物損事故でも現行犯逮捕|危険ドラッグと交通事故

危険ドラッグを使って意識朦朧のまま運転を続けたことによる事故が、相次いで報道されています。
危険ドラッグの影響下での交通事故については、非常に厳しく取り締まられていて、重大な結果をともなう人身事故を起こした場合は、法定刑が最も重い危険運転罪で起訴される例が増えています。
いっぽう、物損事故についても、危険ドラッグ関連事件に対しては厳しい対応がなされています。愛知県警は、先日、危険ドラッグに関係すると疑われる場合は、物損事故であっても現行犯逮捕するという方針を発表したところです[1]。
さらに、危険ドラッグの影響で危なげな運転をしている車を発見したら、事故に至らない場合でも、道交法違反(過労運転等の禁止)として、運転者が逮捕されたケースも報告されています。

<ニュースから>*****
●ドラッグ使用し高速道運転 道交法違反容疑で男逮捕
愛知県警高速隊は29日、危険ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)を使用し、正常な運転が困難な状態のまま高速道路で運転したとして、道交法違反(過労運転等の禁止)の疑いで、岐阜県山県市岩佐の外装業、S容疑者(23)を逮捕した。
県警によると、危険ドラッグの影響を受けて高速道路で運転したことに同法違反容疑を適用する例は珍しい。
逮捕容疑は5月22日午後9時20分ごろ、愛知県一宮市の東海北陸自動車道下り線で、危険ハーブを吸った影響で意識が定かでない状態のまま軽四乗用車を運転したとしている。
県警によると、S容疑者は愛知県北名古屋市にある店でハーブを購入後、店の前で吸引したと供述し、容疑を認めている。
MSN産経ニュース(2014.7.29 19:54)
*****

薬物の影響下で自動車を運転して事故を起こし、死傷者が出た場合、運転者の責任を問うのが、今年施行された自動車運転死傷行為処罰法で、
最も法定刑が重い危険運転致死傷罪では、
アルコール又は薬物の影響で正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、
・人を負傷させた者は15年以下の懲役
・人を死亡させた者は1年以上の有期懲役(懲役1年~20年)
と定められています。

いっぽう、薬物の影響下で自動車を運転したが事故に至らなかった場合や事故を起こしたが、人的被害のない、いわゆる物損事故に止まった場合に適用されるのは道路交通法66条です。
道路交通法66条は、過労運転等を禁止している条項ですが、
「何人も、前条第一項(酒気帯び運転の禁止)に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。」
と定めています。
ここでいう「薬物」には、麻薬や覚せい剤などの禁止薬物だけでなく、薬局等で販売されている薬品も含まれています。危険ドラッグについて言えば、指定薬物として規制対象になっているかどうかに関わりなく、「薬物」にあたることになります。

違反した者に対する罰則は、117条の2第3号(麻薬運転等の罪)及び117条の2の2第7号(狭義の「過労運転等の罪」)の2段階で定められており、危険ドラッグの影響により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転したケースは、下記の[117条の2の2第7号]の対象となります。
[117条の2第3号]
麻薬、大麻、覚せい剤、あへん、又は毒物及び劇物取締法第3条の3の規定に基づく政令で定める物(トルエン等)の影響により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転した者
→5年以下の懲役又は100万円以下の罰金
*なお、この罰則はいわゆる「酒酔い運転」(117条の2第1号)に対するものと同一です。
[117条の2の2第7号]
それ以外の者
→3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
*なお、この罰則はいわゆる「酒気帯び運転」(117条の2の2第3号)に対するものと同一です。

ところで、ここで言う「薬物の影響」について、文献では次のように説明されています。
「薬物の影響により」正常な運転ができないおそれがある状態とは、薬物を使用し、現に体内に薬物を保有しているか、または、薬物を使用して後それらを体外に排出した直後であって、使用に係る薬物の影響により具体的に正常な運転ができないおそれがある状態にあることをいい、薬物使用の中断によって生じる離脱症状(禁断症状)や後遺障害は薬物の影響には当りません[2] 。
「正常な運転ができないおそれがある状態」とは、車両等を運転するについて必要な注意力、すなわち外部に対する注意力、中枢神経の活動力、抑制心等を欠くおそれがある状態をいい、正常な運転の能力に支障を惹起する抽象的な可能性一般を指称するものではなく、その可能性は具体的に相当程度の蓋然性を持つものでなければならない とされています [3]。
故意の内容としては、注意力を散漫にさせ、身体反応を鈍化させ、また、精神を不安定にさせる薬物であるとの認識があってそれを施用し、それにより精神的又は身体的に相当の程度に影響を受けているとの認識があればよいとされています[4] 。

危険ドラッグの影響による交通事故の捜査には、たとえ物損事故といえども、事故の原因となった薬物を特定し、その薬物がもたらす作用によって事故が引き起こされたことを明らかにする必要がありますが、薬物鑑定などにかかる時間が捜査の障害となり、とかく処理が後回しになってきた事情があります。
現場の捜査陣にかかる負担を承知の上で、危険ドラッグによる交通事故に対しては、現行犯逮捕するという愛知県警の宣言には、決意の重さが現れています。

<参照>
[1] 時事通信電子版「物損事故も現行犯逮捕=危険ドラッグ対策で方針-愛知県警」2014年7月28日
[2] 田中節夫「道路交通法一部改正について」警察研究51巻4号60頁
[3] 警察庁交通局交通企画課ほか「道路交通法」平野龍一ほか編『注解特別刑法(第1巻)交通編⑴〔第2版〕』(青林書院、1992年)437頁
[4] 田中・前掲[2]書60~61頁、警視庁・前掲[3]書437頁。なお、酒酔い運転の故意についてですが、最判昭46・12・23刑集25巻9号1100頁は、アルコールを身体に保有しながら運転をすることの認識があれば足り、正常な運転ができないおそれがある状態についての認識は不要である、としています。

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