ポルトガルの体験|世界薬物報告書2009年版2

6月下旬に発表された『世界薬物報告書2009年版』を読みながら、薬物問題への取り組みについて考えてみたいと思います。
2009年版の特集は「予期せぬ結末との直面:薬物コントロールとブラックマーケット」というもので、薬物関連犯罪の問題を問いかけるものです。薬物コントロールとは何かという、本質的な問題への考察を含んでいるので、少しずつ、丁寧に読みながら、考えていきたいと思います。

当ブログで、この報告書に触れたとたん、ポルトガルでの「非犯罪化」事例に関するコメントが寄せられたので、まず最初に、ポルトガルのケースから検討してみましょう。
United Nations Office on Drugs and Crime, Confronting Unintended Consequences:Drug Control and the Criminal Black Market, World Drug Report 2009,p.168
http://www.unodc.org/unodc/en/frontpage/2009/June/world-drug-report-2009-released.html

ポルトガルでは、薬物使用を「非犯罪化」して8年になります。ちょうど、BBCニュースもこの問題を取り上げていたので、そのビデオを紹介します。ビデオの貼り付けががうまく作動しないようなので、下のリンクでみてください。
BBC NEWS Portugal drug experiment pays off
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/8130163.stm

さて、『世界薬物報告書2009年版』168ページから引用します。
「ポルトガルは、近年、薬物使用者を拘束しないと決定した国のひとつである。国際麻薬統制委員会によれば、ポルトガルによる2001年の薬物使用の「非犯罪化」は、国際条約の規定範囲内にあるものである。薬物の所持は依然として禁止されているが、制裁は、刑事法ではなく行政法規の下で行われる。個人的使用の目的での少量の薬物所持は、逮捕の対象ではなく、出頭命令が下される。薬物は没収され、被疑者は委員会に出頭しなければならない。被疑者の薬物使用形態が審理され、罰金(わが国の過料にあたるものでしょうか)が科されるか、治療に回されるか、プロベーション(保護観察)の対象とされることとなるだろう。薬物取引の事案は、従前と同じように起訴されるが、ポルトガルで摘発された薬物取引事犯の件数は、ヨーロッパの平均値に近いものである。こうした状態は、完全な薬物禁止制度の下で薬物を避けてきた人たちを引き続き薬物から遠ざけるいっぽうで、薬物使用者に対しては拘禁刑ではなく治療を奨励している。警察からの出頭命令を歓迎しない人のなかには観光客もおり、結果的に、ポルトガルの政策はドラッグ・ツアーの増加を招かなかったと報告されている。また、薬物関連の問題の多くは減少したようである。」

しかし、「非犯罪化」によって、望ましい結果だけがもたらされたわけではありません。もう少し引用を続けます。
「この取り組みは議論を呼んでいる。ポルトガルは、この政策を導入後、薬物使用の増加をみたが、しかし、同時期にヨーロッパの多くの国では同様の増加があった。大麻の使用はやや増加したにとどまったが、コカインおよびアンフェタミンの使用率は、低水準から顕著に倍増した。さらに、2001年から2006年の間に、コカインの押収が7倍に増加したことは驚異的である。同時期にヨーロッパの数カ国でコカインの押収が急増したが、2006年にはポルトガルはいきなり世界第6位のコカイン押収となった。同期間には、殺人の発生数が40%増加したが、薬物取引に関係するものである可能性がある。発生率自体は低水準であり、リスボンはヨーロッパでも安全な都市のひとつではあるが、この期間では、ポルトガルはヨーロッパで唯一、殺人の顕著な増加を示している国である。」

末端の薬物使用者に対して、刑事罰を科すことを見合わせ、別な方法で問題解決を図る。ここでいう「非犯罪化」とは、こうした政策のことです。決して薬物使用を解禁するものではなく、また、薬物取引を認めるものでもありません。刑事罰を受ける心配がなくなったことで、薬物使用者が、安心して治療機関にやってくるようになったというプラスの面もありますが、反面、薬物使用が一時的には増加し(その後は減少しているが)、薬物マーケットが活発化してしまうという影響が出ているのも現実です。
この点について、次回でもう少し掘り下げてみたいと思います。

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この記事へのコメント

野中
2009年07月06日 04:07
世界各紙の報道にみるWorld Drug Report 2009
TIME
U.N. World Drug Report
By M.J. Stephey Thursday, Jun. 25, 2009 
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1907018,00.html
「国連薬物犯罪事務所による今年の報告書は,去年はしなかったある事をした:それは、薬物の法律を全て廃止することを支持する人々の発する”増大する声”に向けて呼びかけた。そして、その著者は麻薬を合法化することは”大きな誤り”であると主張するが、事務所所長アントニオ・マリア・コスタは、規制を緩和することはそれほど悪い考えではないかもしれないことに同意した:”我々が、アメリカにおける1920年から1933年の間のアルコールに関する失敗した試みから学ばなければならない様に、あなたは、禁止法の下では効果的な規制を行うことは出来ない。” 」
野中
2009年07月06日 04:11
guardian
UN drug chief: drug use should be treated more as an illness than a crime
Duncan Campbell guardian.co.uk, Wednesday 24 June 2009 15.06 BST
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jun/24/united-nations-world-drug-report

「薬物使用は犯罪というよりは病気として取り扱われるべきである、国連薬物犯罪事務所所長は世界的なコカインとヘロインの生産の減少を主張する際に発言した。

国連薬物犯罪事務所所長アントニオ・マリア・コスタは”薬物を摂取する人々は、刑事的な懲罰ではなく、医療的な支援を必要としている”と述べ、薬物治療への普遍的なアクセスを要請した。薬物需要の大部分は深刻な薬物問題を抱える人々によってもたらされるものであるので、この問題を治療することは、マーケットを縮小させる最善の方策の一つである。
続き
2009年07月06日 04:12
国際的な司法当局に対し、使用者より密売人を標的とすることを求める彼の要請が行われたのは、合成麻薬の世界的な増加が発表された時だった。

麻薬規制法改正運動家はコスタの発言を”麻薬戦争”に関する議論における重要なサインとみなした。しかし、彼は合法化は解決策ではないと言った。
続き---(中略)---より強力な大麻
2009年07月06日 04:14
概算は正確ではないが、大麻は依然として世界中で最も広く栽培され、使用されている薬物である。データはまた、それは一般的に信じられているよりも有害であることを示していると報告書は述べる。

北アメリカにおける水耕栽培の大麻の平均THC含有量(有害な向精神性の成分)は、十年前のおよそ倍になった。”治療を求める人々の重大な増加が示しているように、これは健康に大きな影響を及ぼしている。”と報告書は述べる。

大麻の世界最大のマーケットは、北アメリカ、オセアニア、西ヨーロッパである。コカインについては、北アメリカと西ヨーロッパの一部の地域は依然としてメインマーケットであり、イギリスは最大数の使用者を抱え、スペインは最大の一人当たりと押収の数を示している。報告書は開発途上国のデータは不完全であることを認めた。
続き
2009年07月06日 04:18
およそ1億6700万人の使用者が2007年に少なくとも一度大麻を使用した。報告書における発見の一つはヨーロッパの若者の間での大麻使用の減少であった。これは報告書の筆頭著者の一人である、サンディープ・チャウラ博士によって、より強力な品種、特にスカンクの潜在的副作用に対する懸念に対する反応とみなされた。」
野中
2009年07月06日 04:19
我が国ではあまり報道されていない World Drug Report 2009ですが、世界各紙の報道をみると2008年から2009年の間に大きな転換があったようです。これもオバマ効果でしょうか?主な転換点は、国連薬物犯罪事務所所長アントニオ・マリア・コスタ氏が”薬物使用は犯罪というよりは病気として取り扱われるべきであること”、”国際的な司法当局に対し、使用者より密売人を標的とすることを求める"ことなどを明言した点にあると思います。
野中
2009年07月06日 04:20
我々はこれを踏まえて、大麻は他の危険な依存性薬物とは分離して独自の規制を行うべきであることや、アルコール依存症は治療が必要な病気であるが、節度ある通常の飲酒は治療すべき病気でも矯正すべき悪癖でもないのと同様に、節度ある大麻の使用は病気や悪癖ではなく、逮捕・拘禁を伴う刑罰によってこれを規制することは重篤な人権侵害であることなどを広く社会に訴える必要があります。外務省によると、”薬物統制計画基金に対する我が国の拠出は、2005年は約250万ドル(全体に占める割合3%)で世界5位、2006年は約217万ドル(同2.3%)で第11位となっている。”そうです。もっと情報を公開して国民に役立ててもらいたいものです。

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