抗不安薬・睡眠薬と1960年代|向精神薬問題を考える10

いま日本で起きている向精神薬問題の核心は、どうやら、主に抗不安薬・睡眠薬の乱用(正規の処方によらない使用)であるということができそうです。抗不安薬・睡眠薬の乱用がエスカレートしたとき、どんな社会問題が起きるのか・・・。考えてみれば、日本の社会は、この現象を1960年代に体験済みではありませんか。

精神病は古代から悪霊のたたりとされ、20世紀半ばになっても患者の多くは幽閉され、治療にはブロムカリ(鎮静剤)、バルビツール酸(睡眠薬)などが用いられる程度でしたが、1950年ころから向精神薬の開発が相次ぎ、臨床に用いられるようになってきました。
こうした薬のなかには、現在の風邪薬や胃腸薬のように、処方箋なしで買うことのできるOTC薬として、一般向けに売り出され大型ヒット商品になるものもありました。1960年代の日本で、抗不安薬や睡眠薬を使うことが世相の一部となり、睡眠薬のハイミナールや、抗不安薬(トランキライザー)のアトラキシンが、この時代を象徴したのです。

● 睡眠薬遊び・・・少年とハイミナール乱用
1961(昭和36)年11月12日の毎日新聞は、「東京・上野や浅草などの繁華街で、少年たちの間で睡眠薬を飲んで「ラリる」遊びが流行。「ラリる」とは意識がもうろうとした状態のことで、薬を飲むと「らりるれろ」の発音がおぼつかなくなることから生まれた言葉。当時市販されていたハイミナールなどが多用されたため、厚生省は11月、未成年者への睡眠薬販売を禁止した、と報道しています。
[出典]毎日新聞1961(昭和36)年11月12日 毎日新聞社「昭和のニュース」より
  http://showa.mainichi.jp/news/1961/11/post-3005.html

ハイミナールは1930年代にエーザイが発売した睡眠薬で、処方せんなしで買える一般薬(OTC)として販売され、騒音や競争などのストレスによるノイローゼや不眠に悩む人たちに歓迎されていました。成分は、現在では第1種向精神薬に指定されているメタカロンで、不眠、鎮静、不安などに対して効果があるとされます。

ところが、1960(昭和35)年ころから、主に東京の少年を中心に、睡眠薬のもたらす酩酊感高揚感を求める乱用が広がり始め、1963(昭和38)年には乱用はピークを迎え、警視庁は約2,000人の少年を補導しました。当時の状況を昭和39年版犯罪白書は次のようにまとめています。
「睡眠薬を悪用する行為は、すでに昭和二五、六年頃から、盛り場のぐれん隊仲間や沖仲士などの労務者が、焼ちゅうやビールにブロバリンやバラミンなどを混入して飲み、酔を強めていたことに始まり、しだいに非行少年の間にも広まってきた。
睡眠薬をもてあそぶ少年たちが、警察の補導線上に現われたのは昭和三五年の五、六月頃で、東京都内の盛り場で補導された一部の青少年の間に、睡眼薬を服用して不純異性交遊にふける者などがみられた。
その後、睡眠薬を飲みすぎて自殺騒ぎを起した少女をめぐって、睡眠薬を常用する不良グループのいくつかが明るみに出たり、睡眠薬を服用した三人組の少年の強盗傷人事件や窃盗、脅迫、暴行などの非行があいついで起って、睡眠薬遊びが大きな社会問題化したが、一部週刊誌などで興味本位に扱われたりしたため、ますます少年達の好奇心をあおり睡眠薬遊びの風潮は全国的に波及するにいたった。警視庁防犯部少年課の調査によれば、昭和三六年から昭和三七年一二月までの間に、管下の警察で補導された睡眠薬服用少年は一、九四二人におよび、睡眠薬を他人に飲ませて非行を行なった者が二三人補導されている。なお、警察庁で、昭和三七年一月から五月までの間に、全国から報告を求めた睡眠薬服用少年の補導数は一、六六五人で、そのうち警視庁管下のものは五八%におよんでいるところから、東京都に集中していたことがわかる。」
昭和39年版 犯罪白書 第四編/第一章/二/5 (1964)
http://hakusyo1.moj.go.jp/

上の記載にもあるように、乱用の拡大は主に東京を中心としたもので、睡眠薬乱用の沈静化と入れ替わるように、1964(昭和39)年ころから広がり始めるシンナー乱用ほど大規模なものではなかったにしろ、少年問題として社会の関心を集めました。厚生省は1962(昭和37)年6月にこれらをまとめて劇薬に指定し、要指示薬(現在の処方箋薬にあたる)とし、また警察による取り締まりが強化されたこともあり、乱用は次第に終息に向かいました。
犯罪白書は、鎮圧にいたる経緯を次のようにみています。「服用少年に対する補導の強化、とくに非行グループの解体、補導の励行、医薬品販売業者に対する取締りの強化と業者の自粛、一般社会の強い関心と熱心な協力などによって,そのまん延がある程度鎮圧できた。」

続いて、次回ではアトラキシンに代表される抗不安薬(トランキライザー)の問題を追います。

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