問題のある薬物使用者|世界薬物報告書2009年版6

昨日紹介した部分で、本書は、末端の薬物使用者に対して、刑事罰として拘禁刑を科すことは有益ではないと説いています。では、乱用者を野放しにして、薬物が蔓延するに任せてしまうのか、当然、こうした反論があるでしょう。
ここで本書は、「問題のある薬物使用者」について説明し、実は、供給される薬物のかなりの量を消費し、薬物市場を支えているのは、ほんの一握りの「問題のある薬物使用者」であると解説します。

「密売者たちの活動を阻止するもっとも有効な方法のひとつは、ユーザーの基盤を侵食することであろう。毎年の統計では、薬物使用者は世界の成人人口のかなりの割合を構成しているように思えるが、しかし実際には、このグループのうちの少数である常習者が、輸入される薬物の大半を消費している。昨年では、成人人口の5%前後(1億4000万人-2億5000万人)が何らかの不法薬物を使用したが、そのうち「問題のある薬物使用者」として分類しうるのはわずか1800万人-3800万人である。「問題のある薬物使用者」の定義は一様ではないが、ヨーロッパ薬物及び薬物中毒観測センター(EMCDD)は、ヨーロッパ諸国における問題のある薬物使用が成人人口に占める率の推定を提供している。その人口規模は、キプロスにおける1千人未満から、英国(UK)における40万人までの幅がある。極端な例をとれば、英国(UK)では問題のある薬物使用者の約4分の1がロンドンに居住していると推定され、およそ74000人の使用者がおり、人口のちょうど1%弱に当たる。(169ページ)」

EMCDDは、問題のある薬物使用を「オピオイド、コカイン及び/又はアンフェタミン類の注射使用あるいは長期の日常的使用」と定義しています。(http://www.emcdda.europa.eu/stats07/PDU/methods)本書で紹介されているEMCDDが公表しているデータとは、2001-2005年の問題のある薬物使用者比率の推定値を国別に示したもので、EMCDDのサイトで公開されています。http://www.emcdda.europa.eu/stats07/PDU

この考え方は、薬物市場の需要を削減する重要な要素として、世界薬物報告書では数年前から取り上げられており、当ブログでも、世界薬物報告書2008を読む―その4 http://33765910.at.webry.info/200807/article_17.htmlで紹介しました。
本書15ページでは、2007年のデータに基づく「問題のある薬物使用者」の人口は、1800万人から3800万人であるとしていますが、これは世界の15-64歳人口の0.4から0.9%に当たる人数で、下の図に示されたように、薬物使用人口のごく一部でしかありません。
画像

国連薬物犯罪事務所編『世界薬物報告書2009年版』15ページより転載
・クリックで画像が拡大します

さて、薬物市場の需要を具体的に削減することを考えるとき、ほんの一握りの「問題のある薬物使用者」に対する対策を講じることこそ重要だと、本書は説いています。薬物使用者人口の大半は、決して薬物を常用しているわけではなく、「一時的な使用者」に過ぎず、その使用量はたいしたものではないというわけです。
「薬物を常に使用したり、繰り返して連続使用するような人こそ、密売者たちがほんとうに当てにしている需要の源泉である。たとえ一時的にせよ、需要のうちこの重要な部分を取り除くことは、薬物市場の心臓部を切り裂くことになる。大麻は、この現象を説明する好例を提供してくれる。大麻はどこの国でも、たいていは他人とともに消費されている。こうした際には、一般的なジョイントやパイプが回される。耐性を形成するほど頻繁に使用しない人にとっては、かなり質の良い大麻なら、ほんの2,3服を吸い込めば十分な作用を得ることができる。こうした集まりでは、消費される大麻の量は、1グラムの何分の1というわずかなもので、そして、一時的ユーザーの多くは、年に1、2回こうした集まりを経験している。
これと対照的に、大麻使用者のおよそ9%は、人生のどこかで連日大量使用を経由して、耐性を形成する。状況が許すなら、絶え間なく酔っているのだ。ヘビーユーザーの使用量には幅があるが、1日当たり数グラムというものである。このように、連日の、あるいは連続使用者は、大麻消費量のかなりの部分を喫煙している。他の薬物のほとんどすべてについて、同じことが言えるのであって、使用者人口のうちの少数割合が薬物供給量のかなりの部分を消費しているように思われる。」

本書は、薬物使用者に刑事罰として拘禁刑を科す必要はないと重ねて強調します。刑事罰に対する代替措置としてトリートメントに回すか、条件付釈放すればよいというのが、本書の提言なのです。ただし、釈放条件として、定期的にランダムな薬物検査(尿検査)を実施し、検査を通らなかった場合は速やかに拘禁する。この方法の有効性はすでに実証されているといいます。
たしかに、アメリカのドラッグ・コートに代表される、刑事拘禁を前提にしない薬物事犯者に対する処遇は、一定の評価を得ています。現在、欧米では、末端の薬物使用者に対して刑事罰として長期の拘禁刑を科すことは、すでに当たり前ではなくなっているのです。

出典:国連薬物犯罪事務所編『世界薬物報告書2009年版 WORLD DRUG REPORT 2009』
http://www.unodc.org/unodc/en/frontpage/2009/June/world-drug-report-2009-released.html

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