弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 「ラッシュ」についてまとめ

<<   作成日時 : 2016/01/12 23:50   >>

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突然ながら「ラッシュ」が話題になっています。NHK職員が危険ドラッグ所持で逮捕されたニュースで、その薬物がどうやら「ラッシュ」らしいというのです。小さなガラス瓶に入った液体状の指定薬物となると、最初に思い浮かぶのは、やはりこれです。
ひところ、危険ドラッグの一タイプとして、「アロマ」「リキッド」などと呼ばれて出回った水溶液タイプも、同じような瓶入りですが、危険ドラッグの製造、販売ルートが壊滅した今、水溶液タイプが一般人の手元にあるというのも、いささか妙な感じです。
昨夜以来、いわゆる「ラッシュ」について、説明を求められることが重なっているので、このサイトにも、簡単なまとめを載せておきます。

●いわゆる「ラッシュ」とは
一般に「ラッシュ」と呼ばれるのは、亜硝酸エステル類(R-O-N=O)を含む吸入剤のことです。「ラッシュRUSH」というのは、米国で製造される特定の商品の名称ですが、このブランドが広く知られているため、日本ではこの種の製品一般を指すものとして、この名称が使われることがあります。
当サイトでは、読者に馴染みのある名称として、これまで「ラッシュ」の名を主に使ってきましたが、今回は、まとめの記事を書くので、とりあえず以下では、正式に「亜硝酸エステル」の名を使うことにします。

亜硝酸エステルの吸入剤は、揮発性の液体で、大人の親指くらいの小さなビン入りで流通しています。
液体は室温で気化し、その気体を吸引することで多幸感がもたらされますが、その感覚はわずか数分で消失します。ユーザーの多くは、性的興奮を促進する目的でこの薬物を使用するといい、媚薬や催淫剤のような感覚で広まっています。
欧米では、1980年代から亜硝酸エステル類を吸入剤として乱用することが広まりましたが、早い頃には、ガラス製のアンプル入りの製品として出回り、このアンプルを指先で割るとポンという音がすることから、英語圏では「ポッパーズPoppers」と呼ばれるようになりました。

●乱用による危険性
亜硝酸エステル類を使用すると、その血管拡張作用により、血圧が低下し、時には危険なレベルに至ることもあるため、心臓に問題のある人や、低血圧気味の人、血圧降下剤を服用している人にとって、その使用は非常に危険です。また、シルディナフィル(バイアグラ)との併用は、とくに危険だとされています。

亜硝酸エステル類の乱用は、健康な人にとっても、さまざまなリスクがあり、死亡例の報告も少なくありません。
この薬物の使用後に、めまいや気分の悪さ、吐き気や頭痛を感じることがあり、ときには、意識を失うこともあります。アルコールと併用すると、こうした危険性はさらに高くなり、意識を失った状態で吐しゃ物をのどに詰まらせて、窒息死した例もあります。
また、亜硝酸エステル類を使用中に不整脈を引き起こして、突然死に至ったケースもあります。
亜硝酸エステル類は皮膚に対する刺激性があり、ユーザーは、液体の飛沫で鼻や口の粘膜や皮膚が荒れることがよくあります。誤ってこの液体を飲むと、非常に危険です。日本でも誤飲による死亡例があるようなのですが、古いことで、確認できませんでした。

さらに、2006年ころから、成分として亜硝酸イソブチルを使う製品がふえてきましたが、そのころから、亜硝酸エステル製品使用に関係すると思われる、重大な視力障害の発生がしばしば報告されるようになりました。薬物の作用と発症のメカニズムはまだ解明されていませんが、報告症例は次第に増加しており、有力な学術誌「ランセット」の2014年11月号には、眼科医の症例報告と亜硝酸エステル乱用への警告が掲載されています(下記参照@)。

なお、DSM‐5には「これらの物質が、物質使用障害を起こすかどうかは確定していない。耐性が生じる一方で、これらのガスは中枢作用を変化させることはなく、末梢作用のみを目的として使用されているのかもしれない.」との解説があります(医学書院・2014年・572頁)。

●日本での流通実態
日本で、これが「合法」と称して販売されていたのは、もうひと昔ほど前のことになります。「合法」と称して販売される危険ドラッグに対して、いち早く監視・指導の体制をとってきた東京都は、1996年ころからこれら商品の流通を確認してきたといいます。
当時の日本は、第一次の危険ドラッグ流行期にさしかかっており、アダルトショップなどを中心に、多様なケミカル・ドラッグや亜硝酸エステル類(亜硝酸イソブチルを含むものが多かったようです)などが販売され、様々な健康被害が発生していましたが、法規制が後手に回り、社会問題となり、こうした状況に対処するため、検討を重ね、創設されたのが指定薬物制度(平成18(2006)年6月14日法律第69号による薬事法改正。施行日は平成19(2007)年4月1日)です。
2007年2月28日、指定薬物制度が導入されて、最初の指定薬物の指定が行われた際には、当時市場に出回っていた亜硝酸エステル類6種が、一斉に指定薬物に指定され、規制対象となりました。

指定薬物制度の導入は見事な成果をもたらし、それまで「合法」をうたい文句に販売されていた危険ドラッグは、たちまち市場から姿を消しました。
画像

↑指定薬物として規制されている亜硝酸エステル類
厚生労働省サイト内「指定薬物名称・構造式一覧」より抜粋(下記参照A)

表面だけをみれば、その時以来、亜硝酸エステル類の吸入剤は、日本の危険ドラッグ市場から消え、二度と姿を現してはいません。その後、2011年ころから、いわゆる脱法ハーブを中心とした危険ドラッグの第二波が日本を飲み込みましたが、すでに指定薬物として規制されていた亜硝酸エステル類が、販売店の店頭に並ぶことは、もちろん、ありませんでした。
しかし、他の薬物では得られない特異な効果があるとして、水面下では、規制後も連綿としてユーザーはこの種の吸入剤を入手しては使い続け、特定の愛好者の間では、売買も行われてきました。海外からの個人輸入という抜け道があったのです。

亜硝酸エステル類は、日本では、指定薬物として規制されましたが、欧米での規制状況にはばらつきがあり、またその取締りの程度も、国ごとに様々なため、インターネット上には、poppersを販売するサイトが多数あり、「合法」と称して世界のユーザーを相手に販売しています。日本のユーザーも、こうしたサイトにアクセスし、簡単に注文入することができるのです。

指定薬物制度の下では、外国からの輸入は禁止されています。しかし、税関検査の背景となっている関税法は、指定薬物制度が導入された後も、長い間、指定薬物を輸入禁制品とする改正が行われず、税関は、指定薬物の輸入を発見してもこれを輸入禁制品として押収することができない状態が続いていたのです。
もちろん、国内で規制されている指定薬物をそのまま日本に入れるわけにはいきません。輸入者に放棄を促して廃棄処分したり、発送者に返送したり、悪質な場合は警察に連絡したりといった苦肉の対応が続きました。また、輸入される膨大な品物の全てを検査するわけにいかないため、税関検査をすり抜けて、そのまま国内に流入してしまうものもありました。
指定薬物として輸入は禁止されているけれど、個人輸入で入手するのは意外に簡単、もし税関で発見されても、逮捕されることはない・・・こんな見方が、広がってしまったのでしょう。日本に流入する亜硝酸エステルの吸入剤は次第に増え、規制は空洞化していきました。

危険ドラッグ流行の陰で、店舗で販売されている危険ドラッグとは別なルートで、愛好者の手から手へと、個人ルートで広まる形で、亜硝酸エステル吸入剤も、独自の広がりを見せていたことになります。

この状況が大きく変化したのは、昨年春のことです。2014年夏に発生した池袋暴走事件をきっかけに、危険ドラッグに対する取締まりが強化されるなかで、関税法の改正が行われ、指定薬物も、覚せい剤や麻薬と同じく輸入禁制品となったのです。
2015年4月、改正関税法が施行されるとともに、全国の税関では、続々と指定薬物の輸入が摘発され始めましたが、そのほとんどが亜硝酸エステル吸入剤という状況でした(下記参照B)。
各税関での摘発報告が続くなかで、改めて、法規制の水面下で流入し続けていた亜硝酸エステル吸入剤の実態に驚かされたものです。このタイプは、危険ドラッグのなかでも少し特殊な性格をもっているため、他のもので代替することに満足しないユーザーが多く、規制後も人気が衰えず、個人輸入という形で入手を試みる人が多く、ユーザー間での譲渡や小規模な売買も行われてきました。
外国での流通量の多さも、入手しやすさにつながった要因の一つでしょうか。

ともあれ、個人輸入の抜け穴は、いまではかなり堅固に塞がれました。また新たな抜け穴を探すユーザーもあるでしょうが、今度はいささか苦労することでしょう。愛好者諸君、そろそろ抜け穴探しをあきらめて、薬物に頼らない充実感を探すときが来ていますよ。

[参照]
@ラッシュによる失明に関する学術誌の記事(2014年)
Dr Anna M Gruener ,etal., Poppers maculopathy, The Lancet Vol.384, No. 9954, p1606, 1 November 2014
A厚生労働省サイト内情報
「指定薬物名称・構造式一覧」
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakubuturanyou/dl/meisho.pdf
B財務省の報道発表(2015年6月19日)
「関税法改正後の指定薬物密輸事犯の摘発状況」
https://www.mof.go.jp/customs_tariff/trade/safe_society/mitsuyu/other/ka20150619.htm

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
>催淫罪

「催淫剤」ですねw
滅智蓮寺 熾
2016/01/13 03:12
ご指摘ありがとうございます。
訂正しました。
小森 榮
2016/01/13 04:22
薬物に頼らない充実感?

持つ者と持たざる者、支配者層と被支配者層。
すべて見えてしまうこの世界で、充実感?
自殺者3万人を超えるこの国で、充実感?
カネカネカネで大切な者を失ったこの世界で、充実感?
政府と資本家の奴隷になることを、幼い頃から洗脳されて。充実感?
先進国の人ほどドラッグを求める。
アジアの途上国も穏やかに暮らしていたのに、いまやドラッグまみれ。

こんなくだらない世界で素面でいられますか?
システムから脱却して、自分を構築しない限り、充実感は得られない。
システムから脱却の手助けになるのがドラッグによる意識改革なのです。

システムの受益者が、底辺を彷徨う者への共感を失い上から目線だと、憎しみと悲しみが渦巻く混沌と世界になるでしょう。
m
2016/01/13 07:07
訂正ー混沌とした世界。

弁護士、医師、教師、

弱者、患者を指導するのではない。
寄り添い共感するのです。

弱者叩きが横行す日本、馬鹿らしい。

m
2016/01/13 07:15

米国の雑貨店、ガソリンスタンド売店等で販売されているRUSH類。
国内の個人輸入ユーザが根絶しない理由の一つは、米国で普通に販売されている点だと思います。

感覚的には例えば、日本で発売出来ないエナジードリンク『モンスターエナジー 高濃度カフェイン濃縮版ワンショット』みたいな存在だと思われます。
雑貨店でRUSHが10ドル程度で、簡単に購入出来るハワイでは、手土産にダース単位で購入する日本人が大勢居るそうです。

彼等のリスクは、ホノルル空港国際線出国ゲート付近で、手荷物エックス線検査時に、容易に見付かります。
米国のセキュリティ監視体制は圧倒的に他国を上回り、日本人が安易にアプローチすると米国の法律が待ち受けています。

もし日本人が出国ゲートで持ち込みが発見された場合、彼等はどの様な言い訳をするのか気になります。

検査官に対して『催淫剤』として持ち込んだと説明しても、同意、理解は難しいと思います。

むしろ、揮発性液体を数ダース持ち込んだ事で、『君は爆破テロを企てただろう』と見られる可能性があります。

とてもリスクが大きいと思います。

神流美 王井門
2016/01/13 14:26

一部、コメントを訂正します。

『モンスターエナジー高濃度カフェイン濃縮版ワンショット』 → 『エナジードリンク 高濃度カフェイン濃縮版 ワンショット容器入り』へ、コメントを訂正します。


神流美 王井門
2016/01/14 12:28
欧米では、すべての国ではないが、アルコールやタバコは隠れるようにして買わないといけない。
未成年に売るなんてことは、それこそ重大犯罪のようです。

法律や常識なんてものは、政治や経済論理によって作られ運用される。
国家は国民の為に存在しているわけではない。
m
2016/01/15 14:48
っていうか、米国では規制されてないんだから、飛行機に持ち込んでも何も問題ないでしょ。
米国人にとっちゃ、日本の法律なんて関係ないし。
A
2016/05/16 22:32

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