覚せい剤所持罪|覚せい剤問題NOW-3

所持品や自宅から覚せい剤が発見されれば、その所有者は覚せい剤所持罪に問われることになります。一見するときわめて単純に思える覚せい剤所持罪ですが、実際の事件では、所持の成否をめぐって微妙な争いを展開することもあります。
ここでは、数日来話題になっている、女性タレントの覚せい剤事件のケースを通じて、覚せい剤所持の問題を整理してみます。

そもそも、数日前に私がある通信社の取材を受けた際に、この事案には起訴をためらわせるポイントがいくつかあるので、最終的には不起訴処分になる可能性もある、という見解を話したのですが、それが新しい話題に火をつけた形になったようです。自分で撒いた種、取材のご依頼にはできるだけ対応してきましたが、さすがに今日はお断りすることも増えたので、この場で私の見解をまとめておきます。

●覚せい剤が微量であること
覚せい剤(メタンフェタミン)の1回当たりの使用量は、約0.03グラム、耳かき1杯分の量といわれますが、では、1回分に満たない量の場合は、不起訴になるのではないか、と思われる方もあるでしょう。しかし、そう単純ではありません。
たとえば、乱用者は、透明袋(パケ)の底に残ったごく少量の覚せい剤を、1回分に足りないからと捨ててしまうでしょうか。たいていは、そのまま保管して、次回に買う覚せい剤と合わせて使うことでしょう。微量でも覚せい剤としての使い道はあり、効用もあるわけで、1回分に満たない量であることで、一律に不起訴になるわけではありません。

裁判例では、約0.001グラムの覚せい剤でも、覚せい剤所持罪が成立するとされた事例(平成1年6月26日大阪地裁判決)、約0.0068グラムの覚せい剤粉末でも、覚せい剤としての効用を有していたことが認められる場合には、所持違反罪が成立するとしたもの(昭和58年4月11日東京高裁判決)など、ごく微量でも覚せい剤所持を認めた例があります。
いっぽう、0.0031グラムの微量で、しかも混入物が多く、含まれている覚せい剤が極めて微量で、人に対し覚せい剤としての効用を有しないとして、覚せい剤所持に当たらないとした例もあります(昭和48年6月6日東京高裁判決)。

発見された覚せい剤が微量の場合、それが覚せい剤として使えるかどうか、別な言い方をすれば、覚せい剤の効用をもっているかどうかが判断基準となるわけです。今回の事例では、発見された覚せい剤は約0.008グラムと伝えられていますが、これは、起訴するかどうか判断する際に、ためらいの生じる微妙な量であると思います。

●吸引具の付着物であること
伝えられているところでは、今回の事例で発見された覚せい剤は、吸引具に残った覚せい剤の燃えカスだといいます。
覚せい剤は通常は白っぽい粉末状(細かい結晶)ですが、加熱すると溶けて、成分が気化します。ガラスパイプなどを用いて覚せい剤を加熱吸引する、いわゆる「アブリ」と呼ばれる使用法では、加熱によって気化した成分を吸い込んで摂取するわけですが、使用後のパイプには、黒くこげた覚せい剤のカスがこびりついて残ります。

わが国で一般に流通している覚せい剤は、きわめて高純度の塩酸メタンフェタミンですから、吸引具にこびりついたカスでも、分析すれば、覚せい剤の含有が確認されます。たしかに、これも覚せい剤であることは間違いありません。
しかし、当人はこの燃えカスを覚せい剤と思っていたのかどうかが問題になるでしょう。すなわち、違法性の認識や故意の有無といった問題がおきる可能性があるわけです。さらに、本人の意識では、この燃えカスをもう使い終わって捨てたものと考えていた可能性もあるでしょう。
とすれば、所持していたといえるかどうか、問題になります。この点は、さらに微妙だと思います。
当初は、吸引具に残った付着物の所持で逮捕された被告人が、この部分の所持では起訴されなかった例を、私は多数経験しています。

今回の事案は、世間の注目を集めており、その処分がいろいろな意味で影響を及ぼすことになるでしょう。
これまで多くの有名人が薬物事件で逮捕され、世間の注目を集めてきましたが、その都度、司法の世界は冷静に、原則どおりの対処を貫いてきたと私は評価しています。有名人であることで甘やかすことなく、また過度なバッシングをすることもなく、通常通りの判断がされてきました。その点に、私も日本の法曹界の一員として誇りを感じています。
今回も、原則どおりの判断が貫かれるよう期待しています。

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この記事へのコメント

たかあき
2009年08月13日 10:23
先生に今回の初期の警察判断についてお尋ねします。警察はタレントへの疑いを持ったため署への任意同行を求めた。『子供を預けているので後で行く』→容疑者は失踪した。一般人でもこのような理由で現場を立ち去らせて貰えますか?警察のこの判断に過失はありませんか?
小森 榮
2009年08月15日 00:09
もしも、任意同行を求めている相手に対して、警察官が有形力を行使して、相手の自由な行動を妨げるようなことがあれば、そのほうが問題です。

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