弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 覚せい剤使用事件と鑑定

<<   作成日時 : 2014/07/23 16:11   >>

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ある人物が、覚せい剤を使用したか、つまり、覚せい剤を覚せい剤と分かって摂取したかどうかが問われるのが、覚せい剤(自己)使用事件です。覚せい剤使用事件といえば、必ず登場するのが尿中覚せい剤の鑑定、通称「尿鑑定」ですが、それだけではありません。覚せい剤使用事件では、ときに様々な鑑定書が登場しています。

●尿鑑定とは
覚せい剤使用事件では、ある人物が覚せい剤を摂取したという客観的事実とその人物がその際覚せい剤と分かっていたという主観的事実(故意)が存在することが立証される必要があります。

覚せい剤摂取という客観的事実を立証する証拠は、通称「尿鑑定」とよばれるもので、専門家(鑑定官)が、対象者から採取した尿中に覚せい剤成分が含まれていることを科学的に判定したものです。
人が摂取した覚せい剤は、血流にのって体中をめぐり、やがて代謝されて尿や汗などとともに体外へ排出されます。摂取後4、5日で体内の覚せい剤はほとんど排泄され、その後は排泄される量がごく少量になるという研究報告もありますが、体質や体調、摂取量などによって排泄の状況は異なり、摂取後12日目ころまで排泄が確認された例もあります。
そこで、尿中から覚せい剤成分が検出された場合、採尿から遡って14日くらいの間に、何らかの方法で覚せい剤が体内に摂取されたという見方がとられています。その間複数回摂取された可能性があるので、事件の処理としては、その間に最後に摂取された覚せい剤(いわゆる「最終使用」)が問題とされています。つまり、尿から検出された覚せい剤成分は、被告人が最後に摂取した覚せい剤の成分であるという前提で、処理されています。
ですから、覚せい剤使用の否認事件では、逮捕された日から遡って、14日くらいの間が犯行の日時として主張されます。例えば、「●月上旬ころから●月21日(逮捕日)までの間に」など。犯行の場所も、その間に移動した場所が主張されます。例えば、「東京都内、埼玉県内、栃木県内又はその周辺において」など。最高裁はこのような幅のある公訴事実の記載を有効としていますので、裁判所もその公訴事実の有無を認定することになります。
(なお、昔は、尿鑑定によらず他の状況証拠によって覚せい剤の使用を認めた判決もありますが、現在では、そのような雑な裁判はないと思います。少なくとも私は尿鑑定書のない使用事件を経験したことはありません。)


しかも、尿鑑定、つまり尿から覚せい剤が検出されたこと、は覚せい剤使用の客観的事実を立証するにとどまるものではありません。
尿中に覚せい剤成分が検出されたという鑑定は、覚せい剤使用の故意を裏付ける最も有力な証拠でもあり、たとえ本人が故意を否定しても、覚せい剤使用の故意が認定されることがあります。

最近の裁判例には、被告人の尿から覚せい剤成分が検出された場合には、特段の事情がない限り、被告人が何らかの方法で自らの意思で覚せい剤を摂取したものと推認できる、とした例が少なくありません。つまり、尿から覚せい剤が出たときは、覚せい剤と分かって使用したこと(故意)が推認できるとするものです。
覚せい剤は厳しく取り締まられている禁制薬物であり、高い価格で違法に取引されているので、通常の社会生活のなかでそれと知らずに体内に摂取されることはありえないことなどが、推認の根拠としてあげられています。

ですから、尿から覚せい剤成分が出た以上、被告人としては、推認を妨げる「特段の事情の主張」を迫られることになります。

尿鑑定は、科学捜査研究所などの機関で、専門家の手で行われます。鑑定を依頼されたサンプル(尿)から成分を抽出し、科学的な検査を行ってそれが間違いなく覚せい剤であることを確かめるのが、この鑑定です。

なお、警察署などで採尿した後、警察官が簡易検査キットを使って尿の一部について簡易検査(予試験)が行われますが、これは、正式な鑑定とは原理も方法も全く異なり、簡易検査の結果そのものが覚せい剤使用の証拠として使われることはありません。
ただし、簡易検査が陽性であるときは、覚せい剤を使用したことを疑わせる事情があることになるので、逮捕(緊急逮捕・通常逮捕)の大きな理由となります。

●その他の鑑定書
覚せい剤使用事件では、他にも様々な鑑定書が証拠として提出されることがあります。とくに、本人が使用を否定している場合には、その使用を側面から裏付けるために、検察官は多様な証拠を準備することになります。
以下はいずれも、対象者の覚せい剤使用を直接的に証明するものではなく、被告人の主張する特段の事情に齟齬する事情として、つまり、尿から覚せい剤が検出されたことによる推認を強める事情を立証する証拠として使われるものです。
よくみかけるものをあげてみましょう。

[毛髪鑑定]
近年、一般の覚せい剤事件でも、しばしば毛髪鑑定が行われていますが、通常、毛髪鑑定で証明しようとするのは被告人の常習性であり、尿鑑定に代えて覚せい剤使用を証明するものでありません。
人体に摂取された覚せい剤の一部は毛髪に取り込まれるので、覚せい剤を使った人の毛髪には、ごくわずかながら覚せい剤が含まれることになります。しかし、毛髪中に保持される量はごく微量であり、たまたま1回や2回使った程度で、毛髪から覚せい剤を検出することは難しいとされます。つまり、毛髪中に覚せい剤が検出されたとすれば、その人は、ある程度常習的に覚せい剤を使用していたと推定されることになります。
現状では、尿中に覚せい剤が検出されたにもかかわらず、本人が使用を否定している場合に毛髪鑑定が行われることが多く、私が経験したケースでは、いずれも、本人が覚せい剤を連用していたことを立証し、否認を覆すために毛髪鑑定が行われました。

[器具などに付着した覚せい剤の鑑定]
覚せい剤乱用者の身辺には、覚せい剤にまつわる物がいろいろ残されています。たとえば、加熱吸引に使ったパイプや注射器、空になったビニール袋、覚せい剤粉末を水に溶かす際に使ったスプーン・・・。
こうした器具に残された覚せい剤の痕跡を調べるために、付着物を採取してそれを分析鑑定することもあります。

[DNA型鑑定]
たとえば、加熱吸引に使ったと思われるパイプが発見されているが、被疑者はそれを使ったことがないと主張しているような場合、被疑者がそのパイプを使ったかどうかを調べるために、DNA型鑑定が行われることがあります。
検査は、まず、吸引具の吸い口に付着した唾液を採取し、そのDNA型を検査します。いっぽう、被疑者から採取した口腔粘膜などについてもDNA型を検査します。両者のDNA型が一致すれば、数百億人に1人という精度で、吸い口の唾液は被疑者のものと判定されることになります。

よくあるタイプの覚せい剤使用事件でも、場合によっては、上記で取り上げたような多様な鑑定が行われ、裁判で、何種類もの鑑定書が請求されることもあります。私たち弁護人にも、様々な鑑定の意味を理解し、そこで行われる実際の分析手順を把握しながら、各種の鑑定書を読み解き、検証をすることが求められています。
科学捜査の進歩によって、事件処理の制度が高められていく中で、日々進展している技術を追い続けるのも、なかなか骨の折れることではあります。

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