アジア太平洋地域と危険ドラッグ|国連の合成薬物報告書2015

前記事からの続きです。
国連薬物犯罪事務所が先日発表した、2015年版の合成薬物報告書を通じて、アジア太平洋地域の状況をみています。今回は、アジア太平洋地域からみたNPS問題について。
ここでいうNPS(New psychoactive substances新精神作用物質)とは、乱用によって危害をもたらすおそれがありながら、国連条約の規制対象となっていない薬物をさします。NPSは、「合法」と称して販売される危険ドラッグのほか、様々な形で世界に広まっています。
[参照]
①2015年版合成薬物報告書
The Challenge of Synthetic Drugs in East and South-East Asia and Oceania
―Trends and Patterns of Amphetamine-type Stimulants and New Psychoactive Substances, 2015
http://www.unodc.org/documents/southeastasiaandpacific/Publications/2015/drugs/ATS_2015_Report_web.pdf

●アジア太平洋地域での「合法ドラッグ」市場
法規制の対象にならない薬物を見つけ出しては「合法」と称して販売する・・・、こうした形でNPSが出回っているのは、主に世界の先進経済圏に限られています。今のところ、アジア太平洋地域では、日本のほかにオーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、インドネシアなどで、いわゆる「合法ドラッグ」としてNPSが次々に出現し、また韓国でも合成カンナビノイド製品が増加しています。

消費市場に出回った成分として最も多いのが合成カンナビノイド、次いでカチノン類、第3としてMDMA類似や2C系の物質などを含むフェネチルアミン類です。
大まかな傾向としては、ヨーロッパや米国の報告とそれほど違いはありませんが、アジア太平洋地域では、カチノン類の比率がかなり高いという特徴があります。世界全体でみると、カチノン類は全NPSの約15%を占めていますが、アジア太平洋地域では25%に達しているのです。
オーストラリアの税関が2012-2013年に摘発したNPSの過半数がカチノン類でした。韓国では、2012年にMDPVの検出が増えました。また、インドネシア、タイ、ベトナムでは密売される違法薬物中にメチロンなどのカチノン類が検出されています。
報告書は、この地域では従前からメタンフェタミン(覚せい剤)やMDMAなどの乱用が広まっていることを反映して、それに似たカチノン類が広まるのではないかと指摘しています。
そういえば、日本の危険ドラッグ市場でも、初期には主に欧米から流入した製品が出回りましたが、やがて国内で製品化されるものが増えるにつれて、α-PVPなど覚せい剤に似たタイプの成分が優勢になっていく様子が観察されました。世界同時進行のNPSにも、それぞれの地域特性が現れているといえそうです。
画像

↑世界とアジア太平洋地域のNPSのグループ別構成、2008-2014年11月(上記報告書26ページより)
左が世界全体、右がアジア太平洋地域のもの。グラフ左側の帯グラフの最上段のカチノン類の構成比を比べると、世界全体では15%、アジア太平洋地域では25%となっている。

アジア太平洋地域でのNPSの使用実態は、まだあまり解明されていません。それでも、報告書は、使用実態調査の例として、ニュージーランドの逮捕者を対象にした薬物使用調査を取り上げているので、私も、この調査レポートを読んでみました。同調査は、2013年に初めて「合法ドラッグ」に関する質問項目を取り入れたとのことですが、対象者の47%が過去1年以内に合成カンナビノイド製品を使ったと回答しました。いっぽう、大麻使用が大幅に減少しました。調査報告書は、「薬物テストで陽性反応が出ないよう、「合法」として販売される合成カンナビノイドを選択したのではないか」と分析しています(下記参照②15-16ページ)。一般青少年の使用状況を表すものではありませんが、たいへん興味深い指摘です。
[参照]
②ニュージーランドの薬物使用調査
New Zealand Arrestee Drug Use Monitoring report 2013
http://www.police.govt.nz/about-us/publication/new-zealand-arrestee-drug-use-monitoring-report-2013

●危険ドラッグ原料の製造・供給
いま世界を脅かしているNPS問題にとって、アジアは、主要な薬物の生産・供給地として、抜き差しならない立場にあります。とはいえ、NPSの製造や流通について、まだ明確に把握されていないことも多いためか、報告書ではかなりあいまいな表現にとどまっています。該当部分を私訳で引用します(報告書32ページ)。
*****
アジア太平洋地域で確認されたNPSは、この地域内で製造されているという報告がある。
中国は2013年に、主にJWH-018はじめ4-MECやメチロンなどを合成していた製造施設を摘発したと報告した。中国の法執行当局によると、国内で製造されるNPSのほとんどは、国内市場に向けたものではなく、主としてEMSや国際宅配便によって外国へ出荷されている。中国で製造されたNPSの発送先として、ベラルーシ(2012年)、オーストラリア、米国、EU(2013年)などがあげられる。米DEAによると、2013年6月中の合成カンナビノイド類と合成カチノン類の押収は1,500キロ、米国やオーストラリアのマーケットに向けて中国やインドで製造されたものだとみられる。ブルガリア、ハンガリー、ラトビア、マルタ、ポーランドなどヨーロッパの数か国で、中国やインドからNPSが送られた。またイタリアのように、ニュージーランドから発送されたとみられる合成カンナビノイドが押収された(2011年)と報告している国もある。
*****

以前から、NPSの製造地について、欧米の公的資料では、定型句のように「中国やインド」といわれてきました。偽バイアグラなど偽造医薬品の生産地としてインドの名がよくあげられますが、インドで合成カンナビノイドやカチノン類が生産されているというのは、見聞きしたことがありません。国際的な場面で、ストレートに中国を名指しすることを避けようと、こんな言い方をしているのでしょうか。

●乱用薬物として流通するNPS
大量に製造されるNPSは、いわゆる「合法ドラッグ」以外の形で出回ることもあります。中国、東南アジアでは、数年前からケタミンの乱用が拡大していますが、これも、主に中国の化学工場で合成され、各地に運ばれています。乱用の深刻化につれて、各国での取り締まりも厳しくなっていますが、密造も乱用もまだ終息の気配をみせません。
また、いわゆる「エクスタシー」として出回る錠剤の成分として、ケタミン、ピペラジン類、合成カンナビノイド、合成カチノン類、2C系の幻覚性薬物などが検出されています。覚せい剤錠剤として流通したものに、覚せい剤とともに、ケタミンなどの成分が検出されたという報告も相次いでいます。
ニュージーランドで、LSDとして流通していた紙片(ブロッター)が大量に押収されましたが、その成分は、NBOMe系の幻覚性薬物だったという報告もあります。

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