ATSのマーケット|世界薬物報告書2010を読む3

国連薬物犯罪事務所(UNODC)が『世界薬物報告書2010 The World Drug Report 2010』を発表しました。この報告書を読みながら、いま世界が抱えている薬物問題について、考えてみましょう。今回取り上げるのは、同書の第1章「国際的な薬物市場の分析」の第4節「世界のATS市場」95~118頁の部分です。
[参照]
UNODC‘World Drug Report 2010’
http://www.unodc.org/unodc/en/data-and-analysis/WDR-2010.html

●ATSとは何か
アンフェタミン型興奮剤(Amphetamine-type stimulants:ATS)とは、アンフェタミンに類似した化学構造をもち、中枢神経興奮作用のある合成薬物を指す名称です。
ATSには大別して2つのグループがあり、1つめのアンフェタミン・グループには、アンフェタミン、メタンフェタミン、メトカチノンなどが含まれます。わが国で流通している覚せい剤は結晶状のメタンフェタミンで、アンフェタミンは主にヨーロッパを中心に出回っています。昨年末からヨーロッパを中心に問題を起こしているメフェドロン(メトカチノンに似た合成薬物)もこのグループに含まれます。
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↑アンフェタミン
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↑メタンフェタミン
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↑メトカチノン
2つ目はエクスタシー・グループで、MDMAとその仲間のMDA、MDEAのほか、それぞれの類似薬物(アナログ)として多数の合成薬物があり(たとえば合成麻薬のメチロンはMDMAのアナログ)、主に錠剤型ドラッグの成分として出回っています。
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↑MDMA
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↑メチロン

●世界に拡大するATS市場
欧米の薬物市場ではヘロインやコカインなど中心的な位置を占めてきた薬物の使用が固定化する傾向が見られるのに対し、ATSの需要と供給は拡大し続けています。今年の報告書は、ヘロインやコカインからATSへの移行が、世界の薬物市場で起きているという見解を示しているのです。
「2009年における世界のATS使用者総数は、アンフェタミン・グループでは1400万から5300万人、エクスタシー・グループでは1000万から2600万人と推定されるが、この数字はヘロインなどのオピエートとコカインの使用者の合計を上回ろうとしている。(100ページ)」
従来は、メタンフェタミンは東南アジア~東アジアで広まり、アンフェタミンはヨーロッパを中心に使われてきました。ところが、近年ではこうした地域的な特性が薄れ、ATSは世界中で製造され、消費されるようになっていると、報告書はいいます。ATS製造で目を引くのは東南アジアから東アジア地域で、従前はメタンフェタミン中心でしたが、近年ではエクスタシー製造もみられます。北米3か国ではメタンフェタミン、エクスタシーともに製造されています。ヨーロッパではアンフェタミンとエクスタシーが中心だが、メタンフェタミン製造も増加しています。オセアニアはメタンフェタミンが多く、少量のアンフェタミンとエクスタシー製造も認めら、アフリカの南部地域ではメタンフェタミンとメトカチノンの製造が行われています。

●ATS市場の特性
コカインやけしの栽培と、ATSの製造は大きく条件が異なっていると、報告書はいいます。コカインは南米アンデス地域で栽培されたコカ葉が原料で、世界に出回るヘロインの原料のほとんどはアフガニスタンで栽培されています。限られた生産地で生み出される薬物が、世界中に出回っているわけです。
これに対して、合成薬物であるATSは、地理的な条件に左右されず、どこでも製造が可能なため、基本的に消費地域の近傍で製造される傾向があります。しかも、合成に用いられる原料(前駆物質)のなかには、比較的入手しやすいものもあるのです。「ATSは、ユーザーにとっても、また製造する犯罪組織にとっても魅力的であったことから、その使用が拡大した。(95ページ)」と報告書は指摘します。
「ATSは、少額の初期投資で高率の収益を得ることができ、リスクが少ないことから人気があった。コカ葉やけしの栽培とは異なり、ATSの製造は地理的条件に左右されることがなく、リスクが高くなれば密造所をどこにでも移動することができる。また、多様なスタート物質(前駆物質)を用いて、多様な手法で合成しうる点も特徴である。従来の前駆物質が入手できなくなれば、インターネット上の情報から代替品をすぐに見つけることができる。まだ国際的な規制が及んでいない新型の合成興奮剤も、すばやく市場に投入することができる。(95ページ)」
近年の脱法ドラッグでは、まさにこうした現象が繰り返されています。たとえばメフェドロンのケースでは、ある日市場に現れた新タイプのATSがたちまちヨーロッパに広まり、多くの事故を引き起こしました。そして、各国で規制が導入されると、化学構造が少しだけ異なる新規物質に成分を切り替えて、瞬く間に新バージョンが供給され始めています。
ATS対策の決め手は、原料(前駆物資)の規制にあるといわれますが、実は、上記の引用部分にもあるように、異なる原料を用いた合成方法がいくとおりもあり、代替品を見つけることも可能だといいます。また、原料(前駆物質)の規制が、国によってばらつきがあり、必ずしも徹底していないことも悩みのひとつです。
かくして、ATSは今や薬物犯罪組織にとって「魅了的な商売」になり、世界は拡大するATSの脅威にさらされているというわけです。

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