弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 警察への通報|職場の薬物検査6

<<   作成日時 : 2011/08/15 02:01   >>

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職場での薬物検査の問題は、アルコール検査と多くの点で重なりますが、決定的に異なる点がひとつあります。アルコール検査の場合、職場での検査で飲酒や酩酊が判明したとしても、それは職場内の情報として処理されるのに対し、薬物検査で薬物使用の疑いが浮上した場合、警察に通報するべきか考えなければならないのです。
前記事で繰り返し述べたように、欧米では一般に、薬物使用罪が規定されておらず、仮に薬物検査で尿中に薬物の存在が確認されても、そのことが直ちに犯罪を構成するわけではないため、薬物検査を実施した企業がその結果を警察に通報する必要はありません。ところが、わが国では、覚せい剤取締法および麻薬及び向精神薬取締法には、覚せい剤および麻薬に関する使用の罪が規定されており、薬物を使用したこと自体が犯罪とされているのです。

●薬物使用が犯罪になる場合
ところで、上記で私は、覚せい剤・麻薬に関しては使用罪が規定されていると述べましたが、もっと正確に言うなら、法規制の対象となっている薬物でも、大麻、向精神薬、指定薬物などについては使用罪の規定がありません。では、覚せい剤の陽性に関しては通報するが、大麻の場合には通報しないのか・・・このあたりはきわめて微妙な判断となります。
職場の安全や従業員の健康に影響を及ぼす薬物は、覚せい剤、大麻、麻薬、向精神薬、脱法ドラッグなど多種多様で、現在、わが国に出回っている代表的な種類だけでも数十種にのぼります。監査対象となる個々の薬物について、使用罪の規定があるかどうか、正確に把握しておくことは、けっこう難しいかもしれません。わが国で乱用例の多い薬物に関して、以下にまとめます。
[使用罪の規定について]
・覚せい剤(覚せい剤取締法)・・・・・・覚せい剤の使用は犯罪として処罰される
・大麻(大麻取締法)・・・・・・大麻の使用(吸食)を犯罪とする規定はない
・コカイン(麻薬及び向精神薬取締法)・・・コカインの使用(施用)は犯罪として処罰される
・MDMA(麻薬及び向精神薬取締法)・・・MDMAの使用は犯罪として処罰される
・向精神薬(麻薬及び向精神薬取締法)・・・向精神薬の使用を犯罪とする規定はない

●通報する義務があるのか
もとより、企業や個人が犯罪の疑いがあることを知った際に、一律に、それを警察に通報しなければならない法的な責任を負っているわけではありません。
薬物検査に関係して、法令によって、通報が義務付けられているのは、次の場合です。
@医師は、診察の結果、受診者が麻薬中毒者であると診断したときは、・・・・・・すみやかに都道府県知事に届け出なければならない。(麻薬及び向精神薬取締法58条の2)
A麻薬取締官、麻薬取締員、警察官及び海上保安官は、麻薬中毒者又はその疑いのある者を発見したときは、・・・・・・すみやかに、都道府県知事に通報しなければならない。(同58条の3)
B公務員(官吏又は公吏)は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。(刑事訴訟法239条2項)

法令に沿って解釈するなら、公務員が、職務として薬物検査に携わった場合には、覚せい剤・麻薬の使用罪に該当すると疑われるケースに出会った際には、その事実を警察に連絡することになるでしょう。いっぽう、私企業が従業員を対象に薬物検査をした場合は、仮に薬物使用の疑いがあると知っても、これを警察に届け出なければならない法的な義務はないということになります。とはいえ、企業活動にコンプライアンス(法令遵守)が求められている今日、私企業に通報義務はないとして、これを社内的な情報にとどめることが妥当かどうかは考えなければならないでしょう。

●薬物検査とプライバシー
実は、こうして一般論を述べながらも、私自身、多くの疑問に直面しています。繰り返し述べるように、わが国では、職場での薬物検査が大規模に行われた事例はごく限られており、検査の実施や、検査結果の利用に関して、その相当性などを裁判で争った事例は、先に挙げた相撲協会のケースくらいしか見当たりません。つまり、判断の参考になるものがほとんどないのです。

わが国で、職場の薬物検査のあり方に関して言及している、おそらく唯一の公的なガイドラインとして、旧労働省官房政策調査部総合政策課が平成12年に発表した「労働者の個人情報保護に関する研究会報告書」があります。これは、民間企業等が保有する労働者の個人情報の適正な処理に関し必要な事項を定めたもので「労働者の個人情報保護に関する行動指針 」、「労働者の個人情報の保護に関する行動指針の解説 」からなっています。
この行動指針では、
「使用者は、労働者に対するアルコール検査及び薬物検査については、原則として、特別な職業上の必要性があって、本人の明確な同意を得て行う場合を除き、行ってはならない。(労働者の個人情報保護に関する行動指針6−⑶)」
とされています。行動指針の解説は、その理由を次のように記載しています。
「アルコール検査及び薬物検査については、通常の雇用関係においてはこれを行う必要がないことから、原則として、他者の安全に直接関わる職務である等職務の性質に照らしてその実施に合理性がある場合を除いては行ってはならないこととした。
 『特別な職業上の必要性』がある場合とは、例えば、パイロットやバス、トラック等の輸送機関の運転業務に従事する者に対してアルコール検査を行う場合や医師、薬剤師等の医療職等に対して薬物検査を行う場合が考えられる。
 なお、例外的に、アルコール等の影響により業務の適正な実施に支障を生じていることを疑うに足る相当の理由がある場合等においてこれらの検査を行うことが必要となる場合も考えられるが、その場合も含め、その実施に当たっては、本人の明確な同意を得ることを含め検査の実施手続きの明確化を図る等慎重な対応が求められる。(労働者の個人情報の保護に関する行動指針の解説6−⑶)」

最近、公共交通機関の乗務員や公務員などが薬物事件で逮捕されたという報道が続き、職場での薬物検査について考えておられる関係者もおられることでしょう。でも、職場での薬物検査には、労働者のプライバシーを侵しかねない一面があることを忘れないでいただきたいものです。

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