偽造処方せんと刑法犯罪|偽造処方せん事件2

多重受診や偽造処方せんによって、大量のデパスが不正に入手された事件に関して、引き続き考えていきます。

●偽造・変造処方せん事件の例
偽造処方せんの事件はそれほど多いものではなく、報道されることもごくまれです。また、こうした事件が通常裁判で審理されることも、めったにありません。そこで、実際の事例を東京都健康福祉局のサイトから転載して、紹介します。
•平成13年8月、19歳の少年が正規に発行された処方せんの交付年月日、処方量、処方日数を改ざんし変造。麻薬及び向精神薬取締法違反容疑で東京家庭裁判所へ書類送致。
•平成13年11月、都内在住の女性(25)が、正規に発行された処方せんをパソコン、コピー機を使用して改ざん。都内2ヶ所の薬局に改ざんした処方せんを持ち込み、うち1ヶ所の薬局から向精神薬3種類98錠を不正に入手。正規に入手した向精神薬も含めてインターネット上で密売。麻薬及び向精神薬取締法違反容疑で逮捕。
•平成15年6月、都内在住の男性(48)が、正規に発行された処方せんをカラーコピー機等で複製(一部は加筆等の改ざん)することにより、処方せんを偽造。都内5ヶ所の薬局に偽造処方せんを持ち込み、向精神薬等を詐取。有印私文書偽造罪、詐欺罪で警視庁へ告発。
•平成17年10月から平成18年3月にかけ、都内在住の男性(31)、女性(29)が、正規に発行された処方せんを改ざんした上、コピー機等を使用して偽造。都内、隣県複数ヶ所の薬局に持ち込み、向精神薬を詐取。麻薬及び向精神薬取締法違反容疑で東京地方検察庁へ送致。
[出典]
東京都福祉保健局>違法です!偽造処方せん(平成18年6月29日更新)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kenkou/kenkou_anzen/stop/iho/index.html
画像

↑処方薬の不正入手・不正販売のまとめ(小森榮作成)

●処方せんの偽造は刑法犯罪
今回、静岡の事件で問題になったデパス(エチゾラム)は、[処方せん医薬品]です。薬事法は、医師等からの処方せんの交付を受けた者以外の者に対して、薬局等が、正当な理由なく、処方せん医薬品を販売することを禁じ(第49 条第1 項)、違反した薬局等に対する罰則を定めています。つまり、処方せん医薬品を取り扱う薬局は、偽造処方せんなどでだまされて、医師の処方を受けていない人にこれを販売してしまうことがないよう、注意する義務を負っているわけです。もちろん、十分な注意を払っていても偽造を見抜くことができない場合まで処罰されることはありませんが。

いっぽう、偽造処方せんを用いて薬局をだまし、医師の処方せんがないのに[処方せん医薬品]を入手しようとする行為は、刑法犯として処罰されることになります。処方せんを偽造し、それを用いて薬局から処方せん医薬品を入手する行為は、有印私文書偽造・行使にあたり、真正な処方せんの一部に手を加えるだけでも同様に処罰を受けます。
さらに、処方せんの交付を受けていないのに、薬局をだまして医薬品を入手する行為は、場合によっては、詐欺に問われることもあります。
私文書偽造・行使に対する法定刑は、3月以上5年以下の懲役。詐欺の法定刑は10年以下の懲役と定められています。

ところで、麻薬及び向精神薬取締法(以下では「麻向法」といいます)は、「向精神薬処方せん」の偽造・変造を処罰すべき違反行為として規定し、違反者に対して20万円以下の罰金刑を科すことを定めています(麻薬及び向精神薬取締法第72条第4号)。刑法では、私文書偽造は「行使の目的で」文書等の偽造や変造を行うことが犯罪にあたるとされていますが(刑法第159条)、麻向法の規定は、行使の目的の有無に関係なく、処方せんの偽造・変造を一律に禁じ、刑法の私文書偽造の場合より軽い罰則を定めたものだと解釈されています。
実際の事件では、行使の目的をもって処方せんを偽造・変造した場合には、より重い刑を定めた刑法の私文書偽造罪を適用し、未遂の場合や、犯罪の程度がごく軽い場合には麻向法が適用されているようです。

なお、これまで、偽造処方せんが使われた事例のほとんどは、麻向法が規定する向精神薬の不正入手を目的としたものですが、たまたま今回の事件の対象となったデパス(エチゾラム)は、薬効や用法などは向精神薬とほとんど変わらないのですが、向精神薬に指定されていません。(これは、国際条約を背景にした国内法として制定された麻向法の性格によるもので、事情は少し複雑なので、説明は別な機会に譲ります。)
デパスなど、向精神薬に指定されていない医薬品の場合は、当然、麻向法の規定は適用されません。

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この記事へのコメント

Hello
2011年09月06日 08:06
初めましてこちらはアメリカからです。
処方箋の取り扱い方に問題があるのではないでしょうか?アメリカでは処方箋は本人または代理人が直接出向いて受け取るシステムですから、インターネットで取り寄せられることはありません。薬剤師もそのつど医者に必ずコンタクトを取りますから、不正入手自体難しく、代理人も身分証明書が必要です。

http://mugcupsusa.cocolog-nifty.com/
このケースに日本国の現役弁護士3名が加害者として加担しています。「Review soon」の記事から。

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