中国その2|薬物密輸と死刑の問題11

5月3日付けで掲載した記事中に、誤りや不十分な箇所があったので、全面的に書き改めて、再度掲載します。5月3日分は削除しました。
*****

中国では、薬物の輸出入、製造、販売などに対する処罰を定めているのは、中華人民共和国刑法です。
現行の中華人民共和国刑法は、1997年3月14日、第8回全国人民代表大会において改正されたもので、薬物に関連した犯罪の法的規制や処罰に関して重要な改正を行いました。
この刑法典は、その第6章 「社会の管理秩序を害する罪」の第7節を「規制薬物の罪」に当てています。

●中華人民共和国刑法が定める薬物犯罪
刑法は、麻薬の密輸販売運輸製造、不法所持、麻薬犯人隠匿などの罪を規定し、また同時にこれらの罪に対する罰則を定めています。
・ 第347条 麻薬密輸販売運輸製造罪
・ 第348条 麻薬不法所持罪
・ 第349条 麻薬犯人隠匿罪、麻薬等隠匿罪、国家機関公務員麻薬犯人隠匿罪
・ 第350条 麻薬原料密輸罪、麻薬原料不法売買罪
・ 第351条 麻薬植物不法栽培罪
・ 第352条 麻薬植物種苗不法売買運送所持保有罪
・ 第353条 麻薬使用誘引教唆欺瞞罪、麻薬使用強制罪
・ 第354条 麻薬使用者収容罪
・ 第355条 麻酔薬品精神薬不法提供罪
・ 第356条 特別累犯
・ 第357条 麻薬の定義、麻薬の算定方法

●ここでいう麻薬とは
法は、麻薬(毒品)とはあへん、ヘロイン、覚せい剤(氷毒)、モルヒネ、大麻、コカイン及び国務院の規定により規制されるその他の依存症を引き起こす麻酔薬品及び向精神薬をいう(357条)と定義しています。

●最高刑が死刑と定められている薬物犯罪
麻薬関連犯罪のうち、刑法が最も重い罰則を定めているのが、347条の麻薬密輸販売運輸製造罪で、最高刑は死刑と定められています。中国の薬物対策の特徴のひとつとして、薬物犯罪に対して厳罰を定めていることがあげられますが、薬物犯罪に対する最高刑が死刑に引き上げられたのは、1997年の刑法改正時です。

第347条
①麻薬を密輸し、販売し、輸送しまたは製造したときは、その数量の多少にかかわらず、すべて刑事責任を追及し、処罰しなければならない。
②麻薬を密輸し、販売し、輸送しまたは製造した者は次の各号に掲げる事情の一つがあるときは、15年の懲役、無期懲役又は死刑に処し、財産の没収を併科する。
一、1000グラム以上のあへん、50グラム以上のヘロイン若しくは覚せい剤、又はその他の大量の麻薬を密輸し、販売し、輸送しまたは製造したとき。
二、麻薬を密輸し、販売し、輸送しまたは製造する集団の首謀者であるとき。
三、武装をもって護送して麻薬を密輸し、販売し、輸送しまたは製造したとき。
四、暴力で検問、逮捕又は勾留に抵抗し、情状が重いとき。
五、国際的な組織的麻薬販売集団に参与したとき。
③200グラム以上1000グラム未満のあへん、10グラム以上50グラム以下のヘロイン若しくは覚せい剤、又はその他の比較的大量の麻薬を密輸し、販売し、輸送しまたは製造した者は、7年以上の懲役に処し、罰金を併科する。
④200グラム未満のあへん、10グラム未満のヘロイン若しくは覚せい剤、又はその他の少量の麻薬を密輸し、販売し、輸送しまたは製造した者は、3年以下の懲役、拘留又は管制に処し、罰金を併科する。その情状が重い場合は、3年以上7年以下の懲役に処し、罰金を併科する。
(以下⑤~⑦項を省略)

法は、まず1項で、麻薬を密輸し、販売し、輸送しまたは製造したときは、その数量を問わず、一律に犯罪として処罰しなければならないとしています。
科される刑は、密輸し、販売し、輸送しまたは製造した麻薬の量が多くなるほど加重され、
・1000グラム以上のあへん、50グラム以上のヘロイン・覚せい剤、あるいは大量のその他薬物の場合・・・もっとも重い場合には15年の懲役、無期懲役または死刑、財産没収を併科(2項1号)。
・200グラム以上1000グラム未満のあへん、10グラム以上50グラム以下のヘロイン・覚せい剤、あるいは比較的大量のその他薬物の場合・・・7年以上の懲役、罰金を併科(3項)。
・200グラム未満のあへん、10グラム未満のヘロイン・覚せい剤、あるいは少量のその他薬物の場合・・・3年以下の懲役、拘留または管制、罰金を併科。その情状が重いときは3年以上7年以下の懲役、罰金を併科(4項)とされています。
麻薬の量と直接関係のない特別加重処罰情状として、密輸や販売組織の首謀者であることなど、第2項の2から5号に掲げる4つがあげられ、該当する場合は死刑に処することができます。

●死刑に関する規定
刑罰について定めているのは、刑法の総則部分の第3章で、第48条~51条が死刑について規定しています。
第48条1項は、「死刑は犯行が極めて重い犯人のみに適用される」として、死刑の適用条件を明確化しています。ここでいう極めて重い犯行に関して、下記の文献②は「一般的に国家・社会・人民の利益に対する危害が特に重大であり、その情状が特に劣悪である犯罪をいう。」と説明しています(542頁)。
また同条2項では、死刑の執行にあたっては、最高人民法院の許可を得なくてはならないと定めています。中国の刑事訴訟法は、死刑判決が確定した後、さらに死刑再審査手続を経なければ効力が生じないと定めています。

●執行猶予付き死刑
48条はまた、直ちに死刑を執行しなければならないものでない場合は、死刑の言い渡しと同時に2年間の死刑執行猶予を宣告することができるとして、執行猶予付き死刑の制度を定めています。
執行猶予付き死刑は中国の刑事司法に特有の制度で、猶予期間中に故意による犯罪を犯さない限り、2年の執行猶予期間を満了した後、無期懲役に減刑し、さらに功績のあった場合には、15年以上20年以下の有期懲役に減刑する(50条)というものです。猶予期間中に故意による犯罪を犯したことが確かめられた場合には、最高人民法院が許可して死刑が執行されます。

[参照]
法律の条文などは、基本的に下記①の翻訳文によりました。また、条文の解釈は、下記の各文献を参照しています。
①野村稔、張凌『注解 中華人民共和国新刑法』早稲田大学比較法研究所叢書、成文堂(2002)
②長井圓編訳『中国刑法教科書(総論・第6版)』八千代出版(2002)
③長井圓編訳『中国刑法教科書(各論・第6版)』八千代出版(2003)

****
この記事は5月3日付で一度掲載したものの、全面改訂版です。
その後、関係文献を入手して、なんとか必要な箇所を読みました。まだ、中国の刑法の全体像を理解したとはいえない状況ですが、何とか該当部分だけは理解できたと思います。
これは、あくまでも私の学習ノートで、文献を読みながら、つなぎ合わせた程度の資料です。今後も、私の理解が進むにつれて、書き加えたり、訂正したりするつもりです。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 14

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた
面白い 面白い
ナイス ナイス

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック