法規制の効果|世界薬物報告書4

国連薬物犯罪事務所(UNODC)が発表した「2013年版世界薬物報告書World Drug Report 2013」を通じて、新精神作用物質:NPS(New psychoactive substances)の問題を世界の視点で考えています。
今回は、各国で投入されてきた規制策とその効果について、98ページ以降を読んでいきます。

●法規制とその効果(98ページ~ )
乱用薬物市場に次々に登場するNPSを規制するために、各国は様々な手法を投入していますが、導入された規制策の効果は、必ずしも一様ではありません。報告書は、これまでに各国でとられてきた規制策がもたらした効果について、大まかに3つのパターンに分類して、事例をまとめています。
(a)物質が市場から完全に消滅するわけではないが、規制策の導入によって使用率は急速に低減する。
(b)規制策投入後、長期間かけて次第に使用が減少する。
(c)規制策が、当面はほとんど影響しない。

まず、上記のうち、(a)規制策の導入によって使用率が急速に低減したケースについて。先進国を中心にいわゆる脱法ドラッグとして出回っている薬物は、当然ですが、法規制が導入されれば急速に市場から消えていくことになります。「合法」をキーワードに急速に広まり、法規制の導入によって瞬く間に姿を消していった薬物として、報告書は次のような事例を紹介しています。

[事例1]英国でのメフェドロン規制
メフェドロンは、コカインの合法版として英国で急速に乱用が拡大した薬物で、2010/2011年調査では、イングランド及びウェールズで乱用される薬物の第3位(16-24歳の若年層では第2位)に挙げられました。乱用拡大に伴って健康被害も拡大し、メフェドロン関連の死亡例が多発しました。
政府は2010年にメフェドロンを薬物乱用法のクラスB薬物として規制し、さらに2011年には輸入禁止措置を導入しましたが、その成果はすぐに現れ、2011/2012年では使用率が前年の5分の1(16-24歳の若年層では4分の1)にまで減少しました。

[事例2]ニュージーランドでのBZP規制
2000年代前半、ニュージーランドでは「メタンフェタミンの安全版」としてBZP乱用が急速に広まり、それに伴い救急搬送例が急増したことを受けて、政府はBZPに対する規制策導入を検討し始め、2008年には法規制が導入されました。
規制開始とともに使用者は急速に減少し、2006年から2009年の間に、使用率は80%近い減少を見せました。この現象はさらに、脱法ドラッグ全般の衰退につながったことも注目されます。2005-2010年の間に、世界の他の地域では脱法ドラッグ使用が急増したにもかかわらず、ニュージーランドでは脱法ドラッグの使用は大幅に減少しました。

[事例3]ポーランドでの脱法ドラッグ規制
ポーランドはヨーロッパで第2の脱法ドラッグ市場です。最も広く出回っていたのは「タジファン」と呼ばれる脱法ハーブ製品で、急激な使用者の増加とともに中毒事故が急増し、2010年には中毒事故が300件を超え、18人が死亡するという事態になったことから、当局は脱法ドラッグ販売店に対する監督を強化し、さらに「薬物代替物質(いわゆる脱法ドラッグ)」の製造、広告、流通を全面的に禁止する措置を導入し、とりわけ「タジファン」を販売する店舗は、そのほとんどが閉鎖されました。
同国の調査によると、2010年12月には1.8%にまで低下しました。

[事例4]オーストラリアでのメフェドロン規制
メフェドロンが広まったのはヨーロッパだけではありません。オーストラリアでも、2007年ころからメフェドロンが広まり始め、2010年には、アンフェタミン類やエクスタシーのユーザーの16%がメフェドロンを使用するという状況になっていました。
オーストラリアが、この新規薬物の規制に用いたのはアナログ規制法で、法規制の対象外であったメフェドロンをメトカチノンのアナログであるとして、規制下に置き、輸入されたメフェドロンを押収し、その取引に関与した者を逮捕しました。
その後各州ではメフェドロンを規制薬物に指定する動きが広がり、2011年までにほとんどの州で規制されました。メフェドロン使用も急速に減少し始め、2012年では、アンフェタミン類やエクスタシーのユーザーのうちメフェドロン使用者は5%になりました。

[事例5]アメリカ合衆国でのMDPV規制
米連邦で最近規制対象になった薬物として、MDPVをあげることができます。これは「バスソルト」として出回った脱法ドラッグの代表的な成分で、MDPV単独でのデータはありませんが、2011年ころから「バスソルト」の使用が急速に拡大し、中毒情報センターへの通報数が激増したことについては、当ブログで何度もお伝えしてきました。
しかし、2011年10月、米連邦が「バスソルト」の主要成分に対して、暫定規制を導入したころから、通報数は急速に減少し始めました。

しかし、規制策が投入されても、すぐにその成果が現れるとは限りません。報告書は、パターン(b)、規制策投入後、長期間かけて次第に使用が減少する―の事例として、米国でのケタミン規制を取り上げています。米連邦ではケタミンは1999年に規制対象になりましたが、その後の使用率に大きな変動はみられなかったものの、長期的みれば使用者は減少しています。しかし、視点を変えれば、近年MDMAの供給減少が起きているなかで、その代替品となりかねないケタミンの使用が増えていないという点は、評価してよいと、報告書は言います。

さらにパターン(c)、規制策が、当面はほとんど影響しない―の事例に挙げられているのは、米連邦におけるエクスタシー(MDMA)規制です。MDMAは1980年代に広まり始めた薬物で、米連邦では1985年、国連条約では1986年に規制対象になりました。ところが1990年代に入ってもMDMA使用は記録的な増加を続けました。米国では、2000年ころから使用者の減少がみられるようになりましたが、その主要な要因は、生産地のオランダからの密輸ルートの集中摘発によって、供給ルートが遮断されたことによるものだといわれています。
なお、近年では、MDMA密造原料の国際的なコントロールが奏功して密造ペースが低下したため、世界的にMDMA供給量が減少し、使用者も減少傾向にありますが、ごく最近になって新たな原料からの合成技術が普及したため、再びMDMA供給が活発化していると伝えられています。
ちなみにわが国では、国連条約に従ってMDMAが麻薬に加えられたのは1989年(平成元年)ですが、この時点では国内でエクスタシー錠剤の乱用はほとんど見られず、これがわが国に流入し始めたのは2004年ころからです。

[参照]
UNODC, World Drug Report 2013(2013年版世界薬物報告書)
http://www.unodc.org/wdr/

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