弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 危険ドラッグ暴走による死亡事故、2事件の対比

<<   作成日時 : 2015/11/20 22:40   >>

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昨年の初夏、相次いで起きた危険ドラッグ影響下の自動車暴走によるの2件の死亡事件(危険運転致死事件)の裁判で、動きがありました。
危険ドラッグ暴走による危険運転致死事件としては、私が把握している限りでは、これまでに以下の判決が言い渡されています。いずれも死亡者1名の事件で、他に負傷者はいません。
・2014年1月、香川県で発生した女子児童死亡事故(危険運転致死)
 高松地裁2015年1月26日判決、懲役12年(求刑・懲役15年)
・2012年10月愛知県で発生した女子高校生死亡事故(危険運転致死、道路交通法(救護義務)違反)
 名古屋地裁2013年6月10日判決、懲役11年(求刑・懲役12年)

●長野の危険ドラッグ死亡事件で判決・・・長野地裁
昨年5月、長野県中野市で発生した、消防士だった青年が死亡、ほかに2人が負傷した事故。危険運転致死、自動車運転過失傷害、道路交通法違反の罪で起訴された元少年に対する裁判員裁判で、今日、長野地方裁判所は、懲役13年という厳しい判決を言い渡しました。

<ニュースから>*****
■元少年に懲役13年の判決、長野 危険ドラッグ事故
昨年5月、長野県中野市の県道で危険ドラッグを使って乗用車を無免許で運転し、3人を死傷させる事故を起こしたとして、危険運転致死傷などの罪に問われた同県須坂市の元少年(21)の裁判員裁判で、長野地裁は20日、懲役13年(求刑懲役15年)の判決を言い渡した。
伊東顕裁判長は、元少年が同乗のS被告(23)=危険運転致死傷ほう助罪などで起訴=と事故前に危険ドラッグを吸い、S被告が手足を硬直した状態になるのを見たのに、吸引しながら運転を続けたと認定。「アルコールによる危険運転致死の事案よりも危険性の高い犯行」と述べた。
共同通信2015年11月20日 17:55
*****

運転していたのは当時19歳の少年、当然、この事情は量刑に加味されます。
しかし、今日言い渡された判決が、これまでの危険ドラッグ暴走による死亡事件のなかで最も厳しいものになったのは、理由のあることです。
そもそも、この裁判では、2件の交通事故が併合して審理されました。第1の事故は、2013年12月中旬、酒気を帯びて自動車を運転していた被告人が赤信号を無視して被害車両に衝突し、乗車していた3人に全治約15日から8日の傷害を負わせたというものです(自動車運転過失傷害、道路交通法違反)。
その約5か月後の2014年5月、運転免許停止中で無免許であったにもかかわらず、危険ドラッグを吸いながら自動車を運転して、第2の事故を起こし、対向車線を走行していた3台を巻き込み、1名を死亡させ、2名に傷害を負わせる(うち1名は1年近い治療を要した重症)という重大な結果となりました(危険運転致死、道路交通法違反)。

交通事件では、被害の重大さ(死亡者の人数、負傷者数と負傷の程度)が量刑の第一の要因となります。2件の事故による死亡者1名、負傷者が合計5名という結果の重大さは、科される刑を引き上げる大きな要素です。加えて、わずか半年足らずの間に、飲酒と危険ドラッグによる2回の人身事故を起こし、2回目の事故では無免許であることを意に介さずに運転したという、規範意識の鈍麻も重視されたことでしょう。

第2の事件では、もともと自動車を運転していた同乗者が、危険ドラッグを吸引してカタレプシーの状態になり、事故を起こす危険性があったため、被告人が運転を交代したといいます。判決は、一緒に危険ドラッグを使った人が目の前で手足を硬直させているのを見ていながら、運転を中止せずそのまま運転し続けた点で、危険性の高い犯行であるとしています。
危険ドラッグによる交通事件の判決では、これまでも、薬物の影響を感じ始めた時点で運転を中止すべきであったのに、漫然と運転し続け、重大な事故を起こしたことが非難されてきました。とくにこの事案では、何度か、運転を中止すべきタイミングもあったにもかかわらず、運転を継続したことから、非難の度合いも高くなるでしょう。

池袋暴走事件では懲役10年の求刑・・・東京地裁
危険ドラッグ暴走事件のなかでも、被害の重大さという点で際立っているのが池袋暴走事件で、1名を死亡させ、6人に傷害を負わせたというものです。今日、東京地裁で開かれた公判で、検察官は被告人に対して懲役10年を求刑しました。

<ニュースから>*****
■池袋暴走、男に懲役10年求刑=危険ドラッグ、7人死傷−東京地裁
東京・池袋で2014年6月、危険ドラッグを吸引して車を運転し、7人を死傷させたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪に問われたN被告(38)の論告求刑公判が20日、東京地裁(安東章裁判長)であった。検察側は「正常な運転に支障が生じる恐れがあると認識していたことは明らか」と述べ、懲役10年を求刑した。
弁護側は最終弁論で「認識していなかった」と主張し、結審した。判決は来年1月15日。
時事通信(2015/11/20-18:13)
*****

従来の危険運転事件は、旧刑法208条の2第1項前段が定める危険運転致死罪で処断されてきました。ところが、池袋暴走事件では、昨年施行された自動車運転死傷行為処罰法(以下「新法」といいます。)3条で新たに設けられた危険運転致死罪が適用されています。

旧刑法の危険運転致死傷罪とは、「正常な運転が困難な状態にある」ことを認識しながらあえて自動車を運転し、その結果、人を死傷させた場合について、「故意犯」(結果的加重犯)として、傷害罪や傷害致死罪に準じた処罰を科すという規定です。たとえば危険ドラッグを吸引した場合、使用した危険ドラッグの影響で正常な運転が困難な状態になっていることを認識していながらあえて自動車を運転したと、認定されることが必要なのです。

新法は、旧刑法の危険運転致死傷罪の規定をそのまま2条においていますが、それに加えて、3条に新たな危険運転の類型を設けました。
[2条1号]
 ・アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
 ・人を死亡させた場合の法定刑・1年以上の有期懲役
[3条1項]
 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷(死亡)させた者
 ・人を死亡させた場合の法定刑・15年以下の懲役

新設された3条危険運転致死傷罪(私は「準危険運転致死傷罪」と呼んでいます)は、従来の危険運転致死傷罪で要求されている主観的要件(危険性の認識の程度)を緩和し、「その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とその認識で足りるとしています。
これまで、薬物影響による危険運転事件は、アルコールのケースと比べて事例が少なく、とくに、基本的な薬理作用や体内での代謝などもほとんど解明されていない危険ドラッグ事件では、検察官の立証に少なからぬ困難が指摘されてきましたが、新法が施行されて以来、薬物影響類型の事案は、要件を緩和した3条の適用が中心になっていくことでしょう。

そこで浮かび上がるのが、量刑の問題です。
3条危険運転の法定刑は、15年以下の懲役と定められています。これまで旧刑法の規定が適用されてきた事案と、量刑の基準が異なるわけです。
事件の外形はきわめて共通点が多いにもかかわらず、たまたま司法手続きの時期が違ったことから適用される法律が異なり、その結果、処断される刑に大きな差が出るという事態が生じることにならないか、私はずっと懸念してきました。

池袋暴走事件の判決は、1月15日に予定されているそうです。これまでの危険ドラッグ暴走による死亡事件とのバランスが、果たしてどこまで保たれるのか、判決に注目するつもりです。

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