弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 危険ドラッグ対策レビュー・11

<<   作成日時 : 2015/08/10 23:56   >>

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「危険ドラッグ対策レビュー・10」2015/07/31からの続きです。
前記事http://33765910.at.webry.info/201507/article_14.html
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⑶ 進まなかった健康被害の把握

@ 健康被害情報を収集する制度
 今次の危険ドラッグ流行にあたって、わが国では、健康被害の状況把握がなかなか進みませんでした。
 世界の先進国でほぼ同時に進行している危険ドラッグ問題に関して、欧米各国からは現状を把握するためのデータが続々と発信されているのに、わが国では、健康被害の発生状況が把握できず、散発的に報じられる死亡事故や、救急搬送事例などを手掛かりに、動向を推測するしかないという状況が続いたのです。
 日本にも、麻薬中毒者を管理し、治療するための制度がなかったわけではありません。1963(昭和38)年に麻薬取締法(現在の麻薬及び向精神薬取締法)が改正された際に、麻薬中毒者の通報、治療、相談に関する制度が新たに設けられています。法は、医師、麻薬取締官、警察官等が麻薬中毒者またはその疑いのある者を発見したときは都道府県知事に届出・通報しなければならず、知事は必要に応じて、その者に診療を受けさせ、また入院等を命じることができると規定しています[1]。
 この制度が生まれた当時、神戸や横浜の青線地域を中心としたヘロイン密売地域が生まれ、対策が求められていたのですが、1962年の夏、密売ルートに供給されるヘロインが途絶したことから、禁断症状に苦しむヘロイン中毒者が街にあふれ、一気に社会問題化したことが[2]、この制度誕生の直接のきっかけになりました。
 改正法が施行された1963年7月から同年12月までの半年間に、入院措置がとられた中毒者は1,715人にのぼりましたが[3]、その後、麻薬乱用は急速に減少し、近年では新たに届出される麻薬中毒者は極めて少数にとどまっています[4]。この制度は麻薬、大麻、あへんによる中毒者を対象としていますが、戦後広まっていたヘロインなどの麻薬の乱用が減少した後、わが国では乱用薬物の中心は覚せい剤になりましたが、覚せい剤による中毒者はこの制度の対象とはされないまま、やがて制度そのものが形骸化してしまったのでしょう。
 今次の危険ドラッグ流行に直面したとき、新たな薬物による被害の拡大を把握し、対処するための情報収集の仕組みがないことに、私たちは、改めて気づかされたのです。

A 米国での中毒状況の把握
 米国では、新たな薬物の乱用が拡大し、健康被害が発生した場合には、暫定指定によって新規薬物に対する規制が導入されることが多いのですが、その検討過程で、薬物乱用の拡大状況を示す指標として中毒事故の発生データが使われています。
 データを構成するのは、疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention :CDC) による中毒事例の調査記録や、全米中毒情報センター協議会(American Association of Poison Control Centers:AAPCC)に寄せられた中毒の問合せ件数の集計です。
 前章で取り上げたADB-PINACA など合成カンナビノイド3種に対する暫定指定のケースでは(4−⑷−@)、ADB-PINACA に関して、CDCの資料によると、2013年8月にジョージア州で22人が救急搬送されるという事態が発生し[5]、またコロラド州では同年8、9月に200人以上の救急患者が確認されたと報告されています[6]。また、2013年1〜12月に、AAPCCには合成カンナビノイド製品に関する中毒報告2,639件が寄せられていることも取り上げられました[7]。
 ここで取り上げられた疾病予防管理センターや、全米中毒情報センター協議会の調査報告や集計データの詳細は、各機関のホームページで公開され、誰でも最新のデータを参照することができます。

B 地方の取り組み
 全国レベルでの実態把握が進まない中でも、2012年春、危険ドラッグによると思われる救急搬送の急増が注目を集め、さらに死亡事故が相次いで報じられるなかで、前述した愛知県と同じように、自治体レベルで実態把握に動き出した例が、いくつかあります。
 たとえば大阪府の場合、医療機関の協力を得て、2012年5月から集計を開始し、現在に至るまで、毎月の集計値を同府ホームページ上で公開しています。その情報は、対象者の性別、年齢層のほか、主な症状についてもまとめられているので、実務の参考として利用しやすいものになっています[8]。
 私が、気付いた範囲内で、自治体が発表した情報を拾い出しておいたものを以下に並べてみました。いずれも、自治体独自に、消防や医療機関からの情報提供を受けて、危険ドラッグによると疑われる事例をとりまとめたものです。
<危険ドラッグ関連の救急搬送者数のとりまとめ>
■大阪府 2012年5月分から集計
   2012年(5−12月)・・・95人
   2013年(1−12月)・・・43人
   2014年(1−12月)・・・67人
   2015年(1−7月)・・・ 1人
■岐阜県[9] 
   2011年・・・18人
   2012年・・・22人
   2013年・・・11人
   2014年・・・21人
■石川県[10] 2012年11月から集計開始 
   2012年・・・6人
   2013年・・・5人
   2014年・・・2人
   2015年・・・0人
■富山県[11] 2012年1月分から集計 
   2012年・・・8人
   2013年・・・4人
   2014年・・・6人
■沖縄県[12] 
   2012年・・・40人
   2013年・・・19人
   2014年・・・33人
 
⑷ ようやく見えた全体像

危険ドラッグによる健康被害の全体像が、ある程度把握されるようになったのは、2014年下期になってからでした。2014年6月の池袋暴走事件をきっかけに、危険ドラッグに対する問題意識が広く共有され、世論が盛り上がるなかで、政府をあげて緊急対策が動き出したなかで、総務省消防庁が、危険ドラッグによる救急搬送データの全国規模での緊急調査を実施したのです。

@総務省消防局の調査
 2014年9月、総務省消防庁は、全国の消防本部が把握している記録を遡って調査し、平成21年1月から平成26年6月までの間の「危険ドラッグ」によるものと疑われる救急搬送人員数を発表しました[13]。発表に当たって消防庁は、この調査は、過去の救急活動記録から「ドラッグ」、「ハーブ」等のキーワードを検索し件数を集計したもので、あくまでも参考値であるとしていますが、それまでこうした集計が全くなかったなかで、ようやく全国規模で、危険ドラッグ関連の救急搬送数の推移が目に見える形になりました。
 発表された資料によると、全国の救急搬送人員は2011年1月から2014年6月までの間で4,469人にのぼっています。
 消防庁の資料に基づき私がグラフ化したものを下に掲げましたが、救急搬送数は2012年に急増し、1,785人に達した後ゆるやかに減少し始めています。なお、グラフでは、2014年に関しては、発表された1〜6月までの集計数値を単純に2倍にした推計値で表示しましたが、実際には2014年下期には救急搬送数はかなり減少したと思われますが、その後のデータは公表されていません。
画像

↑危険ドラッグによるものと疑われる救急搬送の状況
 総務省消防局の公表データに基づきグラフ化したもの

<出典と参照>
[1] 麻薬及び向精神薬取締法58条の2〜28条の19
[2] 第40回国会、参議員社会労働委員会(1962年07月13日)で、政府説明員(厚生省薬務局長)は、同年7月初旬、麻薬の中毒患者が横浜市内において禁断症状を起こして、そのために不穏な形勢がまた見られると報告している
[3] 昭和40年版 犯罪白書 第一編/第二章/四
[4] 厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課「2015年版・麻薬・覚せい剤行政の概況」によれば、2013年に届出のあった麻薬中毒者は4名となっている
[5] CDC, Notes from the Field: Severe Illness Associated with Synthetic Cannabinoid Use — Brunswick, Georgia, 2013, November 22, 2013
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6246a7.htm
[6] CDC, Notes from the Field: Severe Illness Associated with Reported Use of Synthetic Marijuana — Colorado, August–September 2013, December 13, 2013
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6249a7.htm
[7] AAPCC, Synthetic Marijuana Data
https://aapcc.s3.amazonaws.com/files/library/Syn_Marijuana_Web_Data_through_7.6.15.pdf
[8] 大阪府「危険ドラッグの使用によると疑われる健康被害状況について」
http://www.pref.osaka.lg.jp/yakumu/ihoudrug/idorakenkouhigai.html
[9] 岐阜県業務水道課「危険ドラッグが疑われる救急搬送情報調査結果」2015年7月18日
[10] 石川県「県内でも健康被害が発生しています」最終更新平成27年6月末 
[11] 富山県「県内における「危険ドラッグ」の使用によると疑われる健康被害事例」
[12] 沖縄県「危険ドラッグが起因と疑われる救急搬送事例について」2015年1月30日
[13] 総務省消防局、報道発表資料「『危険ドラッグ』によるものと疑われる救急搬送の状況」2014年9月19日

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続きは「危険ドラッグ対策レビュー・12」へ
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