薬物密売と通信傍受

通信傍受法(正確にいうと「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」)が、改正に向けて動き出しています。1999年に制定されたこの法律は、組織的に行われる薬物犯罪などの捜査で、通信の傍受によらなければ犯罪の捜査が著しく困難な場合に、個人間で交わされる電話やメールを傍受することについて定めています。
対象となる事件は、薬物犯罪、銃器犯罪、組織的殺人、集団密航に限定されていますが、近年では主に、覚せい剤などの組織的な密売事件の捜査に使われています。私も、傍受された電話の会話が証拠として提出された覚せい剤密売事件を担当したことがあります。

折から、2月初旬に、法務省が2014年の通信傍受の実施状況をまとめて発表しました(下記参照①)。これは、法によって義務付けられたもので、政府は毎年傍受令状の請求件数など実施状況に関する具体的な内容を国会に報告し、公表しなければならないとされています。

法務省によると、2014年中に、麻薬特例法違反事件など10事件について通信傍受が行われ、72人が逮捕されました。発布を受けた令状は26件、傍受した通信は計13,778回に及んだということです。
対象事件のうち薬物関連の事件は7件で、逮捕者は合わせて72人。残る3件は銃刀法違反事件ですが、いずれも逮捕者はありませんでした。
<薬物事件の通信傍受・2014年>
・大麻取締法違反【営利目的栽培】・・24日間実施・・6人を逮捕
・覚せい剤取締法違反【営利譲渡】・・計44日間実施・15人を逮捕
・覚せい剤取締法違反【営利譲渡】・・28日間実施・・10人を逮捕
・覚せい剤取締法違反【営利譲渡】・・計88日間実施・17人を逮捕
・麻薬特例法違反【業としての譲渡】・計50日間実施・ 6人を逮捕
・麻薬特例法違反【業としての譲渡】・計30日間実施・ 1人を逮捕
・麻薬特例法違反【業としての譲渡】・計110日間実施・17人を逮捕

新聞報道によると、法施行以降の累計で、計99事件について傍受を実施し、525人を逮捕したということです。通信傍受法が施行されてしばらくは、年間の実施件数が数件という状況が続きましたが、近年では実施も増え、2013年の実施件数は過去最多の12件、逮捕者も79人を記録しました(2014年になってから逮捕した38人を加えると117人)。
この数字をみると、ずいぶん増えたように感じますが、この捜査手法の歴史が浅い日本では、欧米と比較して、まだ通信傍受の実施状況は控えめだといえます。
画像

↑法制審議会の資料より転載(下記参照②)

法制定当時、「盗聴法」と呼ばれたように、この捜査手法には、最も基本的なプライバシーに属する「通信の秘密」を侵害しかねない危うさがつきまといます。そのため、法は、傍受が厳格に行われるよう、さまざまな規定を設けています。
具体的には、
■捜査機関が裁判所に令状を請求し、認められれば、最長30日間の傍受が許可される。
■捜査員はNTTなどの通信事業者の施設内で、専用の装置を用いて通信の傍受を行い、その内容を暗号化して記録媒体に保存する。傍受の際には立会人(基本的には通信事業者の担当社員)が同席し、記録媒体に署名押印し、封緘する。
■傍受内容を記録した媒体は、令状を発布した裁判所が保管し、捜査員は裁判所の許可を得てこれを聴取・閲覧または複写することができる。
■傍受した通信の当事者に対して、実施後、通信傍受したことが通知される。通知を受けた当事者は、傍受の記録を聴取・閲覧または複写することができ、不服があるときは裁判所に不服申し立てをすることができる。
といったように、細かく定められているのです。

また、プライバシー保護のために、事件と無関係な私的な通信を記録に残さないための工夫もされています。
■通信内容を数十秒傍聴し、事件と関係ない場合は記録しない。
■1回ごとに、不要な部分を削除した記録を完結させ、封緘する。
■当事者と裁判所が許可した検察官、捜査員以外は記録に接することができない。

いっぽうで、このように厳格な要件が科されていることで、捜査機関の負担は極めて大きく、実際の犯罪捜査になかなか使えないという声もあります。とくに、通信事業者との調整に時間がかかること、立会人確保のために傍受を行う時間帯が制約されることなどについて、警察から改正を望む声が強く寄せられていました。
昨年9月、法制審議会の案が提出されたことを受け、法務省は、通信傍受の対象事件を拡大し、また、通信事業者の立ち会いを不要とする改正法案を国会に提出する準備を進めています。
今回の改正案は、通信傍受を実施する際の捜査陣の負担や不便を軽減することが主な狙いで、法改正されれば、かなり使い勝手がよくなることになります。長い目で見れば、薬物の密輸密売事件の捜査手法をいずれ大きく変えることになるかもしれません。
何が変わるのか、私たちは何を期待し、どんな点を警戒しなければならないのか、次回で引き続き考えたいと思います。

[参照]
①法務省の発表資料(2014年2月6日)
平成26年中の通信傍受の実施状況等に関する公表
http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji11_00009.html
②法制審議会の資料
法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会第23回会議「参考資料」
上に示した図は35ページに掲載
http://www.moj.go.jp/content/000119688.pdf

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この記事へのコメント

神流美 王井門
2015年02月20日 09:56
もし、個人情報、プライバシー情報が、現在の法律により保護担保されているのであれば、通信傍受の在り方を例えば、簡易な手続きで運用可能にする、包括制度の導入を検討すべきと思います。

傍受が犯罪捜査目的に限定的であれば、国民の理解も得やすいでしょう。

従来型の固定、光、携帯、ケーブルテレビ、インターネット、さらに最近市場創設されたMVNO、OTT等々、傍受する『通信』の範囲が一体どこまで対象なのかを国民に対し、ある程度明確化することも必要だと思います。

一方、秋葉原電気街等で販売されている高性能な『受信機』。
これら『受信機』を用いた、個人宅コードレス電話の傍受(盗聴)行為等を、違法化、罰則化することも併せ、公平な法律改正を望みます。
神流美 王井門
2015年03月07日 23:44

世界最大モバイル機器展示会【MWC2015】が、今週バルセロナで盛大に開催。
世界中から多くの関係者が集まり、街が活気に包まれています。


開催期間中はカタルーニャ政府許認可のもと、ホテル、飲食店等、販売価格を最大5倍迄吊り上げて良い『MWC5倍ルール』が適用されます。特にオフィシャルレストランでは、パスタ、ピザが50~80ユーロ位します。
しかし生活必需品、大麻等の嗜好品は据え置き価格です。



展示会では予想通り、次世代高度化インフラ装置、斬新なウェアラブル端末機等々、多数が出展されました。

現在、世界中で主流となった標準通信方式『LTE』。
モバイル版4K動画高速大容量データ通信と相まって、低遅延でクリアな音声通話が特長です。

ITU-Rが要件定義、勧告したLTE技術標準化の中に、端末機同士で通信が可能な、『端末機間通信』機能が、新技術の一つとして策定されております。

スマホ普及により逼迫する高速データ通信量を、端末機の小電力電波が届く距離範囲内で、登録された相手の端末機へ、オフロードする仕組みです。

既存の携帯基地局、無線コアネットワーク、交換機を経由しません。

携帯電話の通信傍受は、これらコアネットワーク、交換機でひっそりと傍受されます。
端末機間通信が行われると、従来型技術での通信傍受が難しくなります。

韓国のLTE技術動向は世界一進んでいます。先陣のSAMSUNGが、端末機間通信機能スマホをリリース開始。

他メーカのAndroid機種、またiPhoneも、提供国の通信品質環境が整い次第、順次サービスを開始するでしょう。
眠ったままの機能を起動させるだけです。

街頭路上での犯罪行為に、こうした新技術が使われる可能性がありそうです。

横浜逮捕
2015年03月20日 05:21
覚醒剤はヤクザの資金源、ならばここ島国日本の海沿いで塞き止めればいい!しかし見逃しておき成績が足りないと使用者を捕まえる!!覚醒剤は戦時中に我が国が求め一般人に与え戦意揚々とならせるために持ち込んだ、それは政府ということを忘れてるのか?政府は覚醒剤ごとき犯罪者に税金で衣食住を与えて一般人を苦しめている、それも承知だろ?
ローブデコルテ
2015年03月23日 09:06
力関係を考えると勝てる相手ではない。良い政策を実現できないのは、日本がまだ植民地のままだからだ。
二度と負けるケンカをしてはいけない。挑発に乗らず常に
冷静でいて欲しい。
大日本帝国とミスカマカス
2015年03月26日 22:42
マニトウという映画の戦闘シーンさながらの事件が国民の知らないところで起きていたと言えば、理解してもらえるかもしれない。命をかけてサイレントテロを阻止しようとした政治家もいたと確信する。
ヘリコプター
2015年03月27日 14:12
言う事をきかない政治家をヘリコプターで吊るし・・という2ちゃんのネタは、本当だと思う。
キセキの松がなぜ女の子に例えられているのかも、気になるところだ。
金持ちは政治家になってはいけない
2015年03月28日 22:42
お金が無くても国会議員になれる国になったら日本の未来は明るいと思う。今の若い人はとてもしっかりしている。
この国の行政システムを根本から変えたいですよね。

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