「ラッシュ」は規制せず?|英、精神作用物質全面禁止法

今年2月末、英国では、危険ドラッグなど精神作用物質の販売等を全面的に禁止する新法(精神作用物質法Psychoactive Substances Act 2016)が制定されましたが、4月上旬に予定されていた施行が延期され、細部の調整作業がまだ続いています。

問題点のひとつが、これまで法規制の対象になっていなかった亜硝酸エステル類(いわゆる「ラッシュ」)の扱いです。

議会で法案が審議される過程で、これを規制対象から除外するよう求める意見が提出されました。「ラッシュ」に有害作用があることは明白だが、健康被害の発生は比較的少なく、また、同性愛者の男性によく使われることから、これを規制すれば、より害の大きな薬物の使用が広まることになるというものです。
これに対して政府側は譲らず、「ラッシュ」をとくに規制から除外する必要はないとしてきましたが、施行までに再検討することを約束していました。

今年3月、薬物規制に関して政府に科学的な助言を行う諮問委員会(ACMD)は、内務大臣に対する答申として「亜硝酸エステル類のレビュー」を発表し、この答申を受けて内務大臣は、ACMDの解釈に同意する意向を示しました。
ACMDによる答申の内容や内務大臣の返答などから、英国メディアには、これで「ラッシュ」は規制対象から外れたと報じる動きもあります。とはいえ、発表された文書は、いずれも今後の規制について明言することを避け、微妙な言い回しをしているので、最終的な結論はまだ明らかになっていないようです。

ところで、上記のレビューでACMDが示したのは、
「ラッシュ」が高揚感をもたらすメカニズムは、脳や周辺部の血管を拡張させることによって一時的な高揚感をもたらすという間接的なもので、他の薬物が中枢神経系に直接作用を及ぼすのと異なっており、新法がいう「精神作用物質」にあたらない。
という解釈です。
私たちにはあまり馴染みのない内容ですが、薬物の作用を考えるうえで興味深い点を含んでいるので、参考までに、該当部分の概要を私訳して末尾に掲載します。関心のある方はお読みください。

「ラッシュ」をめぐる一連の議論は、有害性が確認されている物質であっても、多数のユザーがいる実態と、実際に発生している被害を比較し、規制対象に含めることの妥当性を考える、というものだったと思います。
法規制の根幹にかかわるこの点について、もっと掘り下げた検討を期待した向きも多かったでしょうが、今回は、肩透かしに終わっていまいました。

さて、ここで視点を日本に移しましょう。わが国では、2007年に指定薬物制度が導入された際に、亜硝酸エステル類6種は指定薬物に指定され、それまで「合法」として販売されてきた「ラッシュ」は店頭から姿を消しました。しかし、愛好者の支持は厚く、海外の販売サイトを通じて個人輸入するなどの形で入手する人たちは多く、規制後も水面下で一定量が出回ってきました。
その実態が明らかになったのは、昨年春の関税法改正によって、外国から輸入される指定薬物を税関が押収するようになったときです。本来、この改正は、中国などから輸入される危険ドラッグ原料薬物などを阻止するためのものでしたが、改正法が施行されたころには日本の危険ドラッグ禍はほぼ沈静化して外国からの原料輸入も途絶え、続々と摘発されたのは、これまで連綿と輸入され続けてきた「ラッシュ」でした。
想定外の皮肉な事態が、突然、目の前に出現したのですが、この問題に対して、一般市民はあまり関心を示していません。

多彩な危険ドラッグのなかでも、「ラッシュ」は少し違うという感触を持つ人は多いと思います。しかし、これまで日本では、こうした薬物に対する規制のあり方が論じられたことはありませんでした。
日本では、危険ドラッグとして出回るおそれがあり、有害性が確認された物質は、随時指定薬物に加えられてきました。最近指定された一酸化二窒素(シバガス)などのように、とくに目だった流通実態がないものも、予防的に指定されてきたのです。
残念なことに、市民社会でも、規制を導入すべきかどうか、突っ込んだ議論が展開されたことはほとんどありません。「もっと規制を」「もっと取締まりを」と求める声は上がるのですが、規制導入の適否を問う声はなかなか上がってきません。
危険ドラッグ禍が一段落したいま、薬物規制のあり方にも、少しは目を向けておきたいと思います。

<参考>
ACMDの「亜硝酸エステル類のレビュー」から、該当部分を抜出し、その概要を私訳で紹介します。下記の参照文献2~3ページの部分です。
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2、「ラッシュ」には、精神作用物質法がいう意味での精神活性があるか?
2-1 「ラッシュ」は血管を拡張させて、血流を増加させる。一般に、これは亜硝酸塩から一酸化窒素が放出されることに関連するもので、これによって血管の平滑筋を弛緩し、血管の拡張をもたらすと考えられている。
2-2 平滑筋は、膀胱、消化管、膣、肛門括約筋など弾力性を必要とする身体の各所にもみられ、亜硝酸エステルはこうした平滑筋も弛緩させる。
2-3 吸引した亜硝酸エステル類は、すぐに血流に吸収され、瞬時に作用が発現する。血管拡張作用は血流の増加を促し、それによってしばしば血圧が一時的に低下し、鼓動が早くなりめまいが起きる。脳血管の拡張が温感や顔面紅潮を伴うことはよくあり、これがユーザーの感じる高揚感をもたらす。
2-4 脳は、脳やその周辺での血管肥大によって引き起こされた血流量増加による間接的な作用として、一時的な「ラッシュ感」や高揚感を感知する。こうした作用は、脳の血液関門の外側で起きるため、「周辺的」なものと考えられる。

「ラッシュ」吸入の主観的体験
作用は吸入してすぐに現れるが、わずか数分しか持続しない。心拍が早くなり、血流が頭部に急行し、人はめまいのような「ラッシュ感」を感じる。一般的に、脈打つような頭痛、立ち眩み、吐き気、時間が延びたようなスローダウン感覚、顔面や首周りの紅潮、軽いめまいなどが報告されている。
*****

[参照]
ACMDの答申「亜硝酸エステル類のレビュー」(2016年3月16日)
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/508179/Poppersadvice.pdf

新たに3種を指定薬物に|2016年4月の新規指定

4月8日、厚生労働省は新たに3物質を指定薬物に指定したと発表しました。同日付で省令が公布され、10日後の4月18日から施行されます(下記参照①)。
施行日以降は、今回指定された各物質が指定薬物として取り締まり対象になり、研究者などを除く一般人が、これらの物質を輸入、販売、所持、使用などした場合は、法律違反として処罰を受けます。
なお、今回新たに指定された物質および植物の通称名や化学構造は、厚生労働省サイト内の「指定薬物名称・構造式一覧(2016年4月13日現在)」で確認することができます(下記参照②)
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↑4月8日指定の3物質
この表は、厚労省の発表に基づいて、私が物質の性格別にまとめたものです。
・既指定の類似物質・・・新規指定物質の性格を理解するために、指定薬物または麻薬として既に規制されている物質から、類似構造をもったものを選び出しました。
・表中の番号は、私が任意につけたもので、厚労省の発表したものと異なっています。

[参照]
①厚生労働省サイト内情報(2016年4月8日)
「指定薬物を指定する省令が公布されました」
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakubuturanyou/oshirase/20160408-1.html
②同サイト内「指定薬物名称・構造式一覧(2016年4月13日現在)PDF版
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakubuturanyou/dl/meisho.pdf

今どきの密売人は、覚せい剤プラス各種薬物を品揃え

愛知県警が、名古屋市から西三河地方一帯で覚せい剤などを密売していたとして、愛知県西尾市に住む男女を逮捕したというニュースがありました。関係先から押収された薬物は、末端価格にして2億円以上になるといいます。
この量からみると、手先となる売り手をかなりの人数抱える密売グループが背後にあるのか、密売組織の中間に位置する卸売業者なのか、いずれにしても、密売品の流れをたどる捜査活動は、まだまだ続きそうです。

<ニュースから>*****
●覚せい剤所持容疑で西尾の男女逮捕 薬物2億円超分を押収
愛知県警は11日、覚せい剤取締法違反(営利目的所持)の疑いで、同県西尾市・・・、職業不詳M(55)と、同居の無職U(47)の両容疑者を逮捕、送検したと発表した。自宅などから末端価格で計2億1400万円相当の違法薬物を押収しており、県警は2人が密売人とみて、入手先や背後関係を調べている。
逮捕容疑では、共謀して9日午前10時10分ごろ、自宅アパートで、覚醒剤30グラム(末端価格210万円)を営利目的で所持したとされる。2人とも容疑を認めている。
県警によると、自宅や、M容疑者が名古屋市内で借りていたトランクルームなどから、覚醒剤2キロ(同1億4千万円)、コカイン900グラム(同5400万円)、大麻4キロ(同2千万円)が見つかった(以下省略)。
中日新聞-Apr 11, 2016
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この事件で押収された薬物は、覚せい剤、大麻、コカインとバラエティに富んでいて、しかも大麻やコカインもかなり多量です。こうした品ぞろえは、先進的な若者の嗜好を意識した、都市型の密売メニューといってよいでしょう。
そういえば、3月下旬には、大阪市内で密売人グループが逮捕されたというニュースがありましたが、そこでも、覚せい剤、大麻、コカインなど各種薬物が押収されていました(産経ニュース2016年3月16日)。

日本の密売市場は、圧倒的に覚せい剤が中心で回ってきたのですが、その状況に変化が生まれ始めているのでしょうか。
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↑コカイン
米DEAのMulti-Media Libraryより
http://www.dea.gov/media.shtml

密売市場に出回る薬物の多様化が一気に進んだのは、今から15年ほど前、2000年代前半のことです。それまで、覚せい剤一辺倒だった日本の薬物市場に、世界各地から、大麻やMDMA、コカインといった薬物が流れ込み始めたのです。
クラブや音楽イベントに集まる若者は、目新しい錠剤型のMDMAに興味を示し、また、それまでは大都市中心で流通していた大麻が、地方にも流れ始め、日本の密売市場は様変わりしました。

実は、この時期に、日本の薬物市場に多様化をもたらした原動力は、覚せい剤の品薄という事情でした。北朝鮮からの大量覚せい剤密輸のルートが遮断されて、日本に流入する覚せい剤が不足したとき、そのスキマを埋める商品として、多様な薬物が入ってきたのです。
しかし、その後、覚せい剤の新たな密輸ルートが生まれ、日本国内に豊富な覚せい剤が供給され始めると、再び密売市場は覚せい剤中心になり、一時期は急増したMDMAも今では目立たない存在になりました。
でも、大麻は定着したようです。密売人が逮捕されると、その手元から、覚せい剤とともに大麻が押収されることが、今では一般的になっています。

さて、次なるアイテムは・・・と考えると、やはりコカインでしょうか。香港や中国、太平洋地域では、近年、コカインの大量押収がしばしば報じられています。日本にも、一定量が流入してはずです。
今のところ、日本には、大量の覚せい剤が流通しており、コカインの出番は限られているようにみえますが、固定化が進む覚せい剤ユーザーの実態を考えれば、密売人たちは、新たに若い世代を取り込む手段を模索していることでしょう。その切り札として、コカインが密かに広がりつつあるのではないか・・・。そんな気がしてなりません。
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↑主な薬物の押収量・2015年
警察庁「平成27年における薬物・銃器情勢」のデータに基づき筆者がグラフ化したもの
元資料:http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/yakubutujyuki/yakujyuu/yakujyuu1/h27_yakujyuu_jousei.pdf

劇的に広まった危険ドラッグ「フラッカ」が消えた|米フロリダ州

2014年夏ころ、米フロリダ州南部の乱用薬物マーケットに出現し、あっという間に地域を混乱の渦に巻き込んでしまった危険ドラッグ「フラッカ」。1回分がわずか500円程度という安さと、幻覚・妄想をともなう強烈な作用から「5ドルの狂気」と呼ばれて、その急拡大ぶりが全米で話題になったのが昨年夏のことでした。
ところが、それからわずか数か月後に、その流行は急速に後退し始め、いまではこの地域から「フラッカ」が姿を消したといいます。ワシントンポスト紙が、4月4日付の記事で報じています(下記参照①)。

「フラッカ」の劇的な拡大を伝えるニュースで、一般市民を驚かせたのは、防犯カメラがとらえた、幻覚・妄想にとりつかれた人たちが繰り広げる、信じられない奇行の数々でした。
裸で通りを駆け抜ける姿、道路の真ん中で着衣を引き裂きながら泣き叫ぶ人、警察署のドアを蹴りつけて怒鳴り散らす男性・・・。妄想上の「敵」から逃げようと鉄柵をよじ登り、突起部に脚を突き刺した男性が、切り取った鉄柵ごと救出されていく様子は、薬物のもたらす幻覚を生々しいまでに伝えていました(下記参照②)。

フラッカの名で広まった新型薬物の正体はα-PVP。この薬物は、中国の化学会社で合成され、インターネット上で取引されてきました。
米国ではバスソルト型の危険ドラッグとして出回り、米連邦は2014年にこの薬物をスケジュール1に指定しましたが、中国からの輸入や国内での流通を完全に遮断することはできず、フロリダ州では、密売人の手で販売されていたのです。
ちなみに、α-PVPは日本でも、2010年ころ市場に現れて、危険ドラッグ市場の拡大をけん引した薬物のひとつとなりましたが、日本では、いち早く2012年10月に指定薬物に指定され、2013年1月にはさらに麻薬に指定替えとなり、そのころにはほぼ流通がみられなくなりました。

さて、フロリダ州でのフラッカ騒動が話題を集めて数か月後、問題の薬物が急速に姿を消し始めたというのです。その後退ぶりもまた、劇的な推移をたどりました。
昨年10月、流行の震源地となったブロワード郡では、フラッカに関連した救急搬送が306件あったものが、翌11月には178件に急減、さらに12月にはわずか54件となりました。
死亡事故も急減しました。1年半ほどの流行期間に、同郡ではフラッカ関連の死亡(急性中毒による死亡、事故、自殺など)が63件発生しましたが、昨年末には新たな死亡者がゼロになりました。

悩みの種だった「フラッカ」がウソのように急速に姿を消した背景には、取締まり強化や啓発活動の成果、この薬物の有害性に対する一般人の認識が広まったことなど、さまざまな要因があったことでしょう。
そのなかでも、この薬物の出荷元である中国政府への働きかけによる成果は、とくに大きかったようです。昨年9月、中国の国家食品薬品監督管理局は危険ドラッグ成分として流通している化合物116種を新たに規制すると発表しましたが(下記参照③)、その裏には、「フラッカ」騒動をテコに、中国側と粘り強い交渉を進めてきたDEAなど連邦政府機関の努力があったと、ワシントンポストの記事は報じています。

そういえば、わが国でも、2014年後半に起きた危険ドラッグの急激な縮小は、まさに劇的な出来事でした。取締まりの強化、広報活動やメディア報道、そして次々に報じられた中毒死のデータなどによって、危険ドラッグに対する社会の見方が急速に変化していったものです。
危険ドラッグという世界的な流行を乗り越えた時、私たちは、薬物の流行を短期に終息させるという、貴重な体験を共有することができそうです。

[参照]
①フラッカの消滅を報じたワシントンポストの記事
The surprising disappearance of flakka, the synthetic drug that pushed South Florida to the brink(April 4)
https://www.washingtonpost.com/news/wonk/wp/2016/04/04/the-mysterious-disappearance-of-flakka-the-synthetic-drug-that-pushed-south-florida-to-the-brink/?postshare=131459864025536&tid=ss_tw-bottom
②サイト内過去記事
5ドルの狂気|米国でα-PVPがふたたび流行(2015/06/15)
http://33765910.at.webry.info/201506/article_6.html
③サイト内過去記事
中国が危険ドラッグ116物質を規制(2015/10/31)
http://33765910.at.webry.info/201510/article_15.html

米カリフォルニア州でお菓子みたいな覚せい剤

カリフォルニア州サクラメント市郊外、のどかな住宅地の中学校で、覚せい剤騒ぎがありました。

中2の生徒が学校に持ち込んだのは、ピンク色の錠剤。教員がこれをみつけて簡易検査をしたところ、覚せい剤/MDMAの陽性反応がありました。事情を聞かれて、生徒は「これはピンク色のキャンディだよ」と答えたといいます。みつかった錠剤は、子どもたちが大好きなキャンディにそっくりだったとか。

外観は子どもの大好きなキャンディそっくり、でも中身は覚せい剤、そんな薬物が中学校でみつかったことに、学校関係者はショックを受けているそうです。
これまでも「薬物をすすめられたら断りなさい」と子どもに教えてきたけれど、こんどは「お菓子をすすめられても断りなさい」と教えなければいけないようだと、地元メディアは言っています。
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↑お菓子みたいな覚せい剤の事件を報じた地元ニュースサイトの記事(下記参照①)

●子どもを狙った覚せい剤が、とかくウワサになるけれど
米国では、覚せい剤(メタンフェタミン)は比較的新しい薬物で、10代から20代の青少年を中心に広まっています。アイス、クリスタルなどという通称や、見た目がクリアな結晶体である点も、若者の目にはスマートに映るのでしょうか。

そこで、常に警戒されているのが、乱用者の低年齢化です。実際、中高生の薬物実態調査「モニタリング・ザ・フューチャー」調査によると、2000年代初頭の時期には、中高生の5%以上が、これまでにメタンフェタミンを使ったことがあると回答していました。でも、次第にその強力な作用や有害性が知れ渡るにつれて、使用率は低下し、2015年調査では、メタンフェタミンを使ったことのある中高生は1.1%にまで減少しています(下記参照②)。

それでも、とくに低年齢の子どもに乱用が広まることに対して、社会は神経を尖らせているようです。
危険なメタンフェタミンが、子どもの大好きなお菓子そっくりの外観や、子どもの好む色やフレーバーで味付けされて、子どものすぐ近くにまで忍び寄っている・・・、こんなニュースが時折大きく報道されてきました。でも、そのほとんどは、実態のとぼしいウワサに過ぎなかったようですが。
上記のニュースでも、地元警察によると、こうした錠剤が地域で広まっている様子はないと発表しているといいます。

しかし、考えてみれば、今どきの薬物は見た目も多種多様です。MDMAや覚せい剤錠剤は、カラフルなお菓子のようだし、危険ドラッグのなかにはとても薬物とは見えないものもあります。さらに医療用大麻などの認可店では、大麻成分入りのクッキーやキャンディを派手に並べて売っています。
様々な形や色合いの薬物が、大人の手で持ち込まれ、子どもの身近に置きっぱなしにされる事態も増えていることでしょう。

いま子どもたちのまわりに出回っている薬物について、抽象的に怖さを教えるだけでなく、実際の姿についても、もっと具体的に教えていかなければ、ほんとうの予防教育はできないのかもしれません。

[参照]
①地元ニュースサイトの記事
FOX40, Ione Middle Schooler Found with Drug Disguised as Candy(APRIL 6, 2016)
http://fox40.com/2016/04/06/ione-middle-schooler-found-with-meth-disguised-as-candy/
②「モニタリング・ザ・フューチャー」2015調査
Trends in Lifetime Prevalence of Use of Various Drugs for Grades 8, 10, and 12 Combined
http://www.monitoringthefuture.org/data/15data/15drtbl14.pdf

続・芸能界での薬物検査はありうるか

元有名選手の薬物事件を受けて、芸能やプロスポーツの世界では、薬物乱用防止活動への取り組みが話題になっています。この際、薬物検査を導入してはどうかという話題も、繰り返されているようです。
職場での薬物検査は、欧米では、一般企業でも幅広く実施されていますが、日本では、公共交通機関の職員や、国土防衛にあたる自衛隊員などに対して、ごく限定的に導入されてきました。一般企業や芸能関係にはなじまないイメージでした。
でも、昨年公布された、個人情報保護法の一部改正によって、そんな見方も変わるかもしれません。

●プライバシー保護との関係
憲法13条に基づく個人の私生活上の自由として、人は、みだりに私的生活領域へ侵入されたり、他人に知られたくない個人的な情報を公開されたりしない自由を保障されています。

個人的な情報のなかでも、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴などは、取り扱いを誤ると、本人に対する不当な差別、偏見につながるおそれがあり、とくに慎重に取り扱うべきものとされています(センシティブ情報)。
昨年公布された個人情報保護法の一部改正では、こうした情報を「要配慮個人情報」とし、本人の同意を得ない取得を原則として禁止し、本人の意図しないところでの第三者に提供されることがないよう、新たな規定が設けられました(下記参照①)。

<要配慮個人情報の定義>
この法律において「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう(改正法2条3項)。

さて、尿を試料とした薬物検査が、ここでいう「要配慮個人情報」に含まれるかについては、現時点では明確な情報はありません。前述したように、欧米では、薬物検査に関する情報は健康管理上の情報であり、とくに慎重な取り扱いが要求されるセンシティブ情報とみなされていますが、日本ではどのように解釈されることになるか、今後の展開を見ていく必要があります。

ただし改正法では、本人の事前の同意がなくても、事業者が「要配慮個人情報」を取得することができる場合として、挙げている中に、
  「公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」
という条項があります。アルコール検査や薬物検査も、公衆衛生の向上のために行われるものであり、この条項に従えば、本人の同意がなくても、事業者は検査を行うことができることになります。

いずれにしても、これまで明確な規定を欠いていた職場でのアルコール検査、薬物検査について、改正法は、配慮の必要なプライバシーとして慎重な取り扱いを求めながらも、新たな位置づけを与えているように思われます。改正法の施行とともに、様々な職場で薬物検査の検討が進められることになるかもしれません。ガイドライン等の改正を待ちたいと思います。

●薬物検査が向く職場
これまで、わが国では、職場でアルコール・薬物検査を行う際にその背景となる法律上の明確な規定がなかったために、その導入は控えめでした。憲法が保障する個人のプライバシーをある程度制約しても、アルコール・薬物検査を行うべき職場となると、自衛隊や公共交通機関といった職場が中心で、一般企業での導入はごく限られていたのです。

2000年に厚生労働省が公表した「労働者の個人情報保護に関する行動指針」でも、
  「使用者は、労働者に対するアルコール検査及び薬物検査については、原則として、特別な職業上の必要性があって、本人の明確な同意を得て行う場合を除き、行ってはならない。」
とする規定が盛り込まれていました(下記参照②)。
なお、この指針は、個人情報保護法が制定・施行される前に研究会の考え方をとりまとめたもので、あくまで参考情報ととらえるべきものでしょうが、それなりの影響力をもってきたと思います。
同指針の解説によると、「特別な職業上の必要性」がある場合とは、「パイロットやバス、トラック等の輸送機関の運転業務に従事する者に対してアルコール検査を行う場合や医師、薬剤師等の医療職等に対して薬物検査を行う場合」が想定されており、一般事業所での導入はふさわしくないという風潮もあったと思います。

いっぽう、個人情報保護法の一部改正で新設された「要配慮個人情報」では、センシティブな情報として慎重に取り扱いをする限り、仕事の性質などによって限定されないのです。
マスメディアなどを通じて、社会一般に対して強い影響力を持つ芸能関係、報道関係といった職場でも、職場での薬物検査を検討するケースが出て来るかもしれません。

[参照]
①個人情報の保護に関する法律(改正後の全面施行版)
要配慮個人情報については17条2項・現時点では未施行
http://www.ppc.go.jp/files/pdf/personal_law.pdf
②労働者の個人情報保護に関する行動指針
http://www2.mhlw.go.jp/kisya/daijin/20001220_01_d/20001220_01_d_shishin.html

芸能界での薬物検査はありうるか

元有名選手の薬物事件について、報道合戦も一段落したようですが、相変わらず「次のスキャンダル」の材料探しが、話題になっているようです。芸能やプロスポーツの世界では、関係者の気苦労もますますエスカレートしていることでしょう。

今日のスポーツ紙が、大手芸能事務所が薬物対策セミナーを開催したと報じています。これまでも、薬物事件の影響をしばしば受けてきた芸能界では、折にふれて薬物乱用防止対策が話題になってきました。
講演やセミナーの受講だけでは、抑止力として心細いと、薬物検査を導入してはどうかという話も、何度か繰り返されてきたと聞きます。

薬物検査・・・、一般には、尿などを採取して、薬物使用の有無を判定する検査のことですが、もう一歩踏み込んで、薬物乱用防止を徹底するための切り札のひとつです。欧米では、一般企業でも幅広く実施されています。
しかし日本では、公共交通機関の職員や、国土防衛にあたる自衛隊員などに対して導入された例はありますが、一般企業や団体などでの実施例はごく限られています。

日本では、職場での薬物検査導入に、なぜこんなに慎重なのか。その背景をまとめておきます。

●抑止力としての薬物検査とは
職場で行われる薬物検査とは、間違っても、薬物使用者をあぶりだすための検査ではありません。薬物乱用を防止する様々な活動の成果をより確実なものにし、ときには緩みそうになる緊張感を維持する、強力な抑止力をもつ手段として、薬物検査が行われます。

米国では、軍隊や警察、消防、公共交通機関などの公的機関をはじめ、一般企業でも、職員の健康管理や職場の安全管理に一環として、多くの職場で薬物検査が行われています。新たな従業員を採用する際には、健康診断とともに、薬物検査を受けるよう求められることも多いといいます。

また、米国で行われているドラッグ・コートは、検挙された薬物事犯者が、裁判所の監督下で社会生活を続けながら、定期的に出廷し、長期間かけてドラッグ・コートのプログラムを実践していくという仕組みですが、薬物を使わない生活を続けるために大きな役割を担っているのが、抜き打ちの薬物検査です。法廷に出席するたびに、薬物検査の指名を受けるかもしれないという緊張感が、なによりの歯止めになっていると聞きます。

●日本では導入に慎重な理由
欧米でも日本でも、薬物使用は禁止されています。しかし、日本では、薬物使用罪に関する取り扱いに、欧米とは違う事情があるのです。

欧米では、一般に「薬物使用」を犯罪とする規定がなく(法律の上では「薬物使用罪」が規定されている例もありますが)、尿中に薬物成分が検出されたことを根拠に薬物事犯が検挙されることは、ほとんどありません。
つまり、職場の薬物検査で陽性となった場合でも、その結果が、犯罪に直結するわけではなく、検査結果は従業員の健康管理上のデータとして扱われます。検査で陽性となった従業員は、薬物依存回復プログラムへの参加や入院などをすすめられ、問題を克服して職場に戻ることになります。

いっぽう、日本では、覚せい剤や麻薬の使用は犯罪とされています。覚せい剤使用が疑われる状況がある場合、警察で尿を提出するよう求められますが、提出した尿中に覚せい剤が検出された場合は、「覚せい剤使用罪」で逮捕されることは、皆様もご存知のとおりです。
職場で行った薬物検査で、もしも覚せい剤が検出された場合、その事実を握りつぶしてしまえば犯罪を隠匿したことになりかねません。また、そもそも、犯罪捜査につながりかねない薬物検査を、職場の管理者が従業員に強制してよいかという問題もあります。

もちろん、欧米でも、薬物使用が判明することは当人にとって極めて深刻なことであり、不利益な情報です。職場での薬物検査をめぐって、これまでに多くの訴訟も展開され、また検査データの乱用を禁じ、検査結果が解雇などの不利益処分に直結しないよう、様々なルールが生み出されてきました。

ところが日本では、いざ、職場で薬物検査の導入を検討するとなっても、頼りとする公的な指針やガイドラインがなにひとつありません。これまで導入してきたケースでは、外部の専門家を交えた検討委員会を立ち上げ、各方面から問題点を検討し、慎重に導入計画が進められたと聞いています。

●安直な実施はトラブルの元凶
最近では、誰でも簡単に扱うことができる、尿検査の簡易キットが各種出回っています。専門知識がなくても、こうしたキットを使えば、その場で薬物使用の有無を判定することができそうな気がすることでしょう。自分たちの職場でも、いちど検査をやってみようかと考える人もありそうです。

でも、ちょっと待ってください。検査を受ける従業員にどんな説明をするのですか。また、検査を拒む従業員があったら、どう対応するのですか。そして、もしも簡易検査で陽性反応が出たときは、どうするのですか。
何の準備もなく、安直に、市販の簡易検査キットで職場で薬物検査をすることだけは、決しておすすめできません。

職場での薬物検査をしてみようかと考えたら、まず、専門機関に相談してみることをお勧めします。日本にも、こうした薬物検査を請け負う専門の検査機関があります。「乱用薬物検査」のキーワードでインターネット検索すれば、信頼できる検査機関が見つかるはずです。

薬物検査は、薬物乱用防止対策の強力な切り札です。でも、安易な使い方はトラブルの元です。この機会に、職場の薬物乱用防止策をもう一歩進めるために、ぜひとも、慎重に検討してください。

[参考]
サイト内に、職場の薬物検査に関する記事があります。ご参照ください。
①日本の特殊事情への対応|職場の薬物検査1(2011/08/04)
http://33765910.at.webry.info/201108/article_3.html
②力士解雇問題の残したもの|職場の薬物検査2 (2011/08/06)
http://33765910.at.webry.info/201108/article_4.html
③薬物検査とは|職場の薬物検査3(2011/08/07)
http://33765910.at.webry.info/201108/article_5.html
④簡易検査の落とし穴|職場の薬物検査4(2011/08/10)
http://33765910.at.webry.info/201108/article_7.html
⑤陽性結果とその判定|職場の薬物検査5(2011/08/12)
http://33765910.at.webry.info/201108/article_9.html
⑥警察への通報|職場の薬物検査6(2011/08/15)
http://33765910.at.webry.info/201108/article_10.html