弁護士小森榮の薬物問題ノート

アクセスカウンタ

zoom RSS 徹底検挙から犯罪予防へのシフト|世界薬物報告書2009年版7

<<   作成日時 : 2009/07/19 23:28   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

メキシコではいま、ドラッグ・カルテルと政府が全面戦争を繰り広げています。薬物密売を基盤にする犯罪組織を放置すると、やがては政府のコントロールが及ばないほど巨大になり、その活動を制限するためには軍隊を投入し、多くの人命を犠牲にするような事態を覚悟しなければならなくなるのです。
メキシコの場合は、ドラッグ・カルテルを一気に殲滅する政策をとったことから、全面戦争の展開になっていますが、発展途上国の多くでは、犯罪組織の拡大とともに、治安の悪化や政治の腐敗が進むなかで、ただ手をこまねいている例も少なくないのです。東南アジア、東アジアにもこうした地域はいくつもあります。

さて、『世界薬物報告書2009年版』に視点を戻すことにします。今日は170〜172ページの「オープンな薬物市場を閉鎖する」という部分です。ここでは、薬物密売が行われている特定地域の秩序を回復して、街から薬物密売を排除する方法について語られています。しかも、地域の秩序を回復するために、取り締まり強化の手法に頼るのではなく、最近注目されている犯罪予防の手法を活用することが提案されているのです。

薬物の密売を基盤とする犯罪組織が活動するのは、たいてい、都市の吹き溜まりとなっている地域、いわゆるスラムですが、こうした場所から、犯罪組織を締め出していくために、警察による取り締まりによらず、民事手続を活用するということなのです。具体的には、建物の所有者に対する管理義務を強化し、従わない場合は次々と罰金を科し、罰金の不払いを理由に建物を差し押さえるという手続きをとることになります。
本書は、公共の場所での喫煙を禁止する法律の導入を例にとって、「もし、喫煙者の取り締まりに重点を置いていたら、この法律の導入は失敗に終わっただろう。」といいます。欧米社会でとられた方法は、施設の管理者に施設内での喫煙についての管理責任を負わせ、また非喫煙者の権利を前面に掲げるという手法でした。この法制度を、個人の自由を制限するものとみるのではなく、国民の健康を守るものとする見方が定着したことで、パラダイム・シフトが起きたというのです。

最近、ヨーロッパではこうした民事手続を用いて犯罪組織と対抗することが、実際に行われているようです。たとえばオランダの公的機関は、大麻栽培をしている犯罪組織に対抗するために、徴税機関、住宅会社、電力会社なども巻き込んで、不払いの税金、料金、罰金などの督促を重ね、民事手続きによって不動産を差し押さえる方法がうまく機能していると報じています(’Drug policies in the Netherlands’ Trimbos Institute, 2009)。大麻栽培ハウスを発見した場合、警察が大挙して踏み込んでも、リスクが高い割に、逮捕されるのは末端の外国人労働者で、組織の中枢にたどり着くのは困難です。民事手続きによって、スムーズに「大麻工場」を解体するほうが実際的な解決に近いのかもしれません。
しかし、正直なところ、こうした手法に対して私はいまだに多少の戸惑いを感じています。犯罪予防において常につきまとうのは、何を基準にするか、誰が判断するか、誰が実行するかという問題なのですが、どうも釈然としないのです。とはいえ、薬物密売組織と対抗するために、従来の警察力による取り締まりでは、根本的な解決が難しいのも事実です。本書が言うように、「ひとりずつ逮捕して、薬物を押収するのは、草を1本ずつ手で抜くような作業だ」ということです。

薬物の密売は、世界中で犯罪組織の資金源となっています。こうした犯罪組織が肥大すれば、市民社会は確実に脅威にさらされます。かつてコロンビアのメデジン・カルテルはコカインの密輸による収益で、国家をも脅かす存在といわれました。メキシコではいま、ドラッグ・カルテルと政府が全面戦争を展開しています。薬物密売組織を拡大させないために、まず、密売拠点となっている特定地域の秩序を回復する。これは、たしかに重要なことかもしれません。

出典:国連薬物犯罪事務所編『世界薬物報告書2009年版 WORLD DRUG REPORT 2009』
http://www.unodc.org/unodc/en/frontpage/2009/June/world-drug-report-2009-released.html

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
徹底検挙から犯罪予防へのシフト|世界薬物報告書2009年版7 弁護士小森榮の薬物問題ノート/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる