覚せい剤と毛髪鑑定|覚せい剤問題NOW-4

一部メディア関係者はいま、毛髪鑑定に異様なまでの関心を示しておられるようで、相次いで質問が寄せられますが、仕事の合間に、限られた時間でお答えしても、なかなか了解していただけない様子です。

被疑者の毛髪中に含まれる覚せい剤を検査しても、なぜそれが、覚せい剤使用罪を立証する証拠になりにくいのか、再度まとめます。
私は鑑定に関しては素人なので、手元にある、鑑定の専門家による文献から、要点を抜書きしてみます。紹介する順序には、何の意味もなく、手元にある順です。

①井上堯子ほか『改訂版 覚せい剤Q&A―捜査官のための化学ガイド』東京法令出版、2008年
「現在、薬物を使用すると薬物が毛髪内へ一部取り込まれ、殊に、連続して使用する乱用者においては、その毛髪から薬物が検出されることは、周知の事実となっています(95頁)。」
「毛髪鑑定では、(略)数か月から数年間の薬物使用を明らかにすることができます。一方、毛髪からは、1~数回(何回かを断定することはできません。)程度の使用では、覚せい剤を検出することは難しく、乱用者の場合のみ検出が可能です(104頁)。」

②井上堯子『乱用薬物の化学』東京化学同人、2003年
「ごく最近の薬物使用や慢性的でない使用を毛髪試料で証明することは難しく、また、脱色や染色処理によって毛髪中の薬物が漏出することが指摘されています(131頁)。」
「薬物摂取証明のための検査試料としては、尿が最適と考えられます。(略)尿検査と毛髪検査から得られる薬物使用歴に関する情報は異なっており、毛髪検査は、尿検査を補うものとして注目されます。(133頁)。」

③井上博之「薬物予試験・鑑定の現状と課題」警察学論集57巻第2号97-110頁、2004年
「毛髪を毛根部より数cmの間隔で分割し、薬物の分布を調べれば、その使用歴がわかることになる。しかしながら、薬物が毛髪中に取り込まれるメカニズムの詳細についてはまだ十分に解明されておらず、分析結果の解釈については慎重を期さなければならない(107頁)。」

④丸茂義輝「乱用薬物事犯における検査・鑑定の現状と課題について」警察学論集53巻第5号125-140頁、2000年
「覚せい剤等の塩基性薬物は毛髪色素のメラニンとある程度関連のあることは明らかにされているものの、覚せい剤の毛髪の取り込みについては不明な点が多く、また、規制薬物であるため実験もままならないので、今後ねばり強くデータを蓄積し、覚せい剤使用に関する供述と比較しつつ検討を進める必要がある。(略)鑑定には尿が最適であり、毛髪の分析はあくまでも第2の手段あるいは補助的な手段と考えるのが妥当であろう(134頁)。」

⑤安藤皓章「薬物鑑定 その2 覚せい剤の鑑定について⑵」研修627号、2000年
「毛髪鑑定の結果として、陽性ならば、当該薬物を使用していたことは明らかであるが、更にその摂取量や摂取期間等の使用経歴をいかに明らかにできるかで、裁判(法廷)での証拠としての価値の如何が問われてくる。
 この分析結果から、ある程度の連用を推定することは可能であるが、その連用量を推定することは困難である。(略)したがって、毛髪の切断分析の結果をもって、覚せい剤等の薬物の使用時期を特定(推定)するには、より慎重に判断することが肝要である(49頁)。」

なお、私がこれまで担当した約700件の覚せい剤事件の中には、本人が「覚せい剤を使用した。」と供述しているにもかかわらす、尿中に覚せい剤が検出されなかった例も、いくつかあります。しかし、だからといって、毛髪鑑定はされていません。
私の経験したなかで、毛髪鑑定がされた例は、いずれも、尿から覚せい剤が検出されているにもかかわらず、本人は使用を否認して「寝ているうちにだれかに注射された」などと主張していたケースです。この場合は、毛髪鑑定によって本人が覚せい剤を連用していたことを立証して、本人の言い訳を覆すために使われたものです。
上に引用した文献のなかにも、現段階での毛髪鑑定の用途について、上記と同様の趣旨の言及が、いくつかあります。

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