和歌山県で超大型の大麻栽培施設を摘発

長くブログの更新ができない状態が続きましたが、私も、ようやく急性期の治療を終え、自宅療養にはいったところです。まだしばらくは、療養生活が続きますが、少しずつ、鈍った頭の訓練を始めようかと思います。

さて、間延びした私の思考回路に、いきなり、超大型の大麻栽培施設が摘発されたというニュースが飛び込んできました。

<ニュースから>*****
●1万本超の大麻草栽培疑い 奈良、男4人を再逮捕
和歌山県かつらぎ町の建物で1万本を超える大麻草が見つかり、奈良県警は16日、販売目的で栽培したとして、大麻取締法違反(営利目的栽培)の疑いで男4人=同法の営利目的所持容疑で逮捕=を再逮捕した。
警察庁の統計によると、大麻草の年間の押収量はこの数年間、数千本の範囲で推移しており、一度の摘発量では異例の多さとなった。
逮捕容疑は10月26日、かつらぎ町の工場内で、営利目的から大麻草24本を栽培したほか、乾燥大麻約340㌘を所持した疑い。県警は大量の大麻草が栽培されているとの情報を入手し、同日に工場を捜索。1万本を超える大麻草や乾燥大麻を発見、押収し、出入りしていた4人を現行犯逮捕していた。
2016年11月16日 11:25産経ニュース
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日本で、大麻の栽培が社会の関心を集め始めたのは、2008年ころのことでした。外国から輸入される大麻の種子が出回り、若者が安易に大麻栽培に手を染めるようになったのです。警察が積極的な取り締まりを行った結果、2009年中に摘発された大麻栽培事犯は300件を超え、合計1万本を超える大麻草が押収されました。
その後、国内では栽培用の大麻種子の販売が姿を消し、また、一般人の警戒意識が高まったこともあり、栽培事犯の摘発は下火になりましたが、いっぽうでは、営利目的で大量に栽培する拠点の摘発が相次いでいます。

しかし、これまでの大量栽培事案で押収される大麻草は、1拠点当たり、せいぜい200~300本程度でした。一般の民家で栽培するとしたら、広さの都合で、栽培する量に限りがあるわけです。
1グループが、複数の民家などを使って栽培を繰り返し、合計すると1000~2000本を栽培・・・というのが、組織的な営利栽培の典型的なスタイルだったと思います。

それに比べて、1拠点で1万1千本の大麻草を押収したというのですから、今回の事案は、けた外れに大規模なものだったといえるでしょう。
ちなみに、警察庁の統計によると、1年間で全国の警察が押収した大麻草は、2015年は3,355本、2014年は5,195本でした。今回の事案では、これまでの2、3年分の合計量を一挙に押収したことになります(下記参照①)。

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↑警察による大麻栽培事犯の摘発状況
各年度版の警察庁「薬物・銃器情勢」の発表データに基づき、筆者がグラフ化したもの
・赤線は大麻栽培事犯の検挙件数
・棒グラフは、押収された大麻草の本数

●急がれる大麻密売市場の把握
報道によると、逮捕された4人のなかには暴力団幹部が含まれているそうです。暴力団の組織力を背景に、これほどの大規模栽培が行われていたとすれば、日本の大麻密売市場は、成長期にさしかかっているとみてよいでしょう。供給量が急増しても、それを消化する需要があるからこそ、密売組織に最も近い暴力団が自ら大量栽培に乗り出したのでしょう。

しかし、日本の大麻密売市場の現況について、掌握があまり進んでいないのが現実です。

わずか5、6年前まで、日本に出回る大麻のほとんどは外国から密輸されるものでした。その内容は、大麻草の葉や花を乾燥したもので、原産地によっては、種や小枝が混入していることもありました。
ところが、2009年ころから、税関で押収される密輸大麻が急速に減り始めたのです。ちょうどそのころ、逆に急増していたのが大麻の種子の輸入でした。

おそらくこの時期から、国内で栽培された大麻が、密売市場に流出するようになってきたのだと思います。拡大しているとはいえ、まだ規模の小さい日本の密売大麻市場は、たちまち、国内生産品で埋め尽くされ、密輸品の需要が駆逐されたのではないでしょうか。

現在、密売大麻の市場は、結構複雑になっているようです。
ひと昔前までは覚せい剤だけを扱っていた密売ルートが、都市部から順に、大麻など各種薬物を取り扱うようになってきました。
いっぽう、一部の愛好者の間では、品質へのこだわりが進んでいる様子です。THC含有量の多い花穂部分(バッズ)に限定して取引する例や、ときには銘柄を指定して売買するようなケースも散見されます。こうした品物は、当然、密売価格も割高です。一般の密売品とは、流通の経路も異なることでしょう。

しかし、変化し始めている密売大麻の市場について、まだまだ私たちの理解は及んでいません。捜査陣にとっても、事情は同じことでしょう。

たとえば、今回の事件では、県警の発表によれば、押収された約1万1千本の大麻草のうち、成長した約4千本だけで、末端価格は約20億円と推計されるということです(下記参照②)。
警察は、成長した大麻草1本から乾燥大麻が約100g収穫され、それが末端では1グラム当たり5000円で密売されると計算しているようです。

実は、私自身も数年前まで、大麻草からの収穫量を1本当り約100g(乾燥重量)と計算していたのですが、その後、いくつかの栽培事件を手がける中で、収穫量はもっと少ないのではないかと思うようになり、現在では、約50g程度かと考えています。
また、密売価格も、扱う大麻の品質や、密売ルートによって、1グラム当たり4、5千円から、1万円を超えるものまであり、多様になってきています。

全国の警察には、多くの捜査記録が残されているのですから、そろそろ、こうしたデータを集約する時期ではないでしょうか。これまでの捜査を通じて得た膨大な経験は、まとめの作業を経てこそ、広く活用できるノウハウになっていくはずです。

[参照]
①警察庁「平成27年における薬物・銃器情勢(確定値)」2016年3月
http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/yakubutujyuki/yakujyuu/yakujyuu1/h27_yakujyuu_jousei.pdf
②朝日新聞デジタル「大麻草を栽培した疑い、男4人逮捕 1.1万本押収」2016年11月16日
http://www.asahi.com/articles/ASJCJ3V00JCJPOMB00J.html

対応できず申し訳ありません

数日来、メディア関係の皆様から、相次いで取材申込を頂いていますが、対応できず、申し訳ありません。
私は、現在闘病中で、つい先日治療が一段落して退院したところです。

日を追って体調も戻りつつありますが、
きちんとお話しできる状態になるまで、あと数日かかりそうです。

大麻問題、とくに医療用大麻について、
お話ししたいことはたくさんありますが、
今日はまだ、とても対応できません。

とりあえす、皆様にお詫びとお断りを申し上げます。

2016年10月27日
小森 榮

誤判の是正は誰の責任か|北海道警の偽造調書事件

前記事でも書きましたが、札幌地裁で審理されていた、元警部補による調書偽造、捜査情報漏えいなどの事件で、4日、有罪判決が言い渡されました。

<ニュースから>*****
●捜査情報漏えい:元警部補に有罪判決 札幌地裁
覚醒剤密売仲介者と共謀して供述調書を偽造し捜査情報を漏えいしたとして、地方公務員法(守秘義務)違反などに問われた北海道警薬物銃器対策課の元警部補(38)に対する判決公判が4日、札幌地裁であり、中桐圭一裁判官は懲役2年、執行猶予3年(求刑・懲役2年)を言い渡した。
・・・判決によると、被告は2015年4月、覚醒剤密売仲介者H被告(51)=同罪などで公判中=と共謀し「50代の男が覚醒剤を所持しているのを見た」とする虚偽の供述調書を作成。後日、H被告に捜索予定日などの捜査情報を漏らした。
2016年10月4日 20:22毎日新聞
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報道によると、元警部補は、公判の過程で「他にも(調書偽造を)やっている人がいると聞いた」と証言し、また過去にも同様の調書偽造を行ったことがあるとも供述しているそうです。

当然、事件の捜査段階では、余罪について念入りな取り調べが行われたことでしょう。また、北海道警察内部でも調査が行われ、同警部補が関与した過去の事件について、徹底的な掘り起しが進められていると思います。
しかし、こうした事件で問題になるのは、警察内部の不正だけではありません。一連の不正捜査によって検挙され、覚せい剤や銃刀法事件で有罪判決を受けた被告人が、他にもいるかもしれないのです。違法捜査が行われたことを踏まえて、それぞれの判決を見直し、誤判がなかったかについて、厳密な検討が必要なはずです。

もちろん、警察の内部調査も、この点を無視しているわけではないでしょう。しかし内部調査では多くの場合、検挙された被告人は、もともと覚せい剤を入手するつもりで密売人に接触してきたもので、犯罪を行うつもりのない人に働きかけて犯罪を誘発するようなおとり捜査が行われたわけではないから、捜査に違法があったとしても、判決に影響を及ぼすものではないと理解されてきたように思います。私が知る限り、こうした内部調査によって、既に確定した判決に対して、是正の動きがとられた例はありません。

いっぽう、こうした不正捜査問題が取り上げられると、裁判を受けている被告人や、すでに判決が確定した当事者から、自分のケースでも捜査に不正があったのではないかという申し出が相次ぎます。その窓口になるのは、事件を担当している弁護士や地域の弁護士会ですが、正式な捜査記録に残されていない背後事情などを調べる手段はほとんどなく、調査はなかなか核心に及びません。
現状では、誤判を是正する機会として設けられている再審への道のりは、限りなく遠いのです。

それでも、今春、画期的な再審請求が認められました。
前記事でもふれたように、2002年に北海道警察で起きた、元警部による覚せい剤取締法違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反事件が起きましたが、同じ元警部が関わったけん銃所持の別事案で、おとり捜査が行われた疑いが強いとして、有罪が確定したロシア人元被告人の再審請求が認められたのです。
札幌地裁によるこの決定は、裁判所ウェブサイトに掲載されているので、全文を読むことができます。
[参照] 
札幌地方裁判所平成28年3月3日決定/平成25年(た)2号
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/828/085828_hanrei.pdf

しかし、ここまでの道のりが決して平たんでなかったことは、時間の経過からも推察することができます。ロシア人被告人が、けん銃等を所持したとして懲役刑を言い渡されたのは1998年でした。同人は、公判時から一貫して違法なおとり捜査を訴え、無罪を主張していたといいます。
その後2002年に、元警部による不正捜査問題が発覚し、公判での供述などから元警部が違法なおとり捜査に関わったことが明らかになりました。これによって、ロシア人元被告人の主張は、にわかに真実味を増したはずですが、再審請求が認められるまでには、これほど長い時間がかかったのです。

もしも、元警部による不正捜査問題に関する警察での内部調査が行われた時点で、その結果が開示されていたなら、このようなケースはもっと早く結論にたどり着くことができたのではないでしょうか。
私は、内部調査の結果をみやみに公表すべきだと主張しているわけではありません。しかし、不正捜査に巻き込まれた可能性のある当事者やその代理人が、該当する事案の調査結果を知る道は、確保されるべきではないでしょうか。

不正捜査によって、本来無罪であるはずの被告人に有罪判決が言い渡されているかもしれないのです。誤判を是正する責任は、検察官や捜査側にもあるはずです。

虚偽の供述調書|薬物をめぐる不正捜査事件

横浜地裁で審理されている大麻取締法違反事件の論告・求刑で、検察官が具体的な求刑をせず判断を裁判所に委ねたことから、無罪が言い渡される可能性が高まったと伝えられています。
<ニュースから>*****
●検察が求刑放棄、無罪の公算 調書偽造の大麻事件公判
神奈川県警大船署刑事課の40代元巡査部長が大麻取締法違反事件の捜査で虚偽調書を作成した問題に絡み、同法違反罪に問われた男性被告(25)の公判が29日、横浜地裁で開かれ、検察側は求刑を放棄した。無罪となる公算が大きい。
検察側は、国井恒志裁判官から求刑についての意見を求められると「しかるべく」と述べ、地裁に判断を委ねた。弁護側は虚偽の調書に基づいて押収された証拠の排除を請求し、無罪を求めた。
2016年9月29日 16:40産経ニュース
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この事件そのものは、被告人の自宅を捜索した際に大麻が発見されたというもので、よくあるタイプの事件ですが、捜索令状を請求する際に添付した目撃者の供述調書が、捜査員によって虚偽の内容が書き加えられたものだったことが浮かび上がり、問題になっていました。
目撃者は、被告人が「路上で大麻を持っているのを見た」と供述していたのですが、調書を作成する段階で、捜査員が「自宅の部屋でも持っているのを見た」と偽って調書に記載した上、捜査情報を目撃者に漏らしたとされています。
ちなみに、虚偽の調書を作成した元巡査部長は、すでに懲戒免職になり、今年8月には証拠隠滅と地方公務員法違反の罪で略式起訴され、罰金刑が言い渡されました。

折から、札幌地裁でも、覚せい剤事件をめぐる供述調書の偽造事件が審理されていて、こちらも先日結審しました。
札幌の事件は、北海道警察本部に勤務していた元警部補が、密売人と共謀して、覚せい剤購入者の男性が「覚せい剤を持っているのを見た」とする調書をねつ造したとされています。
<ニュースから>*****
●北海道警調書偽造 懲役2年求刑の元警部補「他にもいる」
覚醒剤密売仲介者と共謀して供述調書を偽造し捜査情報を漏えいしたとして、地方公務員法(守秘義務)違反などに問われた北海道警薬物銃器対策課の元警部補、H被告(38)の論告求刑公判が27日、札幌地裁(中桐圭一裁判官)であり、検察が懲役2年を求刑し、弁護側が執行猶予を求めて結審した。判決は10月4日。
毎日新聞2016年9月28日 08時49分
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薬物やけん銃にまつわる犯罪は、密行性が高く、捜査が難しいことから、繰り返しこうした不正が起きてきました。
今年5月、奈良地裁では、けん銃等を所持した被告人に有罪判決が言い渡されましたが、被告人は、大阪府警に協力中だったと無罪を主張していました。
また2014年には、静岡県で北海道の事件とそっくりな不正が発生し、覚せい剤をめぐる「おとり捜査」と糾弾されました。

こうした事件に、今春封切られた映画「日本で一番悪い奴ら」を重ね合わせた方もあることでしょう。映画のモデルになった事件は、2002年に北海道警察で起きた、現職警察官による覚せい剤取締法違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反事件を題材にしているといいます。被告人は、犯罪組織の内部者を捜査協力者にして、けん銃摘発の実績をあげ、やがて自らも覚せい剤を使用するようになり、けん銃や覚せい剤の密売に手を染めていったという、ドラマのような事件でした。

警察では、毎年秋に、覚せい剤取り締まり強化が行われています。年中行事とはいえ、捜査陣は、検挙目標が設定され、プレッシャーがかかる時期を迎えることでしょう。
無理な捜査を強行するあまり、捜査員が不正な手段に踏み込むことがないよう、このシーズンを乗り切ってほしいものです。

米で警報!致死量わずか2㎎の最強麻薬出回る

「最強の麻薬」「死のオピオイド」といわれるカルフェンタニルが、いま米国の乱用市場に出回り、オーバードーズによる死亡事故が多発しています。米麻薬取締局(DEA)は、9月22日に全米に向けて警戒情報を出し、注意を呼びかけています(下記参照①)。

カルフェンタニル(4-カルボメトキシフェンタニル)は、強力な作用を持つ合成麻酔薬フェンタニルの構造類似体(アナログ)で、その作用の強さはモルヒネの1万倍、フェンタニルと比べても100倍といわれます。
強い効き目から大型動物の全身麻酔用に使われることもありますが、人への使用は想定されていないので、正確な1回使用量は分かりません。もしも、人に使うとすれば、1回の使用量はマイクログラム(1グラムの100万分の1)単位になるでしょう。
DEAによれば、わずか2ミリグラムが致死量になりうるということです(下記参照②)。

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↑カルフェンタニルの致死量はわずか2ミリグラム
DEAの資料から、ペニー硬貨と比べた2ミリグラムの粉末(下記参照②)

こんなものが、いま米国の乱用薬物市場に紛れ込んで流通しています。最近問題になっているのは、「ヘロイン」として密売される白い粉末に、カルフェンタニルが混入されたもので、いつものヘロインだと思い込んで、同じように使ったユーザーが、たちまちオーバードーズに見舞われ、救急搬送されたり、命を落したりする事故が相次いでいるのです。

カルフェンタニルだけではありません。近年、米国には様々なフェンタニル類似薬物が流入し、オーバードーズ事故が急増しているのです。
オピオイド系鎮痛薬の乱用が広まり、乱用者のなかにはさらに効き目の強いヘロインに手を伸ばす人も少なくない米国では、乱用薬物のマーケットでオピオイド系の成分の需要が、かつてないほど高まっています。そこへ、中国の化学会社が生み出す、多様なフェンタニル系の薬物が流れ込んでいるのです。

●相次ぐ中毒事故
ヘロインによるオーバードーズ事故の集中発生が急増し始めたのは、8月末のことでした。
オハイオ州シンシナティ地区では、8月末の6日間に174件のヘロイン過量摂取事故が発生しました。同じころ、ニュージャージー、ケンタッキー、インディアナ州でも、ヘロインのオーバードーズ集中発生が報告されています(下記参照③)。
さらに地元のニュースサイトによれば、9月24日、オハイオ州のクリーブランド地区では、ヘロインの過量摂取による中毒死が相次ぎ、わずか24時間のうちに7人が死亡するという事態に至りました(下記参照④)。

現在、原因物質を特定するための調査が進められていますが、「ヘロイン」として密売された粉末に、カルフェンタニルなどの薬物が混ぜられていたのではないかとみられています。

●捜査官にも被害が発生
ごくわずかな量で致死的なオーバードーズが起こりうるのが、フェンタニル系薬物の特徴です。しかも、呼吸器や粘膜、ときには皮膚を通じて吸収されることもあります。そうなると、事故の現場に臨場した捜査員に、中毒事故が起きることも考えなくてはなりません。

じっさい、捜査現場では中毒事故が発生しているといいます。今年6月、DEAサイトで「フェンタニル―法執行における現実の脅威」という、捜査官向けの啓発ビデオが掲載されました。
ビデオに登場するのは、ニュージャージー州の捜査員2名です。彼らのチームは、捜査現場でフェンタニル系の薬物と思われる粉末を発見したのですが、簡易検査のために袋を開けようとして、誤って少量の粉末が飛び散り、その場にいた2人がたちまち中毒症状に陥ったのです。幸い、迅速な医療措置のおかげで命拾いしましたが、「身体の機能がとまり、死ぬと思った」と語っています(下記参照⑤)。

●無知が生んだ悲劇
ユーザーが次々にオーバードーズ事故を起こすような品物は、売り手の側からみても失敗作です。これでは、愛好者が広がらず、大きな利益が生まれないからです。
ところが、誰も望んでいないはずの致死性ドラッグが、次から次へと、乱用市場に現れているのです。

技術の進歩によって、新種の薬物が際限なく生み出され、しかもインターネットを通じて簡単に入手できるのが、今の時代です。お手軽に原料を個人輸入して、素人が適当に調合したものが、乱用薬物として流通するなかで、このようにケタ違いに危険性の高い品物が出回ってしまうことも、ありがちです。無知が生み出した悲劇と言えるでしょう。

つい先年、危険ドラッグ流行の末期には、日本でも、こんなケースが多数出現したものです。幸い、日本は危険ドラッグの危機をとりあえず乗り切りましたが、米国では、未だに危機が進行しています。
こうした新たな危険要素が、日本に飛び火してこないよう、祈るばかりです。

[参照]
①DEAの報道発表
DEA Issues Carfentanil Warning to Police and Public(September 22, 2016)
https://www.dea.gov/divisions/hq/2016/hq092216.shtml
②カルフェンタニルについての資料・米DEA
Carfentanil: A Dangerous New Factor in the U.S. Opioid Crisis https://www.dea.gov/divisions/hq/2016/hq092216_attach.pdf
③オハイオ州での中毒事故集中発生の報道
The Washington Post>'This is unprecedented': 174 heroin overdoses in 6 days in Cincinnati(August 29)
https://www.washingtonpost.com/news/morning-mix/wp/2016/08/29/this-is-unprecedented-174-heroin-overdoses-in-6-days-in-cincinnati/
④地元ニュースサイトの記事
WCPO>Cleveland area has 7 drug overdose deaths in 1 day(Sep 25, 2016)
http://www.wcpo.com/news/state/state-ohio/cleveland-area-has-7-drug-overdose-deaths-in-1-day
⑤捜査官向けの啓発ビデオ
Fentanyl―A Real Threat to Law Enforcement
https://www.dea.gov/video_clips/Fentanyl%20Roll%20Call%20Video.mp4

ドゥテルテ大統領が訪日・・・私たちはこの人物をどう迎えればいいのか

フィリピンのドゥテルテ大統領が10月に訪日することになりそうだと、ニュースが報じています。フィリピンは外資誘致を積極化しており、製造業を中心に日本からの投資を呼びかけるのが狙いだといいますが・・・。
麻薬撲滅の名の下で、住民の殺害さえ許容するという超法規的な粛清を強行し、その手法が国際的な非難を呼ぶと、米大統領や欧州連合、国連事務総長さえ口汚くののしるという、大統領の対応に、問題はいまや、国際的な経済、外交、防衛といった問題にまで拡大し始めました。

さて、この人物の訪日にあたって、私たち日本人は、どのように迎えたらいいか戸惑ってしまいます。
ドゥテルテ大統領と「麻薬撲滅」活動の問題、今日までの経緯をざっとまとめてみました。

●ドゥテルテ大統領による強行策
フィリピンは7000を超える島からなっていますが、国土の面積は日本の約8割、人口は1億人強と、日本をひとまわり小ぶりにしたような国だと考えればよいでしょうか。
貧困、失業、治安などとともに、この国を長年悩ませてきたのが薬物乱用問題です。2016年の大統領選では、治安の回復や薬物問題の早期解決を掲げたドゥテルテ氏は、広く国民の支持を集めて当選、6月末に新大統領に就任しました。

就任早々、新大統領は公約に従って、「フィリピンから薬物問題を一掃する」という課題に積極的に取り組み始めたといいます。
ところが、その手段となったのは、警察による末端の密売人と乱用者に対する、超法規的な取り締まりだったのです。重武装した取締まりチームが貧困地区をパトロールし、薬物密売人や乱用者に自首を促します。捜査に抵抗を示す場合には、射殺することも容認されました。警察ばかりでなく、各地で組織された自警団や正体不明の暴力集団も、この活動に加わったといわれます。

8月23日、フィリピン議会上院の合同調査委員会でフィリピン国家警察の幹部は、新大統領の下で麻薬撲滅作戦が始動してからの2か月で、警察は10,153人の薬物乱用者を逮捕し、多量の薬物を押収したと証言しました。
しかし、その裏で、多くの市民が「取り締まり」の名の下で殺害されていたのです。警察によって殺害されたのは756人、ほかに1160人が殺害されたといいますが、その多くに、自警団が関与しているとみられています(下記参照①)。

新大統領の肝いりでスタートした「麻薬一掃」活動ですが、これは正式な国家としての取り組みに位置付けられたものではなく、政府からの、公式な方針などの発表はありません。

●フィリピンの薬物問題の現状
この国で最も広く乱用されているのは覚せい剤で、現地では「シャブ」と呼ばれることからもわかるように、もともとは日本の犯罪組織が持ち込んだものです。
 ・1位・・・覚せい剤
 ・2位・・・大麻
 ・3位・・・コカイン
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↑フィリピン政府の危険薬物委員会のサイト(下記参照③)

この国に約180万人の薬物乱用者がいるといいます。ここで示された180万人という数字は、過去1年以内に違法な薬物を使った人の数で、人口の1.8%にあたります。これまでに1回以上薬物を使ったことのある人は6.1%で、480万人に及びます。
フィリピンでは、長年にわたり、薬物乱用問題が重要政策課題の一つとされ、政府の下に置かれた危険薬物委員会が薬物対策の中枢を担ってきました。同委員会が定期的に実施している、全国規模の薬物実態調査の2015年版の概要が先日報道発表され、右肩上がりで増え続ける薬物乱用の実態が明かされたところです(下記参照②)。

危険薬物委員会のまとめによると、性別では圧倒的に男性が多く、その中心年齢は31歳、過半数が無職で、都市部に住む低所得層が中心です。平均乱用年数は6年以上、覚せい剤を中心に他の薬物も使用しています(下記参照③)。

日本と比べると、フィリピンの薬物乱用状況は、かなり深刻だと言えるでしょう。
ちなみに、日本の調査では、過去1年以内に覚せい剤、大麻、危険ドラッグなどの薬物を使った人は0.1%。これまでに1回以上使ったことがある人は、2.5%となっています(下記参照④)。

●取り締まり体制
薬物犯罪の取締りにあたる主要機関は、フィリピン麻薬取締局Philippine Drug Enforcement Agency (PDEA)で、全国16の支局と16か所の分析ラボを備えた組織です。組織の構造や規模などは、日本の厚労省麻薬取締部の現状に似ているように思います。
捜査官の人数が限られているため、麻薬取締局の活動対象は大型事案に絞られるといいます。しかし、取り締まりの最前線や司法組織にまではびこる汚職や、体制の不備などのため、密輸や密売を取り仕切る犯罪組織の摘発は遅々として進まず、逮捕した組織幹部を起訴できないまま捜査を打ち切ることもしばしば起きているといいます。

いっぽう、末端の密売人や乱用者に対する取り締まりは、主に警察が担当しています。
東南アジア諸国の例にもれず、フィリピンの薬物法制も大変厳しいもので、たとえば5グラム以下覚せい剤の単純所持に対しても、長期の拘禁刑が科されます。

●ビリビッド刑務所スキャンダル
マニラ市郊外に新設された、2万人以上を収容するビリビッド刑務所をめぐって、内部で薬物密売が行われているという疑惑が、長く取りざたされていました。2014年12月、当時の大統領の特命を受けて、警察と軍が数回にわたって同刑務所に対して強制捜査を行い、驚くべき実態が明らかになりました。
刑務所内で発見されたのは、エアコン装備の特別室、ジャグジーバスや温水シャワー、ブランド腕時計や札束を入れた金庫が備え付けられた部屋や、高級ウィスキーを並べた房もあったといいます。収容者の身辺から押収されたのは、覚せい剤、携帯電話、多額の現金、携帯型パソコン・・・。
メディアはこぞってこの話題を取り上げ、有罪判決を受けた薬物密売組織の大物たちが、刑務所内で「王様みたいに暮らしている」と報じ、この問題は国民的スキャンダルになりました。
この問題は2016年の大統領選挙で大きな争点となり、ドゥテルテ現大統領はビリビッド刑務所問題の徹底究明と麻薬問題の短期解決を公約に掲げて当選したわけです。

[参照]
①CNN Philippines' War on Drugs(Sep 07, 2016)
http://edition.cnn.com/specials/asia/philippines-drugs-war
②フィリピンの薬物乱用実態全国調査
2015 Nationwide Survey on the Nature and Extent of Drug Abuse in the Philippines
調査結果は、下記のニュース記事によりました。
DDB: Philippines has 1.8 million current drug users - Rappler(September 19, 2016)
http://www.rappler.com/nation/146654-drug-use-survey-results-dangerous-drugs-board-philippines-2015
③フィリピン危険薬物委員会
Dangerous Drugs Board (DDB)
www.ddb.gov.ph/
*乱用実態に関する統計は2015 Statisticsでまとめられている
④薬物使用に関する全国住民調査(2015年)
国立精神・神経医療研究センターのサイト内
http://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/report/pdf/J_NGPS_2015.pdf

刑の一部執行猶予、気になる対象者の選定

大麻事件で2度目の裁判を受けた有名人の長男に対して、一部執行猶予の判決が言い渡されたそうです。
今年6月に導入された一部執行猶予制度、導入から3か月目となる今では、取り立てて報道されることもなくなりましたが、こうして、有名人の事件報道などを通じて、私たちの目に触れることになります。新制度も、どうやら裁判実務に根を下ろし始めたのでしょうか。

<ニュースから>*****
●元チェッカーズ長男に有罪 大麻所持で
大麻取締法違反(所持)などの罪に問われたT被告(22)に、東京地裁(伊藤ゆう子裁判官)は16日、懲役1年4月、うち4月を保護観察付き執行猶予2年とする判決を言い渡した。
被告は元人気バンドチェッカーズの元メンバーの長男。6月19日に東京都渋谷区で大麻約0・7グラムなどを所持していたとして起訴され、検察側は懲役2年を求刑していた。以前にも大麻取締法違反罪で有罪判決を受けており、事件当時は執行猶予期間中だった。
2016年9月16日 19:48産経ニュース
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そういえば、7月上旬に横浜地裁で判決を言い渡されたロックバンドの元メンバー(55)のケースでは、覚せい剤事件で執行猶予中に再犯した被告人に対して、やはり一部執行猶予判決が下されていました。
 事件・・・覚せい剤の使用
 被告人・・昨年9月に覚せい剤事件で執行猶予付き判決を受けて執行猶予中
 判決・・・懲役1年6月、うち4月を2年間の保護観察付執行猶予

薬物事犯者に適用される一部執行猶予は、2タイプありますが、上の2ケースでは刑法27条の2に定める、刑の一部の執行猶予が適用されました。
これは、初めて実刑判決を受ける被告人が主な対象者とされていて、その典型的な例が、執行猶予中(保護観察付も含む)に再び罪を犯した人です。上の2ケースのように、薬物事犯として初めて裁判を受け、更生を誓ったにもかかわらず、執行猶予判決を受けて社会復帰して間もなく、二度と手を出さないと決意したことも忘れて、再び薬物を使い始めて、二度目の裁判を受ける人が、残念ながら後を絶ちません。

こうした場合、再犯防止のために継続的なケアが望ましいのは、言うまでもありません。本来なら、最初に裁判を受けた後、薬物を断ち、生活を切り替えなければならなかったのに、具体的な対策をとることができなかったのか、あるいは、当人の覚悟が不十分だったのか、短期間で再犯に至ってしまったのですから。

こうした事案では、刑の一部を執行猶予として、釈放後も引き続き保護観察の下で、専門的なプログラムを受けさせるという判決には、説得力があると言えます。
でも、同じように執行猶予中に再犯に至ってしまった多くの被告人のうち、どの事案に対して一部執行猶予を言い渡すのか、その選択は、かなり微妙になってきます。

なにしろ、執行猶予中に再犯して、一部執行猶予判決を言い渡された場合は、全部実刑判決の場合と同様に、前の刑の執行猶予は取り消され、宣告されていた刑を実際に受けなくてはなりません。2件分を合せた服役の期間は相当に長くなり、釈放後に、実際にプログラムを受けるのは数年先のことになるのです。
その数年先に、被告人がどんな形で社会復帰するか、判決の時点でそこまで見通すことは、かなり難しいでしょう。

一部執行猶予判決を言い渡すにあたって、生活状態の不安定な被告人の場合は、数年先に長期の保護観察を受けることに不安がつきまとうことでしょう。いきおい、服役後の住居が確保されていて、被告人の帰りを待つ家族がいる・・・そんなケースを選択しがちになるのではないでしょうか。

しかし、こうした環境にある被告人は、あえて保護観察という制度に頼らなくても、本人や家族の力で更生できる可能性が高いということを忘れてはいけません。自力で更生できる被告人にとっては、社会復帰後も長期にわたって保護観察を義務付けられることは、ときには円滑な社会復帰の重荷になることだってあり得ます。
むしろ、自力での更生を支える体制が不十分なため、否応なしに再犯リスクが高くなってしまう被告人に対して、社会復帰後の生活を長期間監督し、支援してこそ、一部執行猶予制度は真価を発揮するのではないでしょうか。

保護観察の受け入れ体制を考えれば、当面は、一部執行猶予は限られた事案に対して適用していくことになるでしょう。その対象が、ほんとうに適切に選択されるかどうか、私には、そんな点が気になっています。