薬物鑑定官|薬物問題のプロフェッショナルたち2
私は薬物問題を追及するなかで、多くの専門家から、直接に、また著書を通じて貴重な教えを受けてきました。それぞれの専門分野で薬物と戦う専門家の姿を、私の印象を通じてご紹介します。
●薬物鑑定という精密な世界
薬物事件の立証に欠かせないのが鑑定書です。発見された物が、覚せい剤や麻薬など法で規制される薬物に間違いないことを科学的に証明する書類で、大量輸入事件などでは数十ページにわたる鑑定書が証拠として用意されることもあります。
少し詳しい人なら「あ、クスリをたらすとパッと青くなる、あれ」と、逮捕手続の際、警察官が目の前で試薬を使って検査をする光景を思い出すかもしれません。でも、これは簡易検査というもので、正式な鑑定とは全く違います。
たとえば、小さなビニール袋に入っている、覚せい剤らしい白い粉が発見されたとしましょう。被疑者は「シャブです。」と言い、簡易検査の結果も覚せい剤であることを示しています。どう見ても、覚せい剤としか思えないのですが、それでも鑑定にまわされたこの白い粉を検査するために、専門家が数時間の時間をかけ、分子レベルの測定ができる高価な精密機器を何種類も使い、この白い粉をイオンや分子に分解して、間違いなく覚せい剤であるかどうかを調べたうえで、鑑定書が出来上がるのです。薬物鑑定のための分析は、分子のレベルで物質の特徴を見極める精密な作業で、ガスクロマトグラフィーや質量分析器などの精密機器を駆使して行われます。ちなみに、ここで使われる分析機器は1台が数千万円するものだそうです。
鑑定の対象になるのは、薬物そのものと、薬物使用者の尿です。尿の場合は、尿中に排泄された薬物やその代謝物を検査するので、前処理の工程は違いますが、分析試験は薬物の場合と基本的には共通です。
薬物の鑑定をするのは分析化学の専門家で、警察の場合は、各都道府県警察にある科学捜査研究所の薬物研究員という人たちです。厚生労働省の麻薬取締部では鑑定官、空港税関では研究者と呼ばれる専門家がいて、同じように分析試験と鑑定をしています。
大掛かりな機器、精密な工程、高度な専門知識によって出される結論は、限りなく厳密で、ほとんど疑う余地のないものにみえます。それでも、ときには、検出されるはずのない薬物が検出されたのではないかと、疑ってかかるのが刑事弁護人の仕事なのです。検査の手順や機器の調整、資料の管理などを仔細に検討し、人的なミスや誤差を疑い、科学的な作業ステップのどこかに、ちいさなほころびが潜んでいないかと目を光らすこともあります。
化学オンチの私が、分析機器がアウトプットするチャートや数値が多少わかるようになったのは、あるベテラン鑑定官が根気よく教えてくださったおかげです。数年前、刑事弁護人のための薬物鑑定の解説を書くために、当時、厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部主任鑑定官をしておられた牧野由紀子氏(現在は退職)の指導を受けて、猛勉強したものです。
牧野氏は、2002年から2006年にわたって、わが国で押収されたMDMA等錠剤型合成麻薬(エクスタシー)421錠を分析し、含まれている成分とその量をまとめあげた、「薬物の分析鑑定法の開発に関する研究(平成18年度厚生労働科学研究)」の分担研究者として研究に当たられ、以下の研究報告をしておられます。
●Yukiko Makino et al. “Profiling of Illegal Amphetamine-type Stimulant Tablets in Japan” Journal of Health Science, 49 129-137 (2003)
●Yukiko Makino et al. “Profiling of Ecstasy Tablets seized in Japan” Microgram Journal, 1 169-176 (2003)
当時、わが国ではエクスタシー(MDMA)の押収量が急増し、新しいタイプの薬物の脅威にさらされていることが話題になっていました。写真は、その研究成果の一部をポスターにしたもので、具体的な情報が乏しかった時期に、MDMAがよくわかる資料として、関係機関で掲示されていたものです。限られた部数の1枚を牧野氏からいただき、私もずいぶん活用しました。
なお、薬物鑑定に関しては下記のサイトに情報があります。
●厚生労働省 地方厚生局 麻薬取締部 http://www.nco.go.jp/index.html
鑑定 http://www.nco.go.jp/kantei.html
●科学警察研究所(警察庁の機関)http://www.nrips.go.jp/jp/index.html
化学第一研究室 http://www.nrips.go.jp/jp/third/section1.html
●科学捜査研究所(ウィキペディア)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%91%E5%AD%A6%E6%8D%9C%E6%9F%BB%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80
●薬物鑑定という精密な世界
薬物事件の立証に欠かせないのが鑑定書です。発見された物が、覚せい剤や麻薬など法で規制される薬物に間違いないことを科学的に証明する書類で、大量輸入事件などでは数十ページにわたる鑑定書が証拠として用意されることもあります。
少し詳しい人なら「あ、クスリをたらすとパッと青くなる、あれ」と、逮捕手続の際、警察官が目の前で試薬を使って検査をする光景を思い出すかもしれません。でも、これは簡易検査というもので、正式な鑑定とは全く違います。
たとえば、小さなビニール袋に入っている、覚せい剤らしい白い粉が発見されたとしましょう。被疑者は「シャブです。」と言い、簡易検査の結果も覚せい剤であることを示しています。どう見ても、覚せい剤としか思えないのですが、それでも鑑定にまわされたこの白い粉を検査するために、専門家が数時間の時間をかけ、分子レベルの測定ができる高価な精密機器を何種類も使い、この白い粉をイオンや分子に分解して、間違いなく覚せい剤であるかどうかを調べたうえで、鑑定書が出来上がるのです。薬物鑑定のための分析は、分子のレベルで物質の特徴を見極める精密な作業で、ガスクロマトグラフィーや質量分析器などの精密機器を駆使して行われます。ちなみに、ここで使われる分析機器は1台が数千万円するものだそうです。
鑑定の対象になるのは、薬物そのものと、薬物使用者の尿です。尿の場合は、尿中に排泄された薬物やその代謝物を検査するので、前処理の工程は違いますが、分析試験は薬物の場合と基本的には共通です。
薬物の鑑定をするのは分析化学の専門家で、警察の場合は、各都道府県警察にある科学捜査研究所の薬物研究員という人たちです。厚生労働省の麻薬取締部では鑑定官、空港税関では研究者と呼ばれる専門家がいて、同じように分析試験と鑑定をしています。
大掛かりな機器、精密な工程、高度な専門知識によって出される結論は、限りなく厳密で、ほとんど疑う余地のないものにみえます。それでも、ときには、検出されるはずのない薬物が検出されたのではないかと、疑ってかかるのが刑事弁護人の仕事なのです。検査の手順や機器の調整、資料の管理などを仔細に検討し、人的なミスや誤差を疑い、科学的な作業ステップのどこかに、ちいさなほころびが潜んでいないかと目を光らすこともあります。
化学オンチの私が、分析機器がアウトプットするチャートや数値が多少わかるようになったのは、あるベテラン鑑定官が根気よく教えてくださったおかげです。数年前、刑事弁護人のための薬物鑑定の解説を書くために、当時、厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部主任鑑定官をしておられた牧野由紀子氏(現在は退職)の指導を受けて、猛勉強したものです。
牧野氏は、2002年から2006年にわたって、わが国で押収されたMDMA等錠剤型合成麻薬(エクスタシー)421錠を分析し、含まれている成分とその量をまとめあげた、「薬物の分析鑑定法の開発に関する研究(平成18年度厚生労働科学研究)」の分担研究者として研究に当たられ、以下の研究報告をしておられます。
●Yukiko Makino et al. “Profiling of Illegal Amphetamine-type Stimulant Tablets in Japan” Journal of Health Science, 49 129-137 (2003)
●Yukiko Makino et al. “Profiling of Ecstasy Tablets seized in Japan” Microgram Journal, 1 169-176 (2003)
当時、わが国ではエクスタシー(MDMA)の押収量が急増し、新しいタイプの薬物の脅威にさらされていることが話題になっていました。写真は、その研究成果の一部をポスターにしたもので、具体的な情報が乏しかった時期に、MDMAがよくわかる資料として、関係機関で掲示されていたものです。限られた部数の1枚を牧野氏からいただき、私もずいぶん活用しました。
なお、薬物鑑定に関しては下記のサイトに情報があります。
●厚生労働省 地方厚生局 麻薬取締部 http://www.nco.go.jp/index.html
鑑定 http://www.nco.go.jp/kantei.html
●科学警察研究所(警察庁の機関)http://www.nrips.go.jp/jp/index.html
化学第一研究室 http://www.nrips.go.jp/jp/third/section1.html
●科学捜査研究所(ウィキペディア)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%91%E5%AD%A6%E6%8D%9C%E6%9F%BB%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80
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