シバガス(亜酸化窒素)の乱用問題2

9月30日、厚生労働省は「シバガス」等の亜酸化窒素製品(医薬品)を乱用する目的で販売する業者に対して取締りを強化する方針を打ち出しました。本来は麻酔薬である亜酸化窒素を乱用目的で販売することは、無承認無許可医薬品の販売にあたるとして、指導取締りを強化するよう、通知したとのことです。乱用目的で販売されている製品の写真も公開されています(下記参照①)。
現時点では、日本での乱用はそれほど広まっていないようですが、危険ドラッグ禍のピークをようやく乗り切ったばかりで、新たな乱用薬物を求める気運が強いだけに、いち早く対策に着手したものと思われます。

家庭用に市販されるガスの乱用は、とくに最近始まったことではなく、世界各地で昔から報告されていますが、近年、泡立調理器具用などとして小型キャニスター入りの亜酸化窒素が市販され、手に入りやすくなったことから、英国などヨーロッパを中心にその乱用が広まっています。
また、バルーンに詰めたガスを吸引するというファッションも、若者の心を捉える大きな要素となりました。若者向けのダンスクラブが集まるロンドンの街角では、夜毎、色とりどりのバルーンを売る露店が店開きし、若者の視線を集めているといいます。

●正式な用途
亜酸化窒素はおよそ100年前から「笑気ガス」として使われてきた麻酔薬で、日本薬局方にも収載され、日本でも長く使われてきました。近年では、フェンタニルなどの合成麻薬が麻酔薬の主流になっていますが、亜酸化窒素に特有の利点もあり、歯科治療や産科などを中心に現在も使われています。
また、亜酸化窒素は食品添加物としても世界の主要国で認可されて使われています。とくに、生クリームなどの泡立て調理品の味を変化させない安定ガスとして広く使われ、また最近では泡立て調理器具専用のガスとしても普及しています。日本でも現行の食品添加物公定書に「亜酸化窒素Nitrous Oxide」として収載され、実際に使用されています(下記参照②)。
なお、日本で亜酸化窒素が食品添加物として認可されたのは2005(平成17)年のことですが、その検討にあたっては、外国で乱用による健康被害の報告もある物質に関して、安全性の面から詳細な検討を加え、食品健康影響評価が行われました(下記参照③)。その資料には、亜酸化窒素による健康影響が網羅されていて、大変参考になります。

●英国での乱用実態と対策
英国内務省の薬物統計調査では、「新たな合法薬物」として、亜酸化窒素とサルビアが2012-2013年から追加されています。最新の2013-2014年調査では、過去1年以内に亜酸化窒素を使ったことのある人は■16-24歳の若年層では7.6%(前年度より約1.6%の増加)で、大麻に次いで使用者の多い薬物となっています(下記参照④)。
インターネットを通じた大規模調査のGlobal Drugs Survey2015年調査では、英国の回答者の23.7%が過去1年以内に使ったと答えており、世界平均(7%)よりはるかに高い数字となっています(下記参照⑤)。
英国では、危険ドラッグに対する規制が次第に強化される中で、規制の及ばない新たな乱用薬物として、亜酸化窒素の乱用が急速に広まり、2013年ころから社会問題化し始めました。
2014年10月、英内務省は「娯楽目的の亜酸化窒素販売の取締まりの手引き」をとりまとめました。ここでは、現行の薬物管理法令が及ばない亜酸化窒素に対して、医薬品管理法や消費者保護法、品質管理法など既存の法令を適用し、また自治体によるコミュニティ保安命令を積極的に活用して、乱用目的での販売を取り締まる方針が示されています(下記参照⑥)。
医薬品管理法による取締まりは、このたび厚労省が示した方針と同じようなものですが、これに対して「泡立て調理器具の専門販売会社」を名乗って、相変わらずガス入りキャニスターの販売を続ける業者が登場するなど、その実効性に疑問をさしはさむ声もありました。

●何が問題なのか
若者の街として知られるロンドンの下町では、深夜まで風船を手にした若者が奇声をあげ、ふらつきながら歩き回って小さな事故が絶えず、朝を迎えた道路は、風船と金属製のガス容器に埋め尽くされているといいます。
キャニスターは3つで5ポンド(約900円)程度と安いのですが、風船1つにキャニスター1本以上が必要で、しかも、風船いっぱいのガスを吸っても、効き目はほんの数十秒で失せてしまうため、ユーザーは、続けざまに2つ、3つと風船のガスを吸うことになります。財布を空にしてしまった若者が、医療機関から麻酔用ガスを盗み出すという事件も起きています。
たしかに、歓迎できない事態になっているようです。しかし、これまでの危険ドラッグと比べて、健康被害が特に大きいわけではなく、死亡例もそれほど多いわけではありません。いったい何が問題なのか、小型のガス容器や風船を取り締まっても、もっと危険性の高い薬物に移行するだけではないかという批判も聞こえてきます。

[参照]
①厚生労働省サイト内の記事
「シバガス」等の亜酸化窒素製品(医薬品)を販売する業者に対する指導取締りの強化について(2015年9月30日)
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakubuturanyou/oshirase/20150930-1.html
②第8版食品添加物公定書 D成分規格・保存基準各条
亜酸化窒素については197ページに収載
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/dl/8e03.pdf
③食品安全委員会「亜酸化窒素を添加物として定めることに係る食品健康影響評価に関する審議結果」
https://www.fsc.go.jp/hyouka/hy/hyouka-161209-n2oxide.pdf
④英国の薬物統計資料
Drug misuse: Findings from the 2013/14 Crime Survey for England and Wales(15 August 2014)
https://www.gov.uk/government/publications/drug-misuse-findings-from-the-2013-to-2014-csew/drug-misuse-findings-from-the-201314-crime-survey-for-england-and-wales
⑤Global Drugs Surveyの結果(Independentの記事)
Global Drugs Survey finds that nitrous oxide is the second most popular drug in the UK(8 June 2015)
http://www.independent.co.uk/news/uk/home-news/global-drugs-survey-finds-that-nitrous-oxide-is-the-second-most-popular-drug-in-the-uk-10304708.html
⑥英内務省「娯楽目的の亜酸化窒素販売の取締まりの手引き」
Guidance on restricting the supply of nitrous oxide for recreational use(30 October 2014)
https://www.gov.uk/government/publications/guidance-on-restricting-the-supply-of-nitrous-oxide-for-recreational-use

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