弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 覚せい剤輸入の逆転有罪事件、最高裁の判断が出ました

<<   作成日時 : 2013/04/19 04:14   >>

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メキシコから送られた約6キロの覚せい剤輸入で、貨物の受取役を務めたメキシコ人男性に対して、第一審では無罪、控訴審で逆転有罪が言い渡された事件。最高裁は16日、控訴審での有罪判決を支持し、被告人の上告を棄却する決定を下しました。

<ニュースから>*****
●裁判員裁判で無罪、初めて最高裁で逆転有罪確定
犯罪組織と共謀してメキシコから覚醒剤約6キロを密輸したとして、覚醒剤取締法違反(営利目的密輸)などに問われ、1審の裁判員裁判で無罪、2審で逆転有罪となった同国籍のガルシア・ルイス・マウリシオ被告(36)について、最高裁第3小法廷(寺田逸郎裁判長)は16日の決定で、被告の上告を棄却した。
懲役12年、罰金600万円とした2審判決が確定する。
裁判員裁判で無罪となった被告の逆転有罪判決が最高裁で確定するのは初めて。大谷剛彦裁判官は補足意見で、1審で「共謀」の意味が正しく理解されていなかった可能性を指摘、「裁判員に法的な概念を分かりやすく説明するのは裁判官の役目。裁判員が職責を果たせるよう、裁判官の説明努力が期待される」と述べた。
読売新聞 4月17日
*****

本決定は、とくに新たな判断や解釈を示したわけではなく、覚せい剤輸入事件において、依頼者である犯罪組織と、実行役を引き受けた被告人の間の共謀の認定について、改めて整理したものだと思われます。客観的な証拠の乏しい中で、同種事案の多くで被告人の「故意」や依頼者との「共謀」が争点となり、裁判員を悩ませている現状に即して、とりあえず、方向性の調整といったところでしょうか。
本決定は、3名の裁判官による補足意見も加えて16ページに及ぶもので、共謀の認定について重要な指摘を含むだけでなく、裁判員に対して「共謀」などの法的概念をいかに説明すべきか、また裁判員裁判に対する控訴審のあり方などについての示唆も含まれています。裁判所ウェブサイトで全文が公開されているので、下記をご参照ください。
なお、私が使っている判例データベースには、本事案の第一審判決、控訴審判決ともに掲載されています。
[参照]
平成24年(あ)第167号 覚せい剤取締法違反,関税法違反被告事件
平成25年4月16日 第三小法廷決定
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130418095233.pdf

●これまでの経緯
[事件の概要]
2010年9月、東京税関での検査で、メキシコから小口急送貨物として送られた段ボール箱2個から、覚せい剤合計約6キログラムが発見された。受取人のメキシコ人男性は、貨物の発送に先立って来日しており、国際貨物会社の営業所へ出向いて貨物を受け取り、滞在中のホテルへ持ち帰って開封したところを、警察官の捜索を受け、逮捕された。
[被告人の主張]
被告人は、第1審及び控訴審の公判において、犯罪組織関係者から脅されて日本に渡航して貨物を受け取るように指示され、貨物の中身が覚せい剤であるかもしれないと思いながら、航空券、2000米ドル等を提供されて来日し、本件貨物を受け取った旨供述したが、覚せい剤輸入の故意及び共謀はないと主張した。
[第一審判決・裁判員裁判]
 東京地裁 2011年7月1日判決
無罪(求刑・懲役15年、罰金800万円)
検察官が主張する事実全体を総合して考えても、故意及び共謀を推認させるには足りない。ただし、被告人は、公判廷で「貨物の中身は覚せい剤かもしれないと思った」と供述し、覚せい剤である可能性を認識していたと自白しており、覚せい剤輸入の故意は認められる。しかしながら、被告人の供述その他の証拠の内容にも、被告人と共犯者の意思の連絡を推認させる点は見当たらず、両者が共同して覚せい剤を輸入するという意思を通じ合っていたことが常識に照らして間違いないとはいえないから、共謀についてはなお疑いを残すというほかない(要約は筆者)。
[控訴審判決]
 東京高裁 2011年12月8日判決 
 原判決を破棄 懲役12年、罰金600万円
被告人には故意及び犯罪組織関係者との共謀が認められるから、これと異なる原判決の判断は誤っているといわざるを得ない。
被告人は、犯罪組織関係者の覚せい剤輸入の意図を察知しながら、依頼を引き受けたものと認められ、両者の間に覚せい剤輸入につき暗黙の了解があったと推認できる。また、客観的事情は、被告人と犯罪組織関係者との間に相当程度の信頼関係があったことを示し、覚せい剤輸入についての暗黙の了解があったことを裏付ける。
第1審判決が、覚せい剤輸入の故意を認定しながら、覚せい剤輸入についての暗黙の了解があったことを裏付ける客観的事情等を適切に考察することなく、共謀の成立を否定したのは、経験則に照らし、明らかに不合理であり、事実誤認がある(要約は筆者)。

●共謀の認定について
被告人に覚せい剤輸入の故意を認めながら、他方で共謀の成立を否定した第一審の判断は、おそらく、裁判員裁判でなければあり得なかったものでしょう。
控訴審判決が指摘するように、被告人が犯罪組織の意図をある程度まで察知しながらその依頼を引き受けたとするなら、特段の事情がない限り、犯罪組織関係者と暗黙のうちに意思を通じたものであって、共謀が成立すると、これまで多くの裁判で判断されてきました。

この点について最高裁は、本決定で、あらためて次のように判示しています。
「被告人が犯罪組織関係者の指示を受けて日本に入国し、覚せい剤が隠匿された輸入貨物を受け取ったという本件において、被告人は、輸入貨物に覚せい剤が隠匿されている可能性を認識しながら、犯罪組織関係者から輸入貨物の受取を依頼され、これを引き受け、覚せい剤輸入における重要な行為をして、これに加担することになったということができるのであるから、犯罪組織関係者と共同して覚せい剤を輸入するという意思を暗黙のうちに通じ合っていたものと推認されるのであって、特段の事情がない限り、覚せい剤輸入の故意だけでなく共謀をも認定するのが相当である。」

しかし、「暗黙のうちに」「推認」「経験則」といったことばには、とかく曖昧さがつきまとうものです。第一審で裁判員が表明したのは、確証が示されないまま、こうした推論を積み上げて結論に至ることへの拒否ではなかったでしょうか。

田原睦夫裁判官が補足意見において、経験則をあてはめ、合理的な推認を導いていく過程について実に詳細に論じているのも、こうした裁判員の声に応えようとする試みであると、私は受け取りました。
禁制品であるかもしれないと認識したうえで輸入物を受け取る場合、合理的な推認により、その受取行為は、発送者の輸入行為の共同遂行、すなわち発送者との共謀の下での犯罪実現に不可欠な行為との評価を受けることになると、その推認の過程を詳細に解き明かしているのです。

また大谷剛彦裁判官の補足意見は、「故意」や「共謀」といった法的な概念を裁判員に分かりやすく説明することについても、踏み込んでいて、示唆に富む内容ですが、これについては、次回で述べます。

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