忘れていた大麻の所持|薬物事件の裁判

京都地裁で、元競馬騎手の大麻所持事件の判決が言い渡されたとニュースが報じています。少量の大麻の譲り受けと所持の事件ですが、所持したとされる大麻について、弁護人は「保管していたことを忘れており、故意を欠く」と主張していたが、判決はこの主張を退けて所持罪の成立を認めたと伝えられています。
<ニュースから>
●大麻所持の元騎手に有罪判決
大麻取締法違反に問われた日本中央競馬会の元騎手の判決が12日、京都地裁であり、裁判官は「著名な功績を残した被告の犯行で社会的影響は無視できないが、反省している」として懲役10月、執行猶予4年(求刑・懲役10月)の有罪判決を言い渡した。
判決によると被告は昨年6月12日、京都市内で、知人の男から大麻草約0・2グラムを無償で譲り受け、10月14日、自宅で大麻草約0・3グラムを所持した。
弁護側は公判で、所持について「保管していたことを忘れており、故意を欠く」として無罪を主張したが、判決は「所持を失念しているだけでは、故意は否定されない」とした。
判決言い渡し後、裁判官は、被告が過去に薬物事件などで有罪判決を受けていることに触れ、「3度目はないとしっかり自覚して生活してください」と説諭した。
1月12日19時53分配信 読売新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100112-00001269-yom-soci

実際の事件では、こうした主張によく出会います。自宅の捜索で発見された少量の薬物に関して、本人が「以前の使い残りで、そのまま忘れていた」「使う気のない残りカスだ」「誰かが置き忘れたもので、自分のものではない」などと言うことは、それほど珍しいことではありません。
埃まみれになって引き出しの奥に張り付いていた、空き袋に少量の薬物がこびりついていた、敷物の下に隠れていた・・・このような状況で発見された物や、ごくわずかな内容物、いかにも古く変色したような物など、たしかに、本人はこれを薬物として使うつもりで保管していたのではなく、忘れていたのだろうと思える場合もあります。もちろん、かなりの量の薬物が発見された場合にも、当事者が「忘れていた」などと主張することもありますが。
ちなみに、上記の裁判の例では、「忘れていた」と主張した大麻の量は0・3グラム、比較的少量ですが、決して「微量」とは言えません。紙巻の大麻タバコ(ジョイント)1本はだいたい0・5から0・7グラム程度。0・3グラムあれば、じゅうぶんに喫煙することができる量です。

ところで、「忘れていた」薬物について、所持の罪は成立するのでしょうか。ひとたび自分の意思で所持を開始した後、当人が所持していることを忘れてしまった場合にも、裁判例は一貫して、その所持が続いていると認めています。

東京高等裁判所昭和50年9月23日判決(昭和50年(う)第861号)は、覚せい剤を保存していることを忘却していた場合でも所持罪は成立する、と判断しています。
自宅の物置から発見された覚せい剤粉末、塩酸モルヒネについて、被告人は「これらの物が余りにも微量のため、ゴミとして将来他のゴミとともに焼き捨てるつもりで物置に放置したもの」だと言い、これらを所持する認識がなかったのだから所持罪は成立しないと主張しました。
これに対して判決は「所持とは、人が物を保管するという実力支配行為をいうのであつて、一旦物を保管する意思でその物に対する実力支配関係が実現する行為をすれば、右関係が維持されているかぎり、所持人が右所持を忘却しても「所持」にあたると解するのが相当である」として、「被告人がその後において本件各物件の所持を忘れていたとしても、所持罪の成立が妨げられるいわれはない。」という判断を示しています。(東京高等裁判所(刑事)判決時報26巻9号160頁)

また、覚せい剤取締法に関する代表的な解説書は、「所持を開始した後これを放棄するなどの行為に出なかった以上、所持を継続する意思があったとみられるのであるから、以後その点に顧慮しなかった結果、所持していることを忘却したとしても・・・・所持の故意があると解してもよいのではあるまいか。」としています。(香城敏麿『覚せい剤取締法・注釈特別刑法5‐Ⅱ第2版』159-160頁、青林書院、1992)

ごく少量の場合や、いかにも古そうなもの、埃まみれで放置されていたものなど、「忘れていた」薬物の所持の判断には微妙な点がつきまといますが、裁判の流れの上では、「忘れていた」という主張は退けられ続けているといえるでしょう。

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この記事へのコメント

野中
2010年01月13日 06:11
あけましておめでとうございます。
大麻政策改正機構(Rivise Cannabis Policy Foundation、略称rcpf)の規約案をとりまとめました。

http://cannabispolicy.org/blog/post.html

ご意見やアドバイスなど頂ければ幸いです。あとは、人事案ですね。小森先生に、顧問に就任して頂いてアドバイスなどいただければ、大変心強いと思います。設立の後には署名運動を展開して、可能な限り速やかに問題の解決を実現したいと考えております。

http://cannabispolicy.org/blog/post.html

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