弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 中高年が覚せい剤に魅入られるとき、その2

<<   作成日時 : 2016/02/08 04:01   >>

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それまで着実に生きてきた人が、人生の折り返し点まで来て、覚せい剤事件を起こすに至ったケースでは、その背景に、中高年の辛さ、生きにくさが垣間見えることが多いものです。
だからといって、逃避や救いを覚せい剤に求めては、耐え難い現状をさらに悪化させ、自分を追いつめることになるだけです。いえ、自分だけではありません。覚せい剤を使うことによって、大切な家族も巻き込み、追い詰めてしまうのです。

夫の覚せい剤に巻き込まれた妻たちの多くは、心にも、身体にも、大きな被害を受けています。でも、私が出会った女性たちのなかには、夫の身に起きた覚せい剤問題に直面して、自分の受けた被害さえ忘れて、問題解決に取り組んだ人が大勢います。
中高年の夫が覚せい剤にのめり込んだ時・・・妻たちの声を聞いてみましょう。

ここで取り上げるのは、私が担当した事件から、良く似た複数の事例を取り出してまとめ、多少の脚色も加えた仮想事例です。

●妻たちの証言・夫が知らない人に見えてきた
C子さんは40代後半の働く女性です。若い頃から専門職として働いてきたC子さんは、最近管理職に登用され、家庭と仕事の両立で多忙な日々を送っています。

会社員の夫は技術系の仕事をしていますが、最近稼働し始めた新製品の製造管理責任者として、郊外の工場に転勤になったため、生活パターンが大きく変わりました。日ごろから無口な夫は、今回の転勤についてあまり話したがらないのですが、C子さんの目には、不本意な人事異動に夫が苛立っているように見えていました。

C子さんの仕事が忙しくなり、夫の通勤時間が長くなったことで、夫婦で過ごす時間は急速に少なくなりました。もともと夫は人づきあいが悪いのですが、最近では、家族を避けている様子さえ感じられます。食事もそこそこに自分の書斎に閉じこもるようになり、また、次第に帰宅時間が遅くなり、家で食事をすることも少なくなってきました。
C子さんは、夫のそんな態度を気にしながらも、日々の忙しさのなかで、言葉を交わすことさえ減ってきました。

ある夜ふけ、C子さんは、娘のことで夫に相談があったことを思い出し、書斎の方へ声をかけました。返事さえしない夫に声をかけながら、書斎のドアを開けた瞬間、目の前に立ちはだかっていたのは、鬼のような、あるいは悪魔のような、怒りの表情で目をらんらんと光らせた夫でした。
思わずよろけるC子さんの体を、夫は乱暴に押しのけ、大きな音を立ててドアを閉め、ガチャリとカギさえかけました。C子さんは、ドアの外に倒れ込んだまま、長い間、声をあげて泣いていました。
その日から、夫は外出する際に、書斎にカギをかけるようになりました。

結婚して23年、最良のパートナーとはいえなくとも、それでも夫との家庭生活に、大きな波乱が起きたことはありませんでした。子どもが小さい頃はよく家族旅行をし、最近までは、週末に家族そろって食事に出かけることもありました。それが今では、C子さんと娘が談笑していると、夫は怒鳴り声をあげて席を立ち、ときにはC子さんに強い憎悪の目を向けます。
社交性に欠ける夫が左遷まがいの転勤を命じられ、悔しい思いをしていることは、C子さんにもわかっていました。でも、あの夜、鬼のような形相で彼女をにらみつけた、夫の目がC子さんを苦しめます。あの夜以来、夫が知らない人のように感じられるのです。
やがてC子さんは不眠に悩み、心療内科を訪れるようになりました。

そんな状態が1年ほど続いたでしょうか。ある日、C子さんの勤務先に電話がかかってきて、警察官だと名乗る男性から、夫を逮捕したと告げられました。カクセイザイが・・・と説明する男性の言葉が、遠い世界から聞こえてくるようでした。

夫が覚せい剤を使っていたという事実を突きつけられて、C子さんの胸にはある種の安堵感がありました。彼女を悩ませ、夢の中でうなされることもあった、あの夜の夫の目つきや、怒鳴り声、苛立ち・・・それがみんな覚せい剤のせいだと知ったのです。
しかも、夫は、薬物に溺れていることに、妻は気付いているだろうと言っているそうです。あの夜、夫の机の上には覚せい剤の注射器があり、ドアを開けたC子さんに見られたと、思い込んでいたのだそうです。
彼女を苦しめていたのは、夫ではなく、覚せい剤だったとようやく気づいたとき、C子さんは立ち上がりました。

●妻たちの証言・治療に向かう転機は事故だった
D子さん夫婦は、社長以下従業員が8人という、小規模な工場を経営しています。夫が社長、D子さんは名目上は専務ですが、パートの女性と2人で工場の事務兼経理をすべてまかなっています。工場と棟続きの住宅で、大学生の長男、高校生の次男との4人暮らしです。
工場は大手メーカーの下請けをやっていて、仕事が途切れることはありませんが、外国製の安い製品に押されて経営は次第に苦しくなり、この数年は、銀行への返済が大きな負担になってきました。

最近、D子さんは、夫の健康状態が気になって仕方ありません。1年ほど前からやせ始め、顔色が悪く、食事も進みません。ときどきひどく不機嫌になり、夜も眠れない様子で、遅くまで仕事場にこもることが増えました。
会社の資金繰りが苦しいことは、経理を担当しているD子さんにもよくわかっています。先行きへの不安から、うつ病になってしまったのだろうか、それとも胃腸に重大な問題でも起きているのではないだろうか。もしもガンだったらどうしよう。

やがて、家のなかに始終争い事が生まれるようになりました。たいていは、ほんの些細なことから始まるのです。「食事をしないと身体に悪い」「いちど病院で検査を受けてみたら」そんな言葉が夫を苛立たせ、怒りが爆発します。もともと声も身体も大きい人ですが、こんなに怒鳴り、妻や息子を突き飛ばすようなことは、これまでありませんでした。
ある日、例によって夫の怒りが爆発しました。怒鳴り、テーブルを叩きつけ、やがてその拳がD子さんの方に飛んできて、不意をつかれた彼女は倒れ、テーブルの角に叩きつけられてしまいました。呼吸が止まるほどの痛みのなかで救急搬送された病院で、肋骨が骨折していると告げられたのです。

D子さんの入院は、2か月に及びました。こんなに長く家を離れたのは初めてです。ぽっかり空いた時間のなかで、最初に考えたのは「離婚」でした。息子たちは、もう心配のない年齢になっています。生活の当てはないけれど、このままでは耐えられない、とにかく家を出ようと何度も考えました。
たまたま見舞いに来てくれた昔からの友人に打ち明けてみたところ、教師をしている友人は、意外なことを言い始めました。もしかしてアルコールか薬物かもしれないというのです。
D子さんは、病院の図書室で一般向けの医学書を読み漁りました。知れば知るほど、夫の状態は、薬物依存に符合します。退院するころには、C子さんの頭にはひととおりの知識が詰め込まれていました。

しかし、夫はそう簡単に動きません。「薬物を使っているのでは」と詰め寄る妻に対して、夫は大声で「馬鹿にするな」と怒鳴るだけで、全く受付けようとしないのです。息子たちも加わって説得しようとしても、話はなかなか進まず、こう着状態が続きました。
その間にも、夫の覚せい剤使用はエスカレートし、気分の浮き沈みはいよいよ激しく、爆発するように怒鳴り、ときには暴れます。

やがて、思いがけない形で、転機が訪れました。納品に出かけた夫は、途中で自動車事故を起こして病院へ運ばれたのですが、様子がおかしいことから医師が検査をして、覚せい剤の使用が発覚したのです。幸い自損事故で相手はなく、怪我の程度も軽く、数日で退院するとことができました。でも、退院と同時に、待機していた警察官に逮捕されました。
今度は夫も逆らうことはできません。裁判手続きの途中で保釈を得て、専門病院に入院し、彼の覚せい剤離脱がスタートしたのです。

●次回は、夫婦が二人三脚で取り組んだ、覚せい剤との戦いについてお話しします。

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