2009年の薬物情勢4|警察庁の資料から

警察庁が毎年発表している薬物・銃器情勢の平成21年版が、発表されたので、これに基づいて2009年の薬物犯罪の状況を整理しておきましょう。
[参照]
警察庁刑事局組織犯罪対策部薬物銃器対策課編『平成2 1年中の薬物・銃器情勢 暫定値』
http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/yakubutujyuki/yakujyuu/h21_jyousei_yakuzyuu_zantei.pdf

●薬物使用と他の犯罪との関係
毎年の薬物・銃器情勢には、「薬物常用者による犯罪及び薬物に起因する事故」という項目があります(平成21年版では、23~24ページ)。
本書の説明によると、ここでいう「薬物常用者」とは、「覚せい剤常用者、麻薬常用者、大麻常用者、その他の薬物常用者及び有機溶剤等乱用者をいい、中毒症状にあるか否かを問わない。」と説明されています。
ところが、ここで集計されている数字を、薬物の作用を受けて幻覚・妄想状態になった人が起こした事件や事故、と受け取ってしまい、薬物を使って起こした凶悪な事件がこんなにあると、思い込んでしまう方がけっこう多いようです。この項目は、統計の意味をしっかり把握して読まないと、とんでもない早合点になってしまいやすいのです。グラフの魔法に引き続き、今回は統計のマジックといったところでしょうか。

●薬物常用者による犯罪
少し古い資料ですが、2種類の統計表を載せます。まず、薬物・銃器情勢の平成17年版に掲載された「薬物常用者による刑法犯及び特別法犯検挙人員の推移」という表です。これは、平成21年版にも同じ項目の表が掲載されていますが、後述する犯罪白書のデータと対比するために、あえて平成17年版のものを取り出しました。
ここで集計されているのは、覚せい剤、麻薬、大麻、その他の薬物常用者及び有機溶剤等乱用者の起こした犯罪で、中毒症状にあるか否かを問わないものです。実は、ここでいう「常用者」とは具体的に何を基準にしているのかが明示されておらず、同時に薬物犯罪がある人と薬物前科のある人の合計値なのかなと思いながら、それ以上追及していないのですが、犯行時に薬物を使用していた者だけではない、もっと広くとらえた数字であることは確かです。
[出典]『平成17年中の薬物・銃器情勢 確定値』
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↑薬物常用者による犯罪 平成17年中の薬物・銃器情勢 42頁より転載
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●薬物使用に起因する犯罪
もうひとつは、『平成16年版犯罪白書』からの引用で、「覚せい剤に起因する犯罪の罪名別検挙人員」という表です。犯罪白書が、この項目のデータを掲載したのは、この年度が最後なので、古い本から取り出しました。実は、薬物・銃器情勢でも古い年度のものは、これと同じような統計表を掲載していたような気がするのですが、最近のものしか保存していないので、犯罪白書のデータを引用したわけです。
これは、覚せい剤の作用を受けている状態で、他の犯罪を起こした人数です。たとえば、傷害事件の現行犯を逮捕したところ、顔つきや言動などから覚せい剤使用の疑いがあり、尿を検査したら覚せい剤が検出された、といったケースです。犯行時に覚せい剤を使用しており、覚せい剤による作用を受けていたことが、他の犯罪に何らかの影響を及ぼしていることは明らかです。
しかし、覚せい剤の作用が、直接的に犯罪の誘引になったかどうかは、はっきりしません。また、犯行時に、必ずしも幻覚・妄想に支配されるような状態だったとは限りません。
[出典』平成16年版犯罪白書 39頁
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↑覚せい剤に起因する犯罪 平成16年版犯罪白書 39頁より転載
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●ふたつのデータの違い
ふたつの表で同じ年度の数字を見比べると、かなり違っていることに気づかれるでしょう。たとえば、平成15年の殺人の項をみてください。[薬物常用者]で殺人事件を起こしたのは19人、[覚せい剤の影響を受けている状態]で殺人事件を起こしたのは4人。さらに人数の多い窃盗では、[薬物常用者]の窃盗犯は526人、これに対して[覚せい剤の影響を受けている状態]の窃盗犯は9人。
なお、上の薬物・銃器情勢のデータは各種薬物の常用者で、犯罪白書のデータは覚せい剤に限定しているので、対象者の数も違いますが、覚せい剤事犯者の数の多さを考えると、この点はあまり影響していないと思います。

●幻覚・妄想下での犯罪
ところで、ここで示した2種類のデータは、いずれも薬物使用と犯罪との関係を示すものですが、いずれも、薬物使用によって幻覚・妄想状態になって起こした犯罪とはかぎりません。
実は、薬物の作用を受けて幻覚・妄想などの状態になって引き起こす事件や事故は、ごく限られているのです。
犯罪統計の範疇で、こうした事件を拾い出すには、犯行時に心身喪失や心神耗弱の疑いがあった者の数をみることになります。これは、簡易精神鑑定で診断されるのですが、平成15年に、犯行時に覚せい剤中毒であったと診断された人数は、すべての犯罪を合わせて19人(平成18年版犯罪白書)。行われた犯罪の種類は多様です。

薬物乱用は犯罪につながりやすいとよくいわれます。実際、薬物乱用が凶悪な犯罪を誘発すると考えておられる方が多いようですが、さて、イメージしているのはどの数字なのでしょうか。

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