvice.pdf

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
やっと、自分も常に思っていたことが、書かれていることにうれしくなりました。
規制前に10年近く使用していたけど、後遺症などあるはずもなく、依存性など全くありません。
もう少し科学的に検証してほしいと思います。もちろん日本でも規制から除外すべきです。
YAMATO
2016/04/17 21:28
日本はちょっとでも有害性がありそうというだけで、何でもかんでも規制してしまう風潮が有りますよね。メリットがあってもデメリットがちょっとでもあればバンする。薬物に限ったことだけではなく。

レアケースの問題が起きただけで、大げさに取り上げ、大問題のように扱って、世論を誘導して国民を同意させ禁止に追いやる。国民も国民で洗脳されやすいし。どの方面でも行き過ぎた規制が多数あり、ちょっとルールから外れただけで、周りからは白い目で見られ、警察は鬼の首を取ったように検挙にはしり点数稼ぎ。

一方、極悪な行為や権威に対しては見て見ぬふり、事なかれ主義・・・なんで覚せい剤より極悪な電脳ドラッグ「パチンコ」がまかりとおっているのかも不思議でしょうがないです。我々はかなり歪で息苦しいシステムの中生きているように感じる日々この頃です。

愛国主義者ではありますが、はっきりいってこの国は生きづらいと思います。
lol again
2016/04/20 05:27
たばこや酒の方がよっぽど有害だが、税金を徴収できるから合法としているだけ。ラッシュにも税金かければいいんじゃない。
YAMATO
2016/04/22 21:30

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