英国が、危険ドラッグ全面禁止法案|続報

英国政府が、危険ドラッグ全面禁止法案を議会に提出しました。これまで、法による取り締まりが及びにくいといわれてきた未規制薬物も含め、あらゆる「精神作用物質」の製造・販売等を全面的に禁止するというものです。
法案と法案説明書は、英国議会サイトにあります(下記参照①、②)。

●法案提出までの歩み
2013年12月、政府は危険ドラッグ対策の見直しに着手し、各分野の専門家を招集して専門家会議を立ち上げました。2014年10月、会議は最終報告書を発表し、現行法による規制では、めまぐるしいNPSの変化に対応できないと指摘し、現状では法規制の枠外にある未規制NPSに対して、その販売等をコントロールする新たな仕組みを設けなければならないと、政府に勧告しました。
勧告を受けた政府側の答弁も同時に発表され、未規制NPSに対する全般的なコントロール策の導入について、検討する方針が示されましたが、この時点では規制策の方向はまだ具体化されていませんでした。

英国では、2014年後半ころから、抜本的な危険ドラッグ対策を求める世論が次第に広がっていました。なかでも、アイルランドが導入した制度に倣って、未規制物質も含めてあらゆる精神作用物質を一律に規制するという、全面禁止策を支持する声が広がってきたのです。
先般の総選挙で、与党は、危険ドラッグ全面禁止策の導入を公約のひとつに掲げて戦い、圧倒多数を獲得しました。
このたびの法案は、この公約を実現するものとして、提案されたものです。

●精神作用物質の全面禁止
薬物規制の基本は、人が使用した場合に有害な結果をもたらすもの、あるいはそのおそれのある物質を特定し、その有害性の度合いに応じて、取扱いを制限することです。使用や販売を禁止し、違反者に刑罰を科す場合には、科学的な根拠に基づいて、対象物質の有害性を厳密に検証することが求められます。
今日的な意味での薬物規制が行われるようになって100年以上にわたり、世界の各国で、ほぼ同じ考え方に基づいて、有害な薬物を規制してきました。

ところが危険ドラッグの流行によって、化学構造の細部を微妙に変化させながら、次々と市場に新たな物質が登場するようになりました。新たな物質を規制しても、、たちまち新手の物質が現れ、「合法」と称して販売されるのです。
こうした新手の物質を迅速に、効率よく規制下に収めるために、各国は、アナログ規制、基本骨格に基づく包括規制、暫定指定手続といった制度を構築してきました。わが国の指定薬物制度のように、危険ドラッグに特化した規制制度を創設した例もあります。
また、多様な分野の法令を駆使して、危険ドラッグ販売を封じ込めようとする試みも行われてきました。わが国では医薬品医療機器法による未承認医薬品販売の取締まりや、各種交通法令を適用しての取締まりが積極的に行われたように、英国では、消費者保護法令などを適用しての取締まりなども実施されたといいます。
しかし、取締まりの成果はなかなか実感されず、際限のないイタチごっこに苛立つ声も上がり始めました。

このたび英国議会に提出された精神作用物質法案は、これまでの施策とは大きく異なり、有害であるか否かにかかわらず、あらゆる精神作用物質を規制対象としているのです。
この法案の参考とされたのは、アイルランドが2010年に制定した刑事裁判(精神作用物質)法です。同法は、あらゆる精神作用物質の販売を全面的に禁止するという、それまでの薬物規制法令には、あまり類例のないものです。
アイルランドはこの法律によって、当時蔓延していた危険ドラッグ販売店(ヘッドショップ)を一掃し、たしかにそれなりの成果を挙げたのですが、EUや国連といった場面で、この手法をモデルとして取り入れようという動きは起きませんでした。有害性という根拠によらず、あらゆる精神作用物質を全面的に禁止するという制度は、法による規制の極限に迫るものであり、ともすれば過度に広範な規制になりかねないという危うさを持っているのです。
なお余談ですが、日本の指定薬物制度は、規制対象物質の指定要件がかなり柔軟に定められているので、今次の流行に際して、新たな物質を迅速に規制下に収めることに成功していますが、その柔軟さがあまりに特殊だとみられるせいか、やはり国際社会で法制度のモデルとして評価されることが少ないようです。

今回、英国は、これまでの慎重姿勢を捨て、一気に全面禁止という領域に踏み込もうとしています。もちろん、この法案は、英国の薬物規制の基本となっている1971年の薬物乱用法(Misuse Of Drugs Act 1971)にとって代わるものではなく、同法と二本立てで危険ドラッグ対策が進行することになります。政府は、今後も薬物乱用法に基づいてNPSを規制対象として指定し、より厳しい管理を行っていくということです。

●全面禁止策の内容
新法案は、英国内での精神作用物質の製造、販売等を全面的に禁止するものです。法案の冒頭部分をみておきましょう。
【規制対象】
規制対象から除外されるのは、薬物乱用法の規制を受ける物質、医薬品類(一部の民間療法も含む)、アルコール、タバコ、カフェイン製品、食品など、別表 1(SCHEDULE 1)で指定されたものです。
人が使用することを目的としていない化学品や薬品などは、除外リストに含まれていません。法案説明書によると、これらは、本来の用途で製造、販売される限り、本法に触れませんが、人が使用するために製造、販売等された場合は、犯罪とされます。
*****
§2 精神作用物質等の意義
 ⑴ この法律で「精神作用物質」とは、以下の物質をいう、すなわち
  (a)これを摂取した人に精神活性の作用をもたらすことができ、
 (b) 除外物質にあたらないもの
 ⑵ この法律においては、人の中枢神経を興奮させ又は抑制させることによって、人の精神機能あるいは感情に影響を及ぼすなら、その物質が人に対して精神活性作用を有するとされ、その物質の精神活性作用はそのように解釈される。
 ⑶ この法律においては、人がなんらかの方法で物質あるいは物質から発生した気体を自ら身体に取り入れるか、それが身体に入ることを容認するなら、物質を摂取したとされる。
*****
【犯罪】
法案は、精神作用物質の製造、供給、供給の申し出、供給目的の所持、輸入及び輸出を犯罪とするよう定めています(§4-8)。
ただし、大臣は、特定の行為を犯罪としないよう定めるとされており(§10)、医療や研究目的などでの精神作用物質の取り扱いを妨げないような措置が設けられます。
【罰則】(§9)
・略式手続(イングランド及びウェールズ)の場合
  6か月以下の拘禁刑及び罰金・併科あり
  刑の加重規定によって12か月まで引き上げられることがある
・正式起訴の場合
  7年以下の拘禁刑及び罰金・併科あり

[参照]
①英国の新法案
Psychoactive Substances Bill [HL]
http://www.publications.parliament.uk/pa/bills/lbill/2015-2016/0002/16002.pdf
②法案説明書
Psychoactive Substances Bill [HL] EXPLANATORY NOTES
http://www.publications.parliament.uk/pa/bills/lbill/2015-2016/0002/en/16002en01.htm
②アイルランドの刑事裁判(精神作用物質)法
The Criminal Justice (Psychoactive Substances) Act 2010
http://www.irishstatutebook.ie/pdf/2010/en.act.2010.0022.PDF

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この記事へのコメント

神流美 王井門
2015年06月03日 23:46

ロンドン ピカデリ サーカス周辺の裏通りでは、深夜になるとアフリカ系(黒人)の売人が大勢並んでいます。 これは昔も今も、全く変わらない光景ですね。

現在、ロンドン市内の情報では、個人消費目的での微量大麻の所持、使用は、黙認されているとの事です。

むしろタバコとユーザが、英国社会から追放され、タブー視されています。
もちろん、パブリックな空間は全て禁煙。

路上を走行する自動車室内も規制され、完全禁煙になりました。

日本もベンチマークしたらいかがでしょうか。

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