昔の手法が復活|急増する覚せい剤密輸

今年に入って、100キロ超の大型覚せい剤密輸事件の摘発が相次いでいるところへ、今度は、中国からの船便で、LED照明器具の中に隠した覚せい剤154キロを密輸したとして、台湾国籍の男性3人が逮捕されたと、ニュースが伝えています。今年7月、コンテナ貨物として東京港に陸揚げされた貨物です。

<ニュースから>*****
●覚せい剤154キロ密輸容疑=107億円相当、台湾人ら逮捕-警視庁
覚せい剤約154キロを中国から営利目的で密輸したとして、警視庁組織犯罪対策5課などは5日までに、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)容疑で、住所不定、職業不詳の台湾人・・・ら3人を逮捕した。鄭容疑者らはいずれも容疑を否認している。同課などは密輸の全容解明とともに国内での流通ルートの解明を進める。
逮捕容疑は7月2日、覚せい剤約154キロ(末端価格約107億8000万円)を発光ダイオード(LED)照明器具の中に隠し、船便で中国から埼玉県川口市の中国人の男宛てに発送。同7日、東京都江東区青海の青海コンテナ埠頭(ふとう)に陸揚げさせ、密輸した疑い。
時事通信(2016/09/05-12:45)
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折から、昨日警察庁が『平成28 年上半期における薬物・銃器情勢(暫定値)』を発表しましたが、そこでの話題は、やはり、激増した覚せい剤密輸押収量で、「上半期の覚醒剤の密輸入押収量は771.7kg(前年同期比+654.2kg、+556.8%)と、大幅に増加した。」と報告されています(下記参照①)。

●息を吹き返したか、東アジア圏からの大型密輸
相次いで摘発された大型密輸事件は、いずれも、中国や台湾など東アジア圏内から日本に密輸されたと思われるケースです。そして、その背後に、密輸計画に密接に関与している暴力団の影も垣間見えています。

【100キロ超の覚せい剤密輸事件・2016年1~9月摘発分】
A 東シナ海で洋上取引・・・2016年2月
約100キロの覚せい剤を徳之島に陸揚げしたとして、暴力団幹部ら5人が逮捕されました。東シナ海で外国船との間で洋上取引を行い、覚せい剤を密輸したとして起訴されています。捜査段階で、覚せい剤の受け渡しに先立って被告人らが中国に渡航したことが判明、覚せい剤取引の関係者と接触したのではないかとみられています。
B 過去最大の約600キロ、那覇港のヨットから発見・・・2016年5月
沖縄、那覇港に停泊中のヨットの船内から、約600キロの覚せい剤が見つかり、乗組員の台湾人らが逮捕されました。このケースでも、ヨットの乗組員らは、東シナ海の洋上で外国船から覚せい剤を受け取り、日本に密輸しようとしたといいます。
C そして今回は、船便のコンテナ貨物を利用した密輸です。貨物の積出し地は中国、逮捕された台湾国籍の男性らは、貨物の到着時期に合せて来日していたといいます。

中国や北朝鮮などの近隣国から、海上ルートや商業貨物を使って、一度に100キロ超の覚せい剤を密輸する・・・ひと昔前には、こうした大型密輸が頻繁に摘発されていたのですが、そういえば近年では、こうしたケースを目にすることが減りました。
洋上で覚せい剤を受け渡しする手口は、かつて、北朝鮮や中国からの大量密輸の代表的な手法でしたが、2001年に北朝鮮不審船問題が浮かび上がり、領海の警備が強化されたことから急速に姿を消していました。
また、中国からの船便貨物を使った大型密輸も、かつては頻繁に摘発されましたが、この10年ほどは、ほとんど見かけなくなりました。

相次ぐ大型摘発で密輸組織が弱体化したともいわれ、また、中国国内での取り締まりが強化され、日本の暴力団が送り込んでいた現地の買付拠点が壊滅したともいわれます。詳しいことはわかりませんが、当時の大型密輸を支えてきた人材や拠点が、急速に活動力を失ったことは確かです。

ところがここへ来て、近隣諸国からの大型密輸が、急速に息を吹き返しています。洋上で覚せい剤の受け渡しを行う手口も、大型コンテナ貨物を使う手法も、昔のパターンそのままです。
一度は壊滅したかに思われた密輸組織が、体制を立て直して、ふたたび活動し始めたのでしょうか。
あるいは、暴力団をめぐる勢力関係が流動化していることから、利益の大きい覚せい剤密輸に、再び手を伸ばす組織が出てきたのでしょうか。なにしろ、暴力団にとって、覚せい剤は第二の通貨ともいわれる、重要な存在なのですから。

●メキシコからの大型密輸は減少
もうひとつ、気になる動きがあります。東アジアの近隣諸国からの大型密輸が途絶えた後、それを埋め合わせるかのように、2013年ころから急速に増えていたのが、メキシコ(米国の場合も)発の商業貨物便を使った大型密輸です。

100キロ超の大型摘発だけでも、次のようなものがありました(下記参照②)。
D 模造鉄鉱石の内部に194キロ・・・2013年5月
神戸税関は、メキシコから神戸港へ到着した海上コンテナ貨物の検査において、模造鉄鉱石に隠匿していた覚醒剤 約194㎏を発見、摘発した。
E 製粉機の内部に240キロ・・・2013年3月
横浜税関は、メキシコから横浜港へ到着した海上コンテナ貨物の検査において、製粉機のローラー内部に隠匿していた覚醒剤 約240㎏を発見、摘発した。
F 石材に隠匿していた覚醒剤を摘発・・・2014年1月
門司税関は、メキシコから到着した海上コンテナ貨物の検査において、石材に隠匿していた覚醒剤 約145kgを発見、摘発した。
G 洋酒瓶内に隠匿していた覚醒剤を摘発・・・2015年10月
横浜税関は、メキシコから到着した海上コンテナ貨物の検査において、液体に溶かしてテキーラ瓶1,026本に隠匿していた覚醒剤 約171kgを発見、摘発した。

ところが、東アジア圏からの大型密輸の復活に呼応するかのように、今度は、メキシコ発の大型密輸が減少しているのです。今年に入ってからは、2月に摘発された、トラの置物に約25キロを隠して密輸したケースくらいです。

中国系の密輸組織と、メキシコのカルテルは、覚せい剤密造原料の調達から覚せい剤の密輸まで、様々な形で連携しているといわれます。この両者が、臨機応変に連携しながら、日本の密売市場に向けて、途切れなく覚せい剤を送り込んでいるのかもしれないと、私の連想は膨らみます。

[参照]
①警察庁刑事局組織犯罪対策部薬物銃器対策課『平成28年上半期における薬物・銃器情勢(暫定値)』2016年9月
http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/yakubutujyuki/yakujyuu/yakujyuu1/h28_yakujyuu_jousei.pdf
②財務省関税局調査課『白い粉・黒い武器レポート』
平成27年版http://www.customs.go.jp/mizugiwa/mitsuyu/report2015/index.htm
平成26年版http://www.customs.go.jp/mizugiwa/mitsuyu/report2014/index.htm
平成25年版http://www.customs.go.jp/mizugiwa/mitsuyu/report2013/index.htm

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