「やめられない」を越えて|覚せい剤問題の新しい局面

平成21年版犯罪白書の概要が報道発表されたと、ニュースが伝えています。トピックは、再犯率の上昇。覚せい剤事犯者では、検挙者の57%が再犯者で占められたといいます。少し長い記事ですが、産経ニュースから。

<ニュースから>
●【犯罪白書】一般刑法犯と窃盗の再犯者率過去40年で最高 覚醒剤も高水準
法務省は13日、『平成21年版犯罪白書』を公表した。犯罪の5割前後を占める再犯者の防止施策充実を特集。「一般刑法犯」の検挙者34万人のうち、再犯者は14万人で再犯者率42%、窃盗も再犯者7万5000人で43%と、ともに連続した統計のある昭和43年以降で最高だった。覚醒(かくせい)剤事犯者は再犯者6200人で56%だった。
とくに再犯性の高い窃盗と覚醒剤事犯者への特別調査では、居住・就労状況や監督者、保護観察など「人」の果たす再犯の抑止になる効果を強調した。白書は「犯罪者を改善更生させ、社会の構成員に取り込む点からも、再犯防止は国民全体の大きな利益になる」としている。東京、横浜の地・区検が処理し、平成16年に一審で確定した窃盗、覚せい剤取締法の執行猶予者を追跡調査。約1200人(男1000、女200)のうち再犯者は窃盗は男30%、女33%、覚醒剤では男32%、女21%。再犯者の8割が前回と同一罪名で、再犯までの期間は窃盗は1年半以内、覚醒剤は2年以内が過半数だった。
再犯防止・リスク要因として、居住・就労状況別では、窃盗で再犯が多いのは「単身(定住)・不安定就労(アルバイトなど)』で40%、以下、「単身(住居不定)・無職」「単身(定住)・無職」で、最も再犯が少ない「家族と同居・安定就労』では8割以上が再犯に及ばなかった。覚醒剤では居住状況を問わず、「無職」が再犯に及ぶ割合が多かった。
その他の要因では、裁判で釈放後の監督を誓約した親・親族、雇用主ら「監督者」がいた場合、窃盗の再犯は20%、いない場合は40%に、覚醒剤では25%と50%に。「保護観察」があるかないかでは再犯割合に大差なく、制度の趣旨(リスクが高い者につける)からすれば、相当の抑止効果があるとした。一方、覚醒剤では女子の場合、「共犯」がいた場合の再犯は33%、いない場合は15%と、人の影響を受けやすい実態もわかった。
2009.11.13 10:21 msn.産経ニュースより抜粋
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/091113/crm0911130938010-n1.htm

再犯者の割合が高まった―この現象を裏側から見ると、新たな覚せい剤乱用者の増加に、一時的にせよ、歯止めがかかっているということになります。その背景にあるのは、覚せい剤乱用市場が縮小し続けていること。第三次乱用期の幕開けといわれる平成8年ころには2万人に迫っていた検挙者が、平成20年には約11,000人にまで減少しています。

特筆すべきは、青少年層での減少がとくに著しいことです。犯罪白書(私の手元にあるのは平成20年版ですが)のデータによれば、つぎのことがわかります。
・ 平成8年には、30歳以下の青少年層が、覚せい剤事犯検挙人員のおよそ半数(49.5%)を占めていた
・ 平成19年では、30歳以下が占める割合はおよそ4分の1(26.5%)にまで減少している
私は、この変化を日々の仕事を通じて、実感しています、今、刑事司法の場面に登場する覚せい剤乱用者の中心層は、30歳代~40歳代、覚せい剤の前科を持つ人が多く 、初犯者の場合も長期間乱用してきた人が目に付きます。かつて主流を占めていた、乱用歴の浅い青少年層はすっかり影を潜めてしまったようで、めったに出会うことはありません。

覚せい剤問題について、いま、最も重要なことは、最新版の犯罪白書が指摘しているように、再犯を繰り返す覚せい剤乱用者に対する対策なのです。
長期間にわたる薬物乱用者の多くは、失敗体験を重ねて自信喪失に陥っているといいます。覚せい剤はやめられないと、あきらめかけている人たちに、「やめられる」希望を示すことが必要なのです。ところが、私たちは、乱用防止のための啓発活動にばかり目を向けて、薬物の恐ろしさばかりを伝え、回復について語ることを忘れてきたのではないでしょうか。
最近、芸能人の薬物事件が相次ぎ、メディアは連日のように薬物問題を取り上げました。専門家や経験者の声も多数伝えられましたが、薬物依存の克服の困難さや、再犯の多さをことさら強調するものが目立ったことを残念に思います。薬物の害を伝えることは大切ですが、「やめられない」側面だけが誇張されては、断薬・回復の努力を続けている現実の乱用者やその家族の希望を砕くことになりかねません。
わが国では、長く「一度やったらやめられない」をキーワードに薬物乱用防止活動が展開されてきました。でも、これからは、「覚せい剤はやめられる」というメッセージも必要だと思います。

覚せい剤乱用者が減っている現在は、日本の薬物問題を大きく改善するチャンスです。「やめられない」から「やめられる」へ、まず、私たちの意識を少し切り替えておきたいと思います。

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この記事へのコメント

あらま
2009年11月22日 10:46
国連薬物特別総会が1998年に開催され、「薬物需要削減の指針に関する宣言」を採択し、加盟国は2008年までに不正薬物の需給を大幅に削減することを約束した。
同宣言第14項
薬物乱用者の社会復帰を促進するため、適宜、加盟国の国内法および政策にしたがって、各国政府は、有罪判決あるいは処罰の代替策、または、処罰に追加するものとして、薬物乱用者が治療、教育、アフターケア、リハビリおよび社会復帰のための措置を受けるべきであるとする規定の制定を検討すべきである。加盟国は、刑事司法制度内において適宜、薬物乱用者に教育、治療およびリハビリのサービスを提供する能力を開発すべきである。この全体的文脈においては、刑事司法、保健および社会制度間の密接な協力が必要であるため、これを奨励すべきである。
国連薬物特別総会 ニューヨーク、1998年6月8-10日 国際連合広報センター
http://www.unic.or.jp/centre/pdf/drug.pdf#search='国連薬物特別総会'

米国では1990 年頃から「ドラッグ・コート」が実施され、英国では1998 年から「薬物治療検査命令」、2003年から「薬物介入プログラム」、2005年から「ドラッグ・コート」が実施されています。

日本は「ダメ。ゼッタイ。」と「厳罰、厳罰の刑罰至上主義」のみの制度から脱却し、薬物乱用者を真に更生させ薬物犯罪を撲滅する、より効果的な制度をいつまで検討しているのですか、と強く思いました。

のら猫
2009年11月22日 16:06
覚醒剤そのものは、宇宙飛行士の薬に含まれているそうです。たしかに依存性が高い薬品ですが、ベトナム戦争や湾岸戦争時にも使用されていますし、日本でも第二次大戦時に使用されていました。戦後のヒロポン流行時に広範囲に使用されていました。やめられないだけを強調するなら、日本は、廃人だらけとなってしまいます。

基本的には、特別な例を除いて、初犯の人は、ほとんどの人が、簡単なケアで更正できると思う。刑事罰そのものがむしろ税金の無駄と思う。再犯時どうするかが問題ではないか。

しかし 色々調べてみると、再犯を繰り返す人が出所後、引き受けてくれる施設が少ないようです。更正施設を充実し、再犯を繰り返す人に対して、懲役刑の一部を、更正施設で代行させる事は出来ないものでしょうか?

それに薬物問題ではないのですが、再犯はむしろ窃盗犯が多い。生活基盤が破壊された人が、出所後また繰り返す。いくら累犯加重とは云え、パン1個、消しゴム1個で、懲役はない。

生活保護より、刑務所での一人当たり経費が高いうえに、警察、検察、裁判所での経費がかかる。刑事政策と社会政策とで融合させれば、国の負担も軽くなると思う。この二つの罪が減少すれば、刑事司法そのものももっと楽になる。
あらま
2009年11月22日 19:51
処罰から治療へ、施設内処遇から社会内処遇へ

ドラッグ・コートの処遇効果やコスト面について、BBCは伝えています。
Drug courts target cycle of crime
The court is having some success. Judge Philips estimates some 30% to 40% of offenders who go on this drugs court programme never reoffend.
Compare than to the estimated 10% who come out of jail and go straight.
It's also much cheaper for the tax payer. It costs £37,000 a year to keep a person in prison for 12 months, but only £2,000 to send a man in the drugs court programme for six to nine months.
(BBC NEWS 2 May 2007)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/6617317.stm

ドラッグ・コートは処遇効果の面でも刑務所より10%以上高く、費用の面でも5%程度しかかからない。日本の場合、まずは罪を償うべきだとし、治療よりも刑罰を優先する制度ですが、ドラッグ・コートを使わない手はない、ということは確実に言えると思います。

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