シンナー乱用期の終焉に向かって|少年非行等の概要その3

日本の若者の薬物乱用が変化していることをもっともストレートに示すのが、シンナー乱用に関するデータです。前回も述べたように、日本の薬物乱用は第二次大戦後からずっと、覚せい剤をけん引役として展開し、覚せい剤に手の届かない年少の少年たちにとっては、シンナーが最初の薬物として定着していました。
シンナー等有機溶剤の乱用は、昭和50年代後半がピークといわれ、検挙・補導人員は昭和55年に3万人を超え、60年まで3万人以上という状態が続きましたが、何よりの特徴は、そのほとんどを少年が占めていたことです。
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↑毒劇法違反 送致人員の推移(平成21年版犯罪白書113頁より)

●ピーク時のシンナー乱用
<昭和60年版犯罪白書より>
「我が国においては,昭和35年ころから青少年による睡眠薬の濫用が増加した。これに対して38年に規制が強化されたため,睡眠薬に代わって40年代初めころからシンナー等の有機溶剤が濫用されるようになった。……そこで,47年に,毒物及び劇物取締法が改正され,それまでに直接的な法規制の対象とならなかった「酢酸エチル,トルエン又はメタノールを含むシンナー及び接着剤」の濫用行為,知情販売行為等が,新たに法規制の対象とされることとなった。……少年の検挙・補導人員は,48年にはいったん減少したあと,再び増加傾向を示して,58年には5万1,383人(後期の註を参照)と最高の数に達した……。
有機溶剤は,日常生活の中で容易に入手できるため,青少年によって濫用されやすく,かつ,その激用は,成長期にある青少年の心身の健康を害するだけでなく,毎年多数の死亡者を出すなど極めて危険であり,昭和59年においても,濫用による少年の死亡及び自殺者の合計は32人と,前年に比べて4人増加している(警察庁保安部の資料による。)。また,シンナー等有機溶剤の濫用は,他の犯罪や非行を誘発する原因ともなっており,さらに,覚せい剤使用へ移行する者も見られる。」
[出典]昭和60年版犯罪白書 第1編/第2章/第3節/4

[註]当時の犯罪統計は毒劇法違反少年の人員を現在とは違う区分で集計していたため、その後の統計とは連続していません。現在では、特別法に関しては「送致人員」で集計されています。上の犯罪白書では、昭和58年ではシンナー乱用少年の検挙・補導人員が51,383人となっていますが、これを「送致人員」に置きなおすと29254人、同年の成人・少年を含めた送致人員は35,780人です。

●減少し始めたのは平成初頭ころから
昭和60年ころから減少し始めたシンナー乱用は、その後平成4年ころから急速な減少を示し始めます。実は、この減少の背景は私にはよくわかっていません。私が薬物問題に集中的に取り組み始めたのは平成7年ころからであり、すでにシンナーは大幅に減少した後で、この変化を十分に観察していないのです。
統計などから推測できるのは、シンナーの減少した時期は、都市部で外国人薬物密売人が目立つようになり、日本の薬物市場に大量の覚せい剤や、チョコと呼ばれる大麻樹脂が供給され始めた時期とほぼ重なるように思われますが、この点はもう少し調べてみないと明言できません。
背景はともかく、平成の初頭ころから、シンナー乱用は目に見えて減少し、今も引き続き減少を続けています。

●少年と成人の比率が逆転した
さて、ここからは現在の状況です。参照するのは、警察庁生活安全局少年課『少年非行等の概要(平成21年1~12月)』。
かつて少年の薬物乱用の中心的な課題だったシンナー乱用に関する分析は、この資料でも、大きく扱われてはいません。送致人員からいえば、覚せい剤や大麻よりはるかに多くの人数がシンナーで送致されていますが、近年の減少傾向からみて、すでに問題は終焉に向かっているという共通の理解がされているようです。

下のグラフは、『少年非行等の概要』の28ページ、「シンナー等乱用少年の男女別送致人員」のデータに基づいて、私が数字を抽出し、作成したものです。対比している成人の検挙人員は、警察庁の『薬物・銃器情勢』に掲載されたデータを数年分つなぎ合わせたものです。
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↑シンナー事犯送致人員・成人・少年別

昭和50年代からずっと、シンナー等乱用の中心は少年で、総数の70~80%程度を少年が占めてきました。それが、平成18年から逆転して、現在では成人のほうが多くなっています。対比する成人のデータがまだ発表されていないので、上のグラフには表示していませんが、平成21年のシンナー等乱用少年の送致人員は、385人とさらに減少しています。

グラフで示したように、成人と比較して、少年のほうが急激な減少をみせています。シンナー乱用を新たに始める少年が減ったにもかかわらず、成人した後も乱用から離れることができなかった依存者が、少数ですが、今もシンナーを乱用し続けているため、成人の乱用人口は一定数で下げ止まり、そのまま高年齢化しつつあるのです。

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