突撃錠、猫目錠―覚せい剤の軍事使用|覚せい剤問題の歴史4

5、突撃錠、猫目錠―覚せい剤の軍事使用


前述のとおり、大日本製薬がヒロポンを発売したのは1941(昭和16)年で、同年12月には真珠湾攻撃によって日本は太平洋戦争に突入することになるのですが、すでに日中戦争の戦線拡大によって国家総動員法[1] が敷かれており、国民経済は統制下に置かれていました。
医薬品の分野では、1941(昭和16)年5月に医薬品及び衛生材料生産配給統制規則によって、全面的な医薬品統制が敷かれ、厚生省が指定した重要医薬品は生産許可制となるなど統制が一段と強化されていました。また、このころから大手製薬会社は軍管理工場に指定され、戦線の拡大とともに増加する軍用医薬品の需要に応じることとなりました。こうした情勢下でヒロポンが発売され、また多数の同種薬品が相次いで発売されたのですから、そこに軍部の意向が反映されていたと見るのは当然のことでしょう。
製薬、調剤の歴史を扱ったある書物は、統制下での製薬業の状況を次のように表しています。「民需用医薬品は完全に品不足の危機的な状態が続いたが、それでも製薬会社には軍需用として原料・資材が割当てられ、軍需品の生産へと追いやられた。特に覚醒剤、睡眠剤、抗マラリア剤、ホルモン剤、サルファ剤、解熱鎮痛剤、ビタミン剤などが軍管理の下で生産が強要されていった[2] 。」

いっぽう、坂口安吾は、民間人の立場で戦時下のヒロポンについて語っています。「反スタイルの記」では、発売当初にはある程度出回っていたヒロポンが、戦争の激化とともに薬局で入手することができなくなり、軍需工場で支給されたものを分けてもらったと述べているのです。「当時は戦争中で、私は仕事もなく、酒もなしという状態でヒロポンのごやっかいになることも少なかったが、時々は、宿酔に用いたこともあって、私の宿酔とくるとドウモウだから、定量以上ガブガブのみ、ちょうど居合せた長畑医師にいさめられたことがある。そのとき、エフェドリンに似た成分の薬だということを教えられた。
そのうちに空襲となり薬屋にヒロポンの姿もなくなり、本土が戦場になったというような時にヒロポンの必要がありそうだと考えていると、私の兄が軍需会社にいるものだから、その薬なら会社にある、夜業に工員にのませているのだ、といって、持ってきてくれた。ヒロポンが五粒に、胃の薬をまぜて一服になっている[3] 。」 

薬局から消えたヒロポンは、軍部や軍需工場で大量に使用されていたといわれますが、具体的にその使用状況を知る資料はほとんど残されていないため、戦後発表された資料などを通じて、当時の状況を間接的に垣間見ることができるにとどまります。
「(覚せい剤は)わが国でも、ヒロポン、ゼドリン、ホスピタン、メチブロン、ネオアゴチンなどの名で発売されていた。その作用は大脳皮質の刺激による覚せい作用ばかりでなく、疲労感、倦怠、沈うつ感などを消散させて快感をもたらしたり、作業能力を増進させる効果のあるところから、精神科の臨床ばかりでなく、軍需工場における徹夜作業にもちいられ、とくに、前線では強制的に使用されていた。(昭和35年版犯罪白書)[4] 」
「あのヒロポンは戰争中に軍需工場等で、労働者にフルに労働強化をやるために使われた。或いは特攻隊に使われた。いろいろ聞いております。(昭和26年国会委員会での委員発言)[5] 」
「御承知の通り、戦争中兵隊を駆使するための興奮剤としてヒロポンが使われたのである。(昭和29年国会委員会での委員発言)[6] 」
「戦争中にたとえばヒロポンというのを軍需会社で眠けざましに使う。突撃させるときには、少しはふらふらしてもかまわぬから、突撃させなければならぬというので兵隊に薬を飲ませる。(昭和39年国会委員会での委員発言)[7] 」
「戦争中には兵士の士気高揚(神風攻撃に出発する前、特攻隊員たちは『突撃錠』と称するヒロポンの錠剤を飲まされたといわれている)や、軍需工場労働者の作業能率の向上を目的として(『猫目錠』)、大量の覚せい剤が製造された[8] 。」

注釈と出典
[1]1938(昭和13)年4月に国家総動員法を制定
[2]西川隆『くすりの社会誌―人物と時事で読む33話』115頁、薬事日報社、2010
[3]坂口安吾「反スタイルの記」『坂口安吾全集 04』筑摩書房 1998
[4]昭和35年版 犯罪白書 第一編/第二章/三/2
[5]昭和26年2月15日参議院 厚生委員会 藤原道子委員(国会議事録)
[6]昭和29年3月18日衆議院厚生委員会 岡良一委員(国会議事録)
[7]昭和39年3月26日衆議院社会労働委員会 滝井義高委員(国会議事録)
[8]室生忠『覚せい剤』37頁、三一書房、1982

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 5

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

コデイン
2011年04月16日 23:13
うん。やっぱり低レベルな人多い。自分も人の事は言えないけど、ガッカリ。


せっかく良い、議論出来る場所を先生が作ってくれたのに、みんなでは無いけど
『大麻崇拝者』やらのコメントの内容が浅い。中途半端で逆効果。


で、大麻崇拝者は

『大麻悪くないっ!』って絶対言い切るのって、国が
『大麻悪いっ!』を曲げないのと一緒で、大麻崇拝者は自分の事を棚にあげて、嫌うお国と同じ事してないっすか?不思議だ。


お互いが聞く耳持たないとダメっしょ


あと『海外では~』とか言って比較するのを辞めなさい


ババロア頭が皆にばれちゃうよ~だ


それと日本の薬物関係の権威か知らないけど、瀬野川病院の小沼先生筆頭に、余りにもドラッグについて馬鹿げた事を言う。薬物ドクターは。そして当然の様に上から目線。


小沼先生の前で、例えばピアスをしてたら、

『薬してるやつはピアスしてるのが多いからだめだよ、向こうが寄ってくるよ』

と、言われた。ね?アホでしょ。


まぁ自分はホント人の事偉そく言えないけど、何か間違ってない?

この記事へのトラックバック