2009年の薬物情勢3|警察庁の資料から

警察庁が毎年発表している薬物・銃器情勢の平成21年版が、発表されたので、これに基づいて2009年の薬物犯罪の状況を整理しておきましょう。
[参照]
警察庁刑事局組織犯罪対策部薬物銃器対策課編『平成2 1年中の薬物・銃器情勢 暫定値』
http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/yakubutujyuki/yakujyuu/h21_jyousei_yakuzyuu_zantei.pdf

●薬物の需給は変化しているのか
まず、覚せい剤について。減少しているとはいえ、2009年も薬物事犯検挙者の8割弱(78.7%)を覚せい剤事犯が占めていることから、依然として、覚せい剤に対する需要は根強く、この10年近く末端での密売価格も高値で推移し続けていることに照らせば、覚せい剤の品不足状態が続いていることがうかがえます。
本書は、2009年の覚せい剤の流通状況について、
・密輸入事犯の検挙件数が増加している
・末端密売価格がやや値下がりを示している(1g換算で9万円程度)
などから、覚せい剤の供給が安定化してきていると分析しています(5頁)。

●薬物の押収量は全体に減っている
覚せい剤の押収量は、3年連続で比較的高い水準になっていますが、末端での密売価格がそれほど下がっていません。下の表に含まれていない平成15年ころには年間の押収量が400キログラム程度だったことを考えれば、やはり品薄状態が続いているのでしょうか。
あるいは、密輸の形態が変化して、1人あたりの密輸量が少量化していることから、密輸のコストがかさんで、覚せい剤の末端価格を押し上げているのかもしれません。

画像

↑薬物種類別押収量 クリックで表が拡大します
『平成2 1年中の薬物・銃器情勢 暫定値』19頁より転載

大麻に関しては、今回から「大麻草」の押収量が表示されるようになりました。栽培事案などで全草が押収されたものは本数で、また本数で数えられないものは重量(㎏)で表示したと注釈されています(19頁)。
近年、大麻樹脂の押収量が減少しているのは、ヨーロッパで観察されている需給マーケットの変化と共通の現象がわが国でも起きていると考えられます。かつて、高濃度のTHCを含む大麻として需要が高かった大麻樹脂ですが、高THCを含む改良品種の種子が出回り、また栽培方法の改革でシンセミアなど高THCを含有する乾燥大麻が出回るようになって、国内産の乾燥大麻の流通量が増加して、大麻樹脂の需要が縮小しているのです。大麻樹脂の世界最大の供給地だったモロッコで大麻栽培の取り締まりが強化されたことも、供給量の減少につながりました。
とはいえ、2009年の統計では、乾燥大麻の押収も大幅に減少しています。本書では、栽培事犯が増加し、そのいっぽうで大麻密輸事犯が減少傾向にあることから、「海外からの密輸入との比較において、国内での大麻生産の比重が増加しつつある状況がうかがえる(8頁)。」と分析していますが、この判断には同意しかねます。欧米の統計をみれば、大麻の需要拡大時期には、外国産の大麻輸入量は依然として高水準を維持しながら、国内産大麻の押収も増加する傾向がみられるからです。需要が拡大しているにもかかわらず、押収量が減少したのは、むしろ輸入のルートや手口が変化したことによると考えるべきではないでしょうか。

●薬物密売マーケットの分析をぜひ
わが国の薬物統計は、犯罪者の検挙情報と、薬物の押収が基本になっています。毎年、かなり精密なデータが発表されるので、密売市場の趨勢もある程度分析することが可能ですが、もうひとつ、重要な要素が欠けています。
それは、密売市場の分析です。たとえば、押収された薬物の成分、純度、価格などの情報によって、市場の需給状況はもっと具体的に把握できます。覚せい剤の場合、急速な品薄が発生すると、密売されるパケ(透明袋)1袋あたりのグラム数が減り、しかも覚せい剤原料などの混和がみられることは、過去にも観察されています。
また、大麻の場合は、密売される乾燥大麻の内容(葉が中心か花穂が中心か)、THC含有を測定することで、産地や輸入ルートもある程度推定可能です。
薬物犯罪が減少している今なら、こうした取り組みも可能なのではないでしょうか。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 5

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック