シンガポール続|薬物密輸と死刑の問題8

国際ハームリダクション協会The International Harm Reduction Association(IHRA)が最近発表した『薬物犯罪に対する死刑:2010世界の概観 The Death Penalty for Drug Offences:Global Overview 2010』を読みながら、薬物犯罪と死刑の問題を考えています。
[出典]
Patrick Gallahue and Rick Lines‘The Death Penalty for Drug Offences:Global Overview 2010’(2010) International Harm Reduction Association
http://www.ihra.net/Assets/2538/1/IHRA_DeathPenaltyReport2010.pdf

●薬物犯罪に対する死刑執行は減少している
シンガポール政府は、死刑執行の状況を明らかにしていません。もっとも、これはシンガポールに限ったことでなく、死刑関与の高い国のほとんどが刑事司法に関する実態を公表せず、とくに死刑執行の状況は国際社会に開示されていません。
2004年に、シンガポール政府は、同国での死刑執行状況の一部を発表しましたが、1999年から2003年の間に死刑が執行されたのは138人、そのうち薬物犯罪によるものが110人でした。単純にこの数字をみると、それほど多くないように思われますが、人口わずか400万人ほどの都市国家であることを考えると、この数はやはり異様です。
しかし、その後、この国では死刑執行が急速に減少しているようです。『薬物犯罪に対する死刑:2010世界の概観』はシンガポールを薬物犯罪に対して死刑関与の高い国に分類していますが、「近年では、シンガポールの死刑執行率は劇的に低下していと思われる。事実上、シンガポールは、本報告書における『死刑関与の低い国』に属しているといってよい。とはいえ、この国の政府が、毎年の死刑執行数を公表するまでは、こうした変化が生じていると確認することは不可能である(27頁)。」としています。
2007年には少なくとも2名のナイジェリア人に対して執行が行われたと伝えられ、他にも数名に対する執行がおこなわれた可能性があります。

●国際世論とシンガポール
シンガポールは、長年「死刑大国」といわれ、国際世論に批判されてきました。本書は、国際世論がこの国の死刑執行に向けて発してきた抗議や批判と、これに対するシンガポール政府の反論についても触れています。本書28頁から、シンガポールの反論部分を引用します。
「2009年3月の国連人権委員会で代表団に配布された声明文で、シンガポール政府は、『拷問及び残酷、非人道的、屈辱的な処遇あるいは刑罰に関する国連特別報告書』の批判に応えて、薬物犯罪に対する死刑の適用を強く擁護した。
『国家は、薬物関連犯罪に対して死刑の適用を控えるべきであるという見解に、われわれは強く反対する。死刑は、主要な薬物犯罪組織がシンガポールに拠点を設立することを妨げ、他国では階層化され組織化された薬物シンジケートが存在しているのに対して、国内では組織犯罪に関連した組織的な活動が見られない。国連薬物犯罪事務所(UNODC)が発表する2008年世界薬物報告書によれば、シンガポールは薬物乱用のもっとも低い国のひとつである。』(28頁)」

あれ、この論調、聞き覚えがあるような気がします。「死刑」を「末端乱用者の徹底検挙」に置き換えると、そのまま、わが国の薬物政策に関する声明になるではありませんか。うーん、日本の薬物政策って、シンガポールに似ているのかな・・・と私はいくらか複雑な思いでこの報告書を読んでいます。
ともあれ、シンガポールの場合は、アムネスティ・インターナショナルや欧州評議会、国連人権委員会と、次々と国際世論の波状攻撃にさらされ、国内での批判も高まり、近年になって急速に死刑執行が減ってきているようです。日本も国際世論にさらされたら、少しは変化するのでしょうか。

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