弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 大麻取締法改正論を批判する―その8

<<   作成日時 : 2008/12/11 22:56   >>

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■論点その2、大麻取締法に使用罪がないのは不備か
3、薬物使用を犯罪として処罰するべきか

わが国では、薬物の使用者に対して懲役刑を科すことが当然のように受け取られていますが、前回まででみてきたように、欧米諸国では、基本的に、薬物の単純使用に対して拘禁刑を科すことは行われていません。
まず、そもそも薬物規制法令に使用罪の規定がない国があります。また、拘禁刑に代えてトリートメントなどの代替手段が適用される国もあります。あるいは、法令には使用罪の規定があるが大臣勧告などによってその適用が回避されている例もあります。このように、欧米の主要国のほとんどが足並みを揃えて向かっているのは、「薬物の個人的使用の非処罰化」という方向なのです。ここでいう「個人的使用」とは、犯罪の類型としては単純使用、自己使用目的の少量所持を指しています。すでに、単純使用についてはほぼ足並みが揃い、自己使用目的での少量所持の規制をめぐって議論が活発化しているというのが、現在の世界の状況なのです。日本は、薬物規制の国際標準というバスに、完全に乗り遅れてしまっています。

これは、単に国際標準というだけの問題ではないのかもしれません。各国の薬物規制は、国連条約の下で行われています。日本は、他の多くの国と同様に、薬物規制に関する3つの国連条約を批准し、締約国としてその拘束を受け、条約に沿った国内法令を整備し執行しています。
3条約のうち、薬物規制の基本を定めているのが「1961年の麻薬に関する単一条約」ですが、その第36条は刑罰規定にあてられ、締約国が犯罪として処罰すべき違反行為と、とるべき処罰の方向を示しています。

1961年の麻薬に関する単一条約
第36条  刑罰規定
1 (a) 各締約国は,その憲法上の制限に従うことを条件として,この条約の規定に違反する栽培並びに薬品の生産,製造,抽出,製剤,所持,提供,販売のための提供,分配,購入,販売,交付(名目のいかんを問わない。),仲介,発送,通過発送,輸送,輸入,輸出その他この条約の規定に違反すると当該締約国が認めるいかなる行為も,それが故意に行なわれたときは処罰すべき犯罪となることを確保し,並びに重大な犯罪に対しては特に拘禁刑又はその他の自由を剥奪する刑による相当な処罰が行われることを確保する措置をとらなければならない。
(b) (a)の規定にかかわらず,締約国は,薬品の濫用者が(a)の犯罪を犯した場合には,有罪判決若しくは処罰に代わるものとして又は有罪判決若しくは処罰のほかに,第38条1の規定に従って,そのような濫用者が治療,教育,後保護,更生及び社会復帰の措置を受けるものとすることができる。

36条1項aは、犯罪として処罰すべき行為を規定していますが、ここで示された違反行為のなかには、薬物の使用がありません。この条約の解釈について、国連事務総局によるコメンタリーが発表されていますが、そこでは、第36条の趣旨は薬物の不法取引を抑止することにあり、「依存者による、公認されない薬物使用は『不法な取引』に当たらない。」という見解が示されています。

1961年の麻薬に関する単一条約に関するコメンタリー
7 第1項が「使用」に言及していないことに注意を払わなければならない。他の箇所でも指摘したように、第36条は不法な取引と戦うことを意図しており、依存者による、公認されない薬物使用は「不法な取引」に当たらない。
Commentary on the Single Convention on Narcotic Drugs(Prepared by the Secretary-General in accordance with paragraph 1 of Economic and Social Council resolution 914 D (XXXIV) of 3 August 1962)
http://www.drugtext.org/library/legal/treat/commentary/default.htm

なお第1項bは、後にプロトコルによって追加されたものだと思うのですが(条約の改正履歴を確認していないので不確かですが)、さらに踏み込んで、乱用者(英文ではabusers)が犯した違反については、拘禁刑による処罰に代えて、あるいは処罰と並行して、治療,教育,後保護,更生及び社会復帰(treatment, education, after-care, rehabilitation and social reintegration)の措置を受けることができるとしています。つまり、トリートメントなどを拘禁刑の代替措置とすることを示唆しているのです。ただし、ここの表現は「することができる。」であり「しなければならない。」ではないので、どの方法を選択するかは、締約国の裁量に任されていることになります。

この条約は、現在130以上の国と地域が批准し、各国の薬物規制の標準となっているものです。わが国の薬物規制は、薬物使用罪に関しては、この条約が規定する範囲を超えて薬物使用罪に拘禁刑を科し、またこの条約が推奨する拘禁に代わる代替措置を設けない、国際世界と遠く隔たったものだということができます。

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