コロンビア組織|コカインの世界戦略3

国連薬物犯罪事務所の資料によれば、世界のコカインの総市場は約850億ドル。この膨大な市場を支配し、想像を絶する収益をあげているといわれるのが、コロンビア系の薬物犯罪組織です。世界に名をはせた巨大カルテルが崩壊して以来、コカインをめぐって薬物組織間の競争が激化し、集合離散が繰り返されているため、その実態はますます把握しにくくなっているといいます。
実をいうと、私にも、あまりよくわかっていないのですが、国連やEUの資料を手掛かりに、コロンビア系の薬物組織の輪郭を紹介してみます。

●巨大カルテルの時代
アメリカ合衆国で薬物乱用が急速に拡大した1970~80年代、アンデス地域で産出するコカインの密輸ルートを掌握した麻薬組織(カルテル)には、密輸による巨大な富が集中し、やがて組織はコカインの生産、密輸からUSA国内での密売に至る全過程をコントロールするようになります。なかでも、カリブ海ルートを手中に収めたメデジン・カルテルと、メキシコ経由の陸路を支配下においたカリ・カルテルは、2大勢力として世界のコカイン流通を支配しました。最盛期のメデジン・カルテルは、「コカイン帝国」と呼ばれ、小国の国家予算並みの収益を得ていたといわれます。
コロンビア政府は、USAの後押しを得てカルテル掃討に乗り出しますが、カルテル側は抵抗を激化させ、1980年代半ばからおよそ10年にわたり、テロ、暗殺などが頻発し、とくにメデジン・カルテルの本拠地メデジン一帯では血で血を洗う戦闘状態が続きました。
1993年、「世界の麻薬王」と呼ばれたエスコバルが射殺されたことを契機に、統率者を失ったメデジン・カルテルは崩壊し、その後まもなく、カリ・カルテルも急速に弱体化し、1990年代半ばには、巨大カルテルによるコカイン支配は終焉を迎えました。

●武装組織による支配
その後、「コカイン帝国」の支配は、反政府武装勢力の手に移ります。
コロンビアでは、1960年代から今日に至るまで、左翼系反政府勢力との武力衝突が続いています。キューバ革命に触発され、南米各地で結成された反政府集団のひとつFARC(コロンビア革命軍)は、コロンビアで最大の武装集団を形成していますが、その資金源として、コカインの生産・流通に深く関与しているといいます。
そもそも、反政府武装勢力が麻薬カルテルとの関係を深めたのは、1980年代からのことで、武装勢力はカルテルの麻薬取引を擁護する見返りに、潤沢な資金を得てきたといいます。1990年代半ばに巨大カルテルが弱体化するととともに、それまでカルテルの背後でコカインの生産・流通ルートに関与してきた武装勢力は、その支配権を直接掌握することになり、とくに最大勢力のFARCは、コロンビア国内のコカイン生産地域への支配を強めたとみられています。
しかし、コロンビア政府による掃討作戦強化によって、FARCの勢力は次第に弱体化し、2012年秋から、ノルウェーとキューバを仲介国、ベネズエラとチリを立会国として、FARCとコロンビア政府との和平交渉が進められています。
いっぽう、左翼系組織と敵対関係にある右翼系武装集団も、またコカイン流通に関わってきました。もともと、巨大カルテルや富裕層が雇った自警団から始まったものですが、1990年代後半にAUC(コロンビア自警軍連合)を結成し、左翼系反政府組織と対立する極右組織としての性格を強めてきました。AUCは、コカの栽培やコカイン生産施設の支配をめぐって、FARC等の左翼系集団との抗争を展開しましたが、2003年ころ政府との和平交渉に合意して武装解除を進め、やがて解体しました。

●現在のコカイン生産・流通組織
巨大カルテル、そして反政府武装勢力、コロンビアのコカインを独占支配してきた大勢力は、次々に力を失い、表舞台から退場していきます。しかし、相変わらずアンデス山地ではコカが栽培され、コカインが生産され、世界各地へと密輸されているのです。
では、コロンビアのコカインを、現在支配しているのはいったいどんな組織なのでしょうか・・・?
そういえば、コロンビアの巨大カルテルが弱体化し始めたころから勢いを増してきたのは、メキシコの薬物組織です。カリ・カルテルと手を結んで、コカインを陸路でUSAに密輸する仕事を請け負ってきたのがメキシコのカルテルですが、カリ・カルテルの崩壊後は、密輸の主導権を得たといわれます。しかし、近年ではメキシコ系組織の内部抗争が激化したことから、陸路によるコカイン密輸は減少し、メキシコ系カルテル側も、コカインへの依存度を低減させているようです。
いっぽう、ここ数年、比重を高めているのがカリブ海ルートです。大型エンジンを2台、3台と搭載した高速艇や、数百万ドルをかけて建造した潜水艇など、資金力を見せつける運搬手段を用いて、このルートで密輸を行っているのはコロンビア系組織で、カリブ諸国の密輸組織が配下で動いています。
かつての巨大組織の時代とは異なり、現在の麻薬組織は、流動性に富んだ小規模なものに変化し、その正体は見えにくくなっています。しかし、ヨーロッパ市場への足場として、西アフリカを攻略した際の大胆なやり口と莫大な資金力を見ると、その実力を軽んじることはできません。

●和平と麻薬問題の解決
つい最近、コロンビア政府と反政府勢力FARCとの和平交渉が進展し、農地改革で合意が得られたというニュースが報じられました。今後の協議事項には、麻薬問題の解決も予定されているといいます。
もともと、コカ栽培の背景には、農地のほとんどが大地主によって寡占され、耕作地を持たない多くの貧農が、生き延びる手段としてコカ栽培をしているという、コロンビア社会のひずみがあると指摘されてきました。農地改革が実現し、コカ栽培に頼らなくても農家が収入を得ることができれば、コロンビアでのコカイン生産は大幅に縮小されることでしょう。
しかし、FARCが解体しても、コカイン組織がそのまま消えるとは思えません。巨大カルテルの崩壊後もしぶとく生き残り、FARCの解体からも身をかわして、コロンビアのコカイン組織は今後も活動を続けることになりそうです。
さらに危惧されるのは、コカ栽培の縮小を埋め合わせるために、新たに、覚せい剤(メタンフェタミン)など合成薬物の密造に手を広げるかもしれないという点です。この現象は、これまでいくつかの薬物原産地で起きてきたことで、メキシコ系のカルテルも大量の覚せい剤を密造しています。
コロンビア系の薬物組織が、覚せい剤とコカインの両面作戦で東アジア市場を狙い撃ち・・・、こんな未来がやってきたとき、日本はどこまで戦えるのでしょうか。

[参考資料]
①国連薬物犯罪事務所によるコロンビアのコカ栽培報告書(2013)
Colombia: Coca cultivation survey 2012
http://www.unodc.org/documents/crop-monitoring/Colombia/Colombia_Coca_Cultivation_Survey_2012_web.pdf
②EMCDDAとユーロポールが共同制作したコカインの資料(2010)
Cocaine―A European Union perspective in the global context
http://www.emcdda.europa.eu/publications/joint-publications/cocaine
③国連薬物犯罪事務所による国際組織犯罪の報告書
The Globalization of Crime(2010)
http://www.unodc.org/documents/data-and-analysis/tocta/TOCTA_Report_2010_low_res.pdf
④国連薬物犯罪事務所による欧州のコカイン市場に関する報告書(2011)
The Transatlantic Cocaine Market―Research Paper
http://www.unodc.org/documents/data-and-analysis/Studies/Transatlantic_cocaine_market.pdf

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