10月14日からデパス、アモバン等が向精神薬に

エチゾラム(代表的な製品名はデパス)等3物質を向精神薬に指定する政令が、昨日9月14日に公布されました。施行は30日後の10月14日から(下記参照①)。
公布を受けて、製薬会社も「お知らせ」を発表し、関係者に注意を促し始めました(下記参照②)。

前記事でも述べたように、施行後は、デパスやアモバン(同成分のジェネリック医薬品も)は向精神薬として規制され、許可を受けない個人輸入や譲渡、譲渡目的所持などは麻薬及び向精神薬取締法違反として厳しく取り締まられることになります。

■向精神薬に指定される物質
①化学名:(RS)-6-(5―クロロピリジン-2-イル)-7-オキソ-6,7-ジヒドロ-5H-ピロロ[3,4-b]ピラジン-5-イル=4-メチルピペラジン-1-カルボキシラート
別名:ゾピクロン
➢代表的な製品名はアモバン、数種類のジェネリック製品もあります。
②化学名:4-(2-クロロフェニル)-2-エチル-9-メチル-6H-チエノ[3,2-f][1,2,4]トリアゾロ[4,3-a][1,4]ジアゼピン
別名:エチゾラム
➢代表的な製品名はデパス、ほかにも多くのジェネリック製品があります。
③化学名:7-ブロモ-5-(2-クロロフェニル)-1,3-ジヒドロ-2H-1,4-ベンゾジアゼピン-2-オン
通称:フェナゼパム
➢日本で承認された製品はありません。
*なお、前記事で紹介したように、パブリックコメントの案では、ゾピクロンの鏡像異性体(S体)であるSゾピクロンも指定されると記載されていましたが、今回の報道発表をみると、Sゾピクロン(製品名ルネスタ)については触れていません。正式な通知文書などがまだ確認できませんが、今回の指定ではSゾピクロンを特に指定対象として特定していないようです。

■政令の公布と施行
政令の公布・・・2016年9月14日
施行予定・・・・2016年10月14日

●処方薬乱用の現状
処方薬のなかでも、睡眠薬、抗不安薬には乱用による問題が、いつもつきまとっています。その実態を継続的に取り上げている調査研究として、国立精神・神経医療研究センターなどが継続的に行っている「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」の報告書をみてみましょう。

最新の2014年調査では、精神科医療機関で薬物関連障害患者の治療を受けた1,579 例のうち、「主たる薬物」が処方薬(睡眠薬・抗不安薬)だったのは13.1%、覚せい剤、危険ドラッグに次いで第3位となっています。また、対象者の18.4%が最近1年間に処方薬を治療目的以外で不適切使用したことがあるという結果も出ています(下記参照③)。 同調査では、処方薬(睡眠薬・抗不安薬)が主たる薬物であるかどうかにかかわらず、現在もしくは過去において乱用したことのある処方薬の薬剤名に関する情報も収集していますが、なかでも、最も多くの患者が乱用していた薬剤が、エチゾラム(120 例)でした。

報告書は、次のように述べ、警鐘を鳴らしています。
「今回、乱用患者数の多さが特に突出していた薬剤がetizolamであった。この薬剤は向精神薬指定がなされていないために長期処方が可能であることから、乱用者にとってはきわめて入手が容易である。また、われわれが埼玉県薬剤師会の協力を得て実施した薬局調査(松本ら, 2011b)では、向精神薬のなかではこの薬剤が最も重複処方(一人の患者に対して同時期に複数の診療科から重複して処方されること)されていることも判明している。おそらく適用症が多岐にわたること、後発品が多いために、処方医の側でも重複に気がつかないケースも少なくないと推測されるが、このような事情も乱用者にとっては入手を容易にする要因となりうる。すべての診療科の医師に対して注意を喚起する必要がある。」
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↑上記調査で10例以上の患者によって乱用されていた処方薬(睡眠薬・抗不安薬)
(下記参照③より転載)

上の表にリストアップされた睡眠薬、抗不安薬のほとんどは、乱用のおそれがあり、また乱用された場合に重大な有害性があるとして向精神薬に指定されていますが、1位のエチゾラム(デパス等)と、11位のゾピクロン(アモバン等)は、これまで向精神薬に指定されていませんでした。そのため、様々な診療科で多様な症状に対して気軽に処方され、長期処方や重複処方といった問題も起きていたといいます。乱用者にとっては、入手しやすいクスリだったといえます。
今回の指定は、まず、この2種を向精神薬として規制することで、安易な処方を引きしめることが、第一の狙いなのでしょう。

●最近、処方薬の個人輸入がとくに気になる
同時に、向精神薬として規制することは、ユーザーの安易な入手に対しても警鐘を鳴らすことになります。
これまで、デパスやアモバンに関しては、他人への個人的な譲渡や、個人輸入といった行為に対して、とくに取り締まりが行われることがなかったことから、ユーザーのなかには、処方薬を安易に他人とやり取りしたり、外国から個人輸入することを漫然と繰り返してきた人も、少なくありません。

数か月前、私は事件処理のために、インターネット上の「pharmacy(薬局)」を名乗る販売サイトや、輸入代行業者のサイトについて、調べたのですが、その急増ぶりを改めて実感しました。そういえば、わが国で危険ドラッグ販売が沈静化したころから、この種のサイトが急速に増え始めたように思います。

睡眠薬や抗不安薬は、ED治療薬やダイエット系の治療薬とともに、こうしたサイトの主力商品として、幅を利かせています。デパスのジェネリック、あるいはデパス同成分とうたう製品も、多数見かけました。
本来なら、医師の処方で使うべきものが、実に簡単に手に入るのです。

今回の向精神薬指定を機に、違法な個人輸入に対して警告を発するために、違反者の摘発にも力がはいることでしょう。でも、違反者を摘発するだけでは片手落ちです。デパスやアモバンに限らず、医師の処方を受けずに、睡眠薬や抗不安剤を個人輸入して使うことの危険性を広くアピールし、ユーザーの意識を引き締める啓発活動が行われることに、期待します。

なお、向精神薬乱用問題の重大な側面として、自殺との関係について簡単にまとめた記事が当サイト内にあります(下記参照④)。よろしかったら、こちらもご参照ください。

[参照]
①厚生労働省の公報
「新たに3物質を向精神薬に指定し、規制の強化を図ります」平成28年9月14日
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000136558.html
②サノフィ(株)、日医工(株)
「アモバンⓇ錠 7.5」「アモバンⓇ錠 10」向精神薬指定のお知らせ
http://www.nichiiko.co.jp/data2/55330/12_information/o-amoban_t-20160914bI1(2).pdf
③研究報告書・2014年調査
「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」
http://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/report/pdf/J_NMHS_2014.pdf
④サイト内過去記事
「向精神薬密売事件が照らす、自殺との深刻な関係」2015/11/15
http://33765910.at.webry.info/201511/article_7.html

近日デパス、アモバンが向精神薬に指定される見込み

この数か月療養生活を送っていた私は、世間の流れに疎くなっていましたが、先日、当サイトの読者から質問を受けたことから、デパス等を向精神薬に指定する手続きが進んでいることに気付きました。

今回、新たに向精神薬に追加される予定は、つぎの3物質です。
①ゾピクロン(製品名アモバン等)
②エチゾラム(製品名デパス等)
③フェナゼパム(日本では未承認)

すでにパブリックコメントによる意見公募が締め切られ、現在は、政令の公布を待つ段階に来ています。予定では、9月中に政令を公布し、周知期間を経た後、10月から向精神薬としての規制が施行されることになっています(下記参照①)。

遡って調べてみると、今年3月8日に開催された「依存性薬物検討会」において、これら3物質について向精神薬指定相当との結論を得て、準備が進められてきたということですが、同委員会の議事録は公開されておらず、医療関係者向けの情報が出たにとどまっています。

<向精神薬として規制される対象>
①(RS)―6―(5―クロロピリジン―2―イル)―7―オキソ―6,7―ジヒドロ―5H―ピロロ[3,4―b]ピラジン―5―イル=4―メチルピペラジン―1―カルボキシラート 【別 名】ゾピクロン
睡眠薬として広く処方されています。日本での商品名はアモバン、ジェネリック医薬品も数種類販売されています。今回の規制では、ゾピクロンの鏡像異性体であるSゾピクロン(商品名ルネスタ)も同時に向精神薬として指定されるということになっています。

②4―(2―クロロフェニル)―2―エチル―9―メチル―6H―チエノ[3,2―f][1,2,4]トリアゾロ[4,3―a][1,4]ジアゼピン 【別 名】エチゾラム
抗不安薬として幅広く使われています。日本での商品名はデパス、ジェネリック医薬品も多数販売されています。
エチゾラムの適用症は、神経症やうつ病による不安、緊張、抑うつ、睡眠障害から、頸椎や腰の痛み、筋収縮性頭痛など、日本では多様な症状に広く処方されています。

③7―ブロモ―5―(2―クロロフェニル)―1,3―ジヒドロ―2H―1,4―ベンゾジアゼピン―2―オン
成分の一般名はフェナゼパム、日本で承認された医薬品はありません。ソビエト時代のロシアで医薬品として開発され、現在もロシアや東欧で製造・使用されています。近年、ヨーロッパなどで娯楽目的の乱用が広まり、英国は2012年6月にクラスC薬物に追加して規制対象としました。
なお、本年3月、国連麻薬委員会において、フェナゼパムを向精神薬条約の附表Ⅳに追加することが決議されているので、今回の指定は、この追加に対応して、国内での規制を行うためのものです。

●改正にともなう公報の徹底を
これまで、処方薬問題が話題になるたびに、デパスやアモバンの名が取りざたされてきましたが、この情報に接して「ようやく」と感じておられる方も多いでしょう。麻薬や向精神薬については、譲り渡しや個人輸入などが厳しく規制されていますが、その指定を受けていないものについては、直接取り締まることが難しく、「野放し」という声を聞くこともありました。

しかし問題は、長年にわたって取り締まりの圏外に置かれてきたことから、漫然と個人輸入を繰り返してきたユーザーが少なくないという事実です。今回、デパスやアモバンが向精神薬に追加されることで、これらの個人輸入は、麻薬及び向精神薬取締法違反として厳しく摘発されるということを、一般人に対して広く周知徹底することが望まれます。

2015年春、関税法の改正によって、それまで摘発の対象になっていなかった指定薬物に対する税関の取り扱いが変更されましたが、その結果、続々と摘発されたのは、「ラッシュ」を海外の販売サイトから個人輸入した人たちでした。指定薬物の個人輸入については、長年にわたって、事実上、税関での摘発対象となっていなかったことから、個人輸入を繰り返してきた人が多く、関税法の改正によって摘発の対象になることを十分に認識しないまま、改正後も、漫然と輸入を続けた人たちが、実に多かったのです。

適切な規制を行うことは、重要な乱用対策です。しかし、長年にわたり、事実上「お構いなし」のまま推移してきた領域については、十分な公報を行い、個人輸入や譲渡が違反行為として取り締まりの対象となることについて、一般人に対してしっかり周知徹底しなければなりません。
法令の改正によって、違反者として摘発される人たちがむやみに増えることは、決して望ましいことだとは思えません。
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↑向精神薬事犯の推移・厚労省サイト(下記参照②)より

<向精神薬に関する主な違反>
●向精神薬の輸入、輸出、製造、製剤、小分け
 単純犯・・・5年以下の懲役
 営利犯・・・7年以下の懲役(2百万円以下の罰金併科あり)
 (麻薬及び向精神薬取締法66条の3)
●向精神薬の譲り渡し、譲渡目的所持
 単純犯・・・3年以下の懲役
 営利犯・・・5年以下の懲役(百万円以下の罰金併科あり)
 (麻薬及び向精神薬取締法66条の4)

[参照]
①パブリックコメントのために公開された情報
「麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令の一部を改正する政令」(案)及び「麻薬及び向精神薬取締法施行規則の一部を改正する省令」(案)に関する意見募集について」案の公示は2016年7月19日
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495160131&Mode=1
②向精神薬事犯の推移
厚労省サイト内「不正麻薬の取締り」より
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/gyousei-gaikyo/dl/torishimari_h25-04.pdf

昔の手法が復活|急増する覚せい剤密輸

今年に入って、100キロ超の大型覚せい剤密輸事件の摘発が相次いでいるところへ、今度は、中国からの船便で、LED照明器具の中に隠した覚せい剤154キロを密輸したとして、台湾国籍の男性3人が逮捕されたと、ニュースが伝えています。今年7月、コンテナ貨物として東京港に陸揚げされた貨物です。

<ニュースから>*****
●覚せい剤154キロ密輸容疑=107億円相当、台湾人ら逮捕-警視庁
覚せい剤約154キロを中国から営利目的で密輸したとして、警視庁組織犯罪対策5課などは5日までに、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)容疑で、住所不定、職業不詳の台湾人・・・ら3人を逮捕した。鄭容疑者らはいずれも容疑を否認している。同課などは密輸の全容解明とともに国内での流通ルートの解明を進める。
逮捕容疑は7月2日、覚せい剤約154キロ(末端価格約107億8000万円)を発光ダイオード(LED)照明器具の中に隠し、船便で中国から埼玉県川口市の中国人の男宛てに発送。同7日、東京都江東区青海の青海コンテナ埠頭(ふとう)に陸揚げさせ、密輸した疑い。
時事通信(2016/09/05-12:45)
*****

折から、昨日警察庁が『平成28 年上半期における薬物・銃器情勢(暫定値)』を発表しましたが、そこでの話題は、やはり、激増した覚せい剤密輸押収量で、「上半期の覚醒剤の密輸入押収量は771.7kg(前年同期比+654.2kg、+556.8%)と、大幅に増加した。」と報告されています(下記参照①)。

●息を吹き返したか、東アジア圏からの大型密輸
相次いで摘発された大型密輸事件は、いずれも、中国や台湾など東アジア圏内から日本に密輸されたと思われるケースです。そして、その背後に、密輸計画に密接に関与している暴力団の影も垣間見えています。

【100キロ超の覚せい剤密輸事件・2016年1~9月摘発分】
A 東シナ海で洋上取引・・・2016年2月
約100キロの覚せい剤を徳之島に陸揚げしたとして、暴力団幹部ら5人が逮捕されました。東シナ海で外国船との間で洋上取引を行い、覚せい剤を密輸したとして起訴されています。捜査段階で、覚せい剤の受け渡しに先立って被告人らが中国に渡航したことが判明、覚せい剤取引の関係者と接触したのではないかとみられています。
B 過去最大の約600キロ、那覇港のヨットから発見・・・2016年5月
沖縄、那覇港に停泊中のヨットの船内から、約600キロの覚せい剤が見つかり、乗組員の台湾人らが逮捕されました。このケースでも、ヨットの乗組員らは、東シナ海の洋上で外国船から覚せい剤を受け取り、日本に密輸しようとしたといいます。
C そして今回は、船便のコンテナ貨物を利用した密輸です。貨物の積出し地は中国、逮捕された台湾国籍の男性らは、貨物の到着時期に合せて来日していたといいます。

中国や北朝鮮などの近隣国から、海上ルートや商業貨物を使って、一度に100キロ超の覚せい剤を密輸する・・・ひと昔前には、こうした大型密輸が頻繁に摘発されていたのですが、そういえば近年では、こうしたケースを目にすることが減りました。
洋上で覚せい剤を受け渡しする手口は、かつて、北朝鮮や中国からの大量密輸の代表的な手法でしたが、2001年に北朝鮮不審船問題が浮かび上がり、領海の警備が強化されたことから急速に姿を消していました。
また、中国からの船便貨物を使った大型密輸も、かつては頻繁に摘発されましたが、この10年ほどは、ほとんど見かけなくなりました。

相次ぐ大型摘発で密輸組織が弱体化したともいわれ、また、中国国内での取り締まりが強化され、日本の暴力団が送り込んでいた現地の買付拠点が壊滅したともいわれます。詳しいことはわかりませんが、当時の大型密輸を支えてきた人材や拠点が、急速に活動力を失ったことは確かです。

ところがここへ来て、近隣諸国からの大型密輸が、急速に息を吹き返しています。洋上で覚せい剤の受け渡しを行う手口も、大型コンテナ貨物を使う手法も、昔のパターンそのままです。
一度は壊滅したかに思われた密輸組織が、体制を立て直して、ふたたび活動し始めたのでしょうか。
あるいは、暴力団をめぐる勢力関係が流動化していることから、利益の大きい覚せい剤密輸に、再び手を伸ばす組織が出てきたのでしょうか。なにしろ、暴力団にとって、覚せい剤は第二の通貨ともいわれる、重要な存在なのですから。

●メキシコからの大型密輸は減少
もうひとつ、気になる動きがあります。東アジアの近隣諸国からの大型密輸が途絶えた後、それを埋め合わせるかのように、2013年ころから急速に増えていたのが、メキシコ(米国の場合も)発の商業貨物便を使った大型密輸です。

100キロ超の大型摘発だけでも、次のようなものがありました(下記参照②)。
D 模造鉄鉱石の内部に194キロ・・・2013年5月
神戸税関は、メキシコから神戸港へ到着した海上コンテナ貨物の検査において、模造鉄鉱石に隠匿していた覚醒剤 約194㎏を発見、摘発した。
E 製粉機の内部に240キロ・・・2013年3月
横浜税関は、メキシコから横浜港へ到着した海上コンテナ貨物の検査において、製粉機のローラー内部に隠匿していた覚醒剤 約240㎏を発見、摘発した。
F 石材に隠匿していた覚醒剤を摘発・・・2014年1月
門司税関は、メキシコから到着した海上コンテナ貨物の検査において、石材に隠匿していた覚醒剤 約145kgを発見、摘発した。
G 洋酒瓶内に隠匿していた覚醒剤を摘発・・・2015年10月
横浜税関は、メキシコから到着した海上コンテナ貨物の検査において、液体に溶かしてテキーラ瓶1,026本に隠匿していた覚醒剤 約171kgを発見、摘発した。

ところが、東アジア圏からの大型密輸の復活に呼応するかのように、今度は、メキシコ発の大型密輸が減少しているのです。今年に入ってからは、2月に摘発された、トラの置物に約25キロを隠して密輸したケースくらいです。

中国系の密輸組織と、メキシコのカルテルは、覚せい剤密造原料の調達から覚せい剤の密輸まで、様々な形で連携しているといわれます。この両者が、臨機応変に連携しながら、日本の密売市場に向けて、途切れなく覚せい剤を送り込んでいるのかもしれないと、私の連想は膨らみます。

[参照]
①警察庁刑事局組織犯罪対策部薬物銃器対策課『平成28年上半期における薬物・銃器情勢(暫定値)』2016年9月
http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/yakubutujyuki/yakujyuu/yakujyuu1/h28_yakujyuu_jousei.pdf
②財務省関税局調査課『白い粉・黒い武器レポート』
平成27年版http://www.customs.go.jp/mizugiwa/mitsuyu/report2015/index.htm
平成26年版http://www.customs.go.jp/mizugiwa/mitsuyu/report2014/index.htm
平成25年版http://www.customs.go.jp/mizugiwa/mitsuyu/report2013/index.htm

自殺遺体から覚せい剤検出|和歌山殺傷・立てこもり事件

和歌山市内の土木建設会社で発砲して男性従業員4人に対する死傷事件を起こし、その後、けん銃をもって立てこもった末に、自分の腹部を撃って自殺・・・。
事件は、まるで劇画かドラマのような展開となりましたが、自殺したM容疑者の尿から、覚せい剤が検出されたという発表に、やっぱりと思われた方も多いでしょう。

<ニュースから>*****
●発砲男から覚せい剤反応=和歌山4人殺傷、立てこもり-県警
和歌山市の建設会社従業員ら4人が拳銃で殺傷された事件で、和歌山県警は6日、現場近くで立てこもった末、自殺したM容疑者(45)の尿から覚せい剤の陽性反応が出たと発表した。
県警によると、遺体から尿を採取し、鑑定した。死亡前2週間以内に覚せい剤を使った可能性がある。県警は覚せい剤使用後に一連の犯行に及んだとみて、入手経路などを調べている。
2016年9月6日 12:56時事ドットコム
*****

別件の覚せい剤取締法違反の裁判で保釈中だったM容疑者は、実刑の有罪判決が言い渡され、発砲事件を起こした8月29日に、出頭・収監される予定だったといいます。
M容疑者の場合は、一審の判決後に控訴して、控訴期間中の保釈が認められていたのでしょう。
一審であれば、実刑の判決が言い渡されれば、その場で拘束され収監されるのですが、控訴審の場合は、判決が言い渡された後に、検察官が弁護人・被告人と連絡調整して収監(出頭)の日時を決られます。確定日の2、3日前というのが多いようです。
控訴審は、事後審であり、被告人が公判に出廷する義務がないことから、公判に出廷した被告人についても、このような扱いになっているのだと思われます。

覚せい剤事件で保釈中の被告人が、いよいよ収監を目前にして、未練がましくも最後の覚せい剤使用に及ぶという例は、ときおり見かけます。収監時には、当然、尿検査があり、その際に陽性反応があれば、新たな覚せい剤使用事件として追及されることはわかっていても、最後の1回をあきらめられない人もあるようです。
結局は、約束の日時に出頭できず、逃亡犯人として追われ、やがて逮捕されたという被告人の事件も、いくつか担当したことがあります(「なごりの覚せい剤事件」と呼んだりしています)。

M容疑者もその一人だったのでしょうか。立てこもりの現場近くで見つかったかばんには、使用した形跡のある注射器や白い粉末が付着した小分け袋が入っていて、捜査本部は、立てこもり直前に覚せい剤を使用したとみていたといいます。

最初のけん銃による殺傷事件を起こしてからのM容疑者の動きは、場当たりで脈絡がなく、いかにも覚せい剤の作用下の行動のように見えます。立てこもり現場で、長時間、容疑者を包囲していた捜査陣との間には、さぞ、かみ合わないやりとりが交わされていたことでしょう。
そもそも、最初の発砲も、覚せい剤の作用を受けて、混乱し、支離滅裂になった思考のせいで引き起こされたものかもしれません。
肝心のM容疑者が自殺してしまったことから、一連の事件の動機や背景の解明が遠のいてしまったのではないでしょうか。自殺という決着に、いくらか割り切れない思いも残ります。

処方薬も規制対象に|英国の薬物運転規制

道路交通法は、飲酒運転と同じように、薬物を使用して自動車を運転することを禁じているのに、実際には、飲酒運転と同じように薬物運転の取り締まりが行われることはありません。薬物運転の取締まりを困難にしている要因として、まず、どの程度の薬物を摂取した場合に薬物運転とみなされるのか、その基準がはっきりしないことが挙げられます。アルコールでは、酒気帯び運転にあたる状態が血中濃度で示されているのに、薬物では、こうした基準がないのです。
また、アルコールの場合の呼気検査のように、道路上で簡単に行える簡易な検査方法がないことも、悩みでした。

しかし、欧米では、薬物運転への社会的な問題意識が高まるにつれ、薬物運転についても、アルコールの場合と同じように、基準を明確にして、確実に取り締まりを進めようという動きが、次第に広がってきています。

たとえば英国(UK)では、2015年春の法改正で、薬物運転に対する規制が大きく変わりました。
取り締まりの対象となるのは、乱用が広まり、自動車運転の危険性を高める恐れの強い17種の薬物(違法薬物8種と処方薬8種、およびアンフェタミン)で、それぞれ血中濃度の下限値が定められました。
運転者の体内から、これを超える濃度の薬物が検出された場合は、「薬物運転」として摘発され、1年以上の運転免許停止、罰金といった処分が科され、場合によっては拘禁刑を言い渡されることにもなります。

処方薬については基準値が比較的高く定められ、また、医師の処方通りに服薬している場合には、仮に検査の結果、基準値を超える薬物が検出されても、処罰されることはないといいます(詳しくは下記を参照)。

●取り締まりの対象となる薬物と血中濃度の基準値
<違法薬物>
ベンゾイルエクゴニン(コカインの代謝物)・ 50µg/L
コカイン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10µg/L
Δ9‐THC(大麻の主要成分)・・・・・・・・・・・・2µg/L
ケタミン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20µg/L
リゼルギン酸ジエチルアミド(LSD)・・・・・・・ 1µg/L
メタンフェタミン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10µg/L
MDMA・・・・・・・・・・・・・・・・ 10µg/L
6-アセチルモルヒネ(ヘロインの代謝物)・・5µg/L
<処方薬>
クロナゼパム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50µg/L
ジアゼパム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 550µg/L
フルニトラゼパム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・300µg/L
ロラゼパム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100µg/L
メタドン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・500µg/L
モルヒネ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・80µg/L
オキサゼパム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・300µg/L
<別枠>
アンフェタミン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・250µg/L

●薬物簡易検査キットの導入
改正法の導入を支えたツールのひとつが、現場ですぐに判定できる薬物簡易検査キットです。自動車運転の取り締まりでは、通常の薬物検査のやりかたで、尿を採取して検査するわけにはいきません。アルコールの場合の呼気検査のような簡便な方法で、薬物使用を判定することができなければ、現場で活用することはできません。

基本的には唾液(口の中の粘液)を採取して、その中に含まれる薬物を簡易検査キットで判定するのですが、英国各地の警察では、様々なタイプの検査キットが導入されました。法改正当時のニュース記事から、いくつか拾い出したものを下に掲載します。
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↑ITVのニュースサイト2014年12月21日の記事
http://www.itv.com/news/story/2014-12-21/police-to-test-drivers-with-drugalyser-kits/
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↑Yorkshire Standardのニュースサイト記事2015年3月2日
http://www.yorkshirestandard.co.uk/news/explained-new-drug-driving-law-and-drugalysers-in-force-10496/
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Plymouth Heraldのニュースサイト記事2015年3月2日
http://www.plymouthherald.co.uk/plymouth-police-training-using-roadside/story-26104931-detail/story.html

もちろん、すべてのドライバーが簡易検査キットによる薬物検査を受けるわけではありません。警察官は、ドライバーの様子などを観察して、薬物使用の疑いがある場合には、まずアルコールの場合と同じように、片足立ちや線の上をまっすぐ歩くといった検査を行い、さらに疑いが強くなった場合には、簡易検査キットを使ってその場で検査します。綿棒で口のなかをぬぐってドライバーの唾液を提出してもらい、鑑定にまわしたり、ときには警察署に同行して、検査を行う場合もあります。

今のところ、こうした簡易検査キットで検出できる薬物は数種類に限られていますが、今後、キットの改良が進めば、多種類の薬物について検査することが可能になりそうです。

英国では、改正法の施行以降、従来の飲酒運転取り締まりに加えて、薬物運転の検査も積極的に行われるようになってきたといいます。

[参照]
薬物運転に関する英国政府の広報
GOV.UK>Drugs and driving: the law
https://www.gov.uk/drug-driving-law

大麻成分入りキャンディ|米フェスティバルで中毒事故

この週末、米オハイオ州で開かれた野外コンサートで、急性の薬物中毒患者が集中発生、24人が救急搬送されました。幸い、重症者はなく、患者のほとんどはまもなく症状が落ち着いたといいます。
中毒事故を引き起こした原因薬物については、警察による捜査が進行中ということですが、疑いの目が向けられているのは、大麻成分入りのキャンディで、当局が成分分析を進めているといいます。
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↑地元のクリーブランド19ニュースより
Authorities testing 'medibles' that hospitalized 24 at rural Ohio music festival(August 06, 2016)
http://www.cleveland19.com/story/32700867/authorities-testing-medibles-that-hospitalized-24-at-rural-ohio-music-festival

コンサートもたけなわのころ、集まった聴衆の間で、誰かが、袋に入ったキャンディを回し始めたそうです。

問題のキャンディは、医療用大麻販売店で取り扱っているもので、パッケージには、メディブルMedibleと書いてあります。Medibleとは、医療用大麻として販売されている大麻入り食品(Medical Marijuana Edible)のことで、患者が、乾燥大麻を喫煙して使用する代わりに、大麻成分入りの食品を摂るもので、小さなキャンディ1~2個で、大麻タバコを喫煙した程度のTHCを摂取することになります。

大麻入りキャンデイだと気づいた人もあったそうです。でも、袋の表示に気付かなかったのか、キャンディを大量に食べてしまった人たちが、やがて気分が悪いと訴え始め、夕刻には救急車で運ばれる人が続出しました。

しかし、誰が、何のために、大麻入りキャンデイを聴衆に配ったのでしょうか。
オハイオ州では、今年6月に医療用大麻制度を認める州法が成立し、9月から施行されることになっています。その景気付け、あるいは前宣伝のつもりだったのでしょうか。

●大麻入り食品の落とし穴
合法大麻や医療用大麻の販売店では、色とりどりの大麻成分入り食品が販売されています。人気のアイテムは、チョコレートやキャンディ、グミ、クッキーなど。
これは、自然の大麻草から抽出した、THCなどの有効成分を食品に加えたもので、ごく普通のお菓子のように見えても、意外に大量のTHCを含んでいます。

パッケージには、大麻入り食品であることが表示され、THC含有量も記載されているはずです。
ところが、ひとたび顧客の手に渡った製品を自宅に置いているうちに、子どもが食べてしまったり、パーティなど、気分が盛り上がっているところへ、手から手へ渡されたお菓子を不用意に食べたり・・・。米国では、大麻入りと気づかずに食べた人たちが、急性中毒に見舞われる事故が頻発しています。

日本の若者も、旅行先で、合法大麻の販売店を目にすることもあるでしょう。大麻そのものには手を出しにくいと感じる人たちも、カラフルなお菓子となると、警戒感も薄れてしまいがちです。
でも、大麻入り食品の多くは、ごく少量で、乾燥大麻喫煙1回分程度のTHCを含んでいることを忘れないでください。たとえばチョコレートバー1本に、喫煙8~10回分程度のTHCが含まれる製品もあります。

米国では、医療用や娯楽用大麻を認める州が増えています。しかし、たとえ大麻が合法化されたとしても、その精神作用が消えてなくなるわけではありません。
不用意な大麻使用には、急性中毒の危険がついてまわることを忘れるわけにはいかないのです。

麻薬撲滅の名の下の暴力|フィリピン

6月末に就任したフィリピンのドゥテルテ大統領は、断固として薬物犯罪抑止に向かう厳しい姿勢で、国民の圧倒的な支持を集めてきましたが、新政権が発足してわずか1月たらずで、「麻薬密売人または乱用者」として、400人以上が警察に射殺され、自警組織などによるものを加えると、700人以上が殺害されたという衝撃的なニュースが、世界をかけめぐっています。
新大統領は、麻薬犯罪の撲滅を宣言しましたが、その手段として、警察官と民間の自警組織の要員が麻薬犯を殺害することさえ容認し、報奨金を与えて積極的な取り組みを奨励しているともいわれ、国際人権団体などから批判されていました。

<ニュースから>*****
●フィリピン新政権、1カ月で麻薬容疑者400人射殺 恐れなした57万人が出頭 
就任から1カ月が過ぎたフィリピンのドゥテルテ大統領が、公約に掲げた「治安改善」をめぐり強権姿勢をあらわにしている。警察が400人を超える違法薬物の容疑者を現場で射殺。恐れをなした薬物中毒患者や密売人ら約57万人が当局に出頭するなど、取り締まりは一定の成果を上げているが、人権団体からは“超法規的殺人”との批判が上がっている。(以下省略)
産経ニュース2016.8.3 17:59
http://www.sankei.com/world/news/160803/wor1608030037-n1.html
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●世界を揺り動かした1枚の写真
7月下旬、マニラ市内で、麻薬密売人と疑われた若い輪タク運転手が射殺されました。街路に打ち捨てられた被害者の傍らには、段ボールの紙片に殴り書きされた「密売人」の文字。殺害者は明らかになっていません。
報道カメラがとらえたのは、被害者の恋人が亡骸をそっと抱き起こすシーンでした。女性の悲しみに満ちた表情の静けさは、かえって、この事件の背景にある暴力を浮かび上がらせていました。
この写真が、世界の有力紙の紙面に取り上げられ、人々の心を動かしたのです。

ところが、CNNのニュースによると、話題の渦中にあるドゥテルテ大統領は、この写真を大きく掲載した地元紙を手に、被害者に同情のかけらもみせず、「死にたくなかったら、(政府の姿勢を批判している)教会や人権団体の言い分を真に受けないでください。彼らは死をとめることはできない」と語ったといいます。
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↑CNNのサイトより
「生死にかかわらず:フィリピンの麻薬戦争はコントロール不能か?」August 4, 2016
http://edition.cnn.com/2016/08/03/asia/philippines-war-on-drugs/

●刑事施設は超過密
麻薬犯罪撲滅のためには、殺害をも辞さず・・・そんな強硬姿勢に、フィリピンでは麻薬密売人や乱用者が大挙して警察に自首しているといいます。
その結果、もともと収容能力が不足気味だった刑事施設が、一気に超過密状態になってしまいました。

下の写真は、マニラ近郊の拘置所で、体育館の床にまですし詰め状態で眠る入所者の様子が撮影されています。定員800人の施設に3800人が収容されているそうです。居室どころが、寝床さえ満足に確保できない状態だとか。
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↑TIME誌のサイトより
フィリピン、マニラ首都圏の刑事施設の超過密ぶりを報じている
http://time.com/4438112/philippines-overcrowded-prison-manila-rodrigo-duterte/

●不安定社会で旗印に使われる「麻薬撲滅」
1980年代、ベトナム戦争後の不安定な米国社会で、麻薬撲滅を掲げて強力な指導力を印象付けたのは、レーガン大統領でした。
薬物乱用防止を旗印に、青少年を巻き込んだ運動が社会の隅々まで広がりましたが、そのいっぽうでは薬物事犯への極端な厳罰化が進み、多くの若者が終身刑を言い渡されて、今も刑事施設で過ごしています。

米国ではその後、行き過ぎた厳罰政策への批判が高まり、薬物犯罪者に対する罰則の見直しも、少しずつ進展しています。また最近では、過度な長期刑を言い渡された人たちの早期釈放も進み始めました。
しかし、行き過ぎた刑事政策の巻き戻しに、実に40年近い時間を要したのです。

さて今度はアジアに飛び火した「薬物撲滅」のスローガン。
たしかに、アジア太平洋地域では、近年急速に覚せい剤の流通量が増え、薬物乱用が急拡大しています。加えて、世界的な景気後退で経済的な行き詰まり感も強まっています。

こんな時期に、またしても「麻薬撲滅」を旗印として掲げる人物が現れました。しかも、今度のリーダーは、法や人権さえ意に介さず、「麻薬撲滅」の名の下で、暴力的な粛清を推し進めていると批判されています。
このような大義名分は、おおいに疑ってかからなくてはなりません。

この問題に関しては、まだしばらくは、続報があることでしょう。国際機関の動きや、世界のメディアの報告に注意をはらっておくことにしましょう。