戦前のけし栽培|植えてよいけし、悪いけし7

●第一次大戦時のモルヒネ輸入途絶
明治末ころには、年産10キログラムを割り込むところまで落ち込んだ国内産あへんの生産が、ふたたび脚光を浴びるようになったのは、大正3年からです。
第一次世界大戦が始まった1914(大正3)年、日独開戦によってドイツからの輸入が途絶し、薬品、化学品の多くが影響を受けました。なかでもモルヒネ、コデインなどあへんアルカロイド系薬品の価格高騰が目立ち、当時の新聞は、100%から200%の値上がりをきたしたものがあると報じています。当時、軍の活動が活発化するとともに、麻酔薬や痛み止めとしてモルヒネは欠かせない薬品になっていきますが、日本は、医療に用いられるモルヒネのほとんどをドイツからの輸入に頼っていたので、輸入途絶の影響は大きく、英国製品に切り替えた輸入が安定するまで、モルヒネ不足は続きました。
この経験が、あへんとモルヒネの自給自足化を促し、その後、日中戦争期にわが国が国際社会から孤立するとともに、けし栽培がいっそう奨励されることとなります。ただし、政府によるあへんの買い上げは、あいかわらず紆余曲折を繰り返していたようです。

●第二次大戦と国内でのけし栽培奨励
前回紹介した資料の②は、昭和18年のもので、第二次大戦も末期に入って外国からの輸入が困難になったわが国が、軍需物資として不可欠のあへんを安定的に確保するために、けし栽培を奨励した時期の状況を知ることができます。なお、この資料は、みすず書房『続・現代史資料12 阿片問題』に掲載されたものを参照しています。
資料は、薬用阿片政策の流れを概観して次のようにいいます。「第一次大戦の苦い経験から、政府は自給自足を目指して奨励策をとり、昭和3年には内地栽培面積が1千町歩を超え、あへんの買い上げ額が専売予算を超過しそうになったので、昭和4年秋から栽培面積を制限し、かつ麦の価格とにらみ合わせて収買価格を引き下げたため、再び減産に転じた。しかし、日中戦線の展開による輸入難、軍需の激増により、需給関係を是正するため、政府は増産計画を各地に施行し、収買価格の引き上げ、種子の無料配布などにおおわらわとなっている(概要)。」
生産されたあへんの買い上げ方法は、この時期にも変更されています。資料によれば、収買価格は、昭和17年4月からは、あへん1キログラム中のモルヒネ1パーセントにつき5円となっています。
この時期に、あへんの産地として躍進したのが和歌山県です。昭和3年の実績では、和歌山県と大阪府で国内生産量の98パーセントを占めるほどでした。従来優良産地であった三重県は、ベスト10から姿を消しています。けしは、麦と並んで、農閑期の裏作として栽培されることが多い作物ですが、当時は麦価格の低迷によってけし栽培に転向する農家が多かったといいます。昭和10年の国内あへん生産量は18,618kg、その後も増産が図られ、同17年秋の作付け面積は、昭和10年ころの約2倍に達していると報告されています。

●買い上げ価格はなぜ安定しないのか
明治11年に専売制度を敷いて以来、国内で産出するあへんは政府が全量を買い上げ、他に販売することが禁じられてきました。ところが、政府は買い上げ条件をたびたび変更し、時には、買い上げを減らす策を採用してきたため、けしの栽培は増減を繰り返してきました。
この不安定さは、当時から指摘されていたようです。というのも、資料の第5節は「本邦における阿片特殊生産条件」として、次のように説明しています。「従来、輸入あへんの価格は国内あへんの2分の1から3分の1であり、経済上は輸入あへんに依存したほうが有利だが、第一次大戦時の苦い経験もあり、ある程度の需給自足化も完成しておく必要がある。これこそ、本邦けし栽培の盛衰が国際関係と密接な関係を有している所以であり、また政府が収買価格を上下させる主な理由である。」
しかし、こうした不安定さは、本質的に、栽培農家に大きな負担を強いるものではないと、著者は力説します。その根拠は、まず、けし栽培は農家の副業として行われており、平均的に栽培規模が小さいため、農家が被る損害はさして大きなものではないこと。またけしは1年草であり、その栽培が不利になればすぐに他の作物に切り替えできるので、損失が拡大することはないというのです。つまり「結局、罌栗栽培は全く政府の政策により左右されるという不安定な生産条件の下にあるが、前述の事情によりその不安定性は近来は大分緩和されている次第である。」というのが、著者がだした結論です。
さて、この不安定さは、現在では解消されているのでしょうか。続きは次回へ。

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