弁護士小森榮の薬物問題ノート

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zoom RSS 覚せい剤の落し物、忘れ物2

<<   作成日時 : 2010/02/06 01:19   >>

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他人に拾われ、落し物として届け出られたカバンなどの中に入っていた覚せい剤について、続けます。
刑事裁判で、ひとたび持ち主の手を離れた覚せい剤について、その持ち主がこれを所持していたと認定するには、ちょっとした問題があります。つまり、持ち主の手元から離れたことで、持ち主の所持(管理とか実力的支配とかいわれます)の及ばない状態にあったのではないか、ということです。
さらに、そもそも、発見された覚せい剤は、持ち主がカバンなどを落とした後に、それを拾った持ち主以外の第三者がその中にいれたものである可能性(カバンの持ち主がよく主張することです)も排除しきれない・・・、このような判断がされることもあるからです。
落し物のカバンに入っていた覚せい剤の所持事案、裁判の場では、不確かな要素がわずかでもあると、その立証や認定は複雑な作業になるのです。具体的なケースを上げてみましょう。以下は、私が実際に担当した同種の事案を複数混ぜ合わせた架空のケースです。いずれも、裁判は、カバンの中の覚せい剤はカバンの持ち主が入れたものであるということを認めています。

●持ち主の手を離れても、覚せい剤に対する実力支配関係は及んでいると判断される場合
[ケースA]
平日の午後、私鉄ターミナルの○○駅に到着した電車から降りた車掌は、ホームのベンチにセカンドバッグが置き忘れられているのをみつけ、駅事務室に拾得物として届け出ました。係員が取り扱い規定に沿ってカバンの中を確かめたところ、印鑑や免許証などとともに覚せい剤らしい物を発見したので、すぐに警察に連絡しました。
間もなく、別の駅から連絡があり、乗客がターミナル駅のホームにカバンを置き忘れたと言っていると知らせがあり、やがて事務室に男がやってきて、カバンが届けられていないかと尋ねてきました。係員は、警察に連絡し、男を引きとめようとしたのですが、男はそわそわと落ち着かない様子ですぐに立ち去りました。この男が逮捕されたのは、それから数日後のことです。

A被告人は覚せい剤の所持で起訴されました。その内容は、車掌が拾得物を届け出た日時に○○駅構内で覚せい剤を所持していた、というものです。つまり、この覚せい剤がA被告人の手から離れ、車掌に拾われていた時点で、A被告人がこれを所持していたという内容なのです。
被告人は、かばんは自分が置き忘れた物だが、中の覚せい剤は自分が入れたものではないと主張しましたが、判決は、車掌がカバンを発見した時点においてもこの覚せい剤に対する被告人の実力支配関係は及んでいたとして、この時点でのA被告人の所持を認めました。被告人が置き忘れた後、このカバンは不特定多数の人が出入りする駅のホームに置かれていたが、車掌によって発見されるまでの時間が比較的短時間であり、また被告人がカバンを置き忘れて間もなく、別の駅で問い合わせをし、その後○○駅へカバンを探しに戻っていることなどから総合的に判断した結果であると、判決は言っています。つまり、カバンを落とした後も持ち主の実力的支配は継続していたということです。

●持ち主の手を離れる直前の所持として認定される場合
[ケースB]
郊外の大型ショッピングセンターの駐車場で、車を駐車して買い物に向かおうとした女性客が、清算機の脇にセカンドバッグが落ちているのをみつけ、店のサービスカウンターに届け出ました。
カウンターの女性係員は、規定どおりにチーフを呼び、2人で内容物を確認しようとバッグを開けたところ、封筒に入った注射器がみつかり、バッグの内ポケットからは透明袋に入った粉状のものも出てきました。もしかして覚せい剤ではないかと直感した2人は、それ以上手をふれずに、センター内の事務所に引継ぎ、事務所の保安担当者はすぐに警察に連絡しました。バッグには、印鑑や健康保険証も入っていましたが、財布は空でした。

後日逮捕されたB被告人は、当初、このバッグが発見された日時と場所で、覚せい剤を所持したとして起訴されました。B被告人の場合も、バッグは自分のものだが、覚せい剤や注射器は自分が入れたものではないし、このバッグをいつ紛失したか覚えていないと主張していました。
捜査陣は、バッグの内容物と被告人の行動をつき合わせて捜査を進めましたが、このバッグを被告人が使っていたと立証できない空白の時間が1日ほど残りました。しかも、財布に現金が入っていなかったことから、このバッグが被告人の手を離れた後で、持ち主以外の誰かが、このバッグの内容物に手を触れた可能性があると感じられます。
最終的に判決は、被告人はバッグを紛失する直前の時点で、当時の被告人の行動範囲内のいずれかの場所で覚せい剤を所持したと認定しました。判決の文言は、「○月○日午後○時(被告人が最後にバッグを使ったと立証された時刻)ころから同月○日午後○時○分(拾われたバッグが届け出された時刻)ころまでの間の東京都内またはその周辺で、覚せい剤を所持した」という形です。なお判決は、被告人の覚せい剤所持を認めるに当たって、被告人がこのバッグを紛失してから後、発見されるまでの間に、第三者がバッグの中に覚せい剤を入れた可能性について多角的に検討したうえで、その可能性は極めて低いと結論付けています。

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
いつも興味深く読ませて頂いております。ケースBですが、かなり不確定要素が強いと思いました。一般的に考えると、1日以上不特定多数に触られた可能性もあり、しかも財布はあり現金はない。普通に考えたら誰かが持ち去った可能性はかなら高いと思われます。そのような状況があるのならば、誰かが入れた可能性は0ではないと思われます。結局、『覚醒剤を他人のバックに入れる人はいない』という考えが優先されるのですか[
たかあき
2010/02/06 07:28
被害者がいない犯罪なんてそんなものかも・・・・・
その割におまわりの点数が高いんだよね。
生活安全課は血眼になって拳銃を捜していればいいんだ。
シンジケート
2010/02/06 08:03
小森先生
いつも興味深くブログ拝見させていただいております。

上のチャンドラさんは本人ではありませんので
お手数ですがコメントの削除をお願いいたします。
チャンドラ(本物)
2010/02/10 13:33

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