死刑の主張|薬物犯罪に対する罰則強化の流れ2

昭和38年の麻薬取締法改正の大きな眼目のひとつが、罰則の強化でした。昭和30年代、ヘロインを中心とする麻薬取引が暴力団の資金源となっていることが問題視され、この動きを封じるためにも、罰則の引き上げが要求されたのです。当時の世論には、麻薬禍を一気に解決するために、厳罰をもって臨むべしとする機運があったようで、それを代表するのが、「麻薬事犯に対する最高刑を死刑に」という主張でした。

麻薬取締法(現在は麻薬及び向精神薬取締法)は、その社会に及ぼす害の大きさによって、麻薬をジアセチルモルヒネ(ヘロイン)とそれ以外の麻薬の2段階に分け、罰則も2段階になっています。同法がもっとも厳しい刑罰を定めているのは、営利目的でのジアセチルモルヒネの輸入、輸出、製造に対するもので、現行法では、「無期若しくは3年以上の懲役に処し、又は情状により無期若しくは3年以上の懲役及び1000万円以下の罰金」と定められています。昭和38年当時、薬物を規制する諸法律に先駆けて、麻薬取締法の罰則強化が検討されたのですから、当然、この罰則が、当時のわが国が薬物犯罪者に対して定める刑罰の最高刑になるわけです。その意味で、これは、わが国の薬物犯罪に対する刑事政策の象徴と捉えられていました。象徴としての刑罰は、極刑である死刑にすべきだという声が、かなり強まっていたのです。

この改正案を審議した第43回国会の関連委員会議事録には、最高刑を死刑とすべきかどうか、突っ込んだ議論がたびたび交わされた記録が残っています。
最終的には、死刑を制限する国際的な世論を考慮して、最高刑を無期懲役としたのですが、諸外国の法制を参照し、社会情勢を論じ、刑罰の威嚇効果についても議論されたその経過に、きわめて興味深いものがあります。なお、委員会で議論された諸外国の法制度に関する情報については、注釈したいことがあるのですが、煩雑になるので、それは別な機会に譲ります。

議事録から、当時の世論を探ってみたいと思います。以下は、委員会議事録に基づいて、私が発言の一部を抜粋し、その要旨を簡略にまとめたものです。

[衆議院 社会労働委員会麻薬対策小委員会] 昭和38年02月05日
○小林(進)小委員 
刑罰も、これではまだ軽過ぎると私は思う。アメリカのように未成年者に麻薬を中毒させたとか、吸引させたとかいう者は死刑にするとか、そういう特殊な規定があるわけです。そういうふうに同じ麻薬の犯罪でも、被害者といいますか、被害法益によっては死刑もあるというふうな規定にできないものかどうかです。
○小林(進)小委員 
最低三年ということになりますと、執行猶予になる可能性があるわけですね。麻薬犯罪はうまくやれば執行猶予の恩典にも浴せる、こういうわけだ。私はその三年が気にいらぬ。麻薬を吸えばもはや懲役にいく、執行猶予にはならぬ、放火よりもっと重いぞという考え方だ、麻薬の犯罪に対するとり方ですよ。
○中野小委員 
立法府である国会側の意向は、罰するというのが目的ではなくて、きわめて短期間に麻薬禍を払拭してしまおうというのがもっぱらの目標なんです。従って法体系上からいえば、少し無理だと思っても、やはりこれは社会情勢から考えてみて、こういうふうなものは一切覆滅する必要があるという国家的な要望から出た問題であって、従って場合によれば時限立法でもいいと思うのです。何も恒久立法でなくてもいいのです。五年なら五年、三年なら三年の時限立法でも私は支障ないと思う。しかし最も厳罰でもって臨むということです。最低三年、最高死刑まで持っていきたいと思うのですけれども。

[衆議院 社会労働委員会]昭和38年5月8日
○中野委員 
今度は罰則の強化について少し伺っておきましょう。日本の国に持っていけば金がもうかる、罰則は軽い、なに、ちょいとひっかかったところですぐ保釈になる、罰金で済むのだ、というような感覚から、盛んにバイ人がはびこってくることは枚挙にいとまがない。そこで、最大の問題は罰則の強化です。日本へ行って麻薬をなぶったのではえらい間尺に合わない、えらい損をするのだ、罰則は重い、また体刑で罰金じゃないのだというような強い意思表示をすることは、日本における麻薬天国というような汚名をば返上したいという考え方に基づいてのものであります。そこで、この刑の最高を無期まで持っていったことはいいのですが、なぜ死刑にできなかったのですか。すでにアメリカでも死刑にしておる。タイでも死刑にしておる。また死刑のいわゆる最高刑を律しておる国は枚挙にいとまがないほどある。なぜ死刑にまでできなかったか、この点について立案した厚生当局から御意見を伺いたい。
○牛丸政府委員 
麻薬の犯罪の最高刑を死刑にしろということは、たびたびこの法律の改正案をつくるときに伺ったわけでございまして、法務省当局といろいろと打ち合わせをし、検討を願ったわけでございますが、しかし検討の結果、最高刑を、他のいろいろな犯罪との関連その他もあろうかと思いますが、無期ということで、相当これでも強くやっていただいた。
それから罰金の併科ということ、それから従来は併合罪の規定であったわけでございますが、これが単独でそういうふうな刑を執行できるというふうになった点で、いままでの刑に比べると画期的な刑になったと言うことができると思います。
○中野委員 
私は死刑にしろと言うんじゃない。死刑まで持っていくということが、わが国を麻薬天国というような汚名から脱却せしめる最大の手段だと言うのです。現に死刑にした国はあるけれども、死刑を執行した国というのは、私の知っておる限りはタイだけです。アメリカでもやっておりません。しかし死刑になるということが、どんなにその犯罪者に与える影響というものが大きいかということを考えなければならない。社会的な効果、あるいは精神的な効果というものを考えなければならぬ。
○竹内(壽)政府委員 
もちろん、刑罰に死刑を設けることによって、この種の犯罪におちいることを抑制しようというような気持ちを世間一般に与える、そういう意味の効果を私どもも高く評価しておるものでございますが、それと同時に、またこの刑罰のあり方というものにつきましても、慎重に考慮しなければならぬと思うのでございます。
当局といたしましては、死刑という刑が一体どういうような姿になりつつあるかということも慎重に考慮いたしました結果、死刑をやめまして、無期懲役というところまで実は持っていったわけです。その状況をやや詳しく申し上げますと、現在、世界の各国で死刑を廃止しておる国がすでに三十幾つございます。それからまた、死刑を廃止しておりませんでも、国連の社会防衛委員会等からは、なるべく死刑という刑罰は少なくしていこうじゃないかということが、いろいろな機会に国際会議でも問題になっております。日本にも死刑を存置しなければならぬという罪はあるわけですけれども、しかし最近の大勢によりましては、逐次少なくなってきておることは法制史の示すところでございます。こういう世界一般の刑罰、特に死刑という罪罰のあり方についての傾向をも十分考慮いたしたのでございます。

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