転換期を迎えた覚せい剤密輸|税関の密輸摘発報告

財務省が、2015年の税関での密輸取り締まり状況を発表しました。覚せい剤密輸の摘発が、件数、押収量ともに減少したいっぽうで、指定薬物の輸入事犯が激増し、税関での摘発件数を押し上げました(下記参照①)。

●覚せい剤密輸ルートは、再び大きな転換期に
今回の発表でまず目につくのは、航空機旅客(運び屋)による密輸入が大幅に減少したことです。近年では、全国の税関で摘発された運び屋事案(覚せい剤)の件数は概ね100件を超えていたのですが、2015年では37件にとどまりました。訪日観光客が増加し、有力な仕出し地域からの訪日客も増加している中で、摘発が大きく減少したのですから、運び屋を使う覚せい剤密輸が減少したとみてよいでしょう。

運び屋を使った手法が、覚せい剤密輸の代表的な手口になったのは、この10年ほどのことです。1990年代末ころから、日本には、北朝鮮や中国から船舶を使った洋上取引(いわゆる瀬取り)によって、大量の覚せい剤が密輸されましたが、やがて領海警備が厳しくなり、また相次ぐ大型検挙によって密輸組織の活動が封じられたことから、瀬取りによる覚せい剤密輸は姿を消しました。
その後、主流になったのが、運び屋による密輸手法です。手荷物や身辺に覚せい剤を隠した運び屋が、観光客を装って日本にやってくるのです。1回に運ぶ量は限られますが、発見されにくい手法として、この10年ほどは日本への覚せい剤密輸の代表的な手法になっていました。

それが急速に減少した背景として、航空機の搭乗検査が厳しくなったことが挙げられるでしょう。世界の主要空港には全身スキャナーが導入され、また機内に積み込む手荷物も細かく確認されます。運び屋にとっては、実にやりにくい状況になったわけです。

しかし、日本への覚せい剤密輸が減ったようには見えません。末端での密売価格が1グラム3~4万円程度と比較的低価格(欧米に比較すれば高価ですが)で安定していることからみると、日本の国内には相変わらず大量の覚せい剤が流通している様子です。
低調になった運び屋に代わる、新たな密輸手法がすでに動き出していると考えざるを得ません。
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↑覚せい剤密輸の推移(1996~2015年)
税関の各年度の発表データに基づいて私がグラフ化したもの

次の主流となる手法を考えるうえで、気になっているのが、商業貨物による大量密輸です。この数年、貨物便で届いた荷物に隠された大量の覚せい剤が押収されるケースが目につきます。
なかでも、液体に溶かし込んで飲料や雑貨に偽装する手口が増加しています。同じ日に発表された東京税関の報告は、2014年以来摘発が増えている、液体状での密輸手口について写真入りで取り上げています(下記参照②)。

●ようやく峠を越えた指定薬物密輸事犯
危険ドラッグ対策の一環として、指定薬物が関税法上の「輸入してはならない貨物」に追加されたのが昨年4月のことでした。それ以来、各税関では、世界の各地から送られてくる危険ドラッグから、続々と指定薬物が検出され、年間の摘発件数は1,462件に達しました。件数からいえば、税関で摘発される不正薬物の約8割を占めたといいます。
押収された指定薬物の9割までが、亜硝酸エステル類(いわゆる「ラッシュ」)。1件当たりの押収量は小瓶3~4本という少量の事案が多かったといいますから、インターネットを通じて外国の販売サイトに注文した、小口の個人輸入だったのでしょう。

私は、指定薬物に対する税関の取り扱いが周知されれば、いずれ違反摘発も減るだろうとみていたのですが、違反摘発の流れはなかなか収まりませんでした。税関の報告には「月別の摘発件数をみると、8月までは200件前後と高水準で推移していたが、9月以降は減少傾向となり、最も多かった月の半数以下となった。」とあります。どうやら、指定薬物の個人輸入問題も、峠を越えたようです。
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↑指定薬物の月別摘発件数(2015年4~12月)
下記参照①の税関発表資料より転載

しかし、昨年中に発見された指定薬物の事案の事件処理は、まだ進行中のようです。少量といえども、薬物の密輸事犯となれば、事件処理にはかなりの手間がかかります。税関でも、警察でも、まだまだ山積の事件との格闘が続いていることでしょう。

[参照]
①平成27年の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況(2016年2月19日)
http://www.mof.go.jp/customs_tariff/trade/safe_society/mitsuyu/cy2015/index.htm
②東京税関・平成27年密輸摘発概況(2016年2月19日)
http://www.customs.go.jp/tokyo/content/20160219tekihatsujokyo.pdf

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