昭和38年の麻薬の罰則強化|薬物犯罪に対する罰則強化の流れ1

大麻の栽培について予備罪を適用のニュースから出発して、薬物の輸入事犯に対する罰則強化の歴史について、いろいろと調べ始めました。予備罪を適用することの是非について、コメントも寄せられていますが、ここでは、薬物輸入に対する罰則強化の流れについて、もう少しマクロな視点から眺めておきたいと思います。

大麻取締法は、第24条で大麻の栽培、輸入、輸出に対する罰則を定め、また、第24条の4で、これらの予備に対しする罰則を定めています。予備罪に関する規定は、営利目的加重規定などとともに平成2年の改正で付け加えられたもので、この改正によって大麻取締法が定める罰則が他の薬物規正法とほぼ同様のものとなりました。つまり、他の法律と足並みを揃えるために、いちばん最後に大麻取締法が改正されたのです。
わが国で乱用薬物を規制している主な法律は、あへん法、麻薬及び向精神薬取締法、覚せい剤取締法、大麻取締法ですが、そのいずれにも、輸入や製造について予備罪の規定があります。これらの規定は、乱用の拡大に対応する法改正が行われた際に、罰則の引き上げとともに導入されたものです。

予備罪の規定を含む罰則の引き上げが最初に行われたのは、まず、麻薬取締法でした。昭和30年代、暴力団が関与する麻薬(主にヘロイン)の密輸、密売事件が増加し、麻薬犯罪が暴力団の資金源となっていることが問題視されるようになったのです。これに対処して、昭和38年6月21日、①麻薬の取り締まり及び罰則の強化、②麻薬中毒者に対する入院措置等を講ずること等を主な内容として、麻薬取締法が改正されました(法律第108号)。
国会本会議に先立って開催された社会労働委員会では、法案の趣旨説明で次のような発言がありました。「改正の第三点は、麻薬犯罪に対する罰則を強化することであります。すなわち、現行麻薬取締法違反の罪に対する最高刑である『1年以上10年以下の懲役及び50万円以下の罰金』を『無期又は3年以上の懲役及び500万円以下の罰金』に改めるほか、以下それぞれの違反行為の段階に応じ罰則を強化するとともに『麻薬の密輸出入及び密造』についてはその予備を罰し、また『麻薬の密輸出入及び密造に要する資金、建物等の提供』及び「不正取引の周旋」は独立罪として罰することとしようとするものであります。」(昭和38年2月27日 衆議院 社会労働委員会 )

実は、この法案をめぐる委員会審議では、麻薬輸入事犯に対して、死刑を最高刑とすることの是非についても、とても興味深い議論が交わされていますが、この点については次回で取り上げます。

ところで、昭和38年の改正が行われた背景や、改正の方向については、この年の犯罪白書が詳細な記事を掲載しており、この改正が、単なる調整ではなく、わが国の麻薬対策の根幹に関わるものであったことをうかがわせます。昭和38年版の『犯罪白書』から、引用します。

「問題点の第三は、麻薬犯罪が、ばくと、テキヤ、ぐれん隊などのいわゆる反社会的暴力集団の一部と密接な関係を持ち、その重要な資金獲得の手段となっているということである。これら暴力的集団が、麻薬犯罪に介入してきたのは、さほど古いことではないが、暴力事犯に対する取締りにより資金源が苦しくなってきたこと、その反社会的な強固な組織が、そのまま麻薬密売の組織に置き換えやすいこと、従来、みずから小売密売までを行なっていた外国人が、検挙の危険から身を守るために、暴力団に密売段階の仕事を任せるにいたったこと、などの諸般の事情によって、麻薬密売に対する暴力団の介入は、最近とみに顕著となってきており、密売段階のほとんどが、これら暴力団関係者によって占められるにいたっている。」(昭和38年版 犯罪白書 第四編/第一章/一/2 )

さらに同書は、近年の麻薬取締法違反事犯者に対して、長期の科刑がされていることを示し、法改正によって予定されている罰則の引き上げについて、次のように説明しています。
「現行麻薬取締法のおもな法定刑は (1)ヘロインの輸入,輸出,製造,製剤,譲渡,譲受,交付,施用,所持,廃棄の単純犯が,7年以下の懲役 (2)その他の麻薬の同様な行為の単純犯が,五年以下の懲役もしくは10万円以下の罰金またはその併科 (3)営利犯は,ヘロインであるか否かを区別することなく,7年以下の懲役,または情状により7年以下の懲役および50万円以下の罰金 (4)常習犯は,1年以上10年以下の懲役 (5)常習営利犯は,常習犯の刑と同様であるが,情状により50万円以下の罰金が併科できるということになっている。このような事情を前提として,この科刑状況をみると,そのしゅん厳化がいっそうよく理解できるであろう。
なお,現在までのわが国の最高刑は,昭和37年9月に東京高等裁判所で言い渡された懲役10年および罰金50万円の判決であるが,この判決は,4回にわたるヘロインの密輸入(合計2,610グラム)およびその譲渡を併合罪として処断したものであった。
しかしながら、後述のごとく外国においてはさらに厳重な処罰がなされており,終身刑あるいは20年以上の刑が言い渡されることも決してまれではない。わが国において,前述のような科刑事情にもかかわらず,麻薬事犯が衰えをみせない現状から麻薬取締法の改正が企てられているが,改正案のおもな点を指摘すれば次のとおりである。すなわち,従来精神衛生法に定められていた強制入院措置を,より実効あらしめるため,あらたな章を設けて,入院措置に関する詳細な規定をおくこととしたほか,罰則を強化し (1)ヘロインの輸入,輸出または製造を最も悪質なものとし,これに1年以上の有期懲役(従来は7年以下)を科することとし (2)右の営利目的行為については,無期もしくは3年以上の懲役,または500万円以下の罰金を併科することとし (3)ヘロインの製剤,譲渡し,譲受け,交付,施用,所持,廃棄または受施用に対しては10年以下の懲役(従来は7年以下)にまで引き上げ (4)これらの営利目的行為については,1年以上の有期懲役または情状により300万円以下の罰金を併科することとし (5)常習犯または常習営利犯は,数個の行為を包括して集合的一罪とする結果,その一部の行為について判決が確定すると,確定前の余罪のすべてにその既判力がおよぶこととなり,実質的に科刑の適正を期しえない点を考慮して廃止し (6)ヘロイン以外の麻薬についても,それぞれ法定刑を大幅に引き上げ (7)輸入,輸出,製造,栽培の予備罪を新設して,これに5年以下の懲役を科し (8)さらに右の行為に要する資金,土地,建物,艦船,航空機,機械または器具を提供する罪を新設して,同様5年以下の懲役を科し (9)また,麻薬の譲渡し,譲受けの周旋行為をも3年以下の懲役に処する旨新たに罰則を設ける等,全般的に罰則の整備強化をはかっている。今後この改正麻薬取締法が麻薬事犯の防圧に大いに活用されることが期待される。」(前同書、第四編/第二章/三/2)

なお、昭和38年版犯罪白書の第四編「麻薬犯罪とその対策」は、日本の薬物問題と対策の源流がよくわかる、興味深い特集です。インターネットで閲覧できるので、ぜひお読みください。
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/4/nfm/n_4_2_4_1_1_1.html

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