50ルピーの命|南アジアの処方薬問題

今週、国連薬物犯罪事務所(UNODC)のサイトの表紙に掲載されているのは、インドなど南アジアでの処方薬乱用問題を追った写真家の作品集、「50ルピーのために死んだ」。取り上げているのは、フリーの写真家エンリコ・ファビアンが最近発表した白黒写真の作品集で、ニューデリーのジャハンギール地区で処方薬に蝕まれる人々の姿を追ったものです。
記事の冒頭部分を紹介します。
「ダルミンダーは『おれ、ずっとヘロインをあぶって吸ってたけど、この2年ほどは注射だけだよ。こっちのほうが安いし、効き目は同じだから』という。彼の衣服や手足の汚れは路上生活を物語り、その瞳は長年の処方薬乱用で疲れ、悲しげだった。その数時間後、この17歳の少年は死亡した。薬物をもっとよこせと言い争って殴り倒され、薄汚れた路上に放置されたまま死んだのだ。」

欧米先進国を悩ませている処方薬乱用問題は、ここ南アジアでは、さらに重く深刻な一面を見せているようです。写真家はフォト・ブログでインドの現状を次のようにいいます。
「だれでも、どんな状況で暮らす人にも手に入るいろいろな薬品がある。こうした薬品を手に入れるのは、スーパーで咳止めシロップを買うのと同じくらい簡単で、大都市から寒村まで国中に広がる薬局で、どんな薬品でも買うことができる。こうした薬品を手に入れるのに医師の処方箋は必要とされず、貧困層でも買える価格で販売されている。50ルピー(約85円)で手に入るのは、ブプレノルフィン1アンプル、ジアゼパム1アンプル、そしてこれら薬品の副作用を抑える抗ヒスタミン剤1アンプル、注射器2本。さらに、買い手と薬局オーナーの人間関係によっては、強力な抗うつ剤が1錠かモルヒネのおまけがつく。
こうした恥知らずな商売の結末は、人々の生活や運命を破壊している。熱意と活気に満ちていた顔つきは、満たされることのない薬物への渇望を潜ませた生気のない顔へと変貌し、強さと力に満ちていた身体は、注射針の使いまわしによるエイズなどの病気に侵された血液の入れ物と成り果てている。仕事を失い、負の連鎖に巻き込まれるのは家族や子どもたちだけではない。」

こうした写真集を前に、多くを語る必要はないでしょう。下記の②サイトで、この写真家の作品を見ていただくのが何よりです。
[出典]
①UNODC>Death for 50 rupees: Misuse of prescription drugs in South Asia
http://www.unodc.org/unodc/en/frontpage/2011/August/death-for-50-rupees-misuse-of-prescription-drugs-in-south-asia.html?ref=fs1
②Enrico Fabian Phtography BLOG
http://www.blog.enrico-fabian.com/

ひとことだけ、添えておきます。これは、急成長しているインド社会の陰の一面であり、南アジアの典型的な姿をあらわすものではないと思います。成長著しいアジア、アフリカ諸国には、多かれ少なかれ、共通した問題があり、先進国の都市の奥にもこうした陰の部分が潜んでいることでしょう。
急速に発展するインドで、コンピュータ・ソフト産業と並んで、製薬産業はインド産業界の成長牽引車だといわれます。インドの製薬産業は、生産量ベースでは世界第4位で、米国、ロシア、中国、英国など、200以上の国々に医薬品を輸出しており、とくに高品質のジェネリック薬品製造分野の世界的リーダーと見られています。
しかし、急成長の裏側に、様々なひずみや矛盾がないわけではありません。インドの製薬企業は、その大部分が世界的基準からみると小規模な企業です。製薬業界は細分化されており、少数の大企業の下部に、15,000社を超えるメーカーが存在しています。
医薬品の流通に対する規制もひととおり整備されているのですが、まだまだ多くの抜け道があり、外国に拠点を置くインターネット薬局が、インド製の医薬品を中心に、医師の処方せんなしで処方薬を販売していることも、国際的な問題になっています。さらに、脱法ドラッグに使われる化合物の生産者として、インドの化学会社や医薬品材料のメーカーの名があげられることもよくあります。

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