向精神薬密売事件が照らす、自殺との深刻な関係

今年6月、インターネットで向精神薬を密売していたとして、兵庫県警が密売女性を逮捕した事件(すでに起訴済み)の関連捜査で、向精神薬の仕入れ先が次々に摘発されていますが、今度は薬剤師が逮捕されました。薬剤師として仕入れた向精神薬を、不正譲渡していたわけです。
10月末には、医師による向精神薬の不正が摘発されたばかりだというのに、今度は薬剤師による不正譲渡です。向精神薬のリスクを最もよく知る専門家が、金銭欲しさに安易に横流しをするとは、言語道断!。

ところで、11月12日付の毎日新聞は、インターネットで密売していた女性から向精神薬を購入した顧客のうち、少なくとも5人が薬物中毒で死亡していたと報じています。不正な手段で密売人から向精神薬を買う人たちの抱えている深刻な状況が、改めて浮かび上がりました。

<ニュースから>****
●向精神薬密売:購入客の少なくとも男女5人薬物中毒で死亡
インターネットを通じた向精神薬の密売事件で、兵庫県警は12日、奈良市法華寺町、薬剤師、K容疑者(40)を麻薬取締法違反(営利目的譲渡)の疑いで逮捕した。県警は、K容疑者が薬剤師の立場を悪用し、向精神薬を横流ししていたとみて追及する。また、県警への取材で、K容疑者から横流しを受けたとされる密売人の女から向精神薬を購入した客のうち少なくとも男女5人が薬物中毒で死亡していたことが判明。うち4人は自殺とみられ、乱用の危険性が明らかになった。
毎日新聞 2015年11月12日 21時53分
*****

密売事件の捜査では、密売人の手元から押収した入金や通話の記録から密売相手を割り出し、1件ずつ、譲り渡しの具体的な状況を明らかにする必要があります。警察が調べていく過程で、購入客のなかに、その後死亡した人たちの存在が、次々にあぶりだされてきたのでしょう。
そういえば、そもそも、この密売人が摘発されるに至った背景には、昨年冬に兵庫県内で男性が死亡した事件について調べたところ、男性がインターネットで向精神薬のリタリンを大量に購入していたことがわかり、密売人を検挙したという事情がありました。

向精神薬の過量服用(オーバードーズ)と自殺の関係については、以前から繰り返し指摘されています。
■日本中毒センターの受信データ分析によると、自殺企図ケースでは、中毒事故を引き起こした原因物質の約半数が、医療用・一般用医薬品の中枢神経系用薬で占められていると報告されています(下記参照①)。
■2010年度の厚生労働科学研究班が行った、研究協力を得られた自殺既遂者(76名)の遺族に対する実態調査によると、対象者の50%が亡くなる前1年間に精神科又は心療内科の受診歴があり、そのうちの約6割が自殺時に向精神薬(睡眠薬、抗うつ薬、抗不安薬もしくは抗精神病薬)の過量服薬を行っていたとされています(下記参照②)。
■また、救急医療の現場からは、自殺企図や故意の自傷によって救急搬送された患者の多くが、過量服薬などの急性薬物中毒によるもので、とくに向精神薬の過量服薬が多いという研究報告があります(たとえば下記参照③、④)。

参照②論文のなかに、次のような指摘があります。
<論文から>*****
本研究では・・・自殺時に向精神薬を過量に服用している者が多いという結果も得られた。この結果は、精神科受診群においては、本来治療薬として医師から処方された向精神薬が、むしろ自殺行動を後押しする道具として用いられた可能性を示唆するものと言えるであろう。というのも、向精神薬の過量摂取そのものは比較的致死性の低い自己破壊的な手段・方法であるが、脱抑制効果のために,致死的な自殺行動を促進することが知られているからである(下記参照②102ページより)。
*****

いま、自殺防止の観点から、向精神薬の過量服薬への取り組みが、ようやく始まったところです。心の不調に苦しむ患者に大きな救いをもたらすとともに、その反面ではオーバードーズなどのリスクがつきまとう向精神薬・・・インターネット上で入手して安易に使うことの危険性にきちんと目を向けなくてはなりません。

[参照]
①日本中毒情報センターの2014年受信報告書
http://www.j-poison-ic.or.jp/annualreport_g.nsf/7bf3955830f37ccf49256502001b614f/164754be780749e049257ee30033ee5a?OpenDocument
②加我牧子(代表研究者)、厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)「心理学的剖検データベースを活用した自殺の原因分析に関する研究」平成21年度 総括・分担研究報告書
http://ikiru.ncnp.go.jp/kisochousa/pdf/1003193.pdf
③髙井美智子、上條吉人、井出文子「向精神薬による急性薬物中毒の実態および関連する心理社会的要因についての考察:臨床心理士の立場からの提言」、日本臨床救急医学会雑誌Vol. 18 (2015) No. 1
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsem/18/1/18_22/_article/-char/ja/
④伊藤敬雄、大久保善朗「再自殺予防の見地からみた自殺未遂者・自傷者の特徴と物質依存症の問題」総合病院精神医学Vol. 23 (2011) No. 3
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjghp/23/3/23_268/_article/-char/ja/

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この記事へのコメント

貴族
2015年11月16日 20:58
リタリンだったのでしょうか

危険ドラッグを密輸したなどとして、近畿厚生局麻薬取締部は7日、
医薬品医療機器法違反(指定薬物の輸入、使用)容疑で奈良市法華寺町、薬剤師、
河原康平容疑者(39)を逮捕したと発表した。
容疑を認め、「気分が落ち込んだときに使っていた」と供述しているという。

 同取締部によると、河原容疑者が服用していた向精神薬が規制により処方されなくなったため、
化学構造が似ていたり、同じような作用を及ぼしたりする危険ドラッグを輸入していたという。
同取締部は河原容疑者が薬剤師の知識を悪用して輸入を繰り返していたとみている。

 同取締部は、今年2月に英国のインターネットサイトで購入した危険ドラッグ粉末
計約10グラムを国際宅配貨物で輸入したとして、同月19日に河原容疑者を逮捕。
別の密輸や使用の容疑で3月17日に再逮捕した。
大阪地検は同法違反罪で河原容疑者を起訴している。
野獣
2015年11月21日 13:48
アナログで指定薬物ということはエチルフェニデートではないですかね
厚生労働省は役立たず
2016年01月13日 15:28
コンサータもリタリンと同一成分なんですよね。
発達障害の子供にも投与されてますが
ドーピング扱いでオリンピックに出れなくなります。
飲ませてる両親はお子様にそのことを告げてますかね。
利他りん等は現状、保管のみの管理義務であって
処方については医師の自由裁量でどうにでもなるようになっています。厚労省によると、医師の自由裁量での処方は薬害の救済にならないようです。
大きな問題が起こらないといいのですが。。。
コンサータやリタリンを多量服用し続けると統合失調症になるようですね。。。
厚生局に聞くと「紙でしかチェックしていないから請求が書面上正しければ問題ない」で終わりです。
医師はその気になれば不正し放題なんです。
異端薬剤師
2016年09月14日 14:41
“厚生労働省は役立たず”さんは、もう少し冷静になった方が。この系列の薬(向一種CNS)は本来、医師の自由裁量でどうにでも処方出来る薬ではありません。また、リタリンの場合でも、用法用量が正しければ、長期でも統合失調症になる事はありません(経口服用なら覚醒剤より遥かに弱い)
不正処方・不正医師を監視する為に薬局があります。しかし、性悪説目線で見ると、不正医師薬剤師が連んでいれば有り得なくも無いので、その意味でも医薬分業が云われていたのですが、医師個人(あるいは2名)で自分に使う用途(或いはお互いに処方する用途)のフリした処方箋を書けてしまいます(処方権)
また医師には調剤権すらあり、ベッドの無い医院の開業医なら、処方内容をスルーさせる事も出来ます。一方薬剤師には処方権はありません。これでは処方内容の疑義照会チェック機関としての分業が、十分機能しないのです。昔、医師が自分の息子にリタリンを与え、受験ドーピングさせてた事件があった事を思い出しました。

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