アメリカでの薬物検査をめぐって|薬物検査・5

アメリカは薬物乱用に対して、非常に厳しい国です。その背景には、わが国とは比較にならないほど、乱用者が多いという事情があります。
とくに1980年代の「寛容度ゼロ政策」と呼ばれる反薬物政策や、“Just Say No!”の運動によって、アメリカ社会全体に反薬物の運動が拡大しました。そのひとつに、職場や学校での薬物検査があります。

とくに課外活動をする高校生に対する抜き打ちの薬物検査は、議論を巻き起こしています。私が最近読んだ「アールズ判決と学生薬物検査の議論:最高裁判断をめぐる議論」という小さな本があります。タイトルは難しい法律書のようですが、下の写真の通り、ティーンエイジャーや大学生のための読本です。
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この本の21ページから、アメリカの薬物検査の状況を引用します。
「薬物トリートメント機関では、患者がトリートメント・プログラムに間違いなく耐えるよう、定期的に薬物検査を行う。法執行機関でも薬物検査が行われる。たとえば警察官は、飲酒運転の疑いのある者に対して、血中アルコール濃度を測定するために呼気検査を求めることができる。同様に、刑事施設からの仮釈放者には、仮釈放中に使用を禁止された物質を使っていないことを示すため、抜き打ちの薬物検査に従わなければならない者がいる。刑事施設でも収容者が禁止物質を使わないよう検査を行う。
近年では、薬物検査はさらに多くの人々、薬物を使いそうな人以外の人々を対象とするようになった。米国陸軍は、1971年に兵士の一部に対して薬物検査を始めた。このプログラムは1980年代半ばには全員をカバーするようになった。1986年にはロナルド・レーガン大統領が連邦機関のすべてで薬物検査プログラムをするよう命じた。
1990年代半ばまでには、アメリカの収益上位1000社のおよそ半数が何らかの薬物検査を実施するようになった。民間の職場での薬物検査は、事故を削減し法的障害を制限することを目的としている。」
Kathiann M.Kowalski ,THE Earls Case And the Student Drug Testing Debate,P.21,ENSLOW Pub Inc,2006

こうした薬物検査は憲法に違反しているという訴えに対して、いくつかの裁判例があります。この本は、生徒に対する抜き打ち薬物検査の違憲性を訴えたアールズさんの事件の連邦最高裁判決を例にとりあげ、薬物検査と憲法についての議論をわかりやすくまとめたものです。
問題になっているのは、アメリカ連邦憲法修正4条で、次のようなものです。
「不合理(unreasonable)な捜索及び逮捕または押収から、その身体、家屋、書類及び所有物の安全を保障される人民の権利はこれを侵してはならない。宣誓または確約によって証拠付けられた相当な理由(probable cause)に基づくものであって、捜索すべき場所及び逮捕すべき人または押収すべき物件を特定して記載するものでなければ、いかなる令状も発してはならない。」
とくに薬物使用が疑われるわけではないのに、職場や生徒の課外活動などで、無差別な薬物検査を課すことが、この憲法修正4条に違反するかどうかについて、争われてきました。

連邦最高裁が、薬物検査について、初めて「合憲」の判断を示したのは、職場での薬物検査について争った、1989年のスキナー判決、同年のフォン・ラーブ判決で、スキナー判決では、鉄道事故に関係した鉄道会社の職員に対する血液・尿の検査が、フォン・ラーブ判決では、合衆国税関の一定の職場への異動・昇進を希望する職員に対する尿検査が、それぞれ違法薬物使用の嫌疑に基づいて行われなくても、修正4条の下で合理的とされました。
アールズ判決と生徒に対する薬物検査については、次回で取り上げます。

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