薬物マーケットの構造変化|世界薬物報告書2010を読む1

6月23日、国連薬物犯罪事務所(UNODC)が『世界薬物報告書2010 The World Drug Report 2010』を発表しました。この報告書を読みながら、いま世界が抱えている薬物問題について、考えてみましょう。

この1年、世界からもたらされた薬物関連の情報には、きわめて重大なニュースが多数含まれていました。西アフリカで台頭する薬物犯罪組織の活動、メキシコでは薬物関連の暴力事件の連鎖、中南米の大西洋沿岸地域の治安悪化・・・これらはすべて、南米が産出するコカインとその消費地をめぐる争奪戦の結果として起きていることです。
また、アフガニスタンのけし栽培の変化と、中東地域の不安定化。東南アジアや中国での合成薬物問題。そのいっぽう、アメリカでは大麻合法化問題が話題を集め、医療用大麻をめぐる議論が活発化しています。世界の薬物問題は、いま、構造的な変化を迎えようとしているようです。
『世界薬物報告書2010』は、薬物マーケットの変化に注目しています。これまで世界の薬物問題は、南米で生産されるコカインと中東やアジアで生産されるあへんから生み出されるヘロインなどのオピオイドに集約されると考えられてきました。その生産・消費に構造的な変化が生じているというのです。

●ヘロイン生産量の減少
同書によれば、ヘロインの世界総市場は米ドル換算で約550億ドルと推定されます。主な消費地域はアフガニスタン、ロシア、イラン、および西ヨーロッパに集中しており、これら地域を合わせて、世界で生産されるヘロインのおよそ半量を消費しています。
生産は、アフガニスタンが総供給量の90%を占め、ミャンマーでも多量のあへんが生産されていますが、2009年では、アフガニスタン及びミャンマー両地域でのあへん生産が減少していると報告されています。その背景にあるのが、供給過剰。いわゆる先進国では薬物消費の伸びが止まり、ヘロインの需要は固定化しています。それに反して、アフガニスタンの政情不安からけし栽培が増加し、ここ数年来、世界のヘロインは供給過剰になっており、価格の低迷が続いていました。
過去2年間で、世界のあへん生産(けし栽培)地域は23%減少したといいます。さらに、アフガニスタンでけしの黒穂病が発生していることから、2010年の生産も大幅な減少になると予測されています。

●コカイン市場の変化
長年、コカインの主要な消費地域だったアメリカ合衆国で、その消費が顕著に減少しています。しかし、この減少が、一面では新たな問題を引き起こしていると、同書は示唆します。
まず、メキシコで続いている薬物カルテルの抗争。UNODCのコスタ事務局長は、報道発表で「メキシコで薬物に関連した暴力が起きている原因のひとつは、カルテルが先細りの市場を奪い合っていることにある」と語ります。アメリカにとっては、カルテル間の抗争は、コカインの供給量の減少と価格高騰、純度の低下などをもたらし、コカイン市場をさらに追い込むことになるでしょう。しかし、そのいっぽうで、薬物組織はヨーロッパに新たなコカイン販路を求めており、2008年までには、ヨーロッパ市場(340億USドル)は北米の市場(370億USドル)に匹敵する規模にまで拡大したといいます。
その影響を受けているのが、新たなコカインルートとなった新興国です。大西洋ルートの拠点となる中米地域では極端に治安が悪化し、西アフリカでは薬物犯罪組織が肥大するという動きが生まれ、新興国をめぐる情勢を不安定にさせています。「ヨーロッパのコカイン吸引者が、アンデス諸国の原生林を枯らし、西アフリカ諸国の政府を腐敗させている」とコスタ事務局長はいいます。

●拡大する合成麻薬問題
長期的にみれば、ヘロインやコカインの問題は、すでに終焉に向かう最終段階に差し掛かっているようです。ところが、その隙間を埋めるかのように浮上してきたのが、アンフェタミン系興奮剤(amphetamine-type stimulants :ATS)。わが国で出回っている覚せい剤(メタンフェタミン)など、中枢神経興奮作用をもつ合成薬物の数々の流通が急速に増加しているのです。近年問題になっているのは、メタンフェタミン、ケタミン、BZPなどのピペラジン類、メフェドロンなどです。
ATS使用者数は世界で3000から4000万人と推定されており、間もなく、オピエートとコカインに使用者総数を超えるだろうと同書は指摘しています。「コカインやヘロインによる依存をそのまま他の依存性薬物に置き換えるだけでは、われわれは世界の薬物問題を解決することはできないだろう。合成麻薬は無限にあり、マフィアの密造所で低廉なコストで生産されている。」とコスタ事務局長は警告しています。
ATSの主要生産地や主要消費地は東南アジアから東アジアにも広がっていて、われわれ日本人にも関係の深い問題なので、この点については次回でさらに読んでいきます。

[参照]
UNODC‘World Drug Report 2010’
http://www.unodc.org/unodc/en/data-and-analysis/WDR-2010.html

報道発表■UNODCの『世界薬物報告書2010』は新型薬物、新マーケットへの変化を示している
UNODC>PRESS RELEASE>UNODC World Drug Report 2010 Shows Shift Towards New Drugs and New Markets
http://www.unodc.org/unodc/en/press/releases/June/unodc-world-drug-report-2010-shows-shift-towards-new-drugs-and-new-markets.html?fp=pr1

●日本での報道
折から、私はちょうど出張していて、今日、数日ぶりでUNODCのサイトを開いたところです。この報告書を読み始めたばかりなので、とりあえず、日本語ニュースの報道も紹介しておきましょう。


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