アメリカの学校薬物検査をめぐって|薬物検査・6

前回紹介した本は、アメリカの連邦最高裁が出したアールズ判決をめぐって、生徒に対する薬物検査を考える内容でした。このアールズ判決を通じて、アメリカで行われている、生徒に対する薬物検査について考えてみたいと思います。
この判決について詳しい解説があるので、洲見光男氏の下記の論考を参照させていただきました。
参照文献:洲見光男「薬物検査の合憲性―連邦最高裁判例理論の検討―」法律論叢76巻2・3号、33-74頁、明治大学法律研究所(2004)

●ハイスクール生徒に対する薬物検査とは
ここで問題となったのは、オクラホマ州の、課外活動をする生徒に対する薬物検査ポリシーで定めている薬物検査です。オクラホマ州は、課外活動をするハイスクール生徒に対して薬物検査をする方針を採択しており、生徒は、課外活動に参加するに当たって薬物検査を受けるほか、抜き打ちの薬物検査や、合理的な嫌疑に基づく薬物検査に応じなければならないとされています。
検査で陽性結果が出ると、学校はその生徒の保護者と面談し、生徒は薬物カウンセリングを受け、2週間後の再検査を受けた後、課外活動への復帰を許されます。2度目の陽性結果が出ると14日間課外活動への参加が制限され、3度目の陽性反応に対しては、その学年の残りの期間(または88日間)あらゆる課外活動に参加できないという制裁が課されます。

●アールズ判決とは
1999年1月に薬物検査を受けた、オクラホマ州のハイスクール生徒であったリンゼー・アールズさんと両親は、州の薬物検査ポリシーが自分たちの課外活動に適用されるのは、憲法修正4条に違反するとして、裁判所に対して宣言的差止命令による救済を求めました。地区裁判所はアールズさんの主張を退けて薬物検査を合憲としましたが、控訴裁判所はこれを違憲と判断していました。連邦最高裁での判断は、5対4で薬物検査を合憲と判断しましたが、それが、ここでいうアールズ判決です。
ほぼ同時期に、もう1例、生徒に対する薬物検査に関する最高裁の判断が出ています。スポーツ活動をしていたヴェロニアさんという女子生徒のケースで、ここでも最高裁はヴェロニアさんに対する薬物検査を合憲としました。

●薬物検査の合憲性とは
ハイスクール生徒に対する薬物検査では、たいてい尿検査が行われます。尿検査は血液検査などと比べて身体への侵害の程度は低いものの、検査を受ける者の健康状態と排尿行為に対するプライバシーの期待を侵害する、という点が問題視されます。
薬物検査が個人のプライバシーを侵害することではあるが、検査することによって得られる利益との兼ね合いで、それが合憲であるかどうか判断されることになるのです。判断のポイントは、おもに次の点です
① 検査を受ける側の侵害されるプライバシーの性格
② 薬物検査による侵害の性格
③ 検査する側(政府)の利益の性格と切迫性、薬物検査の有効性

●侵害されるプライバシーの利益の性格
薬物検査を合憲とした連邦最高裁判例はいずれも、検査を受ける者のプライバシーの合理的な期待は減少しているとしています。まず、公立学校の生徒は身体検査や予防接種を受けるよう要求されていることから、そのプライバシーの合理的な期待は一般人のそれより減少しているという判断が示されているのです。
運動選手に対する尿検査の合憲性が争われたヴェロニア判決では、運動選手特有の着替えやシャワー、シーズン前に身体検査(尿検査を含む)などを具体的にあげて、プライバシーを含めて通常の権利・特権が制約されるのを十分に予測できるとしていました。
アールズ判決では、文科系の課外活動に参加する生徒の場合も、運動選手と同様、旅行が実施されたり、生徒全体には適用されない特別の規則等によるさまざまなプライバシー侵害を任意に受け入れていることなどを指摘しています。また、ヴェロニア判決に触れて、薬物検査が許容されたのは、そのプライバシーの期待が他の生徒より減少していたからではなく、学校の有する監護の責任と権限に基づくものであったという理解を示しています。

●薬物検査の侵害性
薬物検査が被検者のプライバシーの利益をどの程度侵害するかの判断においては、①薬物検査の実施態様、②薬物検査が明らかにする情報内容、③検査結果の使途などが考慮されています。
アールス判決のケースでは、生徒は、囲いのある部屋で採尿し、外にいる同性のモニターが、尿に手を加えられないかどうかを確かめるため排尿音を聞くという採尿方法がとられました。また検査結果は秘密扱いすることとなっており、学校当局者は必要のある場合にだけそれを見ることが許されていること、いかなる法執行機関にも渡らないこと、懲戒や学業成績の資料とされないことなどが考慮されました。これら諸事情を薬物検査のもつ侵害性の判断資料としたうえ、検査による侵害は最小限に抑えられている、あるいは、無視しうる程度のものであると評価したのです。侵害性を減少させる事情として挙げられているのは、ⅰ採尿が直接に観察されないこと、ⅱ検査が薬物使用の有無だけを明らかにすること、ⅲ検査結果の使途が限定されており、とりわけ法執行機関への引渡しがなされないことなどです。

●政府の利益の性格.切迫性
最高裁は従来の判決において、薬物検査を行う政府の利益は「やむにやまれぬ」(compelling)もので、また「切迫した」ものでなければならないとしています。ヴェロニア判決では、尿検査を行う利益が、「やむにやまれぬ」ものであるとする理由として、薬物使用が子供に与える身体的・心理的影響や習慣性効果はきわめて深刻であること、薬物による影響はそれを使用する生徒に限定されず、他の生徒・教員にも波及しうること、この害悪は保護と指導につき学校が特別の責任を果たさなければならない子供にも加えられているため、州がこれに対処するため一定の行動をとるべき必要は一層大きいことなどが指摘されました。またアールス判決では、子供の時期における薬物使用のもたらす実質的な害悪を防止・発見する必要は切追性を基礎づけるに十分であるとされています。

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